くちびるに花のなれはて牡蠣ひらく紺青裂いて少女匂ひたり

　　瞼より夢を奪はむ企みにしずかに永きくちびるを置く　　　　　　　　　　　小久保泉






















　

純白の石のごと流るる涙もしや聖夜の近き罌粟のみなもと

　人皆に朝は来たりて石の上に泪のごとく霜はとけ初む　　　　　　　　岡部桂一郎

























　

爪にぶく光りぬ朽ちた薔薇祀る不惑の鏡に果つる霜月

　　惑はざるよはひと思へど水草の草むらがれり過誤のごとくに　　　　　　　　　　大野誠夫

透きとほる手紙我が持つ冬の陽の傍（かた）へ涸れざるいのちひとつに

　かたづけものをしていたら、ひさしぶりに、昔の歌集。


　　　声しぼる蝉は背後に翳りつつ鎮石（しづし）のごとく手紙もちゆく　　　　　　　　　山中智恵子

膝の上ふと想ふかつてあどけない抱擁のどれも赤い折鶴

　夜の前に、なんとなく

語らはぬ声のうらがわ君の見る無垢のつばさの羽音聞かせよ

　もうひとつ、声に。

それぞれに痛みの記憶荷ひつつなほはばたかむと空のうつくしき

　空に

山茶花に紅みほの射す冬ひかり翳満ちて静かな花のうつそみ

　山茶花に


























　

きらきらと心はみだす星狩らむ少年のかたちして夜のかなしみを

　星狩り、という言葉を思いついて。

やはらかに海につながる砂浜の夕べの指が生きて動くも

　夕ぐれに