映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ファウンダー

2017年08月11日 | 洋画(17年)
 『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)予告編を見て面白そうだと思い映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、「真実に基づく物語」(Based on a true story)との字幕。
 時代は1954年。場所は、ミズーリ-州セントルイス。
 いきなり、本作の主人公のレイ・クロック(注2:マイケル・キートン)がカメラに向かって喋り出します(注3)。
 「あなたが何を考えているのかわかります。1本軸のミキサーを使っても売れないミルクセーキなのに、どうして5本軸のマルチミキサーなんて必要なんだ、とね。でもそれは間違っています。マルチミキサーを持っていないから、ミルクセーキが売れないのですよ」「プリンス・キャッスル社のマルチミキサーがあれば、素早くミルクセーキを作れます」「供給を増やせば、需要が付いてきます」「鶏が先か卵が先か、私の議論がわかります?」。
 レイが喋っていた相手は、Griffithという名のドライブイン・レストランのオーナー。
 レイが「さあ、どうします?」と促すと、オーナーは「結構だ」と言って引っ込んでしまいます。
 仕方なくレイは、重いマルチミキサーを担いで車に戻り、それをトランクにしまい込んで、運転席に座り、手帳をチェックして次のアポイントの場所に向かいます。

 次は、イリノイ州ベルビルにあるドライブイン・レストラン。
 オーナーに前と同じような説明をしますが、受け入れてもらえません。
 頭にきながらも、ついでに注文した料理が来るのを車の中で待ちます。ですが、なかなか来ない上に、ウエイトレスが持ってきたのは注文と違う料理。

 ホテルに入って、レイは「あちこちから引き合いが来ている」「信じてないな。まあ良い。明日また電話する」と、妻のエセルローラ・ダーン)に話します。
 からわらにあるレコードプレーヤーからは、ノーマン・ヴィンセント・ピールの「The Power of the Positive」の声(注4)が流れています。

 依然としてマルチミキサーは売れなかったところ、突然、会社のジューンケイティー・ニーランド)から、「6台の注文が入った」との連絡がレイの元に入ります。
 それで、レイが注文主に電話を入れると、「6台は間違いで、実際は8台欲しい」とのこと。
 半信半疑のレイは、どんな店が一度にそんなたくさんの注文をするのか自分で確かめてみようと、注文主のレストランがあるカリフォルニア州のサンバーナディーノに向かいます。

 レイは、「マクドナルド」という看板を掲げたドライブイン・レストランに到着し、他の店とは全く違った光景を車の中から見て呆気にとられています。
 そして、人々が店の前に行列を作っているので、レイも一緒に並ぶと、そばの女性が「すぐに進むわ」とレイに向かって言います。
 レイは、他の人と同じように「ハンバーガーとフライドポテト(french fries)とコカ・コーラ」を注文したところ、すぐに出来上がって「35セントです」と言われます。その速さに驚きながら、慣れていないレイは、「ナイフやフォークとか皿は?」「どこで食べたら良い?」と聞いてしまいます。すると、「包みから取り出して、そのまま食べます」「車の中とか自宅でも、お好きなところで」との答え。



 こうして、レイはマクドナルド兄弟に出会うことになりますが、さあここから物語はどのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、世界最大のファーストフードチェーンを作り上げた実在の男レイ・クロックの半生を描いた作品。実際に、革新的なファーストフード店を創ったのはマクドナルド兄弟ながら、それを世界的な規模にまで拡大したのはレイ。レイが、どこまでも堅実にやっていこうとする兄弟と厳しく対立しつつも、ついにハンバーガー帝国を築きあげていくプロセスは、マクドナルドをほとんど利用しないクマネズミですが、まさにアメリカン・ドリームなのだなと、実に面白く感じました。

(2)マックジョン・キャロル・リンチ)とディックニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟は、サンバーナディーノのレストランで、画期的に斬新で効率的なやり方でハンバーガーを客に提供していて、それに驚き感銘を受けたレイは、このシステムをフランチャイズ化して全米に拡大すれば大儲けできると閃きます。



