先日、朝のワイドショー番組で、池袋に「エソラ」というファッションビルがオープンしました!というニュースをやっていました。(ちなみに「エソラ」というのは、「エチカ」に対抗して、地上に出て空に向かって建っているビルだからだそうです。)
なんでも池袋といえば、現状は圧倒的に東口のほうがおしゃれで人通りも多いんだけれど、この「エソラ」の西口登場でちょっとはおしゃれな人たちも西口に来てくれるのでは・・と期待されているんだとか。
というのは、この「エソラ」のコンセプト、「イエナカ派」だそうです。
少し前から景気悪化を受けてか、若者もあまり戸外に出て楽しまなくなり、家の中で過ごすことが増えたらしいです。(景気悪化が理由かどうかはちょっと疑問だけれど。だって、目に見えて給料カットとかの目にあった人でないかぎりはそんな切実でもないだろうし、若者は若者らしくトレンディで面白そうなことがあればいくらでも戸外へいくって。そこまで若者を「そそる」ところがないだけじゃないの?)
で、家の中にいれば、当然、自分の部屋のインテリアやら、家の中で楽しむグッズにちょっとお金をかけたり、家の中にいるからジャージでいいや、じゃなくて家の中だけれどおしゃれでいたい、というわけで、そのへんのマインドに特化した店ばかりを集めたビルらしいのです。(ほらね、結局家のなかにいたってお金使うんじゃない。)
中継では「ジェラート・ピケ」というなにやらアイスクリームみたいな名前のお店が紹介されました。
そこでは、確かにもこもこの起毛のパーカやトレーナーが雰囲気的に外着というより家着だわ、だけれど、家着にするには可愛いから人にも見せたくなっちゃう、自分だけで着てるのはもったいな~い、といいたくなるような商品がずらりと並んでいました。
ちなみにトレーナーみたいなので、¥6900くらいでした。
う~ん、いいとこ突いてるねぇ。
家着と割り切ると「高い」というお値段だけれど、ちょっとコンビニでかけて行ったりするにはもったいないくらい可愛いかも、って感じでそう思えば、有名ブランドのトレーナーなら\6900程度じゃ買えないんだから「安い」かも、という揺れ動く乙女心をくすぐるようなプライス設定なのでした。
値付けというのはこの「揺れ動く」というのが大切ですよねぇ。
「あ、安ぅ~。」というだけでも「待てよ、待てよ。こんなに安いからって衝動買いしちゃ駄目だぞ。よぉく考えてみよ。」と考えていると、だんだん比較する対象が落ちていっちゃって、「買わなくてもいいか」になっちゃったりする。
高ければもちろん手が出ないし。
だから、出せないことはないけれど、ちょっと贅沢かしら・・ぐらいの設定だと自分を納得させるための理由をあれこれ考えて、この時間がまた楽し、ということなんではないでしょうかね。
どう思います?
