雪香の星月夜日記

山口雪香の歌がたり、ささやき、ひとりごと

ひぐらしを暮れ方に聞く身めぐりに秋あでやかな葡萄いただく

2022-08-31 18:43:00 | Weblog

 「ゲルマントのほうへ」まで読み終えた。吉川訳だと7巻めで、全14巻のちょうど半分になる。
 19世紀フランスの貴族社会フォーブール・サンジェルマンに君臨する大貴族ゲルマント公爵夫妻とその豪華なサロンを描く。
 描写は全て微に入り細に入り、多数の人物像、会話、蘊蓄、文学美術音楽、贅を尽くした料理にヨーロッパ王家ほとんどの系図と逸話伝説、歴史を織り込み、文章じたい、まさに絢爛としている。
 訳者の丁寧な割注を参照しないと、登場する貴族たちの会話や地口、洒落や皮肉、引用などは理解できない。
 読みながら私は日本の古典文学「源氏物語」や、最近読んだ「栄花物語」などを思い出した。源氏物語は、多数の優れた現代語訳が著されているが、古語原文の醍醐味は、文章に散りばめられた和歌や漢詩、引用、また掛詞や縁語などの修辞を味わい、歴史的背景を理解した上で、音楽のような韻律を伴う美文を楽しむことでもある。残念ながら、現代語訳では雅語修辞のほとんどは、反映することができない。
 きっと、プルーストの作品も、訳注どころか、フランス語原文ならではの妙味があるに違いないが、それこそ到底私には手の届かないエレガントな世界だ。。。

 物語の内容の大部分は、サロンの午後のお茶会や、昼食、豪華な晩餐などでの貴族たちの会話なのだが、その話題がふるっている。
 ばっさりと抽象的な総括をするなら、虚栄と物欲、自己顕示欲のせめぎ合いなのだが、
ゲルマント公爵夫人オリヤーヌの才気話柄のほとんどが1000年前に遡るヨーロッパの歴史から、各国王家の系譜に伝説、文学芸術を網羅し、自在に知識を繰り出し、駄洒落に、また皮肉やユーモアに仕立て上げる。周囲の貴族たちもそれを理解し、面白がり、オリヤーヌの巧みな発言に賛嘆する共通の知識や教養を持っている。
 これを別な角度から読むと、かなり不愉快な虚栄心とべダンチズム、飽食の坩堝に過ぎないのではないかと思う。
 作者は公平かつ辛辣に、各人の偽善や見栄っぱりな本性を暴く描写も忘れていない。

 にもかかわらず、このように美的で高度な会話、飛び交う地口駄洒落にしても欧州数百年の歴史を踏まえ、ギリシャ哲学からフランス文豪たちの作品を引用しながら繰り出す会話は、それ自体が二つとない芸術作品のように感じられる。
 
 この会話は、まるで19世紀当時の貴婦人たちの衣装やアクセサリーのように緻密で装飾過剰で、洗練され、長い裳裾や羽飾り、ふんわりした帽子をかぶっている。
 衣装は、ことに女性の装束はその時代の文化を象るものだが、「ゲルマントのほうへ」ではまさにその感が強かった。プルーストは女性の衣装や色彩にもこの上なく正確で繊細な観察を及ぼし、優雅華麗な情景をいくつも描いている。

 話し下手な私は、貴族たちの多弁と臆面のない自己礼賛に辟易したのだが、果たして現代、このように多面的にハイレベルな対話がどこでなされているだろうと考えて首を振った。

 貴族たちの俗物性をプルーストは喝破しているが、莫大な富に支えられた彼らの暇潰しは、それ自体が文化だった。
 夜通しの晩餐会、仮面舞踏会、音楽会にサロンイベント。。。おびただしい華麗な虚飾は、だがプルーストの晩年には「失われた時」になっていたのだろう。先走るが、プルーストはこのながい物語の最後で嘆いている。現代の男たちは無帽で歩き、女たちの衣装にはエレガントが失われ。。。うろ覚えだから、違う文言かもしれない。

 まだこれから先は長い。楽しみながら、ゆるゆる読んでゆこう。

 


 愛と感謝。




 
 

 
 
 
 
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コオロギの初声聴きぬ熱きもの星までの距離遠く眺めて

2022-08-30 19:41:00 | Weblog

 秋の始まり。


 ガリラヤ湖の聖アンナ、少女マリア加筆。

 


 
平和展に出したら、いろいろ不足が目につき、昨日今日で修正した。

 非才の身でなまいきにも独自のスタイルなど考えて、ざっくり仕上げたつもりが、展示会場で見直すと、あまり効果にもならず、雑にしか見えなかった。

 形象よりも色彩タッチを強調するなら、絵の具をもっとたっぷり盛らないと満足感がない。水彩画は一発勝負の名人芸だし、油彩でも薄塗りで素敵な効果を表現できる作家もいる。
 私はまだまだ中途半端だ。
 