 でも、簡単にはそちらの方向に進まず、色々紆余曲折があり、最終的には、ハリーB.J.ノヴァク)の意見を取り入れて(注5)、不動産を自分で所有するというビジネスモデルを打ち立てて(注6)、レイの会社は大きく飛躍することになります。



 本作では、こうした経緯が実に巧みに描かれていて、まさにアメリカン・ドリームの実現なんだなと納得できます。
 特に、レイは、マルチミキサーをレストラン経営者に売り込む際と同じように、マクドナルドのフランチャイジーになるよう人々に熱心に話を行いながらも、他方で、ついにはその厨房システムを創案したマクドナルド兄弟を経営から追い出してしまうのですが、こうしたレイを演じているマイケル・キートンは、まさにうってつけといえるでしょう。

 ただ、映画を見てよくわからなかったのは、原材料の調達とか、ハンバーグなどの食材の供給に(注7)、レイがどのように関わってきたのかという点です。というのも、これらの点は、マクドナルド兄弟が開発した厨房システムと並んで、効率よく低価格で商品を提供するために重要な点だと思えるからですが(注8)。

 さらに言うと、本作では、最近の映画の傾向とは違って、女性が活躍する場面があまりありません。
 主に登場する女性は、レイの最初の妻・エセル、レイの会社にいるジューン、それに3番目の妻・ジョアンリンダ・カーデリーニ)の3人。
 そのうち、ジューンは、レイとの連絡係に過ぎない感じですし(注9)、またレイとエセルとの関係はうまくいっていません。
 レイは、セールスマンとして全米を飛び歩いていて余り家に戻らず、妻のエセルにはそれが酷く不満で、「2人で散歩したりする生活がしたい」と言ったりします(注10)。逆に、野心家のレイにとっては、妻の内向きで消極的な性格が次第に耐えられなくなって、唐突に離婚話を切り出します。



 これに対し、ジョアンは、最初、レストラン経営者のロリーパトリック・ウィルソン)の妻としてレイと出会いますが、レイは一目惚れしてしまい、一緒にピアノを弾いて歌を歌ってしまうほどです(注11)。それでも、本作における出番はそれほど多いものではありません。
 すなわち、ジョアンは、その後2回ほど本作に登場します。最初は、マクドナルド店で働いていると、偶然店舗の見回りにやって来たレイと再会します(注12)。次は、本作のラストの方で、ビバリーヒルズにある豪勢な邸宅の部屋に設けられている鏡の前で挨拶の練習をする背後から、妻として現れます。

 ただ、どうしてレイは、1961年にエセルと離婚した後すぐにジョアンと再婚せずに別の女性と結婚しながらも、それが5年ほど続いた後、その女性と別れてジョアンと結婚するに至るのか(注13)、という点がクマネズミには不思議で、そこにはいろいろ想像力の働く余地があるのではないかと思えました。
 加えて、エセルとの間にはマリリンという娘がいたものの、本作には全く登場しません(注14)。

 こんなところから、レイの女性を巡る話にもう少し焦点を当ててみたら、本作はより一層面白くなったのでは、という気もしてきます。
 でも、余りいろいろな事柄を1本の映画の中に詰め込みすぎると、焦点がボケてしまいかねませんが。

(3)渡まち子氏は、「これがアメリカン・ドリーム、これが資本主義といわんばかりの辛辣な創業秘話に、思わずシェイクを飲む気持ちも萎えてしまいそうだ」などとして75点を付けています。
 前田有一氏は、「アメリカ社会、アメリカンドリーム、新自由主義、格差社会、そして未来について。「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」は、そうしたさまざまな事に思いを至らす社会派ドラマの傑作である」として85点を付けています。
 藤原帰一氏は、「アメリカの持つその天使と悪魔の二重性を、マイケル・キートンという善悪の彼岸にある俳優が文字通り体現した作品。アメリカを考える手がかりとして、ぜひご覧ください」と述べています。
 稲垣都々世氏は、「「創業者」という題名には皮肉も込められているようだが、反発と共感を混ぜるのがこの映画の味。ハンバーガー同様スピード感あふれるムダのない作りは口当たりがいいが、後味は油っぽい」と述べています。



