『恋とニュースのつくり方』を新宿ピカデリーで見てきました。
(1)もう見なくともいいかなと思っていたハリソン・フォードが、『小さな命が呼ぶとき』で頑固一徹な研究者の役をうまくこなしていたので、こちらではどうかなという興味もあって、映画館に出向いてみました。
むろん本作品の主役は、TVプロデューサー・ベッキーのレイチェル・マクアダムスですが、前作以上にハリソン・フォードは、報道キャスターのマイク役として存在感を見せつけています。
なにしろ、ベッキーが担当することになった早朝情報番組「デイブレイク」のテコ入れ策の目玉として出演することになったマイクの頑なな姿勢が、その番組の視聴率をさらに一層落とし、逆にラストではマイクのくだけた姿が、「デイブレイク」をそれこそブレイクさせてしまうのですから!
ハリソン・フォードが、頑固一徹ぶりをみせつけるのも、また最後には柔軟な姿勢になるのも、前作と同じといえば同じなのですが、前作は研究者という枠の中の話ですから、本作のような面白さは望むべくもありませんでした。
まあ、考古学者インディ・ジョーズも頑固者と言えるかもしれませんが、ハリソン・フォードも70歳近くなると、演技せずとも自然にそんな雰囲気になり、その彼が、ラストに至って、「デイブレイク」の中で“フリッタータ”を自分で作りながら、「自分はこれを20年来作っているよ」などと喋ったりすると、随分の可笑しみと説得力を発揮してしまうのです(注)。
対するパートナーのキャスター・コリーンには、ダイアン・キートンが扮しています。コリーンは、最初は、新しく担当になったベッキーを認めようとしませんでしたし、もう一方のパートナーのマイクとそりが合うはずもありません。でも、ベッキーの方針に次第に従うようになってくると、ハリソン・フォードより4歳若いに過ぎないものの、ダイアン・キートンは、持ち前の明るさが前面に出てきて、ついにはヒキガエルとキスをすることまでやってのけてしまいます。
この2人が司会を務める番組「デイブレイク」を担当するプロデューサーが主人公のベッキーというわけです。
このまま番組視聴率が下がり続ければ、あと3ヶ月で番組は打ち切ると部長に言われ、ベッキーは一念発起します。そして思いついたのが、日本のTV番組で見られるような企画です。
一方で、お天気キャスターをジェットコースターに乗せたり、スカイダイビングをさせたりして、その恐怖に歪む顔をド・アップで画面に映し出します。他方で、先にも触れたように、コリーンに、変わった動物の相手をさせたりするアイデアを実現させたりします。
ただ、こうした企画物は日本のTVでもとっくの昔から取り入れられていて、いまさらの感がしないでもありません(最近では、珍獣ハンター・イモトでしょうか!)。
それに、同じことを何回もするとすぐに視聴者に飽きられてしまいますから、視聴率アップといっても一時的なものに過ぎないと言えるのではないでしょうか?
