特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

肩の荷

2009-06-14 12:35:50 | Weblog
日々、肉体労働に従事している私。
それなりの頭脳労働と、そこそこの精神労働もこなしているのだが、そこのところは誰も気づいてくれない。

そんな私・・・
肉体疲労や筋肉痛に苛まれることはしばしば。
また、腰痛や膝痛などの関節痛も。
しかし、不思議と、肩コリはない。
単に、自覚できていないだけかもしれないけど、凝っている感じがしない。
だから、人にマッサージしてもらっても、マッサージチェアに座っても、〝くすぐったい〟か〝痛い〟のどちらか。
〝気持ちいい〟なんてことは、決してない。
日々の仕事を考えると、凝っても仕方がないと思われるのに・・・幸いなことだ。


現場となったのは、どこにでもあるような二階建アパート。
築10年程度で、新しくもなく古くもなく。
世帯は4×2=8、上下
に四世帯ずつ。
故人宅は、二階。
行き止まりの通路の、奥から二番目の部屋。
私は、どの現場にも共通する緊張感を持って、玄関ドアに手をかけた。

覚悟していたほどの異臭はなく、ハエが飛び出してくるようなこともなく・・・
発見されるまで数日を要したようだったが、寒い季節に暖房もかかってなかったため、腐敗の程度も軽かったよう。
私は、用意していた専用マスクも装着せず、中に入った。

亡くなったのは、初老の男性。
経済的に苦しい生活を送っていたのか、家財生活用品は少なく質素。
また、身体の具合もよくなかったのだろう、多くの薬が置いてあった。

部屋の隅には、小さなソファーベッド。
その上の布団に、薄っすらと黄色いシミ。
そのかたちは、故人がベッドにもたれかかったまま亡くなったことを示していた。

汚染レベルは、ライト級。
ニオイも、腐乱死体特有のものではなく、生ゴミと尿臭が混ざったような軽いもの。
近隣に迷惑がかかる程のニオイは発していなかった。

私は、勝手に故人の困窮生活をイメージして、安易にも〝自殺〟を想像。
しかし、目の前の汚染跡と、整理整頓・清掃が行き届いた部屋にその雰囲気はなく・・・
自分の荷を肩に負い、誠実に生きていたことが偲ばれ、一時的にでも疑ったことを、申し訳なく思った。

一通りの見分を終えた私は、玄関をでて、周りに人がいないことを確認。
それから、依頼人である不動産会社に電話。
担当者に、現場の状態を、事細かく説明した。

そうこうしていると、隣(奥)の部屋の玄関が開き、一人の女性が外へ。
そして、こちらをジーッ・・・
私に、何か言いたげな視線を送ってきた。

そこは、静寂のアパート。
女性の表情に笑みはなく・・・
女性が、話し声をうるさく感じていると思った私は、電話を続けながら女性に頭を下げ、そそくさと階段を降りた。

電話を終えて後、私は、再び故人の部屋へ。
すると、玄関前には、さっきの隣宅女性の姿。
女性は、私に気づくと、無表情で近づいてきた。

「あのー・・・」
「うるさかったですか?」
「いぇ・・・」
「お騒がせして申し訳ありませんでした!」
「いゃ・・・そうじゃなくて・・・」
「???」
「今、私を呼びませんでした?」
「は???」
女性は、隣の部屋の住人。
私に呼ばれたと思って、外に出てきた様だった。

「今、うちの玄関をノックしませんでした?」
「は?・・・してませんけど・・・」
「ホントに!?」
「はぃ・・・」
「ホントにしてません?」
「私は、電話をしてただけですけど・・・」
女性は、怪訝そう。
顔が強ばり、血の気が引いていくのが、わずかに見て取れた。

女性の話は、こうだった・・・
部屋にいると、玄関ドアからノック音。
覗き窓から外を見たが、玄関前には人の姿はなし。
ドアを開けても、玄関前には誰もおらず。
不審に思いながら辺りを見ると、近くには携帯電話で話している私。
それで、何かの用があって、私がドアをノックしたものと思ったのだった。

