風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

マリインスキー歌劇場管弦楽団 @東京文化会館(12月7日)

2019-12-12 23:44:04 | クラシック音楽




5日
6日に続き、ゲルギエフ×マリインスキー歌劇場管弦楽団によるチャイコフスキー・フェスティバル最終日の夜公演に行ってきました。

【チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第2番ト長調Op. 44】
この日のチケットを買ったのは、ババヤンさんのピアノを聴いてみたかったから。リサイタルが開かれる武蔵野はあまりに遠く、せめて協奏曲だけでも、と。そしたらまさかの直前(12月2日)の出演者変更。もちろん凹みましたよ、ものすごく。慌てて武蔵野のサイトをチェックしたけど既に完売・・・。リサイタルがキャンセルにならず協奏曲だけが変更ってどういう理由なのか・・・。聞いてはいけない大人の事情というやつなのか・・・。

気を取り直して、変更後のピアニストの藤田真央君。
今年のチャイコフスキー国際コンクール2位入賞だったということは今回初めて知ったのですが(相変わらず情報収集能力ゼロのワタクシ・・・)、真央君というピアニストに対する印象は以前から悪くありませんでした。なぜなら私が聴きに行くピアノの演奏会の客席に彼もいる、ということが度々あったからです(ポゴレリッチとか、先日のシフとか)。他の人の演奏を聴きに行く音楽家ってなんかいいなと思う。でも彼自身の演奏を聴いたことは録音も含めてこれまで一度もありませんでした。で、今回の演奏。

いやあ、真央君すごかった。。。。。。。
なんだあれ。
私、今回の曲の予習をギレリスでしていたんですよ。それがとても好きな演奏で(ギレリス好きなんです)。予習しながら「ヤバイなあ、こういう演奏で予習しちゃうとよくないんだよなあ」と思っていたのです。好きすぎる演奏で予習してしまうと演奏会でがっかりする、というのはよくあるパターンなので。
ですが今夜の真央君の演奏、ものすごく好みな演奏で吃驚した。
世界って広いんだねえ。ちゃんと次から次へ新しい才能が出てくるものなのだなあ。
音色の深み、透明感、表現の豊かさ、自然さ、大胆さ、コントロールと熱量、聴衆の耳を惹きつけるカリスマ性。
この子は聴いている人を幸せにするピアニストだ、と聴きながら思いました。3楽章の豪速も早ければいいという演奏ではなく、オケと一緒にしっかり”聴かせる”。一方で2楽章のあの叙情。音楽を聴く喜びをいっぱいに感じさせてくれる演奏。
舞台上が完全に彼の世界になっていました。ときにオケのみならず指揮者までがその支配下に入ってしまっているようにさえ感じられたほどで。しかしそこはゲルギエフ&マリインスキー、もちろん押されっぱなしのわけがなく。ピアノとオケが刺激し合って、戯れ合って、絡まり合って、高まり合って、どこまでも飛翔する最高の場所へと連れて行ってくれました(言葉がエロチックになってしまったな。でも協奏曲のそういうところがとても好き)。そしてどちらの音も、ちゃんとロシア。大ブラボー
21歳の子にあんな演奏をされたら、オケもいい演奏をしなきゃってなるよね。

カーテンコールではコンマスさん&チェロさんと並んで拍手を受けていたけれど、今日の演奏の中心にいたのは完全にこの子だったと思う。そして真央君がお気に入りであることがめっちゃ顔と仕草に現れているゲルギエフなのでありました。
こんな子がいるんだねえ。
まだ学生なのに、いやはや。
舞台に出てきたときのふにゃんとした雰囲気からピアノを弾きはじめた途端の変わりようも楽しかったわ。そして演奏が終わると再びふにゃん。自分が弾いていないときもオケと向き合って音楽の中に入っていたのも、よかったです。
この3日間の一番の拾い物はこの子かも、とコンクールのときのゲルギエフのようなことを思ってしまった。
主催者発表どおりだとしたら、短いリハーサル時間でこのレベルまで仕上げてしまうことにも吃驚。このコンビでこの曲を演奏するのは今回が初めてとのこと。真央くんは暗譜だったけど、既にレパートリーの中には入っていたということ? 聴いていてすごく楽しい曲だし、もっともっと演奏されてほしいなあ。真央君、このまま十八番にしちゃってください。今日の演奏ならもうそう言っちゃって全く問題ないから!

