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巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

「中学の入学祝い=万年筆」だった

2010-08-13 21:44:16 | ガジェット/モノ
わたしが中学に入学した1970年代前半、中学生になった子供に対する入学祝いの定番は圧倒的に万年筆だった。そして、そうやって送られた万年筆は、制服の胸ポケットにさしておくべきものだった。だから中学生の制服の胸ポケットには、常に万年筆と生徒手帳があった。(胸ポケットには、それに加えて櫛も入っていたかな。)
「中学の入学祝い=万年筆」が人々の頭には強く刷り込まれていたために、案の定わたしのところには、万年筆が2本やって来た。危うく3本目も来そうになり、母があちらこちらに電話して止めた。下手をすると、4本目や5本目めまで贈られかねない雰囲気だったのだ。

わたしのところに来た万年筆は、1本はパイロットで、もう1本はセーラーのものだった。パイロットのニブ(ペン先)は18Kで、18Kのペン先を持つ万年筆は、オイルショック直前の日本の中学一年生のかなり多くが贈られたものだった。わたしがもらったのは、ペン軸が短くキャップが長く、キャップを後ろに装着して初めて筆記具として十分な長さになる形状だった。このような形状の万年筆は最近ではあまり見かけないが、当時はかなり普及していて、中学生のわたしにはこの形がスタンダードのように思えたぐらいだった。

もう一つのセーラーは21Kだったが、21Kのニブの万年筆を送られた中学生はあまりいなかった。軸の部分はスタンダードな長さで、装飾的な軸だった。両方の値段は知らないが、特にこのセーラーの万年筆のほうは、中学生への贈り物としてはかなり高価だったに違いない。

そうやって送られた万年筆を使用する機会があったのかというと、わたしを含めて中学生には日常ではほとんどなかった。当時の中学生が使用する筆記具といえば、赤のボールペンのほかは圧倒的にシャープペンシルで、しかも0.3 mm芯などという細い芯やら数千円もするシャープペンやらが一般の文房具店に出てきたころで、皆の関心はそちらに向いていた。(「シャープペンシルを使うと字が下手になる」とも言われていたころのことで、学校の教師たちは「入試にはシャープペンを使うな」と口を酸っぱくして言っていた。)

さて、中学の入学祝いに万年筆を送るという習慣は、6学年下の弟が中学に入る1979年の春には、かなりすたれていた。「万年筆はきっと誰かが贈ってくれるよ。誰も贈ってくれなかったら、わたしが買ってあげるよ。」わたしは、うっかりそう約束してしまった。

きっと誰かが贈るはずだと思ったのだが、弟に万年筆を送ろうという人はいなかった。仕方がないので、わたしは約束を守るために池袋の西武デパートへ買いに行った。自分の常識で18Kのニブの万年筆を購入しようと思ったが、18Kのものはどれも値段が1万円を超えており、貧乏な大学1年生には手が出しにくかった。結局、弟には14Kの万年筆を買った。値段は記憶がただしければ7000円~8000円ぐらいだった。「14Kでごめんね」とわたしは弟に誤った。(が、しかし14Kが一番使いやすいらしい。)わたしのバイトの時給が400円台だったころの話だ。しかし、このときに買った万年筆を、弟が使っているのをわたしは見たことがない。

制服の胸にいつもあるにもかかわらず実際には万年筆がほとんど使用されなかった理由の一つは、インクの色にあったと思う。当時の日本人の常識は「万年筆=青インク」だった。青インクが使える状況というのは、かなり限られていた。

数年後、高校も卒業するころになって、万年筆には黒インクも存在することに気がついた。正確に言えば、黒のカートリッジインクの存在には気づいていたが、それを自分の万年筆に使うことを考えたことがなかった。近所の文房具屋で店主が、万年筆のブルーのインクカートリッジを買いに来たサラリーマンに「黒はどうですか? 黒だったら何にでも使えますよ。履歴書なんかでも…」と黒のカートリッジを勧めているのをみて、「そうだ、黒を使えば、万年筆でも結構いろいろなところで使える」と、わたしも気づいたのだ。

それからしばらくは万年筆に黒インクを入れて使っていたのだが、その後水性ボールペンやゲルボールペンが出てきて、わたしは万年筆の存在を忘れてしまった。

◆◆◆

さてここ数年、様々な万年筆が出てきている。最近の万年筆の値段は、数百円のものから6桁や時には7桁(円換算)のものと様々だ。そしてインクの色も種類も多種多様で、中には自分でインクの色を調合する人までいる。万年筆は、昔のように「学生や事務系の仕事をしている大人なら誰もが持っている」というものではないが、安くなったせいもあって、持っている人は1人で何本も持っていたりする。

安いが十分に書きやすい万年筆が出てきたので、最近はわたしも再び万年筆を使い始めている。わたしが使用するのは無印良品や、ラミーやペリカンなどのうち低価格帯のものだ。(そう、わたしも「1人で何本も」の類なのである。)

使用するインクは、黒以外の色でただし黒みを帯びたものが中心である。黒に近いものでないと仕事で使えないのだが、黒みを帯びた色インクは、サイン済み原本とそのフォトコピーを区別するのに便利だ。ここは本題ではないので詳しい話は省略するが、わたしのことなので ― わたしの実物を知っている人は「やっぱり」と思うはずだが ― 自分好みの色を作るために、異なる色のPrivate Reserve Inkをミックスしたりもしている。

ところで、ボールペンやシャープペンで英語を書くとブロック体を使うのに、万年筆で英語を書くとなぜか自然と筆記体になってしまう。当時の中学生は、英語の時間にまずは筆記体を習ったものだ。その時にわたしは、あえて万年筆などを使って練習したものだった。そのせいかな。
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