風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

藤田真央 ピアノリサイタル @東京オペラシティ(4月11日)

2022-04-14 02:13:47 | クラシック音楽




真央君の演奏を聴くのは、衝撃の2019年のマリインスキー来日公演以来、2年半ぶりの2度目。同公演の変更前のソリストだったババヤンのリサイタルを先日ようやく聴くことができて、今回真央君のリサイタルも聴けて、満足です

【モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第17番 変ロ長調 K.570】
真央君が本格的にモーツァルトを弾き始めたのは最近とのことだけど、昨年にはヴェルヴィエ音楽祭でピアノソナタ全曲演奏会をしたり、ソニークラシカルから同全集を出す予定もあるなど、もはやモーツァルトは真央君の代名詞のようになっている。
のだけれど。
今日のこの演奏は、弱音部分の演奏が私には少し苦手な感じでした…。ふわふわ浮いているように聴こえるというか。これはマリインスキー公演のときのアンコールのグリーグでも実は少し感じたのだけど。でも今日の休憩後の演奏ではそれを感じなかったので、曲によるのだろうか(動画で見る真央君の演奏は結構な確率でこの弾き方をしている)。また、音を鳴らす前に時々一瞬遅らせる"間"も、好みの問題だけど、私は少し苦手で…。この曲の真央君の弱音はアムステルダムで聴いたヴォロドスの背中ムズムズ感をちょっと思い出してしまった…(ヴォロドスは弱音に定評のあるピアニストですが)。 ※素人の覚書なので悪しからず
そういえばこの曲、2楽章の短調の部分のメロディがピアノ協奏曲24番にそっくりと思ったら、作曲時期が近いんですね

【シューベルト:3つのピアノ曲 D946】
第一曲は、真央君らしいドラマティックさと歌心が同居している演奏が、聴いていてとっても楽しかったです
第二曲は、以前聴いたシフやピリスの自然な演奏と比べると、真央君は「音をコントロールしている」感が出てしまっているのが、少し気になってしまった(シフもソナタではそういう感じがあったけど)。
第三曲は、若くして死んだシューベルトと若い真央君が良い意味で重なったように感じられ、真央君のカッチリしすぎていない和音の響きに、「死ぬ前に人生のおもちゃ箱をひっくり返してしまったような」感覚を感じることができました。この感覚は、ツィメルマンのシューベルト以来だなあ。ツィメさんはどちらかというとカッチリ和音系だけれど。
これらの曲はシューベルトの死の数か月前に作曲され、それから40年後にブラームスが匿名で編集、出版した曲。ここから後半のブラームスに繋がるプログラム構成、いい

ただ真央君の演奏は「音のコントロール」感が強いので(もう少し年齢を重ねたらより自然になっていくのかも…?)、今日の演奏を聴いた限りでは、基本的に後半のようなロマン派の作品の方が合っているように感じられました。個人的にモーツァルトとかシューベルトって、一見即興的に聴こえるような自然さのある演奏が好きなんです…。後半の演奏ではそういう面が気にならず、自然に聴こえた。

(20分間の休憩)

【ブラームス:主題と変奏 ニ短調 Op.18b】
【クララ・シューマン:3つのロマンス Op.21】
【ロベルト・シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22】

【モーツァルト:ロンド K.485(アンコール)】
【ラヴェル:ハイドンの名によるメヌエット(アンコール)】
【バッハ:パルティータ 第3番 BWV1006よりガヴォット(ラフマニノフ編)(アンコール)】
【ブラームス:6つの小品 ロマンス Op.118-5(アンコール)】

