孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

難民問題に背を向けるハンガリーなど東欧諸国  過去のホロコーストへの向き合い方を指摘する声も

2015-09-16 23:32:26 | 難民・移民

(セルビアからハンガリーに不法入国したとして拘束され、うなだれる難民ら=ハンガリー南部のセルビア国境で15日、ロイター 【9月16日 毎日】)

行き場を失う難民ら
欧州を目指す難民・移民の問題については、一昨日14日ブログ「ドイツ 国境審査再開、難民流入に歯止めへ  EUは緊急理事会で統一対応を目指すものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150914)で、これまで寛容な方針をとってきたドイツも押し寄せる難民らへの現実的対応が困難となり、「難民の流れを制限し秩序ある管理を実施する」(ドイツ内相)ということで、国境審査を再開することにした件などを取り上げました。

ドイツはオーストリア国境でパスポート検査を行い、“先週末に1万6000人以上が到着した南部のミュンヘン駅では、15日に到着したのは850人にとどまり、難民らのドイツ入りは困難な状態となっている。”【9月15日 毎日】とのことです。

同様の動きは中東欧諸国に広がっています。

****国境管理、続々と導入=難民問題解決見えず―中東欧****
中東などからの難民らの殺到を抑えるため、ドイツが対オーストリア国境で入国審査を開始して以降、中東欧諸国が相次いで追随する動きを見せている。

自国に多くの難民が入るのを避ける狙いで、場当たり的な「難民の押し付け合い」といった印象もある。欧州連合(EU)が結束できない中、関係国の思惑が交錯している。

多くの難民が目指すドイツのデメジエール内相は13日、「(難民の)流入を抑制し、秩序を取り戻す」として、「シェンゲン協定」が定めた欧州内での越境の自由を制限。

ドイツへの難民の入り口になっていたオーストリアも16日、国境管理の強化を始めた。隣接するチェコとスロバキアも同様の対応に出ており、難民にとっては西欧へのハードルが高くなった。

メルケル独首相は15日の記者会見で、難民問題は「欧州全体でしか解決できない」と強調したが、EU内の意見がまとまらない中、各国が個別に負担回避に動いた格好だ。

AFP通信によると、チェコのホバネツ内相は「チェコに向かう難民の数次第では追加措置を講じる」と語り、警戒感の強さをうかがわせた。

シェンゲン協定諸国の玄関口ハンガリーは、反難民の急先鋒(せんぽう)。これまで対セルビア国境にフェンスを設置し、不法入国を厳罰化した。シーヤールトー外相は15日、対ルーマニア国境にもフェンスを設ける計画を発表。強硬姿勢を貫く構えだ。【9月16日 時事】 
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各国が国境管理を厳しくするなかで自国だけが受け入れると、受け入れた難民らの出口がなく、自国内に「滞留」することになりますので、他国同様に国境管理を厳しくする・・・という流れのようです。

すでに多くの難民らが動いているなかで、各国が国境管理を厳しくすることで、ルートを分断された難民らの行き場がなくなることが懸念されます。

強硬姿勢が際立つハンガリー
各国が対応に苦慮するなかにあって、一貫して強硬な姿勢が目立つのが「バルカン半島北上ルート」においてEU域内への玄関口となっているハンガリーです。

ハンガリー政府は15日、セルビア国境に近い南部の2地域に「危機状態」を宣言し、国境管理を強化しました。
また、ハンガリーは同日から不法入国者を厳罰化する法律も施行しており、議会の承認を経て軍隊の派遣が可能になっています。【9月16日 読売より】

ハンガリー政府は国境をフェンスで閉鎖したうえで、シリア難民も含めたセルビア通過者を「難民」とは認めず、セルビアに強制送還することで難民らをハンガリーに入国させない方針です。

ハンガリー入りを拒まれセルビアを移動中の難民らは3万人に上るとされています。
こうした事実上難民を認めないやり方には、難民に関する国連やEUの規則に反しているとの批判が出ています。

****<ハンガリー>強制送還の方針 難民、クロアチアへ向かう****
ハンガリー政府は15日、内戦が続くシリアなどから逃れてきた人たちがセルビア側から国境を訪れて、難民申請をしても却下し、セルビアに強制送還する方針を明らかにした。ロイター通信などが伝えた。

同政府は、不法入国者には禁錮刑を科す可能性にも言及し、同日中に不法入国した難民ら174人を拘束した。

しかし、セルビアは強制送還受け入れを拒否。難民は西方の欧州連合(EU)加盟国クロアチアに向かい始めている。

ハンガリーのコバチ外務報道官は15日、セルビア国境近くで毎日新聞などメディアに対し「難民申請が却下されれば、ハンガリーの地を踏むことはない」と述べ、隣国セルビアへ強制送還する姿勢を示した。これ以上の難民の入国を断固阻止する姿勢を明確にした形だ。

