シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

真夜中のゆりかご

2015-05-19 | シネマ ま行

刑事のアンドレアスニコライコスター=ワルドーと妻のアナマリアボネヴィーの間には赤ちゃんアレクサンダーが生まれたばかり。毎晩の夜泣きに悩まされてはいたがとても可愛がっていた。

ある日通報を受けてアンドレアスが踏み込んだ現場には昔逮捕して出所してきた凶暴な男トリスタンニコライリーコスと恋人のサネリッケマイアナスンが大声でケンカをしていた。2人ともジャンキーでハイになっていた現場には糞尿まみれの赤ん坊ソーフスがいた。明らかに育児放棄された状態の赤ん坊を福祉局に引き取ってもらおうとするアンドレアスと相棒のシモンウルリクトムセンだったが、ソーフスの栄養状態は悪くなく、両親が逮捕でもされない限り当局は介入してくれなかった。

ある夜アナが起きるとふとアレクサンダーの様子がおかしいことに気付く。その時にはもうアレクサンダーは息を引き取ってしまっていた。救急車を呼ぼうとするアンドレアスだが、アナはアレクサンダーと引き離されることを異常に嫌がり赤ん坊を離そうとしない。救急を呼んだら自殺すると騒ぐアナになんとか睡眠薬を飲ませて眠りにつかせたアンドレアスはアレクサンダーを連れて車を飛ばした。

アレクサンダーの遺体を抱えたアンドレアスはトリスタンとサネの家に入り込み、麻薬をやって眠りこけている2人の横を通り過ぎ、バスルームの床に寝かされていたソーフスとアレクサンダーを入れ替える。

いやー、ここがもう無茶苦茶だと思いましたね。いくらもう遺体だからって我が子の体をソーフスの糞尿にまみれさせて入れ替えたことがばれないようにしようなんて…ワタクシは無宗教な人間ですが、さすがにそんなワタクシでもそれはないだろうと思いました。たとえ死んでしまっていても我が子の体にそんなことができるものなのか?と。しかし、この時のアンドレアスは我が子を失った悲しみと取り乱して自殺するという妻をなんとか助けようという気持ちで、正気ではなかったのでしょうね。そうでなければあんなことができるわけがありません。

結局一度はソーフスを受け入れたかに見えた妻のアナは夜中に家を抜け出して自殺してしまいます。やはり別の赤ん坊をあてがえばいいという問題ではなかったのでしょう。

一方赤ん坊の遺体を見つけたトリスタンとサネは取り乱し、トリスタンは刑務所に戻されることを恐れ赤ん坊が誘拐されたことにしますが、サネは死んだ赤ん坊の顔がソーフスとは違うことに気付いていました。

誘拐事件を担当することになったアンドレアスと相棒のシモン。アンドレアスはもちろん誘拐が嘘だということを知っているので、トリスタンとサネに狂言だということを認めさせようと必死になります。

結局はサネが折れ赤ん坊が死んでいたことは認めますが、あれはソーフスではないと必死に主張します。しかし、ジャンキーのサネのことは信じてもらえません。サネが折れたことでトリスタンも赤ん坊を捨てたことを認め、警察が見つけた遺体は司法解剖に回されました。

検視の結果を聞きに行ったアンドレアスは、その真実を知り愕然とします。検察医は「脳内の出血、肋骨のヒビ、これは殺人事件よ。典型的な揺さぶられっこ症候群よ」とアンドレアスに告げました。アナ…育児は想像していたより大変とは言っていたけれど…

虐待されて可哀想だと思っていたソーフスは母親サネに実は愛されていた。糞尿まみれではあったけれど、それはトリスタンが無理やりサネを麻薬漬けにしていたからで、暴力的な虐待はなかった。一方そんなソーフスを救ってやれると思っていた自分たちは。自分の妻は。実は赤ん坊を殺していた。この時のアンドレアスのショックは言葉では言い表せないだろう。自殺した妻は、またソーフスが同じことになるのが怖かったのか。救急車を頑なに拒んだのはもしかしたらこのせいか。

さまざまな思いを抱えてアンドレアスが次にどうするのかと思っていたら、なぜかソーフスを連れて山の別荘に2人きりで引きこもってしまった。アンドレアスはどうするつもりだったのだろう?ソーフスとたった2人でそこで生きていきたい。そう思っていたのか。一生そんなことができるわけがないと分かっていながらも、一秒でも長くソーフスと共に過ごしたかったのか。それともどこかの時点で死を選ぼうとしていたのか。

酒浸りでいつもアンドレアスに頼ってばかりだった相棒のシモンが今度はアンドレアスを助けに来てくれた。どう見ても写真のアレクサンダーと赤ん坊の顔が似ているけど違うこと、トリスタンの取り調べのとき一度だけアンドレアスが「アレクサンダーはどこだ?」と言い間違えたこと、赤ん坊がバスルームの床で死んでいたんだろ?と自信ありげにカマをかけたこと。妻アナの自殺。すべてを総合して考え真相を導き出したシモンはアンドレアスを救いに別荘へ向かった。初めはアル中で情けないシモンがこの事件を通して刑事として父親として立ち直っていくサブストーリーも良かったです。

数年後、刑事は(当然)クビになったのだろう。ホームセンターで働くアンドレアスはサネを偶然見つける。立ち直った様子のサネ。少し離れて子供がいた。「おじさん迷子なの?」「おじさんここで働いているんだよ」「名前は?」「ソーフス」

最後に希望らしきものが提示されて重かったお話は終わります。いやー、途中にも書いたけどもう無茶苦茶だよ。よく思いついたな、こんな話。んな、バカなーと言いたくなるような展開ではあるんだけど、子供を愛する親の感情がそこに介在しているためにもう切なくて辛くて見ているのが息苦しかった。アンドレアスのことを何度「バカ、バカ、バカ」と思いながら見たことか。彼をそれほどバカな行動に走らせたのが愛ゆえだと思うとさらに息苦しかったです。

思い切りあらすじの説明を書いてしまいましたねー。でもこの物語は筋がとても大切だと思います。なんのからくりもないのに、まるでミステリーのようなスリラーのような物語です。
サネという女性が実はものすごく重要なキーパーソンだったと言えると思います。ジャンキーでサイテーな母親。子供を取り上げられても仕方ないと思える母親。本人は虐待はしていないと言っていたけれど、あれほど糞尿まみれのネグレクトは立派な虐待。ただ子供に暴力的なことはしてないという意味での虐待はしていないというセリフだったのでしょう。しかし、無理やり打たれた麻薬を断ち切ったとき、そこには純粋な子供への愛情だけが残った。赤ん坊をアンドレアスに取られたときの彼女のことは弁護の余地はないけれど、子供への愛は本物だった。

一方で完璧な母親に見えたアナの虐待。アナは完全に育児ノイローゼだったんでしょうね。それを見抜けなかったこれまた完璧に思えた夫婦の間柄。それでもそれぞれの愛は嘘だとは言えないんだとは思うのですが。一皮むけば何が潜んでいるのか分からないものです。

スサンネビア監督らしい人間の本性をえぐるような作品です。彼女らしく目のアップが今回も多用されていました。英語の題は「A Second Chance」(デンマーク語もおそらく同じ意味かな?)この物語に登場する主要人物すべてのセカンドチャンスが語られていると言っていいでしょう。