団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

台風21号と通勤妻と隠居

2018年09月05日 | Weblog

  9月4日火曜日午後4時頃、妻からメール。「新幹線が止まっているので在来線で帰ります。」 嫌な予感がした。2011年3月の東日本大震災。妻はあの日結局帰宅できず職場に残った。私は家に一人でいた。家の中に散乱した壊れたモノを集めた。崩れた書籍をもとに戻して時間を過ごした。考えずにいようと思えば思うほど、もしこのまま妻と別々な場所で死んだら…などと妄想した。

 妻が4時間かけて在来線でいつもの私が車で送り迎えしている最寄り駅にたどり着いた。平常なら在来線でも1時間半で着く。妻が乗った在来線の電車はあちこちの駅で運転を見合わせ20分30分と停車したという。特に河川にかかる鉄橋の前で強風を避けるために停車した時は恐かったと話した。私は妻が無事に戻ってきたくれたことでガクッとしてしまい、彼女の声を聞き取れなかった。

 家に入っていつもより2時間遅い夕食が始まった。隠居の私は一日中何度も同じ報道を目にしている。妻は違う。妻にとって9時のNHKニュースは一日の総まとめになる。台風21号の被害状況に目がくぎづけになる。トラックが強風で横倒しにされた。大きなタンカーが関西空港の連絡橋に激突した。私には妻が何を思っているか分かる気がした。でも私は言葉に出さない。新幹線であろうが在来線であろうが、絶対に安全であることはない。いつ自分が乗った新幹線や在来線の電車が事故事件災害に遭うか誰にも分らない。妻は公共交通機関を利用して通勤する。私は家に残って隠居している。立場は違うが、どちらにもお互いを心配する種がある。妻は時々私からメールがないと電話してくることがある。妻は私が意識を失って家の中で倒れているのではないかと心配だったから、と言う。ただ家に残っている私にも年齢による健康問題が常時付きまとう。

 台風21号はすでに熱帯低気圧に変わって、日本海を北上して行った。自然災害は恐ろしい。最悪の事態を想定して事前に避難退避することも大きな災害に遭うたびに改善進歩されてきている。それでも犠牲者は出てしまう。

 私たち夫婦もできればいつも一緒にいられればと思うが、生きてゆくには現状維持しかない。だからこそ一緒にいる時を大切にしたい。家で4時間妄想に身を任せた後、やっと駅で出迎えた時、言葉にならない感動が台風のように私を通り抜けた


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