団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

キツネの嫁入り

2012年10月29日 | Weblog

  日曜日の午前中久しぶりに妻と散歩に出た。坂道を転がるように下る。川に沿った道路を歩く。どんよりとした天気だ。天気予報では午後から雨が降るとのことだった。パラパラとかすかにアスファルトの路面を雨の粒の大きさで黒く斑点をつけている。後ろから車が来たので脇に避け草むらに分け入った。

 道路に戻ると“キツネの嫁入り”がびっしりズボンに付着していた。妻に「キツネの嫁入りだ」と告げた。「何 それって」 妻に近づき“キツネの嫁入り”と指差してズボンに付着したトゲ状の長さ1センチぐらいのモノを見せた。ほとんど漫才コンビ大木こだま・ひびきのこだまのような声の調子で「そんな名前あらへんやろ~」でなく「そんな名前だった?」と尋ねてきた。私は逆質問に弱い。逆質問は妻の常套手段である。こう言われると私は自信をすっかり失くしてしまう。デジカメで写真を撮り、植物図鑑で詳しく調べることにした。

 他にも山葡萄、イチジク、カズラなどの実を見つけるたびに立ち止まった。特に山葡萄の実は宝石のようだった。カメラにおさめたけれど、本物の色との違いにがっかりした。アオサギを観察し、カモのつがいに微笑んだ。川の向こうのミカン畑にかかる古いコンクリートの橋があった。その上をミカン畑の持ち主であろう老婆(おそらく腰の曲がり具合から90歳を超えているかもしれない)とその娘か嫁であろう60歳後半の女性がいた。橋には端から端まで万国旗が飾られている。絵になる。私はカメラを持って近づいた。二人とも農作業をする仕度だった。背中にカゴを背負い頭に手拭いを巻いていた。川、橋、万国旗、手拭いを頭に巻いてエプロン姿の腰が曲がった老婆が、まだ腰がまっすぐだけれどもそれ相当な歳を感じさせる女性の後をゆく。橋の下には清流が勢いよく流れている。

 写真家の齋藤亮一の写真展を先週の金曜日、東京へ観に行ってきたばかりの私は、このシャッター・チャンスを逃してならないとカメラを構えた。所詮一万円を切る安売りのデジカメである。4倍ズームでもファインダーの中の絵は只の景色でしかなかった。女性二人は芥子粒のようでまったく認識できない。万国旗もあるのは分かるけれど、旗のデザインも色も出ていない。そうこうしているうちに女性二人は橋を渡りきっていた。齋藤さんがどのように被写体をとらえ写真におさめているのか。写真展の作品を鑑賞するたびに不思議でならない。

 雨が本格的に降り出しそうだったので、散歩を切り上げた。家に戻って植物図鑑、電子辞書、インターネットで“キツネの嫁入り”を調べた。どこにも植物のキツネの嫁入りのことは説明されていなかった。私の思い違いなのか。しかし正式な名称は分かった。コセンダングサ(キク科)である。(写真参照) コセンダングサの拡大図を見る。まるで刺股(さすまた)のような形である。その二手に分かれた先端と刺股の柄にあたる部分とでは、トゲの生え方が逆になっている。これを逆刺(ぎゃくし)と言うそうだ。キツネの嫁入りというのは、たぶん私の育った田舎で子どもが勝手に呼んでいたのかも知れない。いずれにせよ頼みもせずに動物や人間の体の一部にくっ付いて、種を拡散させる。衣服にくっ付くと除去するのも厄介なものである。キツネは化けると妖怪話にある。子どもが朝から晩まで外で遊んだ頃なら容易に信じられた。コセンダングサにも繁殖の困難な時代なようだ。それにしても植物はすごい。

  お知らせ:齋藤亮一写真展 『コドモノクニ』が10月31日まで新宿コニカミノルタプラザ ギャラリーCで開催中

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