「間違いないですか?」
「えぇ・・・私は、お宅に用はありませんから・・・」
「・・・」
「〝気のせい〟ってことは?」
「それはありません!ハッキリ聞こえましたから!」
「そうですか・・・」
「他に、誰かいませんでした?」
「いゃ・・・誰も来てません・・・」
シンプルな造りの小さなアパートのこと。
二階通路は凹凸なくまっすぐで、死角はない。
誰かが来て気づかない訳はなかった。

「え゛ー!・・・」
「・・・」
「じゃ、ノックしたのは誰です?」
「・・・」
「もしかして?・・・」
「・・・」
女性が何を恐れているのかすぐに察しがついたけど、時は既に遅し。
〝やっぱり、ノックしたのは私です〟なんて、事を納めるための見え透いたウソは、通用する訳はなかった。

「その(故人の)部屋、片づけちゃうんですよね?」
「・・・の予定ですけど・・・」
「部屋にいられなくなっちゃうから、うちに来たんじゃないですか?・・・」
「・・・」
「どう思います?」
「さぁ・・・私には、何とも言いようがないですね・・・」
そう・・・女性が恐れているのは、故人の霊。
行き場をなくしたそれが、自分のうちに来たものと思っているようだった。

「そう言えば!・・・」
「何か?」
「玄関を開けた瞬間、肩に何かが乗ってきたような感じがしました!」
「・・・」
「ノックされてすぐドア開けたから、憑いちゃったのかも?」
「さすがにそれは・・・」
「どおしよぉ・・・」
「・・・」
女性は、肩を竦めて身震い。
泣きそうになりながら、次々と難解な質問を私にぶつけてきた。
一方の、私は、困惑しきり。
個人的な見解に女性の恐怖心を中和する力はなく、結局、曖昧な返事で口を濁すばかりだった。


作業に入ったのは、それから三日後のこと。
その時は既に隣部屋(女性宅)は空部屋に。
不可解な出来事に居ても立ってもいられなくなったのだろう、早々と引越先を見つけて、さっさと出て行ったよう。
笑ってはいけないが、実状を知らない不動産会社によると、その慌てぶりは半端ではなく、コメディーでも見ているかのように滑稽に映ったとのことだった。

「いるのかな?」
故人の部屋で黙々と作業をしていると、隣部屋(元女性宅)から物音。
急な引っ越しで荷物が残っていたのか、荷物を片付けているような物音が、時折、聞こえてきた。

「どんな様子かな?」
私の中には、仕事に必要のない好奇心が沸々。
女性がどうしているのか・肩の重みがどうなったのか気になった私は、手が空いたところで隣の玄関に向かった。

「ちょっと待てよ・・・」
ずっと故人宅で作業をしていた私だったが、女性が出入りしているような気配は感じておらず・・・
隣部屋に女性がいる保証はなく、私は、歩くスピードを落として考えた。

「誰もいないのに、返事があったらヤバいしな・・・」
人のいない部屋から返事があったら、色んな意味でマズい。
私には、女性宅前に立ち、ドアをノックしようかどうか迷った。

「脅かしても悪いしな・・・」
女性は、ノック音に敏感になっているはず・・・
そして、ノック音に脅えるはず・・・
女性を驚かしたら悪いので、結局、私は、走り回る野次馬をなだめて、ノックすることなくUターンしたのであった。


自分にないからといって、人の霊感を否定することはできない。
自分に見えないからといって、人が〝見える〟というものを否定することはできない。
自分が感じないからといって、人が〝感じる〟というものを否定することはできない。
ただ、私は、〝霊〟と呼ばれるものが人に憑くなんてことはないと思っている。
(〝霊〟の定義と、その存在有無はさて置き。)

私も、今まで、数え切れないほどの死人と関わってきているが、憑かれたように・・・肩に何(誰)かが乗っているように感じたことは一度もない。
だだ、仕事の責任、社会への責任、人への責任、自分への責任、生きる責任etc・・・それらをたくさん乗せているため、〝霊〟が乗っかろうにも、非力な肩にはその余地がないのかも(?)。

何はともあれ、少なくとも、この故人は、自分の肩の荷を、誰かに載せ替えるような人ではなかっただろうと思っている。




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