休憩後の後半は、どの演奏も素晴らしかった
ブラームスの「主題と変奏」では前半で気になった弱音の響きは全く感じず、うっとり聴き入ってしまいました。とてもよかった。27歳のブラームスがクララに捧げた曲。
続くクララの「3つのロマンス Op.21」のうち第一曲は夫ロベルトの誕生日にプレゼントされ、後に全三曲がブラームスに捧げられた作品。そしてロベルトの「ピアノソナタ第二番」。
このブラームス→クララ→ロベルトの流れは、原田光子さんの『クララ・シューマン ヨハネスブラームス 友情の書簡』と『クララ・シューマン、真実なる女性』の2冊を愛する私には感涙のプログラム。
クララとロベルトの作品の真央君の演奏、切実さとドラマティックさが感じられて素晴らしかった なのに最後まで破綻せずに美しい。

アンコールの4曲も、とてもよかったです。モーツァルトのロンドは快活で自然だったし、ラヴェルには陶酔させられ、バッハのガヴォットの明るい音色もかなり好みでした(ラフマニノフ編なんですね)。そして最後のブラームス。ブラームスの存命中に出版された最後から2番目の作品で、クララに捧げられた曲。真央君のブラームス、今日聴いた限りでは、とってもいい。まだ若いのに、ブラームスの最晩年の曲をどうしてこんな風に弾けるのだろう。

そしてマリインスキー公演のときの感想でも書いたけれど、真央君の音ってロシアっぽい。ロシアのピアニストほど音の色合いや暗さは感じないけれど、低音の響きと歌心と熱量とスケールの大きさを感じさせるところが。と思っていたら、帰宅後に知りましたが、真央君ってロシア奏法を学んでいたんですね。師の野島稔先生がショパン国際ピアノ・コンクールの第1回優勝者であるレフ・オボーリンというロシア人ピアニストの直弟子で、真央君も十代から自然にロシア奏法を学んだとのこと。真央君の音のロシア味がずっと不思議だったので、理由がわかって納得。

会場は満席。先日のババヤンはこの半数以下のホールでもガラガラだったのに。ババヤンもいいピアニストなのだがなあ。
そしてゲルギエフと共演する真央君、大好きだったんだけどな…。熱いケミストリーが感じられて。ゲルギエフも真央君への愛情がダダ洩れで。
ゲルギエフ、プーチン大統領からボリショイとマリインスキーの両劇場を統括するポストを打診されているのだとか。沈みゆく船に共に、ということになるのかな…。二人は一蓮托生で、もはや離れることは不可能なのでしょうね。ゲルギエフの本心は本人にしかわからない。
でも私は、ロシア音楽や若手演奏家の教育に対するゲルギエフの想いは本物だろうと思っています。また、フレイレに示してくれた友情も(先ほど久しぶりにフレイレが怪我をした直後にゲルギエフが送ったプライベートメッセージの映像を見たけど、やはりとても優しい…)。そういえば真央君のインスタで、真央君がフレイレと一緒に笑顔で写っている写真を見ました。2019年のチャイコフスキー国際コンクールのときのもの。フレイレ、絶対に真央君の演奏が好きだったと思うな。。。


真央君の事務所は、ゲルギエフやツィメルマンと同じジャパンアーツなんだね。


このtwitterは、昨年11月にサンクトペテルブルクで行われたフレイレの追悼コンサートのときのもの。フレイレが亡くなってからまだ半年もたっていないのだな…。ゲルギエフのフレイレへの追悼メッセージの全体はこちらで見られます(5分弱。英語字幕付き)。葬儀ではゲルギエフから白い花のリースが送られたそうです。


世界を魅了するピアニスト、藤田真央――その才能はいかにして生まれたのか【前編】 【後編】
藤田真央インタビュー#01 「作曲家の理想の音を蘇らせる存在でありたい」

Mao Fujita plays Schumann/Liszt - Widmung No. 1 Op. 25

18歳のときの真央君のシューマン/リスト『献呈』。
先日のババヤンのリサイタルでも感じたけれど、リストの編曲ってピアノの華やかさを最大限に感じさせますよね。華美すぎると感じる向きもあるかもですけど(実際クララはこの編曲が気に入らなかったそうで…)。

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