シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

バーニー~みんなが愛した殺人者

2015-05-22 | シネマ は行

テキサス州の小さな町カーセージに流れてきたバーニージャックブラックは葬儀屋で働いていた。バーニーは誰に対しても親切で仕事ぶりも誠実で町の人みんなから愛されていた。家族を亡くした遺族たちにいつもとても親切にしているバーニーは、資産家の夫を亡くしたマージョリーニュージェント夫人シャーリーマクレーンにも優しくしていた。ニュージェント夫人に優しく接するのはバーニーただ一人。というのも、ニュージェント夫人は意地悪で町中の嫌われ者だったから。

唯一親切にしてくれるバーニーとどんどん仲良くなっていったニュージェント夫人。海外旅行に2人で出かけたり、お金の管理をバーニーに任せたり、ついにバーニーは葬儀屋を辞めてニュージェント夫人専属の何でも屋になっていった。初めは楽しそうにニュージェント夫人に寄り添っていたバーニーだったが、徐々にニュージェント夫人の束縛がきつくなり、外でボランティア活動をしていてもニュージェント夫人から電話がかかればすぐに飛んで行かないとガミガミと文句を言われるようになっていた。

お給料がいいからか、ただのお人よしだからなのか、バーニーはニュージェント夫人の元から離れられず、どんどんストレスは溜まるばかり。ある日、バーニーはニュージェント夫人のガレージで夫人の猟銃で背中から4発の銃弾を撃ち込んでしまう。ああああ、なんてことをしてしまったんだーーーーとパニックになった時にはもうすでに遅い。夫人の生活の管理を何もかも任されていたのをいいことに、夫人は生きているが体調が悪く人前に出て来られないということにしてバーニーはなんとか日々をやり過ごすことにしたが、数か月後にさすがに探しに来た親族に地下室の冷凍庫の中に眠らされているニュージェント夫人の遺体を見つけられバーニーはすぐに御用となり、速攻で自白。検事のデヴィッドソンマシューマコノヒーはバーニーが愛される過ぎているこの町では公正な裁判にならないと裁判は場所を移して行われることになる。

バーニーやニュージェント夫人の人柄をカーセージの町の人たちがカメラに向かって証言していくモキュメンタリー方式。その証言とジャックブラックたちの再現VTRのようなものが交互に流れます。ワタクシはモキュメンタリー方式が好きなので楽しめました。しかも、この証言に参加しているのが、実際のカーセージの町で本物のバーニーたちを知っている人々だというのだ。町の人の証言があまりにもナチュラルで普通に役者さんを集めてやったのかと思えるくらいで驚いた。

町の人たちはバーニーが好きでニュージェント夫人が嫌いだったもんだから、たとえ殺したにしてもバーニーが悪いんじゃない。あんなクソババァを殺して刑務所に入るなんてバーニーが可哀想だの大合唱。「たかが4発撃っただけじゃない。5発撃ったわけじゃないわ」と言ったウエイトレスには笑ってしまった。

閉鎖された小さなコミュニティの中で判断が狂うってことはよくあることだと思います。あの中でバーニーが悪いって思っていても言えない雰囲気もあっただろうし。あの町で裁判が行われていたらバーニーは無罪になっていたかもしれないと思うと怖いですね。撃った瞬間は心神喪失とも言える状況ではあったと思いますが。

ニュージェント夫人がクソババァだってことは見ていて分かったし、誰かがキレて殺されてもおかしくない人生を歩んできたのかもしれないとは思うのですが、バーニーだって果たしてみんなが言うような聖人だったのでしょうか?

証言によると、バーニーはお店で気に入ったものがあるとそれを何個も買って色んな人に配り歩いていたのだとか。それを見ていい人だって言う人もいるでしょうけど、ワタクシだったら気持ち悪い。自分のお金が有り余っているわけでもないのにわけもなく人に物をあげる人ってなんかうさんくさいし、自分が気に入ったものをお店でいくつも買ってしまうなんてちょっと何かの病気なんじゃないかと思ってしまう。

ニュージェント夫人と仲良くなっていったときだって、いくら夫人がそう望んだことだからといって葬儀屋の仕事をほっぽらかして、彼女のお金で贅沢な海外旅行に何度も行ったりするなんて、立派な大人がやることとも思えない。夫人を殺したあとは夫人の財布を好きに使って教会に寄付したりしてたし、寄付だったら良いとかっていう問題じゃないよね。他にもいっぱい贈り物とかしていたみたいだし。みんなは夫人が死んでるとは知らないから感謝はしていたけど、生きていると思っていたとしても夫人のお金ってことは知っていたんだよなぁ。なんか物くれるから良い人みたいなのってどうかと思う。もちろん、バーニーは人柄も良かったんだとは思うけど、そこに物を介在させるのはなぁ。寄付とかっていうのが染みついているキリスト教社会だと違和感ないのかな。

リチャードリンクレーター監督はジャックブラックと「スクールオブロック」で組んでいるから今回も彼を起用したんだろうけど、ワタクシの感覚的にはバーニーの役に彼はミスキャストだったような気がする。ジャックブラックは大好きなんですけど、彼って毒舌系のイメージがあって、バーニーがふっと振り返ってカメラに向かって「あのクソババァめ!」とか言うんじゃないかっていう気がしてならなかった。そう言わないまでも絶対心の中で思ってるだろって思っちゃう。あと讃美歌歌ってても、いきなりまゆ毛を釣り上げて「キエーーー!」って奇声を発してロックを歌いだしそうな気がしちゃう。

エンドロールで服役中の本物のバーニーが映るんだけど、ジャックブラックと違って本当に人の良さそうな優しそうな顔した人だった。あ~なるほど、こりゃ町の人も騙されるわ。と初めて納得。本物のバーニーがあれだったらなおさらもっと人の良さそうな顔の役者をキャスティングしたほうが良かったと思うけどなぁ。ブラックコメディっぽさを出すためのわざとのキャスティングだったのかな。

これが他人事なら冷静においおいおいと思える事件でも、自分の周りの人に置き換えて考えてみるとカーセージの町の人たちの気持ちも分かるような気がしてきたりして…人間心理ってコワイ

オマケ本物のバーニーは終身刑だったのですが、去年釈放されたようです。刑務所での態度が良かったことと、幼児期に性的虐待をされていて、ニュージェント夫人との関係が虐待を彷彿とさせたため殺害に至ったと弁護士が新たに主張したことが認められたようです。by wiki.