雪香の星月夜日記

山口雪香の歌がたり、ささやき、ひとりごと

現身(うつそみ)を刺すや詠へば針のごとこつぶにしても罪と呼ばれる

2008-03-31 23:19:07 | Weblog
 詠いなおし。


 なぜ哀しみを詠うんだろう。

 賛美歌とは違う詩歌の世界。


 「亡き王女のためのパヴァーヌ」だって、哀調を湛えているからうつくしいのかもしれない。

 いろいろ迷う。詠うことについても。


 詠い続けたい、という想いはかわらない。

 感動の中心をどこにおこうか、と。




 祈りはかけがえのない時間。

 詠うときも。

 



 


 


 
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もとめづか何求めしか痩女を鎖(とざ)せる愛の翳り秘色(ひそく)

2008-03-31 16:28:18 | Weblog

 昨日、観世華雪五十回忌・観世栄夫一回忌追善能、渋谷の観世会館で上演。


 雨もよいのしめやかな空。

 
 ひさしぶりに落ち着いてお舞台を鑑賞できる、ほんとにうれしい。

 出演の方々、それぞれ老練な名人。素人のわたしには、そのよしあし、褒貶などとても及ばないこと…。



 なつかしかったのは、浅見真州さん。数年前に青山の銕仙会能楽堂で、安達原を上演されたとき、印象深かった方。

 どう表現したらよいものか……毅然とした舞や所作はもちろんのこと、すり足、立ち居、声づかい、そのすべてが精確なのに、やわらかくて角がない気がする。

 ムーヴメントはひとそれぞれ個性があって、同じ動作をしても、感じる印象がまったく違う。舞やバレエといった非日常の「舞踊」だけでなく、家常茶飯の仕草も同じ。

 浅見さんの足運びをみていると、空気のようにかるい。それでいてしっかりと地軸を踏んでゆく、能独得のしんねりとした強さも。

 舞われたのが三番目、鬘ものの「井筒」だからだろうか?
 
 在原業平を恋い慕う女人のなよびが優雅で。


 同じく仕舞の「山姥」 山本順之さんも、所作がおおきくはれやかで、大地母神を彷彿とさせる山姥にふさわしいひろがりを拝見しました。

 
 能はつきるところ抽象表現だから、いちいちの所作をあてぶりとして「感情移入」の尺度で測ることはできない。

 わたしはお能を専門にお稽古したわけではないから、ひろく舞踊表現の流れ、一連のムーヴメント、所作の連なりによって、おのおのの演者の個性を、主観的に漠然と推し量っているだけ。



 「西行桜」、「砧」……どれもどれもなつかしい。ひところは毎月どこかのお舞台を観ていたっけ。

 「砧」は観世栄夫さんのお舞台の記憶がある。もうおからだの具合、よくはない頃だったろうか。季節は秋だった。うち捨てられ、ひたすら夫の帰りを待つ女のあはれを、さびさびと上演されて、感慨深かった。


 
 最後、「求塚」

 ふたりの男に懸想された乙女が懊悩のはてに入水、男ふたりは乙女の墓の前で刺し違えて死ぬ。そうして死後も乙女を争う三つ巴の愛執、地獄の業火にくるしむ、という救いのない世界。


 前シテ、銕之丞さん、シテツレのふたりとともに水衣女出立(みすごろもおんないでたち)。

 面がうつくしい。小面? 若女?

 いずれにせよ、うらわかい乙女の貌。

 その白いみずごろもの裾からのぞく唐織が、しづかな浅緑いろ、あるいは青磁いろに見えた。シテツレふたりはあざやかな紅入(いろいり)。

 バレエの「ジゼル」を思い出す。

 悲劇の死を運命づけられている少女ジゼルは、最初の登場から、仲間の村娘たちのまとう陽気な赤い衣装とは違う、青と白をまとっている。

 ロミオとジュリエットも。

 愛執の地獄、冥界から救済を求めて現れた乙女の姿は、その正体をほのめかす哀しみの彩りをまとうている。

 舞台衣装は、そのキャラクターの人格・運命を表現する。

 クラシックバレエはそれがはっきりしているし、お能でもそうなのだろう。

 
 後シテになり、前シテとはがらりと変って痩女の面が凄艶。苦悩にやせ衰えた女の面。こけた頬の翳が、強い照明のために薄い青紫に見える。

 白練大口出立(しろねりおおくちいでたち)。

 色彩を抑え、もはや乙女よりは年たけた上臈という風情。

 死後も、乙女は地獄で年を重ねていったのだろうか。でも老残ではない。

 痩女のやつれは、なお嫋嫋とたおやかだ。

 白い衣のしたの大口袴は、やはりつめたいあおみどり。

 照明が黄色いから、もとの地いろはもっと青い…秘色か、浅黄なのかもしれない。

 愛欲のもつれ、地獄の業火に焼かれ苦しむ、と訴える乙女のいでたちは、あまりにしらじらと清楚で、ひややかな哀しみを湛えている。


 動きのすくない、わずかな所作のなかに、乙女の苦悩を凝縮するような深い演技、銕之丞さん、何度か拝見した数年前より、声音、所作など渋く、ねびまさっておいででした。

 その重い足取り。

 救済をもとめつつ、得られぬ乙女のうらみと嘆きを背負うて、また幽界にもどりゆく亡霊の後姿。

 舞台幻想は深く、秘色にかがようて、橋掛かりへ続く。


 乙女の愛を求めて修羅の血みどろ、死後その愛ゆえに縛められて、救いを求めて得られぬ「もとめづか」


 求めてもとめて……得られぬ、それで「求塚」の世界。




 いずれにせよ、これはわたしのながすぎる問はずがたり。

 さまざまなうろおぼえ、見当違いなどもあるでしょう。とがめないでください。









 