 アートは、一般生活必需品の枠組みの中では一番外側にあるものだ。それがなくても生活できるけれど、それがあれば精神的な日常に潤いと楽しみが増す、という。
 だからこそ、見る甲斐のある、良い作品を描きたい。


 愛と感謝。

 主に栄光を。
 神に感謝。



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聖堂のつめたき床に光射しぬ無欲たることかくも難きに

2022-08-29 20:50:00 | Weblog

 秋の気配に。

 


 
 静かな日だった。

 穏やかな時の流れに愛と感謝。



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うす濁る風鈴に秋訪れぬ横向きがちの汗のつめたさ

2022-08-28 21:58:00 | Weblog

 秋の訪れに。


  


 枇杷倶楽部平和展最終日。
 
 なかなかの盛況で、1000人ほど御来場があったそうだ。
 こんなふうに平和で、明るいイベントが楽しめる日本の日常が長く続いてほしい。アジアに限定しても、近隣諸国の危うさに目を向ければ、私たちが享受している彩り豊かな平和がどんなに希有なものかわかる。そしていかに脆いものか、も。
 
 非常時に日本人は独力で祖国を守り、維持できるのだろうか。
 戦々恐々としている台湾、中国、北朝鮮、韓国。

 なんの保証もないけれど、このまま平和でありますように。

 愛と感謝。
 



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蝉の声低くなりたり午後の道うつくしきまま彼は滅びぬ

2022-08-27 22:01:00 | Weblog

 蝉たちに。


 


 
 じっとりする残暑が続く。

 今日、「失われた時を求めて」の、祖母の死までを読んだ。呵責ないほどリアルな闘病、臨終、死の床にある祖母の周囲にごった返す、悲嘆とは程遠い、虚栄心と利己主義露わな俗物たちの喜劇の描写。
 山﨑豊子さんにもこうした熾烈な写実がしばしばあり、私は感嘆すると同時に怖気付いた。感傷を容れない冷徹な作家の目が恐ろしかった。

 優れた文学作品に触れると、既存の世界観、人間観が揺さぶられる。透徹した作家精神の幾分かが、自分の中に入ってくるので。

 50代後半の今もまた。

 良い日だった。
 愛と感謝。


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のびのびと手足そよがせ雲の群れ次から次へ季節運べり

2022-08-26 20:43:00 | Weblog

 朝は雷鳴轟く驟雨だった。昼過ぎから日差しが戻り、夕方にはまた晩夏の光。


 今日もずっとプルーストを読んで過ごした。大変に虚弱な人で、恵まれた富裕層とはいえ、青年期以降は外出もままならぬ半病人の暮らしだった。よくもこんな密度の濃い大作を書いたものと思う。
 肉体的には弱くても、彼の精神は極めて健康で冷静で、しかもユーモアに溢れているから、読んでいる私は随所で楽しい。
 知的で病弱な作家は、しばしばその作品に〜優れた内容であろうとも〜そこはかとなく悲壮感がつきまとうが、プルーストにはそれが感じられない。
 昔読んだ時は、こんなふうに面白がらなかったと思う。未知の、難解で美しい世界に驚きながら、一生懸命に読んでいたはずだ。

 良い日だった。

 愛と感謝。 

 




 

 

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中身なき記憶捨てたる夏送る幸のかたちに時を選びつ

2022-08-25 20:38:00 | Weblog

 逝く夏に。

 


 プルーストの「花咲く乙女たちのかげに」を読み終えた。

 静かで、良い日だった。

 愛と感謝。

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山上の垂訓痛し幸いは神の許せる天国にあり

2022-08-24 20:16:00 | Weblog

 イエス  油彩F6号

 


 
 原画の巨匠レンブラントとは月とすっぽんの作品だが、現在の私の性格がさまざま現れている。

 レンブラントのイエスに惹かれるのは、このイエスが素朴で、美男ではあっても庶民的な顔をしているからだと思う。
 決してノーブルに洗練された顔ではなく、農夫のように頬骨がやや張っており、大工仕事の労働に日焼けし、善良で堅固な意思と優しさ、労り、そして偽善を排除する厳しさ、を私は見た。それらを描きたかったのだが。。。

 山上の垂訓を民衆に説いたイエスの顔はこうだったに違いないと感じる。

 主に栄光を。
 神に感謝。

 良い日だった。
 愛と感謝。





 

 

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声消して夜風を聴きぬこのさきにみづからを置く灯ありと

2022-08-23 21:18:00 | Weblog

 一日中レンブラントと向かい合う。

 さっきまでまた加筆修正。

 良い日だった。

 

 愛と感謝。





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かたちなき甘さ抱へつ守るべき世界の中で猫は呼吸す

2022-08-22 22:03:00 | Weblog

 レンブラントのイエスを描き始めた。

 





 今日はここまで。

 愛と感謝。


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アルファポリス