
『ワールド・ウォーZ』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。
(1)昨年の『マネーボール』以降見ていないブラッド・ピットの映画だというので、見に行ってきました。
映画の冒頭では、TVから、鳥インフルが広まり、イルカが大量死し、異常な行動をする人々が増えているなどのニュースが流れます。
他方で、元国連調査員のジェリー(ブラッド・ピット)が、妻カリン(ミレイユ・イーノス)や娘二人が乗る車の中にいます。場所はフィラデルフィア、渋滞に巻き込まれたようでなかなか進みません。すると、前方で大きな爆発があったり、後ろから車が飛んできたり、トラックが暴走してきたりします。どうやら、全世界でゾンビが爆発的に拡大して、人間を襲撃しているようなのです。
ジェリーは、やっとのことで車を郊外まで走らせることが出来ましたが、娘に喘息の発作がでてしまい薬が必要になります。
ニューアークに出て、ようやく薬局で薬を確保するものの、ゾンビから家族を守るために、ビルの一室に隠れます。そこには、同じように身を潜めている家族がいます(注1)。
他方で、ジェリーの元の勤務先(国連)から、「どうしても君の力が必要だから、なんとしてでも救助する」との連絡が入ります。
ジェリーたちは、ゾンビらにぎりぎりまで追い詰められますが、ようやく身をかわして救助のヘリコプターに乗り込むことに成功します。
着いた先は、同じようにして救助された人々でごった返す大西洋上に浮かぶ航空母艦。
その船の中でジェリーは、国連次長から協力を要請されますが、国連を退職した身であり、今は家族を守ることが大事だからと言って拒否します。
ですが、その場合には、家族共々艦艇から退去してもらわなくてはならないと指揮官から言われて、やむなくジェリーは協力することとし、気鋭のウィルス学研究者と一緒に、韓国のハンフリーズ米軍基地に向けて飛び立ちます。
でも、そこもゾンビの襲撃を受けていて、ほうほうの体で次の目的地に向けて飛び立たざるを得ません(注2)。

さあ、ジェリーらは人間世界を滅亡から救い出すことが出来るでしょうか、……?
全体的には、まあ、『コンテイジョン』のゾンビ版とでもいったらいいのでしょうか。
そちらは、新種のウィルスによる感染症がアッという間に全世界に広がるのを、米国の専門機関CDCの働き(ワクチンの開発)で食い止めるという話ですが、他方こちらは、正体不明のウィルスで全世界人々がゾンビと化して人間を襲うのを、元国連調査員・ジェリーらがなんとか防ぎ止めようとするというお話です。
ただ、『コンテイジョン』の方は、マット・デイモン、マリオン・コティヤール、ジュード・ロウ、ケント・ウィンスレット、グウィネス・バルトロウなど主演級の俳優が次々に登場しますが、本作では、よく名が通っている俳優としてはブラッド・ピットくらいですから、彼が扮するジェリーが超人的な活躍をするのは目に見えています。
それでも、無数のゾンビが襲いかかってくる有様を描き出しているシーン(注3)はなかなかの迫力があります。

また、ブラッド・ピットも、さすが存在感のある演技を披露しています。

なお、『ソウル・キッチン』や『ミケランジェロの暗号』などで目覚ましい活躍をしているモーリッツ・ブライブトロイが、WHOの研究所の単なる一研究員として出演しているのを観た時には驚きました(注4)。
それに、『終戦のエンペラー』で主演のマシュー・フォックスも出演していますが、見終わってから劇場用パンフレットを見て知りました!
