シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

栄光のランナー~1936ベルリン

2016-09-26 | シネマ あ行

正直なところ「コロニア」を見に行くついでに見た作品だったのですが、なかなかに良い作品でした。

1936年ベルリン五輪。ユダヤ人を始めとする人種差別政策を行っているナチスドイツが先導する五輪に参加すべきかどうかアメリカは揺れていた。そんな中黒人の陸上短距離選手のジェシーオーエンスステファンジェームズはラリースナイダーコーチジェイソンサダイキスと二人三脚でトレーニングに励んでいた。

純粋にスポーツものとしても楽しむことができるし、政治的な駆け引きや社会的な問題提起としても見ることのできる作品でした。

ユダヤ人差別を行っているナチスの大会に選手を出すべきでないと主張するアマチュアスポーツ委員会のエミリアマホニーウィリアムハートの言い分も分かるし、それで選手の努力を無駄にしてしまっていいのかと考えるアベリーブランテージ委員長ジェレミーアイアンズの気持ちも分かる。結局、ブランテージはナチスから賄賂的なもの(本業の建築の仕事を請け負った)を受け取って参加を押すんだけど、描き方のせいかもしれないけど彼の人柄的にそんなに悪い人には思えなかったな。

ナチスのユダヤ人政策に反対するアメリカ国内でも黒人差別の嵐は吹き荒れていてオーエンスでも大学では数多くの嫌がらせを受けている。その辺がなんとも皮肉なことだなぁと思わせる。

アメリカの短距離走選手団の中にはユダヤ人が2人いて、彼らはドイツまで行くことはできたのに競技の直前に選手から外すようにドイツ側から要請される。ドイツから賄賂を受け取っていたブランテージ委員長は結局ここで強く出ることはできなかった。アメリカだけがユダヤ人選手を連れてきていたのかどうかはっきりと知らないのですが、国は参加しても個人的にボイコットしたユダヤ人選手はいたようですね。しかし、現地まで行ってオリンピックに出ることができなかった彼らの気持ちを考えるといたたまれません。

オーエンスとコーチのスポーツドラマとしての側面は、オーエンスがアメリカで有名になってちやほやされて地元に残してきた恋人ルースジャニースバンタン(彼女との間に子供もいる)を裏切ってセクシー金持ち美女によろめいてしまったことまで描かれていて、ちょっとびっくりしました。最終的にはルースに戻っていくのだけどね。オーエンスのコーチを演じていたジェイソンサダイキスはコメディアンとしてアメリカで有名な人ですが、日本では一般的にはそんなに有名ではないですね。映画もコメディタッチのものがやはり多かったのですが、今回のようなシリアスものでも存在感があってすごくいい役者さんだなぁと感じました。

ナチスの記録映画「オリンピア」を撮っていたレニリーフェンシュタールカリスファンハウテンがゲッペルス宣伝相バーナビーメッチュラートの命令に背いてオーエンスの記録を撮り続けたシーンがあり、ナチスのプロパガンダ映画を撮り続けた親ナチとして有名な彼女を少し弁護したい意図があったのかと感じました。このねー、ゲッペルスを演じていたバーナービーメッチュラートがもうなんかものすごいネトーーーーっとした感じがゲッペルスのイメージにぴったりで怖くてぞくぞくしました。他にもドイツ人の中でも国の状態を憂いている選手も登場しました。公平にそういう部分も描きたかったのかな。

オーエンスが金メダルをとってからブランテージ委員長がヒトラーと会わせようとして黒人だからとそでにされるシーンがありますが、ヒトラーなんかに祝福されたとして嬉しかったでしょうか?逆に握手しているツーショット写真なんか残らないで良かったなと思いました。

政治とスポーツは引き離して考えるべきとは思うのですが、エミリアマホニーの考えも分からなくはないなぁと思ってしまって複雑な気持ちになりました。でもやはり国が五輪をプロパガンダに利用するというのは阻止されるべきだと思います。次の東京五輪について堂々と「国威発揚」とか言っちゃってる政治家がいたりして頭が痛いです。最近まで知らなかったのですが、国別のメダル獲得数を発表することも五輪憲章の精神には反しているそうですね。これも日本の政治家が堂々と次は金メダル何個が目標ですとか言っちゃってますからねぇ。開催国としてきちんと五輪憲章を勉強しないといけないのではないかな。。。

原題は「Race」で短距離「レース」と「人種」という意味の「Race」をかけているのかな。邦題はいつもなぁんか安っぽくなる場合が多いのですよね。