(注1)監督は『ウォルト・ディズニーの約束』や『しあわせの隠れ場所』のジョン・リー・ハンコック
 脚本はロバート・シーゲル
 原題は「The Founder」。

 なお、出演者の内、最近では、マイケル・キートンは『スポットライト 世紀のスクープ』、ローラ・ダーンは『わたしに会うまでの1600キロ』、パトリック・ウィルソンは『ヤング≒アダルト』、B.J.ノヴァクは『ウォルト・ディズニーの約束』で、それぞれ見ました。

(注2)レイは、シカゴにプリンス・キャッスル社を立ち上げ、全国を股にかけてマルチミキサー(シェイク用のアイスクリームを作るミキサー)の販売を行っているセールスマン(52歳)。

(注3)実は、観客席側に、レイが話す相手(レイが、自分のマルチミキサーを売りたい相手)がいるのです。

(注4)「世の中に根気(persistence)にまさるものはない」「才能(talent)があっても成功しない者はゴロゴロいる」「根気と決断力(determination)があれば、鬼に金棒だ」「結果は必ずついてくる」「未来を拓くのは君だ」「人生は心の持ち方で変わるのだ」。

(注5)レイは、銀行の外で出会ったばかりのハリーに、出店のことについて、「フランチャイジーが土地を見つけてきて、彼が土地の所有者とリース契約(普通は20年の)を結び、そして彼が自分で店舗を建てる」と説明します。これに対し、ハリーは「そこには大きな問題があります」「あなたはハンバーガー・ビジネスをやるのではなく、不動産(real-estate)ビジネスをやるのです」「15セントのハンバーガーの1.4%の儲けでは帝国は築けません」「土地を所有することで帝国を築くのです」「まず土地を購入し、その土地をあなたがフランチャイジーにリースするのです」「それで確実な収入があなたに入ってきます」「その収入で更に土地を購入できます」「品質を保てないフランチャイジーについてはリースを打ち切れば済みます」などと言います。

(注6)ここらあたりのことは、この記事に書いてあるようなことではないかと思います。
 すなわち、「(ハリーは、)最初に土地を購入する資金を銀行に融資をしてもらえば、担保はその土地をあてがえばよいのだから、実質必要なくなる、というコペルニクス的発想の転換を提案」したが、「このアイデアの画期的なポイントは、その土地にレイ・クロック自身がマクドナルドを建設し、フランチャイジーにリースしろ」と言った点だ、とその記事は述べています。
 これが、Wikipediaのこの記事で述べられている「ほとんどのマクドナルド店舗は、店舗の不動産をマクドナルドコーポレーションが所有する。フランチャイズ会社は売り上げの一部を賃貸料としてマクドナルドコーポレーションに支払う」ということの意味合いなのでしょう。
 ただ、劇場用パンフレット掲載の「『ファウンダー』を知るための豆知識」の「ハリー・ソナボーン」の項には、「まずマクドナルド本社が出店場所を選定し、土地所有者と契約して店舗を建築した上で、加盟者に売上に応じた賃料で貸し付けるというビジネスモデル」とあり、これであれば、土地自体を購入せずに、利用権(借地権)を購入しただけではないかとも思えます。
 ですが、こうした理解の仕方は日本的なものかもしれません〔補注1〕。というのも、アメリカにおいては、日本と違って、土地と建物とは一体と考えられているようですから(例えばこの記事)。

(注7)例えば、Wikipediaの記事によれば、「マクドナルドのハンバーグや芋(ポテト)はセントラルキッチンと称する集中調理工場施設より成型済みで搬入され、厨房では焼いたり揚げたりするだけで細かい調理の必要がない」とのこと。

