特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

八つ当たり

2008-11-10 10:01:30 | Weblog
〝八つ当たり〟
腹を立てて、関係のない人にまで当たりちらすこと。
誰の内にも潜む、理にかなわない心。

「物や人に八つ当たりなんかしたことない!」
と言い切れる人はいるだろうか。
全くいないわけではなさそうだけど、大方の人は、したこともあればされたこともあるだろう。
その原因は、不満・不安・苛立ち・腹立ちetc・・・

本ブログでは、穏和で寛容、忍耐強い(自分にとって都合のいい?)一面を前面に出しているけど、実のところ、それらは強調できるレベルにはない。
ちょっとしたことにイラつき、些細なことに腹を立てる。
そして、それを何かに・誰かに当たる・・・
後になって振り返ってみると、自分でもバカバカしく思えることがほとんどなのに、何かにつけてついつい当たってしまう。
そして、そんな八つ当たりが新たな八つ当たりを生む・・・


「大変!大変!!」
ある日の午後、不動産会社の担当者から、突然の電話が入った。
管理しているアパートで腐乱死体が発見されたらさく、担当者は、ハイテンション。
かなり慌てた様子だった。

「すぐに来て!」
「すぐにはちょっと・・・」
「なんで!?」
「入っている予定を済ませてからでないと、いけないもので・・・」
「知るかよぉ!そんなのオタクの都合だろ!?」
「・・・」
「何とかなんないの!?」
「無理なものは無理です!」
「チッ・・・」
「・・・」
「しょうがねぇなぁ!じゃ、できるだけ急いで来てよ!」
自分の立場をどう勘違いしているのか、担当者は横柄な態度。
その態度にカチン!ときた私は、電話を終えてからも、しばらくムカムカ。
現場に行ったとき、どんな態度で接してやろうか、頭の中にグルグルと邪心が渦巻いた。

現場となったのは、郊外ののどかな地域に建つありふれたアパート。
そこで、ありふれないことが起こっていた。

「急なお願いに対応していただいて、ありがとうございます」
夕闇の中で待ち合わせた担当者は、低姿勢で礼儀正しく挨拶。
最初、電話で話した人とは別人だと思ったが、やはり同一人物のようだった。

「い、いえいえ・・・こちらこそすぐに来れなくてスイマセンでした」
現場への移動中に十分なウォーミングアップを行い、いつでもファイティングポーズがとれるようにしていた私は拍子抜け。
抱えていたムカムカのやり場に困りながら、挨拶を返した。

「いやぁ~・・・まいりましたよぉ!」
担当者は、〝話したいことが山ほどある!〟と言った顔。
強い口調で、話の口火をきった。

亡くなったのは30代前半の女性。
遺体があったのは浴室。
死後、結構な日数が経っており、かなり凄惨な状態で発見。
駆けつけた家族にも判別できないくらいに腐敗が進んでいた。

残された人にとって・・・特に他人にとっては人が死んだことよりも、その後始末の方が問題。
管理会社が悪いわけではないのに、担当者は、近隣住民とアパートオーナーから口撃を受けていた。
そして、そんな窮状の中での電話だったので、ついつい私にキツく当たってしまい・・・
当初は不快に思っていた私も、その話を聞いて担当者を気の毒に思った。

「近隣住民や大家さんからの苦情だけでも手一杯なのに、遺族が協力してくれなくて弱ってるんですよ」
「どういうことですか?」
「遺族は遺族で、強い被害者意識を持ってて・・・」
「(賃貸借契約の)保証人は?」
「亡くなった本人の父親です」
「なのに?」
「えぇ・・・」
「へぇ~・・・」
「〝家族に責任はないだろ!〟ってな具合に、逆ギレ状態で・・・」
「だからと言って、御社や大家さんに責任はないですよね?」
「そぉですよぉ・・・まったく!」
遺族の反応は、担当者の予想範囲を逸脱。
身内として責任を感じ、積極的に事態の収拾を図るものと思っていたのに、実際、そんな動きは皆目なし。
担当者は、そんな遺族に不満を募らせ、そして、その不満は憤りに変わりつつあった。


「とりあえず、見てきますよ」
私は、担当者を外に置いて、部屋を見てくることに。
担当者も、はなから一緒に行くつもりはなかったようで、鞄から鍵を取り出して当り前のように私に渡した。

「結構、キてるなぁ・・・」
玄関に近寄ると、腐乱臭がプンプン。
下には、警察が残していった腐敗液の足形があった。

「・・・」
玄関を入ったすぐ右手が問題の浴室。
扉は壊されており、腐敗液の帯が玄関へと延びていた。

「こりゃ、パンチがきいてるな!」
二・三歩進み、恐る恐る浴室を覗くと、そこにあったのは覚悟していた光景。
乱れる呼吸に溜息がついてきた。

「硫化水素・・・自殺か・・・」
傍らの洗面台には、腐敗液にまみれた二本のボトル。
内側から施された目貼りと考え合わせると、故人が何をしたのか、言われなくても想像できた。

