一週置いて、午後のお習字。
雨の中バスを乗り継ぐ。
うゐのおくやまけふこえて……
前回に続き、かな文字を手習い。
墨を磨りはじめるときから、もう心がひたひたする。
和紙に細筆の先端が触れる。墨のしみてゆく快いてごたえと流れ。
かすかにかすかに紙をすべる筆の音。
心の迷いやぎこちなさが、てきめんに現れる書の表現。
先生のお手本の、なにげない一本の線の充実、筆勢、気品に見とれる。
「け」というひらがなのむつかしさ。
線と線とのあいだの空間のふくよかを表現したいと、何度も何度もお稽古。
きもちがぴたっと集中するこの時間、わたしのこころはしなやかで嘘がない。
そういう筆線を書きたいと願う。
今度は太筆で、と先生がおっしゃる。私以外の生徒さんは、みんな上級。ながい紙に、むつかしい大きな万葉仮名の歌を清書されている。
わたしは数字から。「三、四、六……」
これが楷書の基本とおっしゃる。
先生はからだぜんたいを動かしながらお書きになる。リズムと勢い。流れ。
その筆跡は、うなるよう、流れるよう、うつくしい。
この時間、ほんとうに……。