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ライフ(2017)

2017年08月04日 | 洋画(17年)
 SFの『ライフ』を渋谷のシネパレスで見ました。

(1)予告編で見て面白そうだなと思って映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、星がたくさんある宇宙空間を小さなカプセル(注2:「ピルグリム7」)が飛行しています。沢山の隕石が飛んでいて、中には衝突するものも。

 次いで、「ピルグリム7計画/ISS 初日」の字幕。
 舞台は、地球上空の軌道にあるISS(国際宇宙ステーション)の中。
 検疫官としてISSに乗り込んでいるミランダ(イギリス:レベッカ・ファーガソン)が地球と交信しています。「こちらは、ミランダ・ノース。カプセルが火星から戻ってきます」「ピルグリムは損傷していて、軌道から離れています」「これからピルグリムを回収します」「作業はかなり危険です」。

 航空エンジニアのローリー(アメリカ:ライアン・レイノルズ)が船外活動を行って、ピルグリムを回収することに。
 ミランダや、医者のデビッド(アメリカ:ジェイク・ギレンホール)、システム・エンジニアのショウ(日本:真田広之)が集まって、ローリーの宇宙服着装を手伝ったりします。

 ショウは、司令官のキャット(ロシア:オルガ・ディホヴィチナヤ)のいるコントロール室に戻り、ピルグリムを回収できるようにISSの軌道の微調整を行い、ミランダは、デビッドや宇宙生物学者のヒュー(イギリス:アリヨン・バカレ)と一緒に、窓からローリーの船外活動を見守ります。

 すると、遠くの方からピルグリムが急接近してくるのが見えます。
 と思っている間もなく、衝撃がISS内に走ります。
 でも、ローリーから「カプセルを無事に回収した」「じゃあ、帰る」との連絡が。
 窓から、ISSから出ているアームの先にピルグリムが捕捉されているのが見えます。

 次いで、「ピルグリム7計画/ISS 2日目」の字幕。
 ヒューが、ISS内に設けられているラボのグローブボックスで、ピルグリムが持ち帰った土を分析しています。ピンセットで少量の土を掴み取っては、顕微鏡で調べます。
 そして、期待していた生命体(life)が見つかります。
 ヒューは、「地球の生物と同じだ」「細胞壁や核がある」「べん毛に近いものも」と言います。

 さらに、培養器の温度を、それまでのマイナス110℃からプラス20℃に上げてみますが、格別の反応はありません。
 そこで、原生代の環境にしようと、酸素を減らし炭酸ガスを増やしてみると、しばらくして動き出します。
 ヒューは、「初の地球外生命体を確認した」「素晴らしい!」と大興奮です。

 この情報は早速地上にもたらされ、子供からの質問が受け付けられます。
 「地球に連れてくるの?」という質問に対しては、ローリーが「ここで研究する」と答え、また「トイレはどうするの?」という質問に対しては、ショウがチューブを示しながら、「地球と同じだよ」と答えます。
 さらに、タイムズスクエア前での儀式において、この地球外生命体に対して、小学生が、自身の通っている学校名にちなんで「カルビン(Calvin)」と命名します。

 こんなところが、本作の初めの方ですが、さあ、ここからどのように物語は展開するのでしょう、………?

 本作は、無人探査機が火星から持ち帰った土の中にいた地球外生命体が次第に凶暴性を発揮して、国際宇宙ステーションに乗り込んでいた宇宙飛行士に次々に襲いかかって、云々というお話です。こういうSFはこれまでもよく見かけますが、本作からは荒唐無稽な印象は受け取れず、むしろ近未来的に十分にありうるのではと思わせる大層リアルな作りになっています。その意味でSFホラーとされているのもよくわかります。

(2)小惑星探査機はやぶさが小惑星イトカワから微粒子を地球に持って帰ることに成功したことや(2010年)、火星衛星サンプルリターン計画(注3:MMX)が日本で検討されていることもあって、本作で描かれていることは、とてもリアルに受け止めることが出来ます。

 また、本作で描かれるISS内の無重力の状況は、TVニュースなどで見る宇宙船内の状況に酷似していることも、本作のリアルさを増幅させていますし(注4)、ISSの窓の外に見る地球とか宇宙の光景も、今の時点を感じさせるものがあります。



 さらには、本作で描かれる宇宙飛行士のクルーですが、女性が2名入っているだけでなく(それも、一人は司令官ですし、もう一人は、本作で重要な役割を演じる検疫官なのです)、アメリカ以外の国(イギリス、日本、ロシア)が参加していることも、まさに現代を表しているでしょう。

 ただ、カルビンが、顕微鏡で捉えることが出来る小ささのうちはかまわないものの、それが短い期間のうちに大きくなって、次第に凶暴性を帯びてくるようになると、本作のリアルな雰囲気から怖さを感じるとはいえ、これまでのSF作品とあまり変わらないように思えてきてしまいます。

 一つは、その形態ですが、『メッセージ』に登場する異星人(ヘプタポッドと呼ばれています)の小型版のような印象を受けます(注5)。

 そして、宇宙飛行士を次々に倒すに至ると(注6)、カルビンも、これまで描かれてきた人類に敵対する異星人という相も変わらないキャラクターに見えてきてしまいます。

 それに、カルビンは真空の宇宙空間で生きることが出来るのでしょうか(注7)?宇宙空間でそのまま活動できるほど強靭な生物ならば、どうして、火星で環境が変わった時に土地の中に入って冬眠に入ってしまったのでしょうか(注8)?