ちなみに中継からスタジオにカメラが戻った瞬間、中野美奈子アナウンサーが「ジェラート・ピケ、今女の子たちに大人気なんですよ。」とさすがによくご存知の様子でした。(彼女が今、女子アナで一番人気なんですってね。)
へぇ~、 大人気。
全然知らなかった・・ やっぱり地方にいると遅れちゃうのか、私も年とってトレンドにアンテナ張らなくなったのか、とちょっと軽く落ち込みました。
私は、ひたすらこの「イエナカ派」ということだけで切ったコンセプトが斬新で会社員の顔の私としては「マーケティング担当」でもあるので、マーケッターの目としてじっくり考えてみました。
昔、大規模商業施設が百貨店とスーパーぐらいしかなかったときには、どこにターゲットを設定するかの軸も「年齢層×グレード」ぐらいしかありませんでした。
百貨店はハイグレードで、ちょっと年齢層も高めのところを狙う。
スーパーはボリュームゾーンで、年齢層も百貨店よりは低め。
それで棲み分けができていました。
そこへ、「テイスト」という概念が登場しました。
それが私が元大手スーパーに勤めていて、「スーパーはこのままじゃいかん! もう少しセンスのいい店をつくらなくては。」と言われて今までのスーパーの名前を捨て、新しい名前の業態を作り始めた頃でした。
ニチイが「ビブレ」となり、
西友が「ザ・モール」や「リヴィン」を出店し、
ダイエーが「プランタン」を出店し、
ユニーが「アピタ」を出店し、・・・・・・・
こうしてみると、本体とは別に色んな業態を出したところはしょせん、弱者の悪あがきだったのかねぇ。
西友なんていまじゃウォルマートの傘下だし。
ニチイもダイエーも見る影もなし、という状況だし。
結局、じたばたせずに「イトーヨーカ堂」一本やりで経営している「セブン&アイ ホールディングス」と本体そのものをすべて「イオン」で統一してしまったジャスコが今なお権勢を誇っているわけだから。
で、これは余談ですが、それで「年齢×グレード」に「テイスト」というあやふやな軸が一本くわわったことになり、しかし、小売業態の象限は2次元から3次元になり、業界全体としては厚みが加わったといえました。
その代わり、百貨店やスーパーの差別化も難しくなったのでした。
これは、今の小泉政権の遺産のような時代状況と似ているんじゃないかなぁ。
消費者には「選択肢を多く用意してあげた。」と聞こえはいいんだけれど、結局わかりづらくなっているだけ、と言う気がしないでもない。
でも、「年齢」というわかりやすい軸に「グレード」(=年収みたいなもんだから)というまぁまぁわかりやすい軸に、「テイスト」というちょっとわかりにくい軸はしょせん、味付けにすぎませんでした。
だって、一見してわかる「年齢」や「グレード」に対して、その人がどんなテイストを持っているかなんてわかりませんもん。
だから、「テイスト」だけが独立独歩して軸となることはなかった。
それが今回「イエナカ」ですよ。もひとつ輪をかけてわかんない。
街を歩いている人をみて、誰が「イエナカ派」かなんてわかります?
年齢やグレードもその軸に加えることはできない。
こんなあやふやなコンセプトだけで、一棟ビル全体ができちゃうなんて!
すごい時代になったもんだ、と思いました。
私たちの時代にはそういう新しい路線を狙ったことは、ちょっとしたコーナーや1フロアだけで実験的にやるのが常で、まるまるビル全部そうしちゃうっていうのはもし、それで売れなかったらどうするんだ!っていうのがありますからリスク高すぎてどこもやらなかったわけです。
でも、ここまで考えてふと気づきました。
これは全く新しいコンセプトに見せかけたまやかしに過ぎないんだろうな、と。
だって、「イエナカ派」って人種が厳然と存在して、その人はこれからずっと「イエナカ派」でいつづけるとは限らない。
そりゃ、年齢だってグレードだって、移り変わるものだけれど、1年や2年のことでターゲットが揺らぐことはなかった。
けれど、イエナカ派というのは、ヘタしたら、「この冬はイエナカ派になろうっと。でも、春になったらアウトドア派になるんだ。」って人種かもしれないわけでしょ。
また、こんなこともありえる。
イエナカ派でもありぃの、アウトドア派でもありぃの、ってことが。
こうなるともうコンセプトなんて不在です。
これはちょっとした外向け(広告的な)フレーズであって、コンセプトではない。
コンセプトとはもっと揺らがないものでなくてはいけないと思うから。
第一、「イエナカ派」だけの商材を抱えているメーカーや問屋がどれだけあるっていうんだ?
バイヤーは必死こいてセレクターになって商品をより分けながら、ショップづくりをしなくちゃならないぞ。
そりゃ、家着くらいはイメージしやすいけれど、そのほかに一体なにが「イエナカ派」を印象づける商品となるわけ?
普通に家具売ったって「家具売り場です。」ってだけのものだろうし。
家の中で飾るようなファンシー雑貨的なものだって、今までにも存在したわけだし。
いったい、このコンセプトがいつまで保つのか見届けよう、と思いました。
しかし、そんな懐疑的な私が、「かっわいい~」って思わずイエナカ派商品を買っちゃったんですよね。
その話はまた明日。
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