このごろ、和服で外出が多い。
和装日記、というわけではないけれど、昨日、未明さんを椿山荘に訪ね、その時にも長くしまわれていた泥染め大島紬を選んだ。
雨で裾周り足元を気にしなければ、相当な寒中でも、着物はあたたかい。
なにより背筋がきちんと伸びる、それが心地よい。
とても地味な大島に、錆朱の織り名古屋帯を合わせ、帯締めはおだやかに渋い紫。
地味ではあるけれど、地紋のエキゾチックな織りの幾何学模様は、どことなくシルクロードを旅してきたペルシャ、インドのそれを偲ばせる。
祖母はこれをいちども纏わなかった。
躾糸がすこし残る。その糸さえ、手触りあたらしい。
それでいて、古い防虫剤の樟脳や、昔の箪笥の匂いがしみついている。
いそがしい時間を割いてくださった未明さんの眼に、また、場所柄にふさわしく、自分自身も誇りかに心地よいように、着物を選ぶ心はたのしい。
髪には、銀の平打ちかんざしを挿した。これはアンティーク。江戸時代のもの。
すっかり黒紫がかり、それこそを「燻し銀」という、と聞きました。
待ち合わせの場所に御主人と現れた未明さんは、黒地に白梅を大きく絵羽に描き染めた華やかな訪問着、あるいは付け下げだったろうか。若々しい袖の印象は、留袖とも見えなかった。金襴西陣の袋帯に、緒〆も相応に華麗。帯には漆骨のお扇子をきちっと斜めに差し、総模様の刺繍半襟。
カフェテラスのお客がいっせいに彼女を振り返るような礼装で、御主人もスーツ姿で並ぶ、いったいなにごとか、とわたしは驚いたが、御夫妻で、これから花嫁衣裳の試着とか。
しばらくお茶をいただいて、初めて親しく言葉を交わしたご主人も丁寧で礼儀正しく、こちらを気遣ってくださる。
御主人が未明さんをだいじにしておいでの気配は、傍目にはっきりと見えて。
未明さんも「兄ちゃん」と甘える。
いろいろな時間、出来事を経て、縁を結んでゆく方の姿を眺め、幸福にと願う。
この日も、前を向いて、身だしなみ調え、美しい未明さんでした。