それはともかく、そうしたアイデアなどによって視聴率も上昇し、マイクとコリーンの仲もよい方向に向かい出し、お定まりのハッピー・エンドです。
元気の良さが売り物のレイチェル・マクアダムス(『シャーロック・ホームズ』でもホームズを翻弄する役をうまくこなしていました)に対するに、渋いハリソン・フォードを持ってきて、その中間あたりにダイアン・キートンを置くといった構図でしょうが、まずまずうまくいっているのでは、と思いました。
なお、ダイアン・キートンについては、『恋愛適齢期』(2003年)はマズマズと思いましたが、『恋とスフレと娘とわたし』(2007年)は、モウこういう映画でハシャグのは止めた方が良いのではという感じがしていたところ、今回のように、一歩下がったところで存在感を滲み出すやり方もあるのだな、と見直したところです。
(注)NTVを退社してフリーとなって、今週からテレビ東京の朝の情報番組に登場した羽鳥慎一氏(39歳)は、本作品におけるハリソン・フォードとは正反対の感じがするキャスターと思われます。
(2)本作品ではプロデューサーが中心的に取り上げられています。プロデューサーを扱った映画といえば、最近では『トラブル・イン・ハリウッド』でしょうが、これは映画プロデューサーに関するものであり、TVプロデューサーを扱っている作品としたら、むしろ『恋愛戯曲』になるかもしれません。
としても、『恋愛戯曲』は、様々な工夫を凝らした戯曲を映画化した作品ですから、本作品との関連性を追求しても成果は期待できそうにありません。
となると、ダイアン・キートンが演じた女性キャスターの関連ということで、ジェーン・フォンダが地方テレビ局の女性キャスターを演じた 『チャイナ・シンドローム』(1979年)が、時節がら、思い浮かぶところです。
というのも、ジャック・レモン扮する技師が、原子炉に重大欠陥があることを世論に訴えようとして、発電所内に立て籠もるという話なのですから!結局、この技師は殺されてしまいますが、このことを徹底的に調べた女性キャスター(ジェーン・フォンダ)が、真相をニュースで発表することになります。
ちなみに、この作品は、池田信夫氏のブログ記事の中でも取り上げられています。
(3)渡まち子氏は、「類型的ではあるが、あくまでも自分が手掛ける番組を愛する仕事人間としての彼女(主人公ベッキー)をカラリと描いた結末は、ヘタに説教めいたところがない分、すがすがしい。もっともトントン拍子に物事が運ぶところは、シビアなTV業界のおとぎ話に過ぎないが。しかしハリソン・フォードはずいぶん老けた。苦虫を噛み潰したような、気難しい役がお似合いなのだが、大スターの彼はカメオ出演程度におさえて、恋人アダムとのパートをふくらませるなり、ベッキーが悩みを相談できる友人を登場させるなどすれば、より親近感を持てるドラマになっただろう」として55点をつけています。
★★★☆☆
象のロケット:恋とニュースのつくり方
(1)もう見なくともいいかなと思っていたハリソン・フォードが、『小さな命が呼ぶとき』で頑固一徹な研究者の役をうまくこなしていたので、こちらではどうかなという興味もあって、映画館に出向いてみました。
むろん本作品の主役は、TVプロデューサー・ベッキーのレイチェル・マクアダムスですが、前作以上にハリソン・フォードは、報道キャスターのマイク役として存在感を見せつけています。
なにしろ、ベッキーが担当することになった早朝情報番組「デイブレイク」のテコ入れ策の目玉として出演することになったマイクの頑なな姿勢が、その番組の視聴率をさらに一層落とし、逆にラストではマイクのくだけた姿が、「デイブレイク」をそれこそブレイクさせてしまうのですから!
ハリソン・フォードが、頑固一徹ぶりをみせつけるのも、また最後には柔軟な姿勢になるのも、前作と同じといえば同じなのですが、前作は研究者という枠の中の話ですから、本作のような面白さは望むべくもありませんでした。
まあ、考古学者インディ・ジョーズも頑固者と言えるかもしれませんが、ハリソン・フォードも70歳近くなると、演技せずとも自然にそんな雰囲気になり、その彼が、ラストに至って、「デイブレイク」の中で“フリッタータ”を自分で作りながら、「自分はこれを20年来作っているよ」などと喋ったりすると、随分の可笑しみと説得力を発揮してしまうのです(注)。
対するパートナーのキャスター・コリーンには、ダイアン・キートンが扮しています。コリーンは、最初は、新しく担当になったベッキーを認めようとしませんでしたし、もう一方のパートナーのマイクとそりが合うはずもありません。でも、ベッキーの方針に次第に従うようになってくると、ハリソン・フォードより4歳若いに過ぎないものの、ダイアン・キートンは、持ち前の明るさが前面に出てきて、ついにはヒキガエルとキスをすることまでやってのけてしまいます。
この2人が司会を務める番組「デイブレイク」を担当するプロデューサーが主人公のベッキーというわけです。
このまま番組視聴率が下がり続ければ、あと3ヶ月で番組は打ち切ると部長に言われ、ベッキーは一念発起します。そして思いついたのが、日本のTV番組で見られるような企画です。
一方で、お天気キャスターをジェットコースターに乗せたり、スカイダイビングをさせたりして、その恐怖に歪む顔をド・アップで画面に映し出します。他方で、先にも触れたように、コリーンに、変わった動物の相手をさせたりするアイデアを実現させたりします。
ただ、こうした企画物は日本のTVでもとっくの昔から取り入れられていて、いまさらの感がしないでもありません(最近では、珍獣ハンター・イモトでしょうか!)。
それに、同じことを何回もするとすぐに視聴者に飽きられてしまいますから、視聴率アップといっても一時的なものに過ぎないと言えるのではないでしょうか?
