大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第60回

2013年12月27日 15時32分03秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第60回



買い物袋を琴音に当てないようそろっと蟹のように横向きに歩く暦。 すれ違いざま 

「キッチン借りるわよ」 そう言ってサッサと歩いて行きキッチンのテーブルに買い物袋をどさっと置き「あー重かった」 一言いったかと思うと今度は琴音のほうに歩いてきて

「手、どうして貸せばいい? どこか持とうか?」 琴音の前に立ちそう聞いてきた。

「ありがとう。 でもいい、身体全部が痛いのよ。 掌も全部。 触られると痛くて」

「分かった。 じゃあ一人でいい? 大丈夫?」

「うん」 その返事を聞いた暦はキッチンに戻り持って来た物を袋から出し始めた。

「冷蔵庫開けていい?」 琴音に聞こえるよう少し大きな声で聞いた。 琴音はと言うと 廊下の壁を支えにそっと手を当てまだこちらへノロノロと歩いている。

「うん、いいわよ。 実家に帰るつもりだったから全部整理して何も入ってないけど」 琴音の小さな声を心配して暦が琴音のほうを覗き込むと 

「あははは まるでお婆さんじゃないの」

「笑わないでよ痛いんだから。 それに大きめの声を出すのにも結構腹筋を使うんだから」

「ドアの外まで聞こえてたわよ」 まだ笑っている。

「え? テレビの音? それじゃあ、居留守使えないわね」

「違うわよ。 テレビの音は聞こえなかったわよ。 琴音の「痛ーい、イタタタ」 って言う声が聞こえてたのよ」

「そんなに大きな声を出してた?」

「大きな声っているより響いてきたって感じね」

「そうなんだ。 でもホント痛くって・・・え、そうよ。 どうして暦がいるの? それに知ってるってなに?」 やっとキッチンに辿り着いた琴音。

キッチンと和室は襖で区切られているだけだ。 襖は全開で和室を見た暦が

「後で説明する。 それより座椅子に座ってたんでしょ。 あっちに座ってるといいわよ。 あ、座椅子の角度あれでいいの?」 ほんの少ししか角度のついていない座椅子。

「さっき寝ちゃってたから。 もうちょっと起こすわ」 すると暦がさっと歩いていき

「これくらいでいい?」 座椅子に角度をつけた。

「うん。 ありがとう」 キッチンから座椅子を見た琴音が返事をしながら歩いてくる。

「テレビ見るの?」 点けっぱなしのテレビである。

「特に見ないわ」

「じゃあ節電。 切るわよ」 テレビを切りキッチンに戻ろうとする暦が琴音とすれ違いざまに

「あ、そうだ ねえ、シップとか持ってるの?」

「持ってない」

「良かった、ダブらなかった」

「なに?」 和室に向かって歩いている琴音が振り向きかけたが 振り向こうとする姿がまるでロボットだ。

「いい!いい! こっち見なくてもいいからロボットは早く座りなさいよ」 慌てて暦が言った。

「だ・・・誰がロボットよ」 暦が笑いを堪えてテーブルに出した食材を冷蔵庫に入れながら 

「琴音よ。 自分の姿は見えないもんね。 お婆さんって言うより完全にロボットね」 堪えきれなくなったようだ。 限りなく笑っている。 笑いながら

「お腹すいてない?」 琴音に聞いた。

「お腹・・・そういえば昨日から何にも食べてないわ」 言われて初めて気付いたようだ。

「昨日って? 何時から?」

「昨日朝ごはんも食べていないし コーヒーを起き抜けに飲んでそれから・・・あ、缶コーヒーとお茶だわ」 やっと座椅子に座ることが出来た。

「それだけ?」

「うん」

「それで 今日も何も食べてないの?」

「ずっと寝てたから食べてないわ」

「この時間までずっと寝てたの?」

「この時間って・・・そう言えば、今何時?」

「信じられない。 7時よ、あ、夜の7時よ、分かってる?」

「ええ! そんな時間になってたの?!」 カーテンもずっと閉めたまま。 さっきドアの鍵を開けに出たときも外は見なかったからね。 もう外は暗くなってるんだよ。

「まるで山の中の仙人ね。 それじゃあ、重いものより軽いほうがいいわね。 う~ん、雑炊か何か作ろうか?」

「作ってくれるの?」

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