映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ベイマックス

2015年01月16日 | 洋画(15年)
 『ベイマックス』(2D日本語吹替版)をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)ディズニーのアニメながら、評判がいいので映画館に行ってきました。
 平日の昼間でしたが冬休み中ということで、映画館は子供たちで満席状態でした。

 本作(注1)の初めでは、都市の上空からだんだんに視点が下がっていって、場面はロボット・ファイトが行われている場所に。
 主人公のヒロが現れ「僕もやっていい?自分で作ったロボットがある」と言って、二体持ってきたロボットの一体を戦わせるものの、簡単に首を切られてしまいます。



 会場の男に「帰りな」と告げられますが、ヒロは、「お金もあるし、もう一体のロボットがある」と言って、そのロボットを戦わせます。
 すると、ヒロの作ったロボットが勝ってしまい、ヒロはお金を受け取ったところ、会場の男は「こんなのはまぐれだ、思い知らせてやりな」と仲間に言います。
 その時、ヒロの兄のタダシがオートバイに乗って現れ、窮地のヒロを救い出してくれます。
 タダシは、「高校を13歳で卒業しながら、やっているのがこれか」と嘆き、ヒロを大学の研究室に連れて行きます。
 そして、タダシが開発しているロボットのベイマックスをヒロは目にすることになります。
 この後、ヒロは、タダシに代わって、ベイマックスとともに大活躍することになりますが、………?

 本作は、主人公の少年の名前がヒロ・ハマダだったり、舞台がサンフランシスコと東京とを合わせたような都市(サンフランソウキョウ)だったりと、ずいぶん日本風味が加えられています(注2)。



 と言っても、話自体が日本風というわけでもなく、よくあるような展開であり(家族愛や仲間愛といったものに従った)、またよくみかけるメッセージ(命が大切など)がたっぷりといった按配で、映像は素晴らしいとはいえ、ストーリーは予告編から期待したほどではありませんでした。

(以下、色々とネタバレしますので注意してください)

(2)確かに、本作で描き出されるベイマックスは大層愛くるしいロボットです。
 その頭部は鈴を模してある(注3)など、どの部分も曲線で描かれ丸っこくフワフワとした感じで、誰もが触ってみたくなってしまいます。
 特に、人の心と体を守るために作られたケア・ロボットだと言うのですからなおさらです。

 ただ、本作は子供たちが愉しむアニメですからことさら言うほどではありませんが、例えば次のような点が気になりました。

a.本作では家族愛の方に重点が置かれ、恋愛の要素が見られません。
 ヒロが14歳という設定からでしょうが、本作に母親代わりのキャスという女性が登場するものの、恋愛関係になる女性は登場しません。
 描かれるのは、専ら、ヒロとその兄タダシとの兄弟関係とか、キャラハン教授とその娘との父娘関係といった家族関係だけなのです。
 これは、最近見た『インターステラー』でも感じたところです(注4)。

b.ヒロやキャラハン教授の激しい怒りは妥当なものでしょうか?
 ヒロは、兄タダシを死に至らしめたのはマスクを付けたミスター・カブキだとして復讐しようとします。確かに、ミスター・カブキが引き起こした大爆発に巻き込まれてタダシは死ぬわけながら、それはタダシがキャラハン教授を助けようとしたために起きた偶発的な出来事とも言えるのではないでしょうか(少なくとも、ミスター・カブキがタダシを直接的・意図的に殺してしまったのではないように思われます)?

 また、キャラハン教授の娘にしても、クレイテック社のオーナーのクレイが意図的に行方不明にしてしまったのではないように思います。彼女が行方不明になったのは、単に、制御盤の不調を完全に治さないままに急いで瞬間移動装置のスイッチを入れてしまったことが原因であり、クレイはことさら彼女を消してしまおうとしたわけではないものと思います。クレイの責任は無視できないとしても、あれほどキャラハン教授が復讐心に燃えるのはよく理解できないところです。

