孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南米コロンビア  国内避難民600万人 左翼ゲリラとの和平交渉が進展はしているものの・・・

2015-05-10 22:43:10 | ラテンアメリカ

(沼地で暮らすコロンビア国内避難民 水汲みの子供たち 【2010年3月8日 UNHCR】)

世界第2位の国内避難民
戦闘などで家を追わる人々には、国外難民となる人々と国内にとどまる「国内避難民」となる人々がいます。
厳しい避難生活を余儀なくされることでは、両者ともかわりありません。

先週、「国内避難民」について1990年代から調査を続けている北欧を代表するNGOの一つ「ノルウェー難民評議会」の国内避難民モニタリングセンターが報告書を発表しました。

その数は、前年より470万人増え、3800万人に達したそうです。

****世界の国内避難民3800万人に 前年比470万人増****
国際NGO「ノルウェー難民評議会(NRC)」は6日、紛争などで自宅を追われた国内避難民(IDP)の数が、2014年に世界で3800万人に達したとする報告書を発表した。「ロンドンとニューヨークと北京の人口を足し合わせた規模」だという。

最も多いのはシリアで、人口の4割相当の760万人。続いて、南米コロンビア(604万4200人)、イラク(337万6千人)、スーダン(310万人)、コンゴ民主共和国(275万6600人)、パキスタン(190万人)、南スーダン(149万8200人)、ソマリア(110万6800人)、ナイジェリア(107万5300人)、トルコ(95万3700人)が上位を占めた。東部で紛争の続くウクライナは「少なくとも64万6500人」とした。

前年比では470万人増えた。最多は220万人増のイラクで、南スーダン、シリアが続いた。

NRCのヤン・エグランド事務局長は国境を超えて活動する過激派組織「イスラム国」(IS)などの活動を挙げ、「一国の問題から地域の問題になるというとても危険な傾向がある」と述べ、国際的な取り組みを求めた。

報告書は、NRCが中心となり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や欧米の国々などの支援を受けて作成された。【5月7日 朝日】
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戦闘が続くシリア、イラクや混乱がおさまらないスーダンなどアフリカ諸国で「国内避難民」が多いのは「そんなところだろう・・・」とも思うのですが、この報告でいつも感じるのは、南米コロンビアの約600万人という数字の意外さです。

コロンビアでは2014年にも13万7200人が難民となっており、その多くが共産主義ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)と政府軍の戦闘から逃れた住民たちです。

2008年4月21日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080421)でも、NRC報告に関連してコロンビアの「国内避難民」問題を取り上げたことがあります。

****コロンビア 世界第2位の国内難民を抱える国*****
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。

さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。

このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。【外務省資料】

この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。

もともとコロンビアは豊富な石油・天然ガスが存在し、石炭・金などの天然資源にも恵まれた国です。
文化・教育水準も高いと言われており、60年代以降他の中南米諸国が軍政化したなかで、自由選挙に基づく民主体制を堅持してきた数少ない国のひとつです。
コロンビアの国民1人当たりのGNI(国民総所得)は2290ドル(2006年、世銀)で「中高所得国」に分類される水準にあります。

しかし、2006年の『人間開発報告書』によればジニ係数は0.586で、世界9番目に所得格差のある国となっています。
また、人口の1%が土地の50%を所有しているとも言われます。

このような不平等が、激しい左右武装組織の対立、麻薬問題の背景に存在しています。(後略)【2008年4月21日ブログ】
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コロンビアには主要な左翼系反政府組織として、「コロンビア革命軍(FARC)」と「国民解放軍(ELN)」の二大勢力が存在し、全国でテロ活動を行っています。

また、パラミリタリーと呼ばれる極右非合法武装集団は、政府との交渉の結果ほとんどが武装放棄しましたが、和平プロセスに参加しなかった少数グループが新興組織として、殺人、誘拐、恐喝等の違法行為を行っています。【外務省】
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左翼ゲリラ勢力は弱体化したものの、増え続ける避難民
左翼ゲリラ勢力は、アメリカと協力してゲリラ勢力掃討作戦を断行したウリベ政権、そのあとを継いだサントス政権のもとで、勢力を弱め、現在は最大勢力FARCとの間で和平交渉も進展しています。

