映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

キセキ

2017年02月09日 | 邦画(17年)
 『キセキ―あの日のソビト―』を渋谷TOEIで見ました。

(1)松坂桃李菅田将暉が出演するというので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、ライブハウスでメタルバンドの「ハイスピード」が情熱を込めて演奏しています。ボーカルのジン松坂桃李)が激しく歌い、観客が熱狂。

 次の場面はジンの自宅。
 ジンの音楽活動をまったく認めない父親・誠一(病院に勤務する医師:小林薫)が怒って、「よく考えて行動しろ」と正座するジンを殴りつけると、ジンは「はい」と答え、誠一は「もういい」とそっぽを向きます。
 母親・珠美麻生祐未)がとりなそうとしますが、ジンは「もういいよ」とその場を離れます。



 ジンが部屋に戻ると、弟のヒデ菅田将暉)が、ヘッドフォンを耳にしながら受験勉強をしています。ヒデが「兄ちゃん、また?大丈夫?」と尋ねるのには答えず、ジンは、窓を開け放ってタバコを吸います。

 次いで、入学試験の試験会場の光景(ヒデが混じっています)が映し出された後、ヒデの姉・ふみ早織)が、買ったものを手に下げながら街中を歩き、「今晩は」と言いながら実家に入っていきます。
 母親の珠美が「ご苦労さま」と言うと、ふみは「途中の階段がきつい」とこぼしますが、珠美は「体が温まっていいでしょ」と受け流します。
 ふみが「どうだったの?」と尋ねると珠美は「受かっているでしょ」と答えますが、そこに現れたヒデは「落ちた」と言います。

 夕食は、姉・ふみが買ってきた材料ですき焼き。ジンを除いた家族が揃っています。
 母親・珠美が「絶対受かると思ってた」と言い、姉は「来年もあるから」と応じ、さらに珠美は「不思議よね。大学落ちても、やっぱ肉は美味しい」と言いながら、「ジン、遅いわね」と付け加えます。
 その頃、ジンは、ライブハウスの控室にいて、バンド仲間のトシオ奥野瑛太)から「メシ行かないか?」と誘われると、「全然平気」と応じます。

 こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、これからどのように物語は展開するのでしょうか、………?

 本作は、若者に大人気の音楽グループ「GReeeeN」が生まれ大ヒットを飛ばすまでの経緯を描く音楽物。実際のメンバー等は歯科医だったりするため顔などを一切公開していませんが、それを若い俳優たちがなりきって熱演しています(注2)。劇映画仕立てになっていますから事実そのままではないのでしょうが、本作の中で歌われる歌がよくできていることもあって、まずまず面白く見ることができました。

(2)本作は、「GReeeeN」の「キセキ」(注3)が誕生するまでの経緯を、ジンとヒデの兄弟を中心にして描いています。



 それを今が旬の松坂桃李と菅田将暉が熱演していて、特に、父親・誠一役の小林薫から殴られたり、ヘビメタの曲を2つも歌ったりする松坂桃李には圧倒されます。
 そればかりか、本作では、ヒデとHMV店の店員・理香忽那汐里)とのラブ・ストーリーもチキンと描かれています(注4)。



 とは言え、よくわからないところもあります。
 例えば(以下は、実際を良く知らないクマネズミの極端な偏見に基づくものです。悪しからず)、
・音楽にどっぷり漬かるジンを全く認めない父親・誠一が、怒って床の間にあった刀を掴み、鞘を抜いてジンに切りつけようとしますが、今時そんなことがあるのか、と引いた感じになってしまいます(注5)。
 尤も、公式サイトや劇場用パンフレットには「本当にあったキセキの物語」とか「Based on A True Story」とかあるので、もしかしたらそうだったのかもしれませんが。

・ヒデはよくCDショップに出向きます。しかしながら、今時の若者だったら、一般的にはネット配信を利用するのではないでしょうか(注6)?
 本作におけるCDショップは、ヒデと理香との出会いの場所としてとても重要な場所ながら、それにしてもいつも人が入っているなという感じです(注7)。

・誠一が病院で担当している少女・結衣(拡張型心筋症に罹っています:平祐奈)は、手術を不安に思っていたところ、「GReeeeN」の曲を聞いて勇気をもらい、「GReeeeNに会えて前向きに慣れた」と書いたメールがラジオの番組で紹介されます(注8)。
 そこまでは十分にありえるでしょう。でも、そのラジオ番組をヒデが耳にするというのは、起こりうるのでしょうか?ラジオ番組は、若者の間でどの程度聞かれているのでしょう?

