映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

トロール・ハンター

2012年04月07日 | 洋画(12年)
 『トロール・ハンター』をTOHOシネマズ日劇で見てきました。

(1)本作は、ネットで面白いと騒がれていて、また北欧5カ国の中ではこれまで見たことがなかったノルウェー映画ということでもあるので、レイトショーの1回上映(午後8時~)ながら映画館に足を運んだところです(前回のエントリの冒頭で申し上げた「ある映画」とはこの作品を指します)。
 全体がコミカルに作られていて、どこまでが真面目に作られた映画なのか判然としない問題があるとはいえ、それなりに面白い仕上がりになっています。
 何より、ノルウェーの景観の素晴らしさ(深いフィヨルド海岸、周りの山から流れ落ちる何本もの滝、美しく紅葉している木々、などなど)が次々に映し出されるので、本作もまた拾い物でした!

 映画は、ノルウェー民話でトロールといわれる巨大な怪物(注1)を巡ってのお話〔日本で言えば、例えば広島の「ヒバゴン」みたいなものでしょうか、あるいは映画『大日本人』に登場する大佐藤(注2)?〕。
 ハンストロール・ハンターであり、彼らがテリトリーを離れて人里に近づこうとするのを阻止すべく、彼らを倒すことが仕事。ノルウェー国中を傷だらけの4輪駆動車(後ろに寝泊まり用のトレーラーがついています)を使って走り回っています。
 そのハンスを後から追って行けばトロールに出会えてその映像をものすことができると踏んで、大学生3人〔レポーターのトマス、音響担当のヨハンナ、カメラマンのカッレ(注3)〕の撮影隊が彼の車を追尾します。



 果たして彼らはトロールに出会って撮影することに成功するでしょうか、……?

 ハンスは、当初は近づいてくる大学生を相手にしませんでしたが(むしろ追い払っていました)、途中から態度を急変させ、自分の指示に従うなら一緒に来てもいいと言いだします。
 ハンス自身の説明によると、彼はTSTという機関に所属しているが〔TSTはノルウェー語表記であり、英語ではTSS(Troll Security Service)〕、自分の他にハンターはいないとのこと(注4)。
 さらにハンスは、橋げたにえぐれた跡が残っていると、これはトロールが頭をぶつけたのだと解説し、木々が同一方向に倒れているところでも、地元民はハリケーンによるものだと言っているにもかかわらず(衛星写真にも竜巻が写っていたとのこと)、トロールの仕業とし、また送電線が大きな円周を描いている場所では、その中がトロールのテリトリーだとしたり(送電線が防護柵になっているらしい)、送電用の鉄塔が数百メートルにわたり倒れていると、トロ-ルの所業だと断定します。
 また、トロールが近くにいそうな地点に来ると、ハンスは、トロールに気付かれずに接近できるよう体臭を消すために、トロールの体液が凝固したものを体に塗りつけたりします。
 それに、トロールから採取した血液を、獣医師のもとに送りつけて分析をしてもらったりもします(注5)。

 ただ、こんな一々もっともらしい説明や動きをされると、観客の方では、却ってそこにいい加減さを感じとって、トロールといってもせいぜい熊の大きなものであり、もしかしたらヌイグルミ(あるいは、光学的な仕掛けで作り出されたもの)に過ぎないのではと警戒してしまいます(注6)。
 にもかかわらず、突然周囲の木々よりもはるかに大きいトロールのトッサーラッドが画面に現れ、トマスが噛みつかれたりするのを見ると、この映画の中ではリアルな怪物として描かれているらしいと思わざるを得なくなります。



 でも、ハンスにはどこまでも胡散臭さが付きまといますから、見ながら困惑してしまいます。いったい笑うべきなのか、恐ろしがるべきなのか。

 とはいえ、なんといってもハンスを演じる俳優オットー・イェスペルセンが秀逸です。ノルウェーで著名なコメディアンとのことですが、彼の話に真面目さが加われば加わるほど益々嘘っぽく感じられるのですから!