「こりゃ、ほとんど溶けてたな・・・」
警察の見立ては、死後一ヶ月。
有害ガスが外に漏れないようにするためか、中は目貼りがされた状態。
結果的に、それが腐乱臭の漏洩を妨げて、遺体の発見を遅らせる原因にもなっていた。

「ヒドいな!こりゃ」
故人は、浴槽の中にいたらしく、中には大量の腐敗液が滞留。
その画の凄まじさは筆舌に尽くし難く、気持ちがしなってきた。
そして、あまり長く眺めると気持ちが折れそうだったので、適当なところで切り上げた。


「見てきましたけで・・・かなりヒドいことになってますね」
「やっぱ、そうですかぁ・・・」
「私に着いたニオイがわかります?」
「わ、わかります」
「あと・・・自然死ではなさそうですね」
「わ、わかります?」
「わかります・・・使った物がありましたので・・・」
「・・・隠しておくつもりはなかったんですが、言いそびれてしまって・・・申し訳ないです」
「いえいえ、大丈夫です・・・作業には関係のないことですから」
自殺の事実が明るみに出ると、それを知っていて言わなかった担当者はバツが悪そうにした。
しかし、実務には影響のないことなので、私は、気にしながらも気にしないことにした。

「どちらにしろ、遺族の了承がないと、部屋に手をつけるわけにはいかないんじゃないですか?」
「???」
「こんな部屋でも、家財生活用品の所有権や住居侵入の問題もありますので」
「そうか・・・それがあるのか・・・」
「えぇ・・・後で問題にされたら厄介ですよ」
「ん゛ー・・・困ったなぁ・・・」
非常事態であっても、腐乱死体現場の処理は、火事や災害現場のように私人の行為が公と権利と同等に保護されるものでなはい。
あくまで、責任義務者・責任権者は、法定相続人・保証人である遺族なのだ。
そして、その了承がないと、手出しはできない。

私は、遺族に電話してその辺の確認をとることを進言。
担当者は、あまり遺族と話したくなさそうであったけど、事の必要性を理解して携帯を取り出した。
担当者が最初の挨拶をしてからすぐ、私が電話をかわった。
電話の向こうの遺族は、やはり憮然とした態度。
私に対しても、敵意に近い感情を抱いているような印象を受けた。
そんな相手には、感情的にならない方がいい。
私は、〝御愁傷様です〟なんて余計な芝居は省いて、話を事務的に進めた。

話の中から出てきた遺族の言い分はこうだった。
「他人に勝手なことをされては困る!」
「(一人で静かに死んだのだから)誰にも迷惑なんかかかっていない!」
「家財道具は自分達で片づけるし、掃除も家族の手でやる!」
その理屈には閉口したものの、遺族がそう言うからには、それを差し置いて私が出しゃばる権利はない。
ただ一つ、誰にも迷惑がかかっていないなんてことはなく、その対処だけは早急に必要であることだけは強調して伝えた。
しかし、遺族は、〝そんなこと、アンタに言われる筋合いはない!〟とでも言いたげに返事をはぐらかし、話は平行線をたどるばかりだった・・・


何日か後。
私と担当者と遺族は、現場で顔を合わせることに。
〝百聞は一見にしかず〟・・・〝問題解決の鍵を握る遺族が現場を知らずしては何も片づかない〟という判断で、そうしたのだった。

現れた遺族は三人、故人の両親と兄。
初めて訪問する緊張もあってか、電話のときのような尖った雰囲気はなく、逆に、人の死に気力を奪われたような弱々しさを感じるくらいだった。

警察からある程度のことを聞かされていたのだろう、三人は、市販の簡易マスクとビニール手袋を用意。
それを身につけ、自分達だけで部屋へ向かった。
それから、待つこと数分、遺族は意外に早く戻ってきた。
その顔を引きつらせ、その目に涙を潤ませながら。
そして、
「すみません・・・お願いします・・・」
と、声を震わせながら頭を下げてきた。

故人の痕に対する恐ろしさと驚きと、そこからくる悲しみと悔しさと憤りは図り知れず・・・
しかし、その気持ちをぶつけたい相手は、既にこの世にはなく・・・
残された遺族は、抱えきれない苦悩を誰にぶつけることができるだろう・・・
それとも、一生を、その苦悩と共に生きていかなければならないのだろうか・・・

人に当たることも人に当たられることも、気分のいいものではない。
しかし、それによって、心に溜まった有毒ガスが抜けるのかもしれない。
少なくとも、自分の命に当たったって何も解決しない・・・どころか、人の人生を蝕むだけ。
そのエネルギーは、死ぬ方に当てるのではなく生きる方に当てるべきだ。

「生きてることは、空しいことか?・・・」
答を出せない自分の弱さと過酷な作業・残された人々の悲哀に説明のつかない苛立ちを覚えた私は、浴槽に溜まった汚物に当たり散らしたい気分に苛まれたのだった。




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