c.マイクロボットを制御する装置(頭につける神経トランスミッター)について、ヒロは簡単にその複製をこしらえることができるのではないでしょうか(注5)?
 ミスター・カブキが操る大量のマイクロボットは、元々、ヒロが工科大学に入学するために発明したものであり、その制御の仕組みは知り尽くしているはずです(ヒロの手元に残されたマイクロボットの反応によって、それが大量に製造されている倉庫に辿り着けるのですから、新しく作り出されたマイクロボットではないはずですし)。
 特にヒロは、ワサビとかフレッドらのタダシの仲間に、様々の戦闘用スーツを簡単に発明するのですから、この神経トランスミッターをもう一つ作り出すことくらい朝飯前ではないでしょうか?
 そして、それさえあれば、あれほど一方的にミスター・カブキに攻撃されることもなかったと思えるのですが?

d.なんだか他の映画の類似のシーンをいろいろ思い出してしまいます。
 例えば、ミスター・カブキは、映画『ダークナイト』に登場するジョーカーを彷彿とさせますし、また、ヒロとキャラハン教授の娘を脱出させるべく自分を犠牲にして異次元空間の中に落ちていくベイマックスの姿には、『ゼロ・グラビティ』のマット(ジョージ・クルーニー)や『インターステラー』のクーパー(マシュー・マコノヒー)が重なります。

e.随分とわかりやすいメッセージがいろいろ織り込まれているものだな、と思いました。
 なにしろ、日本で公開される映画の終わりでは、歌手AIによる「Story」が歌われ、そのメッセージ性を一層高めているとされているくらいですから(注6)。

(3)渡まち子氏は、「天才少年ヒロがケア・ロボットと共に世界の危機に立ち向かう「ベイマックス」。大切な人を守るという最高の勇気に感動必至」として75点を付けています。
 前田有一氏は、「つらい目に合った少年がヒーローになり活躍する。そんな男の子が喜ぶ妄想を映画にするのは構わないが、あまりに能天気に実現し、賛美するだけの内容では、 結局暇つぶし以外の何物でもない。子供たち用にはスルーして、アニメ好きの大人が、気晴らし程度にみる用途が望ましいであろう」として55点を付けています。
 相木悟氏は、「純然たるディズニーのフルCGアニメながら、アメコミヒーローものであり、日本アニメのエッセンスも色濃く香る不思議なエンタメ作品であった」と述べています。



(注1)原題は「Big Hero 6」、上映時間102分。
 監督は、ドン・ホールクリス・ウィリアムズ

(注2)日本語の看板がアチコチに掲げられていたり、金門橋と思しき巨大な橋の橋脚が鳥居の形をしていたりするなど、日本的な物がこのアニメの中に色々取り入れられています。この点につき、劇場用パンフレット掲載の「プロダクション・ノート」には、「(プロダクション・デザイナーの)フェリックスによると、東京は美観的要素に貢献しているという」と述べられています。まあ、製作者側の日本趣味を外観上取り入れたということではないでしょうか。

(注3)劇場用パンフレット掲載の「クリエイター紹介」で、キャラクター・デザイン担当のシューン・キムは、「鈴」の「ふたつの丸と、それを結ぶ線を見た時、これはベイマックスの顔に使えそうだとひらめいた」と語っています(すべてが曲線から作られているようにみえるベイマックスですが、二つの目を結ぶ線は、はっきりとした直線です!)。

(注4)クーパーがアメリアを恋していることは仄めかされるものの、同作で専ら描かれるのはクーパーとマーフとの父娘関係の方です(それと、トムとマーフの兄妹関係も)。

(注5)ヒロは、発明したマイクロボットを研究発表会で展示した後、マイクロボットともどもその神経トランスミッターも会場に残して出てしまったようです。それをミスター・カブキが使っているのではないでしょうか?

(注6)このサイトの記事によれば、「監督が本作のテーマの1つとして「死んでしまった人は決していなくなってしまったわけではなく、私たちの記憶の中に生き続けている。陳腐に聞こえるかもしれないけど、私たちはその人と共にいる」と語る言葉からは、「Story」の“あなたは一人じゃない”という優しいメッセージ、力強い愛情との共通性を感じることができる」とのことです。



★★★☆☆☆



象のロケット:ベイマックス