それはともかく、そうしたアイデアなどによって視聴率も上昇し、マイクとコリーンの仲もよい方向に向かい出し、お定まりのハッピー・エンドです。
元気の良さが売り物のレイチェル・マクアダムス(『シャーロック・ホームズ』でもホームズを翻弄する役をうまくこなしていました)に対するに、渋いハリソン・フォードを持ってきて、その中間あたりにダイアン・キートンを置くといった構図でしょうが、まずまずうまくいっているのでは、と思いました。
なお、ダイアン・キートンについては、『恋愛適齢期』(2003年)はマズマズと思いましたが、『恋とスフレと娘とわたし』(2007年)は、モウこういう映画でハシャグのは止めた方が良いのではという感じがしていたところ、今回のように、一歩下がったところで存在感を滲み出すやり方もあるのだな、と見直したところです。
(注)NTVを退社してフリーとなって、今週からテレビ東京の朝の情報番組に登場した羽鳥慎一氏(39歳)は、本作品におけるハリソン・フォードとは正反対の感じがするキャスターと思われます。
(2)本作品ではプロデューサーが中心的に取り上げられています。プロデューサーを扱った映画といえば、最近では『トラブル・イン・ハリウッド』でしょうが、これは映画プロデューサーに関するものであり、TVプロデューサーを扱っている作品としたら、むしろ『恋愛戯曲』になるかもしれません。
としても、『恋愛戯曲』は、様々な工夫を凝らした戯曲を映画化した作品ですから、本作品との関連性を追求しても成果は期待できそうにありません。
となると、ダイアン・キートンが演じた女性キャスターの関連ということで、ジェーン・フォンダが地方テレビ局の女性キャスターを演じた 『チャイナ・シンドローム』(1979年)が、時節がら、思い浮かぶところです。
というのも、ジャック・レモン扮する技師が、原子炉に重大欠陥があることを世論に訴えようとして、発電所内に立て籠もるという話なのですから!結局、この技師は殺されてしまいますが、このことを徹底的に調べた女性キャスター(ジェーン・フォンダ)が、真相をニュースで発表することになります。
ちなみに、この作品は、池田信夫氏のブログ記事の中でも取り上げられています。
(3)渡まち子氏は、「類型的ではあるが、あくまでも自分が手掛ける番組を愛する仕事人間としての彼女(主人公ベッキー)をカラリと描いた結末は、ヘタに説教めいたところがない分、すがすがしい。もっともトントン拍子に物事が運ぶところは、シビアなTV業界のおとぎ話に過ぎないが。しかしハリソン・フォードはずいぶん老けた。苦虫を噛み潰したような、気難しい役がお似合いなのだが、大スターの彼はカメオ出演程度におさえて、恋人アダムとのパートをふくらませるなり、ベッキーが悩みを相談できる友人を登場させるなどすれば、より親近感を持てるドラマになっただろう」として55点をつけています。
★★★☆☆
象のロケット:恋とニュースのつくり方