2)これは映画の出来栄えとはあまり関係ありませんが、正常な人間がゾンビに対応する仕方に、なんだか違和感を覚えてしまいました。
というのも、この映画では、何らかの病原菌の感染によって、普通の人間がどんどんゾンビに変身するように描かれているからです(注5)。それも、狂犬病のように、単にゾンビに噛みつかれることによって、病原菌が感染してしまうようです(注6)。
としたら検討すべきは、その蔓延を防ぎつつ、同時に、ゾンビ状態になった人間を元の通りに戻すことではないかと思ってしまいました。
でも、この映画でなされていることは、鳥インフルの蔓延に際して、感染した鶏を急いで大量に殺して穴に埋めたのと同じように、感染してゾンビになった人たちを何でもいいからどんどん殺戮することでしかありません(注7)。
こんな風に思うのも、本作で描かれるゾンビは、顔形がかなり変形しているものの全体的には通常の人間とほとんど変わりがなく、決して異様な「怪物」とは見えないからですが(注8)。
でももしかしたら、ゾンビに噛まれて感染してから発症するまでの時間があまりに短く、そしてひとたび発症してしまったら、狂犬病と同様に、治療することが困難なのかもしれません(注9)。
ただ、狂犬病の場合は、ウィルスによって脳神経組織が冒されてしまうために治療が困難になるようですが、本作のゾンビの場合そのようにも見えないので、あるいは治療が可能なのではとも思えるところ(注10)、あるいは希望しすぎなのかもしれません!
とはいえ、襲いかかってくるものを問答無用で排除するだけでは、その先に何の希望も見いだせないのではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「ゾンビ映画にしては、流血シーンは少ないので、ホラー映画ファンには物足りないかもしれないが、実態がつかめない悪に対する戦いという点で戦慄度はきわめ て高い。世界中がカオスに陥る圧倒的スケールのパニック・ムービーで、平和な日常と地獄が一瞬でくるりと入れ替わる空恐ろしいシミュレーションだった」として65点を付けています。
また、前田有一氏は、「なによりオタク層を完全排除した作りは、家族連れやカップルにとっては安心安全。オマージュとエログロと内輪ウケを排除しても面白い映画を作れてこそ、本物である。そしてそのコンセプトがうまく定石外しになっている副次的効果もある」などとして70点を付けています。
さらに、青木学氏は、「どのように して観客をゾンビで驚かすのかのリサーチはされているようで、その演出は古典的ですらある。ラストは続編を匂わせる終わり方をしているの だが、あるとしたら次こそ世界戦争の様相を呈するのだろうか」などとして80点を付けています(注11)。
(注1)ジェリーは、そこに閉じこもっていてはダメだと言って、一緒に行動するように言いますが、その家族は恐怖心の余り動こうとはしません。結局は、ゾンビに襲われてゾンビとなって、ジェリーたちを追いかけることになってしまいます。
(注2)この事態を救う手段を見つけ出してくれるだろうと期待されていた若手研究者は、その段階であっさり(銃の暴発で)死んでしまいます。
(注3)予告編で描き出されますが、大量のゾンビが壁を昇るシーンは、イスラエルがこうした事態を見越して設置した壁での有様です。イスラエル側では、壁を設けたことで安心して、歌舞音曲をかき鳴らして浮かれていたところ、そうした音に敏感に反応するゾンビが大量に各地から集まってきて、アッという間に高い壁も乗り越えてしまい、イスラエルは大混乱に陥ってしまいます。
なお、劇場用パンフレット掲載の高橋諭治氏のエッセイ「ついに出現した、本格的なディザスター映画としてのゾンビ映画」では、「ゾンビの塔」とか「ゾンビの滝」と表現されています。
(注4)劇場用パンフレットには一切記載がありませんが、「IMDb」の「World War Z (2013)」の「cast」には「W.H.O.Doctor」として掲載されています。
(注5)上記「注3」の高橋氏のエッセイによれば、「21世紀型のゾンビ映画」におけるゾンビは、「かつての古典的なゾンビ」とは全く性質が違うようです。後者は、「プードゥーの呪い、宇宙からの怪光線、怪しげな化学物質などの影響によって墓場からむくむくと甦り、牧歌的なくらい動きがのっそりしていた」が、前者は「ウィルス感染者というれっきとした“生者”であり、一度死んで甦ったゾンビとは別物」だとされます。本作のゾンビも、この「21世紀型ゾンビ」の流れをくむようです。
