シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

スリーウィメン~この壁が話せたら

2006-07-14 | シネマ さ行

これはHBOのTVムービーなんだけど、HBOのTVムービーは質が高いものが多いし、キャストも映画並みだし、日本でもレンタルできたりテレビで放映されたりすることがあるので、ぜひ見て欲しい。

アメリカの優れたTVムービーというのは社会問題を取り上げていることが多く、この作品は妊娠中絶をテーマに3時代を生きた女性を描くオムニバスだ。「この壁が話せたら」というのは原題を日本語訳したもので、時代を隔てて同じ家に住む女性がそれぞれの物語の主人公になっている。すなわち、この家の壁は全部を見てきた、この壁が話せたら語り継がれていくはずの物語ということなんだろう。

テーマが妊娠中絶ということで、見る人にはかなりショッキングな内容も含んでいる。社会問題を考える上で参考になると思う。これはアメリカでのお話なので日本とは少し事情は違っているために、アメリカで妊娠中絶がどのようにとらえられているかをご存じない方にはさらにショッキングな内容かもしれない。

3つの物語の時代背景は、デミムーアが主演する第1話が1950年代、シシースペイセク主演の第2話が1970年代、アンヘッシュシェールが主演する第3話が1990年代である。

第1話、1950年代、妊娠中絶が違法だったころ、望まない妊娠をしてしまった女性(デミ)の哀しみや実際にモグリの医者(?)に中絶を依頼するに至るまでが描かれる。ここではかなりエグいことも描かれているので映像的にも心理的にも特に女性には厳しいものがあるので心して見て欲しい。

第2話は1970年代、女性解放の時代だ。このころは少しずつ女性の権利が認められるようになり、女性も自由に堂々と自分の意見が言えるようになってきていた。しかし、まだやはりシシースペイセクの世代は若い世代のように一足飛びに70年代に染まることは難しい。第1話から現代への過渡期と言える時代の女性の葛藤を描く。

第3話は1990年代。現代である。妊娠中絶は合法化されたが、保守系キリスト教徒たちの反対運動たるや凄まじい。女性保健センターの前で座り込みをし、中絶の相談にやってきたそれぞれの女性たちの事情などまったく無視して、「赤ちゃんは可愛いわよ。あなたはもうすでに母親なのよ。中絶は人殺しよ。」と笑顔で“正論”を投げかけてくる。大きなデモの日、事件は起きた…

妊娠中絶に賛否両論あるのは当然といえば当然だと思うが、反対派は保守系キリスト教徒たちを中心としているので、人工中絶を“罪”だ“悪魔の仕業”だと、信仰のないワタクシなどにしてみれば、ちょっとなぁ…という感じ。第3話の女性センターのスタッフが語る女性が負っている事情や苦しみなど無視してただただ“罪”だと押し付けても何も解決しない。

人工中絶については色んな問題があると思うのだが、どの時代でもどの地域でも追い詰められるのは女性であり、ひとくちに“妊娠”といってもそれぞれにさまざまな事情があることも考慮に入れなくてはならない。女性が犠牲になっているのだと女性を被害者扱いするつもりはないけれど、犠牲者になった場合であれ、女性にもその責任の一端がある場合であれ、その重荷を背負うのが女性であることには違いない。第1話のような悲劇を味わう女性が世界中にまだまだ存在していると思うが、一人でも多くの女性がその犠牲にならないで済む日が来ることを強く望む。