団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

見ザル言わザル聞かザル

2011年12月21日 | Weblog

 駅の改札を出たところでの出来事だった。私の前を足早に歩く女性が右腕にかけたトートバックから何か落とした。女性はまったく気がつかず歩き続けている。私は落とされたモノに近づいた。何かの動物のイラストの入ったハンカチタオルだった。私は拾って女性を追いかけた。追いついた。背後から声をかけた。「これ、落としましたよ」 まったく反応がない。私は女性の前にまわった。女性は私を見て、声を上げんばかりに驚いた。左手にはスマートフォン、毛糸の耳あて付きの防寒帽子の両端からイヤフォンのケーブルが垂れ、どこかにつながっている。聞こえるはずがない。濃い化粧の中で重そうなツケマツゲが引き上げられて、小さな目が大きく見開いた。私の風貌や顔から、この女性の反応には、がてんがゆく。何の接点もない二人の人間、犯罪のニオイがしたのだろう。

日光東照宮の三匹の猿の二匹、聞かザルと言わザルの空間だった。彼女の目の前に差し出されたハンカチタオルだけが彼女に状況を察しさせることができた。反応の遅い人だった。声を出してお礼を言われるでもなく、会釈でお礼を示されることもなく、魂を抜かれた操り人形のように立っていた。ハンカチタオルをトートバックに押し込んで、姿勢悪く歩き去った。

 駅ビルのエスカレーターが点検中だった。階段はビルの反対側にある。近くにエレベーターがあった。若い出張らしい男性会社員が待っていた。私は彼の後ろに並んだ。その男性社員はカート付きバッグとビジネスケースを横に置き、しきりにスマートフォンを片手で操作していた。エレベーターが到着してドアが開いた。誰も乗っていない。前の男性会社員は、まだ携帯に夢中になっていた。それでも順番は順番である。私は待った。すると後ろから箱根の温泉帰りと思われる3人連れの男性が私と男性会社員を差し置き乗り込もうとした。「並んでいるのですよ」と私はすかさず言った。「知ってるよ」と3人のうちの一人が言った。その態度は、(文句あるならかかって来い)と言わんばかりだった。3人が横柄に乗り込み、男性会社員も乗り込んだ。私はエレベーターに乗るのは止めた。気分が悪かった。向きを変えて、階段のほうへ歩き始めた。男たちは勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべていた。見ザルたちには目配りを期待しても無理なのだ。

 たて続けに遭遇したスマートフォンが関わる出来事だった。私はすっかり今の社会からはぐれてしまったようだ。家から外に出て、人と関わるのがますます億劫になる。現代社会は三つのスクリーン(テレビ、パソコン、携帯電話)に壊されかかっている。画面を見つめるのを少しやめて、私の目を見て、私の話を聞いて、意見や主張があるなら私に解るように言ってもらえないだろうか。私はあなたに大事なことを伝えたい。

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