おそらく、「古典的なゾンビ」の例としては、マイケル・ジャクソンのPV『スリラー』があげられるでしょう(更には、例えば、『処刑山 デッド・スノウ』に登場するナチス・ゾンビ!)。
そして、「21世紀型ゾンビ」を決定づけたのは、高橋氏によれば『28日後…』(2002年)とのことですが、クマネズミは見ておりません。
なお、日本においてはゾンビ映画はあまり制作されてはいないようですが、例えば、『東京ゾンビ』(2005年)や『山形スクリーム』(2009年)などが公開されているところ(クマネズミは見ておりません)、それらは「古典的なゾンビ」の流れに連なるものだと思われます。
(注6)上記「注3」の高橋氏のエッセイが表現するところによれば、本作においては、「ゾンビに噛まれ、ウィルスに冒された人々はわずか12秒で人間ではない怪物に豹変し、車のフロントガラスを突き破るほどの勢いで猪突猛進を繰り返」します。
(注7)例えば、イスラエルでは、スタジアムに集まってきた無数のゾンビに対して、空から大型爆弾を投下して一気に殺してしまおうとします。
(注8)上記「注3」の高橋氏のエッセイが表現するところによれば、本作のゾンビは、「“音”に鋭く反応し、異様な奇声を発」し、「獲物を見失う」と「いったん“休眠状態”に陥る」のです。でも、高橋氏のいうようには「怪物」とは見えない気がします。
なお、高橋氏のエッセイでは、本作において、「ゾンビが人間の生肉を貪り食うカニバリズム的な描写が一切盛り込まれていない。これは従来のゾンビ映画ではありえないこと」と述べられているところ、2002年の『28日後…』でもそうした表現はなされてはいないようです(同作のゾンビは、何も食べないで餓死してしまうようですから)。
(注9)Wikipediaの「狂犬病」の項によれば、狂犬病の場合、「発症すればほぼ確実に死亡する」とのこと。
(注10)凶暴性の増進や聴覚の異常な亢進とか、走る速度のアップ、それから致死性の病原体を持つ人間を瞬時に見分ける能力といった面を見ると、ゾンビになった人間の脳組織は、一部が異常に活性化されているものの、破壊されてはいないように思われるところです。
なお、致死性の病原体を持つ人間を瞬時に見分ける能力が本作のゾンビには設けられていることから、ジェリーがゾンビ化の拡大を食い止める手段を見つけ出すことにつながっていきます。
(注11)ラストの「私たちの戦いはまだ始まったばかりだ」とのナレーションに対応するのでしょうか?
★★★☆☆
象のロケット:ワールド・ウォーZ
(1)昨年の『マネーボール』以降見ていないブラッド・ピットの映画だというので、見に行ってきました。
映画の冒頭では、TVから、鳥インフルが広まり、イルカが大量死し、異常な行動をする人々が増えているなどのニュースが流れます。
他方で、元国連調査員のジェリー(ブラッド・ピット)が、妻カリン(ミレイユ・イーノス)や娘二人が乗る車の中にいます。場所はフィラデルフィア、渋滞に巻き込まれたようでなかなか進みません。すると、前方で大きな爆発があったり、後ろから車が飛んできたり、トラックが暴走してきたりします。どうやら、全世界でゾンビが爆発的に拡大して、人間を襲撃しているようなのです。
ジェリーは、やっとのことで車を郊外まで走らせることが出来ましたが、娘に喘息の発作がでてしまい薬が必要になります。
ニューアークに出て、ようやく薬局で薬を確保するものの、ゾンビから家族を守るために、ビルの一室に隠れます。そこには、同じように身を潜めている家族がいます(注1)。
他方で、ジェリーの元の勤務先(国連)から、「どうしても君の力が必要だから、なんとしてでも救助する」との連絡が入ります。
ジェリーたちは、ゾンビらにぎりぎりまで追い詰められますが、ようやく身をかわして救助のヘリコプターに乗り込むことに成功します。
着いた先は、同じようにして救助された人々でごった返す大西洋上に浮かぶ航空母艦。
その船の中でジェリーは、国連次長から協力を要請されますが、国連を退職した身であり、今は家族を守ることが大事だからと言って拒否します。
ですが、その場合には、家族共々艦艇から退去してもらわなくてはならないと指揮官から言われて、やむなくジェリーは協力することとし、気鋭のウィルス学研究者と一緒に、韓国のハンフリーズ米軍基地に向けて飛び立ちます。
でも、そこもゾンビの襲撃を受けていて、ほうほうの体で次の目的地に向けて飛び立たざるを得ません(注2)。

さあ、ジェリーらは人間世界を滅亡から救い出すことが出来るでしょうか、……?