So how to explain the thrill of Tchaikovsky's Piano Concerto No 1, a showcase for the 21-year-old Japanese pianist Mao Fujita? Fujita is a musician of tremendous versatility and taste, with a poetic sense of pulse and eloquent, insightful, fearless articulation. What made the concerto sing, however, was the intense collaboration between soloist, conductor and orchestra, and the subtle dissolve between each gesture.

上記は、先日ご紹介したThe Timesの記事の「待たされたことも、カーペットの染みも・・・」の直前の文章です。先々月ロンドンで演奏された真央君×ゲルギエフ×マリインスキーのチャイコフスキーピアノ協奏曲第1番についての絶賛評。今夜の第2番にも、全く同じことが言えました。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番は、若くすばらしいピアニストの藤田真央が演奏します。彼の存在はチャイコフスキー国際コンクール2019における大きな発見でした。彼は私達にたくさんのすばらしい気づきと解釈を提示してくれました。彼の音楽は、様式的に優れ、真の想像力と芸術性、音楽のアイデアに満ちあふれていました。真央はコンクールにおいて極めて大きな貢献を果たし、彼の成功は非常に大きな意味をもたらしました。コンクール後すぐに、私は彼と共演し、ロシアとロンドンで大成功を収めました。近いうちにミュンヘンでも共演します。彼のファンがすでにたくさんいるこの東京で、協奏曲第2番を彼と初めて演奏できることを、非常に嬉しく思います。
(ゲルギエフ)

マエストロ・ゲルギエフ、マリインスキー歌劇場管弦楽団と、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番を演奏できることになりました。とても光栄です。ロンドン、モスクワに続いて日本でも、こんなに早く共演することが出来るとは思ってもいませんでした。チャイコフスキー・コンクールに参加したころから、本選では演奏しなかった『2番協奏曲』にも惹かれていました。優美さ、秘めた情熱、躍動感、メランコリックなメロディー、オーケストラとの対話――誠心誠意、作品に向き合いたいと思います。マエストロとオーケストラと一緒に音楽を奏でることを、緊張しつつも楽しみにしています。
(藤田真央)

【グリーグ:叙情小曲集第3集愛の歌(恋の曲)(ピアノアンコール)】
アンコールは、同じく北方の国の作曲家であるグリーグ。
声高に歌っているわけではないのに、ふわりと滲むピュアな情感。
21歳でこんな演奏ができるんだねえ。いや、21歳だからできるのかも。
しっとりと、いいアンコールでした。

(休憩20分)

【チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調Op. 64】
最高に幸せなピアノ協奏曲を聴かせてもらえたから例え5番がどんなにひどい演奏だったとしても許しちゃう!と思っていたら。

楽しいし幸せだし感動するし(語彙力ぶっとんだ)。。。。。。
良い演奏を聴いていると、その音楽が舞台の上で生き物みたいに浮かび上がる。その形状は光だったり竜のようだったり様々ですけど。色もすごく繊細に移り変わっていくのが目に見える。
第1楽章の重みと躍動感(興奮した!)
第2楽章の最後の繊細な弱音、美しかったなぁ・・・。このオケ、あんな音も出せるんですね。
ずっといつまででも聴いていたかった第3楽章(運命の動機が現れたときは、ああもうすぐ終わってしまう・・・と寂しくなった)。
そして第4楽章
コーダの最後の盛り上がり前に一旦減速させたのはやらない方がいいように感じられたけど、演奏全体からもらえた大きな大きな満足感の中では些細なこと。
聴いていて本当に楽しくて、幸せでした。
ありがとう、ゲルギエフ。
ありがとう、マリインスキー。

【チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」《パ・ド・ドゥ》(アンコール)】
これぞチャイコフスキー&マリインスキーの真骨頂とバレエファンでもある私は思うのである。
いっぱいの楽しさ、いっぱいの優しさ、いっぱいの幸福、そして切なさ。
『くるみ割り人形』の初演は、1892年12月、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場。
12月に生演奏で聴くゲルギエフ&マリインスキーの『くるみ』なんて、これ以上ない最高のクリスマスプレゼントです