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FARCは2000年頃には国土の3分の1を実効支配下に治め、“首都ボゴタ南部のサン・ビセンテ・デル・カグアンに事実上の首都を置き、一時は武力で政権を奪取するのではないかという話も現実味を帯びるほど勢力は強大で活動は活発だった”【ウィキペディア】とのことです。

しかし、“2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降は国際社会がテロに対して非常に厳しい姿勢を示すようになり、コロンビア政府も米国に同調する形でFARCに対し強硬な態度で臨むようになった。”【同上】という情勢のなかで、中南米唯一の親米右派政権であったウリベ前大統領がアメリカの協力で強硬なゲリラ掃討作戦を実施し、次第に左翼ゲリラは追い詰められてきています。【2014年6月16日ブログ http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140616
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ただ、その割には国内避難民が減らない、と言うより増え続けているのが不思議です。
「ノルウェー難民評議会(NRC)」報告では、07年末で計2600万人の国内避難民のうち、最も多いのはスーダンの580万人、次が南米コロンビア400万人、イラク250万人でした。

当時より更に200万人増加しています。国別順位もスーダンやシリアが紛争の状況に応じて増減したのに対し、コロンビアは2位を“キープ”しています。
コロンビアの人口は4560万人ですから、国内避難民600万人は全人口の13%に及んでいます。
更に、国内だけでなく、エクアドル・パナマ・ヴェネズエラへと避難している国外難民も相当数存在しています。

進展はしている和平交渉
コロンビアにおけるFARC等の左翼ゲリラの問題は、ベネズエラの故チャベス大統領も関与しての人質解放交渉、FARCに6年間拘束されていた元大統領候補のフランス系コロンビア人女性政治家イングリッド・ベタンクールさんの解放、段階的に進むFARCとの和平交渉等についてこれまでも取り上げてきました。

和平交渉に関しては2012年10月にスタート、交渉議題5項目のうち、「農地改革と農村開発の取り組み方」に続いて、2013年11月には「ゲリラ戦終結後の政治参加」で合意、2014年5月には麻薬問題の解決に向けて協力することでも合意しました。

交渉議題としては、「犠牲者への補償」、「武装解除」がまだ残っています。

2014年6月の大統領選では、和平交渉推進派のサントス大統領が、現政権を弱腰だと批判する対立候補を接戦の末破って再選を果たしています。

FARCに次ぐ勢力の民族解放軍(ELN)も、和平交渉に入ることを表明しています。

****左翼ゲリラ、和平交渉入り=抗争終結に一歩前進―コロンビア****
コロンビアで第2の規模を持つ左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)は7日、政府と正式に和平交渉に入ると表明した。

政府は既に最大勢力のコロンビア革命軍(FARC)と和平交渉を進めており、2大ゲリラ組織がそろって政府との抗争終結に向けて動きだした。

ELN幹部はツイッターに「われわれは和平を目指す政府の意志を見極める」と投稿。交渉の進展次第では、武装解除に応じる方針を示した。

左翼ゲリラがテロなどを繰り返すコロンビアでは、この50年間で一般市民ら20万人以上が犠牲になったとされる。【1月8日 時事】 
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FARCは2月17日、17歳以下の少年をメンバーに勧誘することをやめると発表。
3月には地雷撤去でも合意しました。

****左翼ゲリラと地雷撤去で合意 コロンビア和平交渉****
和平交渉を続けているコロンビア政府と左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)は7日、長年の紛争で敷設された地雷や不発弾の撤去を進めることで合意したと発表した。

コロンビアは世界最悪レベルの地雷敷設国で、政府側は「和平への大きな一歩」と歓迎。今回の合意はキューバで2012年から進めている和平交渉にとり弾みになる。

地雷撤去にはノルウェーの非政府組織(NGO)が協力。双方は敷設場所などの情報を提供する。NGOの連合体、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)などによると、FARCは世界の武装勢力の中で最も地雷を多用しているとみられ、13年のコロンビアの地雷や不発弾による死傷者はアフガニスタンに次いで多い。ロイター通信によると、死傷者は1990年以降、約1万千人で、うち約1100人が子供という。