全体的には、まあ、『コンテイジョン』のゾンビ版とでもいったらいいのでしょうか。
そちらは、新種のウィルスによる感染症がアッという間に全世界に広がるのを、米国の専門機関CDCの働き(ワクチンの開発)で食い止めるという話ですが、他方こちらは、正体不明のウィルスで全世界人々がゾンビと化して人間を襲うのを、元国連調査員・ジェリーらがなんとか防ぎ止めようとするというお話です。
ただ、『コンテイジョン』の方は、マット・デイモン、マリオン・コティヤール、ジュード・ロウ、ケント・ウィンスレット、グウィネス・バルトロウなど主演級の俳優が次々に登場しますが、本作では、よく名が通っている俳優としてはブラッド・ピットくらいですから、彼が扮するジェリーが超人的な活躍をするのは目に見えています。
それでも、無数のゾンビが襲いかかってくる有様を描き出しているシーン(注3)はなかなかの迫力があります。

また、ブラッド・ピットも、さすが存在感のある演技を披露しています。

なお、『ソウル・キッチン』や『ミケランジェロの暗号』などで目覚ましい活躍をしているモーリッツ・ブライブトロイが、WHOの研究所の単なる一研究員として出演しているのを観た時には驚きました(注4)。
それに、『終戦のエンペラー』で主演のマシュー・フォックスも出演していますが、見終わってから劇場用パンフレットを見て知りました!
2)これは映画の出来栄えとはあまり関係ありませんが、正常な人間がゾンビに対応する仕方に、なんだか違和感を覚えてしまいました。
というのも、この映画では、何らかの病原菌の感染によって、普通の人間がどんどんゾンビに変身するように描かれているからです(注5)。それも、狂犬病のように、単にゾンビに噛みつかれることによって、病原菌が感染してしまうようです(注6)。
としたら検討すべきは、その蔓延を防ぎつつ、同時に、ゾンビ状態になった人間を元の通りに戻すことではないかと思ってしまいました。
でも、この映画でなされていることは、鳥インフルの蔓延に際して、感染した鶏を急いで大量に殺して穴に埋めたのと同じように、感染してゾンビになった人たちを何でもいいからどんどん殺戮することでしかありません(注7)。
こんな風に思うのも、本作で描かれるゾンビは、顔形がかなり変形しているものの全体的には通常の人間とほとんど変わりがなく、決して異様な「怪物」とは見えないからですが(注8)。
でももしかしたら、ゾンビに噛まれて感染してから発症するまでの時間があまりに短く、そしてひとたび発症してしまったら、狂犬病と同様に、治療することが困難なのかもしれません(注9)。
ただ、狂犬病の場合は、ウィルスによって脳神経組織が冒されてしまうために治療が困難になるようですが、本作のゾンビの場合そのようにも見えないので、あるいは治療が可能なのではとも思えるところ(注10)、あるいは希望しすぎなのかもしれません!