この日の東京はとてもとても寒くて。でも心の中は暖かく、上野を後にすることができました。
やっぱりチャイコフスキーは冬に聴くのが一番。
そしてなんだか久しぶりにバレエを観たくなってしまった。
ロビーに貼りだされていましたが、来年冬にボリショイが来るんですね。白鳥とスパルタクス。行こうかな。
マシューボーンの白鳥 in cinemaも終わる前に観に行かねば。

※ゲルギエフとムーティが来年1月14日、ヤンソンスさんの77歳の誕生日となる筈だった日に、ウィーンフィルの追悼演奏会で指揮をされるそうです。バイエルン放送響の追悼演奏会は1月15日で、指揮はメータ。

以下は、「very good concert」と「cosmic concert」の違いについてのヤンソンスさんの言葉。cosmic concert、すごくよくわかります。それに出会えることは決して多くはないということも。でもヤンソンスさん×BRSOの演奏会は私の中で間違いなくその一つですよ!
'If the public says to you after the concert, "Oh my God, I was in heaven for two or three hours"―then you know it was one of those cosmic concerts. But if somebody says, "It was a very good concert, the orchestra played very well, there were nice tunes, it was very polished," then it is not right. That is the difference between a very good concert and one of those excellent concerts. But of these excellent concerts, there are not so many.'

(Tom Service "Music as Alchemy: Journeys with Great Conductors and their Orchestras")












真央君のインスタより。ツィメさん、いらしてたんですね。
このひと月以内にシフ、ベルリンフィル、マリインスキーと私が知っているだけでも3つの演奏会に来られている。シフのは2日とも来られていたようですし。
ツィメルマンが毎年秋~冬を東京で過ごすのは演奏会通いのためもあるのだな、きっと


Japan Arts twitterより。7日夜のソロカーテンコールのゲルギエフ。

日本フィル&サントリーホール とっておき アフタヌーン Vol. 12 藤田真央 インタビュー


Tchaikovsky - The Nutcracker, Ballet in two acts | Mariinsky Theatre (HD 1080p)

マリインスキーバレエの『くるみ』 ソーモワとシクリャローフ。指揮はゲルギエフ。

Tchaikovsky - The Nutcracker, Grand Pas de Deux - Gergiev

本日のアンコール曲。ゲルギエフ×マリインスキー(2015年)

Tchaikovsky on the road: Valery Gergiev and Mariinsky Orchestra in Europe (Documentary, 2010)





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2 Comments

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Unknown (mihana223)
2019-12-17 14:02:46
クラシックが、全くわからない私でも、いつも演奏会に参加した気分を味わわせてもらえて、凄くお得な気分になれます。
ありがとうございます。(^^)v

藤田真央君、覚えました。
機会があれば、演奏を聴いてみたいと思いました。d(^-^)
日本の未来は明るい♪

話はかわりますが、通勤途中にあるデパートの地下入り口前に、期間限定で、
"自由にお弾きください"とピアノが置かれてます。
昨日、弾いてるところに遭遇したのですが、お上手な方で、人だかりかできていて、私も、思わず足を止めて、聴き惚れてしまいました。
どのくらいの腕前かは、私にはわからないのですが、弾かれている本人が、本当に楽しそうに弾いていて、聴いている人も皆、楽しんでいる、そんな光景に出会えて、幸せな気分で帰路に着くことができました。
奏でられていた曲名もわからない音楽に無知な私ですが、音楽って素晴らしいと心底思いました。

長々と、関係ないこと書いて、すみません。m(_ _)m
cookieさんのブログを読んでいたら、その幸せな気分がよみがえってきたもので。f(^^;
楽しませてくださって、ありがとうございました。(^-^)
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Unknown (cookie)
2019-12-17 21:36:46

なんの知識もなく書いているブログなので間違いもあるかもしれませんが(きっとあると思います…)、演奏会に参加した気分を味わえると言っていただけてとても嬉しいです(^-^)
真央君、日本でも沢山演奏会をしているみたいなので、機会があったらぜひ~。

デパートのピアノの話、よくわかります。音楽で人が幸せになっている光景って純粋に美しいなと思うし、幸せをもらえますよね。音楽というものがそういう純粋な性質のものだからだと思います。

いつも温かいコメントありがとうございます^^
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