和平交渉は主要5項目の交渉事項のうちゲリラの政治参加など3項目で合意。政府は年内の交渉妥結を目指す。【3月8日 産経ニュース】
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現地報道を紹介したサイト「音の谷ラテンアメリカニュース」(http://blog.livedoor.jp/otonotani/)によれば、地雷では連日のように犠牲者が出ています。

“Farcが仕掛けた対人地雷で母親と娘2人が負傷 娘の1人は片足を失う コロンビア カケタ県”【5月9日】
“アンティオキア県でもゲリラの地雷で軍兵士1人が両足を失う”【5月9日】
“ELNが児童公園に仕掛けた地雷で軍下士官が負傷 コロンビア ノルテ デ サンタンデール県”【5月8日】

和平交渉の場にFARCが、ミス・ユニバース世界大会でコロンビア人として史上2人目の優勝者となった同国代表の女性を招待するとか、招待を女性が断ったとかいったことも話題になりました。

一気に和平実現・・・とはいかない現実
こうして書き並べると、順調に進んでいるようにも思えますが、必ずしもそうも言えないようです。

****左翼ゲリラ襲撃で兵士10人死亡 コロンビア大統領、空爆再開を指示****
コロンビア西部カウカ州の山岳地帯で15日未明、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」とみられる武装集団がパトロール中の軍歩兵部隊を襲撃し、兵士10人が死亡、20人が負傷した。

これを受けてフアン・マヌエル・サントス大統領は直ちに、FARCに対する空爆再開を指示した。

この襲撃事件は、2012年11月のコロンビア政府とFARCによる和平交渉開始以降に起きたものとしては最悪規模のものとなった。軍幹部によると、FARCの拠点とみられる地域をパトロールしていた歩兵部隊が、待ち伏せしていたFARCの戦闘員らに襲われたという。

サントス大統領はテレビ放送された演説で、「FARCキャンプに対する爆撃中止命令を、さらなる通知があるまで無視するよう軍に指示した」「FARCに明らかにしておきたい。このような卑劣な行為の圧力に屈して、双方向の停戦に応じるつもりはない」と述べた。

FARCは和平交渉を進めるため、昨年12月以降、一方的な停戦を守ってきていた。同大統領は先週、FARC側の停戦姿勢を評価し、FARCに対する空爆をさらに30日間中止するよう指示したばかりだった。

同日の事件を受け、キューバの首都ハバナ入りしているFARC報道官は遺憾の意を表明した一方で、「停戦しているゲリラに対して軍事作戦を指示するという矛盾」を犯している政府を非難。「待ち伏せ攻撃だろうとそれへの反撃であろうと、犠牲になり続けているのはコロンビア国民だ」と指摘し、政府側もFARC側に歩調を合わせて停戦するよう求めた。【4月16日 AFP】
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前出「音の谷ラテンアメリカニュース」によれば、小競り合いも続いています。
“ELNゲリラがコロンビア軍兵士2人を殺害 ノルテ デ サンタンデール県”【5月10日】

左翼ゲリラだけでなく、麻薬組織も蠢いています。
“ベネスエラ・コロンビア国境地帯で発見された12体の死体はコロンビア麻薬組織同士の抗争事件の死亡者”【5月8日】

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前政権以降推進されてきた治安当局の警備強化対策の結果、テロ事件発生件数は一時期減少しましたが、近年再び増加しています。(中略)

また、治安当局の人員が少ない国境付近のジャングルや山岳地帯では、依然としてテロが発生しています。【外務省】
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上記外務省サイトによれば、「今後最終的な和平合意に至る可能性があります」とはしながらも、“しかしながら、FARCの武装放棄後、その構成員が社会復帰できず一般犯罪に手を染めるなどのおそれもあり、仮に和平交渉がまとまったとしても、治安の動向は予断を許さないものと思われます。”とも。

なかなかすんなりとは進まないようです。

それにしても、いまだに増え続ける「国内避難民」600万人というのは多すぎる数字です。
この国だけ数字が大きくなる特別な事情でもあるのでしょうか?
コメント
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