とはいえ、襲いかかってくるものを問答無用で排除するだけでは、その先に何の希望も見いだせないのではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「ゾンビ映画にしては、流血シーンは少ないので、ホラー映画ファンには物足りないかもしれないが、実態がつかめない悪に対する戦いという点で戦慄度はきわめ て高い。世界中がカオスに陥る圧倒的スケールのパニック・ムービーで、平和な日常と地獄が一瞬でくるりと入れ替わる空恐ろしいシミュレーションだった」として65点を付けています。
また、前田有一氏は、「なによりオタク層を完全排除した作りは、家族連れやカップルにとっては安心安全。オマージュとエログロと内輪ウケを排除しても面白い映画を作れてこそ、本物である。そしてそのコンセプトがうまく定石外しになっている副次的効果もある」などとして70点を付けています。
さらに、青木学氏は、「どのように して観客をゾンビで驚かすのかのリサーチはされているようで、その演出は古典的ですらある。ラストは続編を匂わせる終わり方をしているの だが、あるとしたら次こそ世界戦争の様相を呈するのだろうか」などとして80点を付けています(注11)。
(注1)ジェリーは、そこに閉じこもっていてはダメだと言って、一緒に行動するように言いますが、その家族は恐怖心の余り動こうとはしません。結局は、ゾンビに襲われてゾンビとなって、ジェリーたちを追いかけることになってしまいます。
(注2)この事態を救う手段を見つけ出してくれるだろうと期待されていた若手研究者は、その段階であっさり(銃の暴発で)死んでしまいます。
(注3)予告編で描き出されますが、大量のゾンビが壁を昇るシーンは、イスラエルがこうした事態を見越して設置した壁での有様です。イスラエル側では、壁を設けたことで安心して、歌舞音曲をかき鳴らして浮かれていたところ、そうした音に敏感に反応するゾンビが大量に各地から集まってきて、アッという間に高い壁も乗り越えてしまい、イスラエルは大混乱に陥ってしまいます。
なお、劇場用パンフレット掲載の高橋諭治氏のエッセイ「ついに出現した、本格的なディザスター映画としてのゾンビ映画」では、「ゾンビの塔」とか「ゾンビの滝」と表現されています。
(注4)劇場用パンフレットには一切記載がありませんが、「IMDb」の「World War Z (2013)」の「cast」には「W.H.O.Doctor」として掲載されています。
(注5)上記「注3」の高橋氏のエッセイによれば、「21世紀型のゾンビ映画」におけるゾンビは、「かつての古典的なゾンビ」とは全く性質が違うようです。後者は、「プードゥーの呪い、宇宙からの怪光線、怪しげな化学物質などの影響によって墓場からむくむくと甦り、牧歌的なくらい動きがのっそりしていた」が、前者は「ウィルス感染者というれっきとした“生者”であり、一度死んで甦ったゾンビとは別物」だとされます。本作のゾンビも、この「21世紀型ゾンビ」の流れをくむようです。
おそらく、「古典的なゾンビ」の例としては、マイケル・ジャクソンのPV『スリラー』があげられるでしょう(更には、例えば、『処刑山 デッド・スノウ』に登場するナチス・ゾンビ!)。
そして、「21世紀型ゾンビ」を決定づけたのは、高橋氏によれば『28日後…』(2002年)とのことですが、クマネズミは見ておりません。
なお、日本においてはゾンビ映画はあまり制作されてはいないようですが、例えば、『東京ゾンビ』(2005年)や『山形スクリーム』(2009年)などが公開されているところ(クマネズミは見ておりません)、それらは「古典的なゾンビ」の流れに連なるものだと思われます。
(注6)上記「注3」の高橋氏のエッセイが表現するところによれば、本作においては、「ゾンビに噛まれ、ウィルスに冒された人々はわずか12秒で人間ではない怪物に豹変し、車のフロントガラスを突き破るほどの勢いで猪突猛進を繰り返」します。
(注7)例えば、イスラエルでは、スタジアムに集まってきた無数のゾンビに対して、空から大型爆弾を投下して一気に殺してしまおうとします。
(注8)上記「注3」の高橋氏のエッセイが表現するところによれば、本作のゾンビは、「“音”に鋭く反応し、異様な奇声を発」し、「獲物を見失う」と「いったん“休眠状態”に陥る」のです。でも、高橋氏のいうようには「怪物」とは見えない気がします。
なお、高橋氏のエッセイでは、本作において、「ゾンビが人間の生肉を貪り食うカニバリズム的な描写が一切盛り込まれていない。これは従来のゾンビ映画ではありえないこと」と述べられているところ、2002年の『28日後…』でもそうした表現はなされてはいないようです(同作のゾンビは、何も食べないで餓死してしまうようですから)。
(注9)Wikipediaの「狂犬病」の項によれば、狂犬病の場合、「発症すればほぼ確実に死亡する」とのこと。
(注10)凶暴性の増進や聴覚の異常な亢進とか、走る速度のアップ、それから致死性の病原体を持つ人間を瞬時に見分ける能力といった面を見ると、ゾンビになった人間の脳組織は、一部が異常に活性化されているものの、破壊されてはいないように思われるところです。
なお、致死性の病原体を持つ人間を瞬時に見分ける能力が本作のゾンビには設けられていることから、ジェリーがゾンビ化の拡大を食い止める手段を見つけ出すことにつながっていきます。
(注11)ラストの「私たちの戦いはまだ始まったばかりだ」とのナレーションに対応するのでしょうか?
