原作のある作品を観るときには毎度のことながら悩むのですが、今日にナイトショーで観た「麒麟の翼」について言えばその原作を読まなかったことが正解のように思います。
謎を解いていくといった推理小説タッチですので結末が分かってしまっていたらこれほどスクリーンに引き込まれたとは思えず、もちろん原作との違いや脚本の良し悪しを見極めるという楽しみ方もあるでしょうが、やはり未読の方に前もって読むべきだとはお奨めできません。
やや引っ掛かりはあるものの素で観ても充分に味わえる出来に仕上がっていますので、そのあたりの心配をしている方は安心をしてよいと思います。
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麒麟の翼 劇場版・新参者 |
推理小説、とは書きましたが、この映画のテーマは謎解きではなく家族の絆です。
いきなり死体と化す中井貴一の演ずる建設部品メーカーの製造本部長とその息子、主人公である阿部寛の演ずる加賀警部補とその父親、この二組の親子の葛藤と遅すぎた和解が枝葉から幹となっていく流れでストーリーが進んでいきます。
そうなれば中井貴一と阿部寛の負う役割はかなり重要となりますが、さすがに今の日本映画界を支える両雄とも言っていい俳優ですので見事な演技を見せてくれました。
中井貴一はややオーバー感はあったものの戸惑い、決意などを表現する目力が絶品で、最近はコミカルな役柄も多いですが持ち味を発揮するのはこういった配役でしょう。
逆に三の線が主戦場の阿部寛のどこか愁いを帯びた表情には新鮮さがあり、こんな役回りも上手くこなすところなどは素晴らしいの一語に尽きます。
意外と言っては失礼かもしれませんが新垣結衣と溝端淳平もいい味を出しており、松重豊などの周りを固めるベテラン勢の落ち着いた演技も見逃せません。
またいかにもと思わせる鶴見辰吾と劇団ひとりの胡散臭さも伏線ならぬ伏線として意外なキーポイントでしたし、さすがはテレビ局が絡む映画といったところです。
残念だったのは先に書いたことと矛盾をしますし、時間の限られた映画ですので仕方のないところでもあるのですが、登場人物の人間関係や背景を会話の中に散りばめるといった形でしか表現ができなかったことで、ここは原作を読んでいた方が入り込めたのではないかと思います。
肝心要の加賀警部補と父親との関係だけではなく、警察内での立ち位置などが根底にあってこそといったところがありましたので、ちょっともったいなかったような気がします。
そして配給会社が意図的にやらかすミスリードなCM、「私が殺したんです・・・」や「加賀さん、あなたは何も分かっていない」はやり過ぎでしょう。
後者は重要なキーワードではありますが使いどころが間違っていますし、前者などは論外です。
さらには友情出演ですらない動かない向井理に堂々たるエンドクレジットはテレビドラマからの繋がりなのでしょうが、ちょっと失笑ものでした。
そんなところを差し引いても充分すぎるぐらいの作品ですので、是非とも続編を期待します。
興行を意識したのか加賀恭一郎シリーズの最新作を映画化してしまったので次は難しくなりますが、スターウォーズのように遡っても魅力は失われないでしょう。
既に前作と前々作はテレビドラマとなっていますのでDVDでチェックをしつつ、そういった朗報が飛び込んでくることを心待ちにしています。
2012年1月28日 鑑賞 ★★★★☆(4点)
ニューイヤーズイブ→ロボジー→麒麟の翼と、最近見た3作品が全てオリオンさんと被りました。
嗜好が似ているのでしょうか笑
予告編でも新垣結衣が「私が殺したんです…」というカットが出ていましたが、その通り犯人であるはずはないと思ってましたので、幸いミスリードはされず、あぁそういうことね、という感じでした。
犯人の男が何故あの夜にナイフを持っていたのかがわかりませんでしたが…
東野圭吾にしては人間味のあるキャラクターで構成された小説だと思いました。
『白夜行』の続編とされる『幻夜』の主人公の女なんかは最低だと思いましたが笑、この作品は細部までよく練られていて、文庫化されたらぜひ原作を読みたいと思える映画でした。
新垣結衣は映画を観ればミスリードはされないでしょうが、CMではそうなの?って感じになっていました。
ちょっと酷すぎます、あれは。
歴史小説しか基本的には読まないので最近では内田康夫ぐらいですが、そろそろ煮詰まってきたので路線を変えようかなとも思っています。
東野圭吾、興味が出てきました。