(注8)加えて言えば、品質を保てない店舗に対しては食材等の供給をストップするという措置を採れることによっても、フランチャイジーを本社がコントロールできるでしょう。
 なお、本作で原料や食材の供給面に触れられるのは、アイスクリームの冷凍代が嵩む問題を解決するために「インスタミックス」(クリーミングパウダー)がマクドナルドの店舗に導入されたことくらいでしょうか(ただ、これも、ある時に元に戻されます)。

(注9)ただし、劇場用パンフレット掲載の「年表」の1948年(46歳)のところに、「ジューン・マルティーノがビジネスパートナーになる」との記載があり、こちらの記事によれば、彼女は、最初は「bookkeeper」だったものの、最後には共同経営者的存在となったようです。

(注10)レイが久しぶりに家に戻って、妻のエセルに、「凄いレストランが見つかった」「ヘンリー・フォードが考えそうなシステムなんだ」「まさに革命的だ」と興奮して話すと、エセルは「また始まった」「すぐに新しいものに飛びつくんだから」「ここは、あなたはいないけど良い家」「もっと一緒に散歩したい」「もう良い年じゃない?」と応じますが、レイは「多分、一生そんなことはしない」「どうして引き止めるんだ」と嫌な顔をします。

(注11)上記「注9」で触れた劇場用パンフレット掲載の「年表」の1921年(19歳)のところに、「夜はアルバイトでピアノを弾いていた」とあります(この記事の「Birth of Ray」の章には「He took to the piano naturally, and so while still in his formative years, he learnt to play from his mother」と述べられています)。

(注12)ジョアンはレイと会った際に、上記「注8」で触れている「インスタミックス」を使ってみたらどうかと提案します(「うちの店で使ってみて、よければ全米で使ってみたら?」)。

(注13)上記「注11」で触れたこの記事の「New Horizons」の章によれば、レイとジョアンは、1957年頃出会っているようです。彼女は、ミネソタ州セント・ポール市にあるナイトクラブでオルガン奏者として働いていたところ〔補注2〕、レイはジョアンに一目惚れし、彼女の方も彼を好きになりました。でも、彼は結婚していましたし、彼女も海軍の退役軍人と結婚していたために、一緒になることは出来ませんでした。
 ジョアンは、レイが再婚したのを耳にした時、レイに電話を入れて「幸せ?」と尋ねたところ、レイは「そうだ」と答えましたが、そして、その後5年間2人は会いませんでしたが、2人の恋愛感情はずっと継続し、ついにそれぞれの結婚相手と分かれて、1969年に結婚することになります。

(注14)例えば、この記事を見ると、マリリンは1924年生まれですから、本作に主人公のレイが登場する1954年には既に30歳になっていて、結婚していて家を離れていた可能性があり、登場せずともかまわないのでしょう。
 でも、両親の離婚については、必ずや何らかの意見があったことでしょうし、また、幼い頃は、家に余りいない父親に対して、随分と反抗的な態度をとったのかもしれず(全くの想像に過ぎません)、仮にそうであれば、物語の中に取り入れやすいのでは、とも思えるところです。
 なお、同記事によれば、マリリンは2度結婚し、48歳で亡くなっています。

〔補注1〕この記事で知ったこの記事によれば、「日本マクドナルドホールディングスは店舗不動産の大量保有に乗り出す。現在は賃借が大半だが、数年かけて新店と既存店を合わせ200~300カ所の土地・建物を取得する。同社は業績は好調だが、米国本社など世界各国のマクドナルドに比べると日本の賃料負担が重いため、利益率は低い。地価が下落している郊外の店舗を自社物件に切り替えることでコスト削減を進める」とのこと。ただ、現在時点では、状況はどうなっているのでしょうか?

〔補注2〕ただし、劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事の中で、ハンコック監督は、「ジョアン・スミスは、レイと会った時、夫のステーキハウスで演奏したことは分かっている」と述べているのですが。



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象のロケット:ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