 また、検疫官のミランダは、カルビンが地球に侵入しないようにと様々な手を尽くしますが、本作で描かれているのは1匹限りであり、仮に侵入したとしても繁殖できないでしょうから(注9)、それほど脅威にならないようにも思えるのですが(注10)?

 とは言え、それらのことはともかく、デビッドやショウには、特別な性格付けがされていて興味深いものがあり(注11)、特に真田広之はショウを随分と巧みに演じているように思いました(注12)。

(3)渡まち子氏は、「やはり本家の「エイリアン」は偉大なSF作品だったのだと改めて感じさせてくれる1本に仕上がっている」として55点を付けています。



(注1)監督は『デンジャラス・ラン』のダニエル・エスピノーサ
 脚本はレット・リースとポール・ワーニック。

 なお、出演者の内、最近では、ジェイク・ギレンホールは『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』、レベッカ・ファーガソンは『マダム・フローレンス!夢見るふたり』、ライアン・レイノルズは『黄金のアデーレ 名画の帰還』、真田広之は『レイルウェイ 運命の旅路』で、それぞれ見ています。

(注2)無人探査機で、火星で採取した土を持って地球に戻るところです。

(注3)この記事によれば、JAXAなどが2015年に検討を開始した計画であり、「火星の衛星(フォボスまたはデイモス)からサンプルを持ち帰るもの」であり、「持ち帰られたサンプルの分析により、火星の衛星の成り立ちや、火星そのものの物質などの解明(火星の衛星の表面には、火星からの物質が付着しているとも考えられています)などが期待されてい」て、「2020年代前半の打ち上げを目指してい」るとされています。

(注4)劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、「『ライフ』では『ゼロ・グラビティ』のさらに上をいくことができた」と、『ゼロ・グラビティ』にも携わったことがあるスタントコーディネーターのマーク・ヘンソンが言っているとのこと。

(注5)ただし、『メッセージ』のヘプタポッドは7本足とされていてタコのようですが、本作のカルビンはむしろヒトデのような感じです。

(注6)例えば、カルビンは、まずグローブボックスのグローブに絡みついて、ヒューの手首を破壊してしまいます(後で、ヒューの体内に侵入していることがわかります)。
 次いで、カルビンがグローブボックスからラボに脱出したので、ローリーがラボに入って焼却器の火炎を浴びせて焼き殺そうとしたところ、逆にカルビンは、ローリーの口からその体内に侵入して彼を殺してしまいます。

(注7)司令官のキャットが、故障した通信機器を修繕するために宇宙服を装着して船外に出たところ、通信機器内の冷却材を食べ尽くしたカルビンが取り付くのです(結果として、キャットは死ぬことになります)。劇場用パンフレット掲載の「STORY」の「カルビン成長の記録」の「STAGE3」には、「短い時間であれば、カルビンは真空・低温の宇宙空間での活動が可能だった」と記載されていますが、それは随分とご都合主義的な解釈ではないでしょうか?

(注8)ヒューの説明によれば、「数億年前に火星を支配していた生物で、環境の変化で冬眠に入った」とのこと。

(注9)劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、監督のエスピノーサ氏は、「粘菌独特の細胞構造がインスピレーションの元となった」と述べています。ただ、本作のカルビンは、沢山の胞子を含む袋状の「子実体」を持っておらず(粘菌についてのWikipediaの記事によります)、粘菌の変形体だけをモデルにして描かれているように思えます。これだと、カルビンは単体では繁殖出来ないのではないでしょうか?

(注10)ただし、ピルグリム7は、ある程度の量の火星の土を採取してきましたから、その中には複数のカルビンが生息していて、それらも地球に侵入すれば、繁殖する可能性はあるかもしれません。
 また、地球に侵入したカルビンは、たとえ1匹でも、地球にある酸素や炭酸ガス、それに水を摂取することによって異常に増殖することも考えられます。その場合には、もしかしたらゴジラの来襲といった事態になるかもしれません。

(注11)デビッドは、すでに473日間もISSに滞在していて、「宇宙生活が長すぎる。受けている放射線量も多くなっている」と言うキャット司令官に対し、「地上での争いに耐えられない。地球よりISSの空気が好きだ」と応じます。ラストの方では、ミランダに対し、「80億人のバカが居る地球には戻りたくない」とも言います。



 また、ショウは、真面目な技師の風情で、クルーで一番のベテランながら、妻カズミ森尚子)の出産にディスプレイを通じて立ち会います。生まれた赤ん坊の様子を皆に見せると、仲間から「誰が父親かわかんないぞ」などと冗談を言われてしまいます。



(注12)ミランダを演じたレベッカ・ファーガソンは、劇場用パンフレット掲載のインタービュー記事の中で「とにかくすごい俳優よ。存在感がものすごく強いわね」「彼の場合はオーラのようなものを感じるの」などと述べています。



★★★☆☆☆



象のロケット:ライフ