シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ハドソン川の奇跡

2016-09-28 | シネマ は行

ここで書いたことがあるかもしれませんが、ワタクシそんなにトムハンクスのファンではないので、彼の作品を見に行こうと思う時はストーリーとか何かしら他に理由があるのですが、今回はやはりクリントイーストウッド監督ということで見に行くことにしました。

「ハドソン川の奇跡」というのはこの作品の邦題ですが、この事故が起こった時すでにマスコミが使っていたフレーズそのままですね。「奇跡」「号泣」「レジェンド」といったような言葉をやたらと安売りする日本のテレビ界ですが、この「ハドソン川の奇跡」については本当に「奇跡」と呼べる出来事だったと思います。

作品中で何度かチャズレイサレンバーガー(サリー)機長が言いますが、この事故は208秒間の出来事。この事故が起こった直後にも「これは映画化される」と囁かれましたが、たったそれだけの尺のものをどうやって2時間近くの映画にするの?それはいくらなんでも無理でしょうと思っていたら、なんとこの事故の後にサリー機長が事故調査委員会に不適切な処置を取ったとして調査の対象となったという出来事が描かれている。

もちろんこのような事故が起これば調査の対象となるのは当然かもしれませんが、世間のサリー機長を英雄視する目とは裏腹に事故調査委員会は彼の判断は間違っていたと最初から決めつけてかかっていたようだった。水面への不時着というのは飛行機にとっては自殺行為と言えるものらしく、サリー機長からハドソン川に着水すると第一報を受け取った管制官は、もう全員が死んだものと思いこみ1人部屋に籠って泣いていたほどだった。だから、あの状態でもラガーディア空港に引き返すか、近くのテターボロ空港へ向かうべきだったと言われてしまう。

マンハッタン上空で両方のエンジンが停止してしまい、低空飛行で町中に突っ込んでしまう危険性を回避するために最後の手段としてハドソン川に着水するという判断を後でその場にいなかった連中に、それは間違っていたと言われコンピュータのシミュレーションでラガーディアに引き返せたという結果が出たと言われるサリー機長と副機長のジェフスカイルズアーロンエッカート。それでも彼らは冷静さを失わず自分たちの主張を分かってもらおうとする。

トムハンクスのファンではないと最初に書きましたが、もちろん彼の演技はいつも素晴らしいと思っています。今回も一方では世間にヒーローだヒーローだと祭り上げられ、一方では容疑者扱いされているサリー機長の複雑な心境と、ニューヨークから離れた場所に住む家族にもマスコミが迷惑をかけていることに心を痛めたり、事故後のトラウマ的な恐怖にかられる姿を見事に繊細に演じてみせ、随所にサリー機長のプロフェッショナルとしての毅然としたプライドものぞかせ素晴らしかったと思います。事故直後にはとにかく乗客乗員155人全員が助かったかどうかをまず何よりも優先した姿にも感動したし、自分の仕事にプライドを持ちながらも最後に事故調査委員会をして「あなたがいなければこの奇跡は起こり得なかった」とまで言わしめた後に「私一人の力ではない。副機長を始め全クルー、全乗客、救助に来てくれた船や警察消防、全員の力がなければ成し遂げられなかったことだ」と言うサリー機長の人柄がトムハンクスを通してにじみでていました。

副機長を演じたアーロンエッカートも同じで、サリーよりは熱さを見せながらもサリーを100%信頼して、自分も冷静でいようと努めていることがとても伝わって来てサリーも彼がいてくれてどんなに心強かっただろうと思う。彼の最後のセリフ「今度やるなら7月にやるよ」というのもバッチリ決まっていましたね。自分たちの潔白が証明された後とはいえ、あんな審問会でユーモアのあることを言える人って尊敬します。

アメリカドラマファンとしては「グリー」のマイクオマリーと「ブレイキングバッド」のアンナガンが出演していて嬉しくなりました。

208秒の出来事をどうやって映画作品にまで引き延ばすの?と思ってその後を描くならアリかとも思いましたが、やはりだいたい2時間の尺を越えてくるイーストウッド監督作品には珍しく上映時間たった96分でした。ぶっちゃけ1時間のテレビ番組で再現VTRでできそうな内容と言えばそうだったんだけど、それでも内容は濃かったし、イーストウッド監督の演出はいつもながら緊張感があり素晴らしく満足のいくものでありました。

オマケ1最後に本物の乗員乗客が登場するのですが、乗客が自分の名前の代わりに「6A」だとか「2B」だとか座席番号を言う演出がなんともシャレとんなーと感じました。

オマケ2ラガーディア空港って今まで一度もネイティヴが発音するところを聞いたことがなかったのですが「ラグワーディア」って発音するんだぁと今更ながらに知って映画中気になって仕方なかったです。