・レコード会社ディレクター・売野野間口徹)は、ジンらのバンド「ハイスピード」をライブハウスで実際に聞いて、メジャーデビューに持っていこうとするものの、彼らの演奏する音楽に対しては徹底的にダメ出しをします。
 その際に、売野が「子供のお遊びではない」「プロとアマの違いはリズム感。その歌い方では全然ダメ」などと言うのはわかります。ですが、「サウンドをポップにしないと、メジャーじゃ通用しない」などと言って、曲の抜本的な作り直しを求めるのはどうなのでしょう?
 売野は、「ハイスピード」がメタルバンドであることを十分に承知の上でメジャーデビューさせようとしているわけで、「今時メタルは売れないよ」と言うくらいなら、はじめからスカウトしなければよかったのではと思えてしまいます。

 総じて、本作に盛り込まれるエピソードからは、幾分古めかしい雰囲気が漂ってきます。
 でもまあ、こうしたことがすべて起こったのだから本作のタイトルが「キセキ」になっているのかもしれず、だとしたら、こんなつまらないことをいくら挙げても何の意味もありません。
 ともかく、本作はまずもって音楽物なのだと受け止めて、流される様々な曲に堪能できたのなら、それで良しとすべきなのでしょう。

(3)渡まち子氏は、「映画としては少し盛り上がりに欠ける印象も。それでもすべてを乗り越えて音楽の道へと進むと決めた彼らの凛とした表情が映り、名曲「キセキ」が流れる時、改めて、この曲の素晴らしさが伝わってくる」として60点を付けています。



(注1)監督は兼重淳
 脚本は、『娚の一生』などの斉藤ひろし
 なお、サブタイトルにある「ソビト」とは、劇場用パンフレット掲載の「GReeeeN’s Secret」には、「素人、空人、自由にチャレンジする気持ちを指します」とあります。そして、「GReeeeN」が作った歌「ソビト」が本作の主題歌になっています。でもサブタイトルにある“あの日”とはどの日なのでしょう?

 また、出演者の内、最近では、松坂桃李は『湯を沸かすほどの熱い愛』、菅田将暉は『セトウツミ』、忽那汐里は『女が眠る時』、麻生祐未は『疾風ロンド』、小林薫野間口徹は『海賊とよばれた男』、奥野瑛太は『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』、早織は『百円の恋』で、それぞれ見ました。

(注2)「GReeeeN」のメンバーは、ヒデ(菅田将暉)の他にはnavi横浜流星)、92成田凌)、SOH杉野遥亮)。加えて、プロデュサーとしてのジン(松坂桃李)がいます。
「GReeeeN」についてより詳しくは、例えばこちらで。

(注3)歌はこちらで。

(注4)学業と音楽活動の両立に行き詰まってしまったヒデが理香に、「GReeeeNの活動をいったん止める」と言うと、理香から「何がしたいの?お父さんのために生きているの?」と言われたり、ジンにも「お前には才能がある」「続けたくても続けられないやつもいる」と言われたりして、ジンは大いに悩むのですが、こんなところは、先日見た『本能寺ホテル』における繭子綾瀬はるか)が、自分は一体何がしたいのかわからなくて悩むシーンを思い起こさせます。

(注5)今時の家(一戸建ての場合でも)に、果たして、掛け軸の掛かった床の間が設けられているのか、ましてそこに刀が飾られているなんて、と思ってしまいます。あるいは「模造刀」かもしれませんが、それにしても。
 加えて、メスを持って外科手術を行う医師が、手術室以外の場所で簡単に刃物を手にするのかいささか疑問にも思えます(それに、この瞬間湯沸かし器のような人物は、外科に向いているのでしょうか?)。

(注6)まして、ヒデは、今ではそれほど注目されない「海援隊」のCDを買おうというのですから。
 尤も、このブログの管理者は「歯科研修医」で、「私は「海援隊」が好きだ 「好き」と言うのは何となく悔しいけれど やっぱり、好きだ」と書き、「海援隊勝手にベスト10」を挙げています(GReeeeN関係者でしょうか?)。あるいは、「海援隊」を支持する底流が存在するのかもしれません。

(注7)HMVは、このサイトを見ると、依然として全国展開しています。
 ただ、渋谷の旗艦店は、「音楽のインターネット配信が普及する中で経営が悪化し、平成22年の8月に閉店」しています(この記事:ただ、同記事によれば、27年に別の場所でリニューアルオープンしていますが)。

(注8)厳しい症状の出た結衣が病院に運び込まれると、誠一は心配する母親に、「これから手術をします。最善を尽くします」と言います。ただ、このシーンは、本作の時系列で見ると、GReeeeNのCDデビューの前のこととされています。
 そうであれば、手術を受けるのが怖くて逃げていた結衣が、GReeeeNの曲をラジオで聞いて手術を受ける気になったという流れではなく、単に、GReeeeNの曲を耳にしてこれからは前向きに生きていこうと思った、というエピソードになってしまいます(あるいは、結衣には、モット大掛かりな手術がこれから待ち受けているのかもしれませんが)。



★★★☆☆☆



象のロケット:キセキ―あの日のソビト―