報道によるとハンガリーは「数時間」で難民申請を処理する施設を国境に準備している。ハンガリーが「安全な国」とみなすセルビアを通ってきた難民の申請は基本的に却下し、送還する見通し。

しかしセルビアのブーリン移民問題担当相は「国境閉鎖は恥ずべき行為ですぐに開けるべきだ。(ハンガリー国境に押し寄せる)難民は我が国の責任ではない」と強く批判した。

セルビアに滞留している難民の一部は、ハンガリーとの国境検問所付近で抗議活動をしている。
一方、セルビア南部から難民を乗せた複数のバスが15日、クロアチア方面に向かった。

ハンガリーの行為には国際的非難が高まっている。国際移住機関(IOM)は「国連やEUの規則に反しているようだ」と懸念を表明。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、短時間で難民申請を処理しようとするハンガリーを「驚くべき姿勢」と非難した。

またハンガリーは同日、有刺鉄線付きの「越境防止フェンス」を東方のルーマニア国境にも拡張する方針を示唆。ルーマニア外務省は「政治的にも、ヨーロッパの精神から見ても正しい行動とは思えない」と反発した。【9月16日 毎日】
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“ヨーロッパの精神”云々というよりは、難民という厄介者を他国に押し付けあっているかのようにも見えますが、ハンガリーについてはこれまでも政府の強硬姿勢だけでなく、セルビア国境を越えてきた子供を蹴ったり、子供を抱いた男性の足を引っかけて転倒させたりする極右系放送局の女性カメラマン、難民収容施設で「動物に餌を与える」かのように食べ物の袋を放り投げる警官などの映像がひんしゅくを買ったりもしてきました。

基本的に、政府にも国民にも難民らに寄り添う気持ちが見られず、単に「厄介者」としか見ていないようにも思えます。

残忍な過去と折り合いをまだつけていない東欧
こうした姿勢は他の東欧諸国にも見られ、EUが掲げてきた人道主義の価値観とは相いれない排外的姿勢も窺われます。

もちろん、難民らに寄り添う気持ちがあっても、人道主義を是としていても、国家の枠組みを前提にした現実対応にあっては思うような施策がとれないということは多々あります.

14日ブログでは“試される「価値観」”ということを取り上げましたが、最初からそういう価値観を有していないということになると話が違ってきます。

****難民受け入れを渋る東欧の「恥****
迫害を逃れて移住した過去、連帯の精神を忘れたのか

何千人もの難民が戦争の恐怖から逃れて欧州になだれ込み、大勢の人が途中で命を落とす中、欧州連合(EU)に一番最近加盟した国々の多くで、別の類の悲劇が展開されている。

筆者の祖国ポーランドを含め、「東欧」と総称される国々は、自分たちが不寛容で自由を認めず、外国人嫌いで、四半世紀前に自分たちを自由に導いてくれた連帯の精神を覚えていられないことを露呈した。

これら東欧諸国は、共産主義崩壊の前後に「欧州への復帰」を切望し、誇らしげにその価値観を共有していると宣言したのと同じ社会だ。
だが、彼らは一体、欧州が何を象徴していると思っていたのだろうか。

1989年以降、また特に各国がEUに加盟した2004年以降、これら東欧諸国はEUの構造基金、結束基金の形で、莫大な財政移転の恩恵にあずかってきた。

これらの国は現在、欧州が直面する第2次世界大戦以来最大の難民危機を解決するために、どんな貢献をすることも嫌がっている。

ハンガリーだけじゃない、東欧諸国の不寛容
実際、全世界が見ている目の前で、EU加盟国であるハンガリーの政府は何千人もの難民を不当に扱った。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、別の行動を取る理由はないと思っている。難民は欧州の問題ではない、と同氏は主張する。ドイツの問題だというのだ。

この見方をしているのは、オルバン氏だけではない。ハンガリーのカトリック教会の司祭さえもがオルバン氏の方針に従っており、ツェゲド・チャナド地域のラズロ・キスリゴ司祭は、イスラム教の移住者は「乗っ取り」を望んでおり、欧州のすべての教区に難民の家族を1世帯ずつ受け入れるよう求めたローマ法王は「状況が分かっていない」と述べた。

人口4000万人のポーランドでは、政府が当初、難民を2000人受け入れる姿勢を示したが、受け入れはキリスト教徒に限定した(スロバキアも似たような条件を提案している)。

あるポーランド人ジャーナリストは米国の国営ラジオNPRで、難民は東欧の問題ではない、なぜなら東欧諸国はリビア爆撃の決断に参加しなかったからだと語った(ドイツもこの決断には参加していない)。