 



 

 

 







 

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桜朽(くた)す朝雨別れはしのびかに身裡(みぬち)息づくはなびら濡らして

2008-03-31 09:59:01 | Weblog
 昨日から降り始めた雨脚が今朝も。

 
 爛漫の桜もこの雨でだいぶ散ってしまう。

 
 散り残る花もあるだろうけれど、きのうも、降りはじめた雨といっしょに、はらはらとはなびらが舞い落ちていた。

 
 盛りのなかで散りゆくはなびらが、淡い雨のなか、しっとりと濡れてつややかだった。


 花のめぐりによせるのは淡い感傷。

 
 けれども、あわあわとした落花の情景に託すひとの想いは、もしかしたらせつなく,濃いものがあるかもしれない。

 いにしへ、……今。



 それから、まだ生まれていない未来のひとたちも。



  

  花もまた別れむ春は思ひ出よ咲き散るたびの心づくしを

               新古今集 春下 殷富門院大輔(いんぷもんいんのたゆう) 


 


 
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みづごろも微か湿れる春雨のそら想ひびともこの空を見む

2008-03-30 09:09:50 | Weblog

 雨もよいの空に。

 今日は観世さんに行くのだけれど。雨か……。

 追善能というから、こんな静かな天候のほうがいいのかもしれない。


 きものの裾が心配。

 お能を観ていると、かぎりなくさまざまなヴィジョンがひろがる。


 あの笛の音、地謡の底鳴り、鼓、舞扇。……すり足。

 松。橋掛かり。目付け柱。


 狂言のエロキューション(節まわし)のふしぎさ。


 死者の訪れから始まる日本のオペラ。

 幽明逆転する夢幻能。








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ゆびさきに水音つたふ安息の繭紡ぎゆく羽化は青かり

2008-03-29 22:20:05 | Weblog


 夜に。

 ねむりに。


 明日は安息日。






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抱かれて凛々(りり)と花散る死(しに)わざも幻なれば花なれば艶

2008-03-29 20:13:57 | Weblog


 花のまぼろし。


 夜桜はかぎりなく夢まぼろしを誘う。


 ……。




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真澄鏡(まそかがみ)よぞら翳追ふ寂(しづ)けさに桜昇れば身も透(とほ)る月

2008-03-29 17:29:47 | Weblog

 去年の歌。

 真澄鏡(まそかがみ)は、月の異名。澄みきった鏡のような月。

 ソルティレージュよりも、星月夜日記にふさわしい歌かもしれないので。



 

 今日はいちにち、桜の山のなか。

 遊びじゃありません。

 女性を中心とした、さまざまな福祉活動を繰り広げるコミュニティ立ち上げの場に列席しました。

 すごいエネルギー。

 主婦の方たちが、それぞれの人生経験を活かしながら、地域への貢献と自分たちの生き甲斐作りにとりくんでいる。

 みなさん、おおかたは応分に年輪を重ねていらっしゃる。

 目的をたて、企画し、遂行し、実現させる……口で言うのはかんたんだけれど、ひととのつながりをひろげながら現実に反映させ、具現させるのはたいへんなことだと思う。

 ささやかな椿の会ひとつ遂行するのさえ、いくたりもの人の好意と尽力によっている。

 それを思えば……。

 この女性たちが、いきいきと活動に参加している姿を見るのはたのしい。

 これからたいへんかもしれないけれど。

 でも、きっと、このひとたちならやりとげるだろうと思う。

 わたしも、なにかできるだろうか。

 たぶん、この女性たちから、椿さんから学んだこととは違うものを吸収し、教わっているのだと思う。うまくはいえないけれど。


 こういう所感は青いんだろうけれど、わたしは素のままだ。

 すてきなものはすてきなものだ。


 帰路、てくてくと桜の山を歩いて降りてきた。

 全山満開。山桜、染井吉野、ソメイヨシノ、ヤマザクラ……

 月が昇ったらきれいだろう。










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春の藻の波守(も)り寄する五百重なし心もしのにうちなびきつつ

2008-03-29 09:28:41 | Weblog

 春若布の季節


 浜辺に寄せる海底のしづかな変化。


 五百重…いほへ…いおえ、これもおおどかな響きの上代語。

 波のひだひだに、海草が揺れる。






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伝ひゆく未知光らせて星出づれば髪ぬぐふ手も泳ぎ始める

2008-03-28 21:12:48 | Weblog

 夜。


 雨上がり、濡れた路面に暗い水溜り。


 街明かりがそこかしこにきらめく。


 もうじき星も覗きそう。






 
 


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海抜けていなづま奔る今宵また髪濡らす驟雨に身は匂ふらむ

2008-03-28 18:18:06 | Weblog


 ひさしぶりに稲村ガ崎をめぐる。

 黒雲が湧き、ぽつぽつと、雨。

 でも、空のいっぽうでは陽が耀いていた。


 百花繚乱。

 あちこちからいろんな花の香りが聴こえる。

 水仙、沈丁花、雪柳、杏、桜、タンポポ……木瓜に山吹、連翹。


 権五郎神社の緋桃の花がことにあざやかだった。


 由比ガ浜をあるき、桜貝をひろい、風に吹かれて。


 帰りしな、空はすっかりふさがって、今、稲妻。

 湿度があがると、香りがふかくなる。



 花も、ひとも。


 わたしのジーンズに渚の匂いが残っている。














 
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アルファポリス