★★★☆☆
象のロケット:ワールド・ウォーZ
この映画のゾンビは治療可能か、ということですが、WHOの研究者たちが、ゾンビは他の病原菌を注入しても発症しないと言ってます。
そしてゾンビたちは食事も排泄もしていないようです。
やはり、ゾンビウィルスに感染すると、生物としては死んで、ウィルスが肉体を動かしているだけでないでしょうか。
なお「28日後」は、感染した者の理性を失わせ、無制限の怒りで他人を殺すようになるウイルスの話です。
映画の中でも感染者と呼ばれて、ゾンビとは呼ばれていません。
なので「28日後」のあれはゾンビではない、と言うゾンビファンも多いです。
ただ、
イ)「この映画のゾンビは治療可能か」と拙エントリが議論いたしましたのは、本作に登場するゾンビが、「古典的なゾンビ」に比べて、余りにも通常の人間に近い存在として描き出されていることを強調するためでした。実際には、感染後12秒で発症するというのでは、とても「治療」は無理でしょう。
ロ)「ゾンビウィルスに感染すると、生物としては死んで、ウィルスが肉体を動かしている」と書いておられますが、本作のゾンビを見ると、死者が甦る「古典的なゾンビ」とまるで違っていて、生きている人間の能力がゾンビウィルスによって一部異常に昂進してしまっている状態のように思えるのですが?
なお、「WHOの研究者たちが、ゾンビは他の病原菌を注入しても発症しないと言って」いるとのことですが、そうであれば、どうして本作のゾンビは致死性の病原体保有者を忌避するのでしょうか?
また、確かに、本作ではゾンビの「食事や排泄」のことに触れられていませんが、そんなことをする暇もあらばこそ、感染後12秒で発症という瞬時の出来事が全世界で起こる様が描かれていて、その点から本作のゾンビが死者だとは簡単に判断できないように思えるところです。
ハ)「28日後...」については、Wikipediaの「ゾンビ映画の一覧」の項の冒頭に、「『死霊のはらわた』、『デモンズ』、『28日後...』などの、ゾンビ映画に近い要素を持つ作品であれば、記載の対象とする」とあるのに倣って、拙稿でも取り上げてみました(映画ライターの高橋諭治氏もそう取り扱っています)。
これは要するに、「ゾンビ」の定義の仕方によるのではないでしょうか?逆に、本作のように「人間の生肉を貪り食う」ことをしないようなゾンビは、いくら映画の中で「ゾンビ」といわれていてもゾンビではないという取扱いも、もしかしたら可能ではないでしょうか?
つまり、体内に入ったウィルスが宿主の健康や機能を阻害するほど増えるには、感染から発症までに一定の「潜伏期間」が必要です。
いくらすごいウィルスでも10数秒で発症することはあり得ませんが、初期症状が出て治療中にゾンビ化する方が怖いかもしれません。
咬まれてすぐにゾンビ化するのは、ゾンビ映画の「お約束」なので構いませんが。
貴重な情報をいただき、感謝申し上げます。
ウィルスの場合、発症までに一定の「潜伏期間」が必要ということであれば、ワクチンが開発されさえすれば、たとえゾンビウィルスに感染しても、狂犬病のように治療することができるようになるかもしれません!