(2)本作は、2008年10月にある会社に届けられた283分のテープを編集して作られたものとされています。
 このように、素人がVTR機器を持って撮影した映像を編集して映画としたという設定の作品としては、『クローバーフィールド HAKAISHA』を見ましたが、このやり方の長所は、臨場感あふれる画像にすることができ、観客もリアルさを一層感じることができることでしょう。
 反対に欠点は、画面が落ち着かず、『クローバーフィールド』でさんざん言われたように観客の中には不快感を持ってしまうものも出てきてしまうこととか、撮影しているカメラマンは画面にときたましか登場しえないことでしょう。
 本作でも、ハンスを追いかける大学生達は3人なのですが、主に画面に現れるのはトマスとヨハンナの2人であって、途中、カメラマンのカッレがトロールにやられて別の女子学生に変わりますが、その経緯がよくわかりませんし、せっかくカメラマンがイスラム教徒の女子学生に変わったにもかかわらず、あまりその特徴が生かされていないようにも思われます(注7)。

(3) 北欧諸国とされるのは、アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーと、フィンランドの5カ国。
 それぞれの国で制作される映画とクマネズミとのかかわりについては2010年2月7日のエントリの「注1」で触れているところ、最近作を中心に書き改めるとすれば次のようになります。
 スウェーデン映画……『ミレニアム』、
 デンマーク映画……『誰がため』、『光のほうへ』、『未来を生きる君たちへ』、
 フィンランド映画……『ヤコブへの手紙』。

 今回ノルウェー映画を見ましたから(注8)、残るはアイスランド映画ということになります。
 これだったら、裕木奈江が出演している『レイキャビク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(2009年:日本では昨年6月に公開)を見ておけばよかったと思いますが、後の祭り。
(とはいえ、今や、俳優は様々な国の出身者が入り乱れて同一映画に出演しますし、資本関係も単一国出資よりも、複数国出資の方が多く見られますから、こうした国別にどのくらいの意味があるのか分かりませんが)

(4)渡まち子氏は、「つくづくマヌケな内容ながら、本気度全開のVFXは一見の価値がある。いやはや、ノルウェー映画界には面白い人たちがいるもんだ」として55点をつけています。



(注1)本作には、比較的小柄なマウンテンキング(ハンスと大学生達が逃げ込んだ洞窟に居住してます)、頭が3つあるトッサーラッド(ハンスの説明によれば、成長するに従って頭の数が増えるが、最初のだけが頭で目があり、他の二つは突起物に過ぎない)、リングルフィンチ(気性が荒く、ハンスは投げ飛ばされてしまう)、60mを超す巨大なヨットナール(背中が曲がっている)の4種類のトロールが登場します。
 また、ハンスの説明によれば、トロールの寿命は1000年から1200年で、知能は低く、肉食で何でも食べるようです。

(注2)「ヒバゴン」については、以前はその目撃談などが新聞に掲載されたりしましたがWikipediaによればそれも昭和49年秋頃までのようです。
 また、映画『大日本人』については、昨年6月22日のエントリの(2)で取り上げました。

(注3)「カッレ(Kalle)」と聞くと、『名探偵カッレくん』(岩波少年文庫)を思い出しますが、これはスウェーデンの作家トリッド・リンドグレーンの作品。あるいは、北欧諸国ではこの名前が多いのかもしれません。

(注4)ハンスの説明によると、政府はTSTを設けておきながらも、トロールの存在を国民から隠そうと努めているとのこと。トロールの痕跡が見つかると、その周りにわざわざ熊の大きな足跡をつけたりして、この付近では見かけない巨大なクマが紛れ込んでいる、などと発表したりします。
 そういった政府の姿勢に疑問を感じたために、大学生達のカメラを通じて皆に公表するのだとハンスは言います。
 なお、ハンスは、トロールを倒すと、車の中でそのトロールに関する報告書をTSTあてに書いたりします。

(注5)獣医師からは、赤血球が少ないとか、狂犬病にかかっているとかの報告が入ります。
 ハンスは、だからアチコチでトロールの行動がおかしくなっているのだとし、またトロールに噛まれたトマスは早いところ病院に行かざるを得なくなるのですが。

(注6)トマスにしても、ハンスがトロールをここにおびき出してくるといって一人で森の中に入って行った時には、「ドッキリかな?どこかで彼が笑っているかも」とかなり訝しんでましたから。

(注7)本作においては、なぜかトロールはキリスト教徒を襲うとされていて、カッレもそのために襲わたようです。とすると、今度のイスラム教徒の女子学生はどうなるのでしょう(ハンスは、「わからん、一か八かだ」と叫びます)?

(注8)冒頭で申しあげたように、ノルウェー映画はこれまで一つも見たことがなかったので、これを契機にと思ってTSUTAYAで探すと、『処刑山 デッドスノウ』(2009年:日本では一昨年2月に公開)が置いてありました。苦手とするホラー物なため躊躇したものの、とりあえず見てみましたので、次回のエントリにその簡単なレビューを掲載することといたしましょう。




★★★☆☆