『マスコミ 偽善者列伝』(加地伸行著 飛鳥新社 1389円+税)を購入して読んだ。コキイチ(古稀+1)は、失われた集中力、もともとそんなものは私にはなかったかもしれないが、のために読書がしんどい。久しぶりに一気読みした。以前加地さんの連載随筆『古典個展』を楽しく読んでいた。
序章で「老生―――今やまさに老残の身。金はなし、他人は相手にしてくれず、行くところもなし。長生きすれば恥多し。やむをえず、コップ一杯のビールで、朝から晩までテレビを観ては、登場人物の発言を罵倒しておるわ。……読者諸公よ、他人についての悪口を聞くのは楽しいことでござるぞ。……」と加地さんは言う。ビール以外は私の日常。「面白そう」と私は投げ出すことなく完読。加地さんに全て賛成とは言えない。日本は言論の自由を認めている。最近の『新潮45』の杉田水脈国会議員関連の記事で新潮社は『新潮45』を休刊すると発表した。これには違和感を持った。
カナダへ留学して初めてDebate(討議)の講義を受けた。その時私は日本人に足りない教育は“これだ”と思った。討議の題は「広島・長崎の原爆投下は是か非か」であった。最初“是”の学生は次の日“非”に替わって討論する。『新潮45』は、一方的にこの討議から逃げてしまった。紙上で堂々と意見を言い合うべきだった。今すぐ結論が出なくても討議を進めてゆけば、いつか解決の日を迎える。性急で感情的になれば、喧嘩で終わる。
NHK総合テレビ番組『チコちゃんに叱られる』で人間の脳は、何か判断する時、目からの情報に83.0%耳11.0%、鼻3.5%、舌1.0%、手1.5%頼ると知った。テレビの影響力の大きさに納得がゆく。
コキイチの私も加地さんではないが、テレビを観る時間が年齢を重ねるごとに多くなる。それは外出が減り世間との接触がなくなったのでテレビが社会の窓になったからだろう。そのままテレビを観ているとNHK以外観たくもない宣伝にイライラさせられるので私はニュース番組以外、録画を観る。我が家のテレビは2週間放送済みの6チャンネルの録画が観られる。便利である。何が便利って嫌な宣伝はリモコンで飛ばすことができる。お陰で“オシメ、ナプキン、痔の薬、世田谷食品、富山常備薬、過払い金、宗教新聞”など西部劇に出てくる2丁拳銃の使い手のようにリモコンを操作して観ないで済ませる。
我が家のテレビを観るには、4つのリモコンを操作しなければならない。妻はいまだに操作できない。私の加齢であらゆる機械操作にうとくなってきている。それでも嫌いな人物、宣伝をリモコンでバッタバッタと切り捨てる。それがしたいばかりに複雑な操作をおぼえる。いい気分。その気分を詳しく分析してくれるのが加地さんの『マスコミ 偽善者列伝』である。読み終わって、久しぶりに痛快であった。
一時テレビに愛想をつかしてラジオを聴いた。しかし高嶋秀武さん佐藤優さんなど出演者がどんどん交代してしまった。今は好きなラジオ番組は少ない。録画のテレビ放送、アマゾン、ネットフレックス、有料ケーブルテレビから選んでテレビを観る。私は観ていて聴いていて、メモを取りたくなる、そんな番組が好きだ。以前歌謡番組を敬遠していたが、最近歌に専念している歌手が歌う歌詞に感動することが多い。歌手は歌うだけの人が多い。歌詞も変わらない。調べも変わらない。だから安心できる。そう今のテレビは、何でも屋ばかり。自分の本職に一所懸命が良い。日本のテレビにもっと多くの一所懸命な本職に機会が与えられることを願う。