東欧の人々には羞恥心がないのか。彼らの祖先は何世紀もの間、物質的な苦難と政治的迫害からの解放を求め、大挙して移住した。そして現在、彼らの指導者の無情な態度と冷淡な発言は、国民心理につけ込んでいる。

実際、ポーランド最大の日刊紙ガゼッタ・ビボルチャの電子版は今、難民に関するすべての記事の末尾に、次のような驚くべき告知を掲載している。
「法律に反して暴力を唱え、人種的、民族的、宗教的憎悪を呼びかける異常に攻撃的なコメントの内容のために、読者がコメントを投稿するのを認めません」

戦後間もない頃、ホロコーストを生き延びた東欧のユダヤ人たちはポーランドやハンガリー、スロバキア、ルーマニアなどの隣人の残忍な反ユダヤ主義から逃れ、よりによってドイツの難民キャンプに逃げ込んだ。

25万人のホロコースト生存者を題材とした歴史学者ルース・ゲイ氏の重要な書籍のタイトルは「Safe Among the Germans」と謳っている。

現在、イスラム教徒の難民や他の戦争の生存者たちは、東欧に避難場所を見つけられず、やはりドイツ人の間の安全性に逃げ込んでいる。

第2次世界大戦の暗い過去
この場合、歴史は比喩ではない。それどころか、現在露呈している東欧の人々の態度の根本原因は第2次世界大戦とその余波に見いだすことができる。

ポーランド人について考えてみるといい。反ナチスのレジスタンス運動に正当な誇りを持つポーランド人は実は、戦時中にドイツ人よりも多くのユダヤ人を殺した。

ポーランドのカトリック教徒はナチス占領下で犠牲になったが、ナチズムの究極の犠牲者の運命にあまり慈悲を抱くことができなかった。

反共産主義のポーランド人作家で愛国心にかけて申し分のない経歴を持つヨゼフ・マツキエヴィッチ氏は、次のように語っている。

「占領下では、『1つ、ヒトラーが行った正しいことはユダヤ人を全滅させたことだ』という言葉を聞いたことがない人は、文字通り、一人もいなかった。だが、これについて公然と語ることは許されなかった」

もちろん、戦時中にユダヤ人を助けたポーランド人もいた。実際、イスラエルのヤド・ヴァシェム(ホロコースト記念館)によって戦時中の勇敢さを認められたポーランドの「諸国民の中の正義の人」の数は、すべての欧州諸国の中で最大だった(戦前のポーランドが欧州で圧倒的に最大のユダヤ人人口を抱えていたことを考えると、意外ではない)。

だが、こうした立派な個々人は大抵、支配的な社会規範に反して、独自に行動した。戦争が終わってから何年も経っても、戦時中の自分の勇敢な行為を隣人から秘密にしておくことにこだわった人もいた。
自分の属するコミュニティーから疎外され、脅かされ、排斥されることを恐れたためのようだ。

占領下に置かれた欧州社会はすべて、程度の差こそあれ、ユダヤ人を破滅させようとするナチスの取り組みに加担した。それぞれの社会は、その国特有の事情やドイツの支配の状況によって異なる貢献を行った。

だが、地域が擁する絶対的なユダヤ人の数とナチスの占領体制の比類ない無情さのせいで、ホロコーストが最も陰惨に繰り広げられたのは東欧だった。

歴史と向き合ったドイツ
戦争が終わった時、ドイツは戦勝国の非ナチ化政策と、ホロコーストを扇動、実行した自国の責任のために、残忍な過去と「向き合う」しか選択肢がなかった。これは長く、難しいプロセスだった。

だが、ドイツ社会は歴史上の悪事を意識し、今日の難民の大量流入が突き付けるような道義的、政治的課題と対峙できるようになった。

そして、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は移住者に関し、東欧のすべての指導者を恥じ入らせるような圧倒的なリーダーシップの模範を示した。

対照的に東欧はまだ、その残忍な過去と折り合いをつけていない。それができた時に初めて、東欧の人々は悪から逃げてくる人々を救う自分たちの責任を認識することができるのだろう。【9月16日 JB Press】
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自国ポーランドのことということもあって、かなり厳しい見方です。
ただ、イスラム教徒の多い難民らに救いの手を差し伸べようとしない対応は、かつてユダヤ人を抹殺した歴史に重なるものがあるようにも見えます。

かつて冷戦末期、ハンガリーはオーストリアとの国境線の鉄条網を撤去して国境を開放することで東ドイツ難民を西側に逃がし、冷戦を終結させる引き金を引くことになりました。

そのハンガリーが、今は国境を封鎖して難民らの希望を断ち切ろうとしています。

ドイツは、EU各国で難民を分担して受け入れることを求めて東欧諸国の反対にあっていますが、「価値観」が異なるという話になると、そういった国に難民を押し付けても、押し付けられた難民が困難を経験することになるようにも思えます。

難民をどうするという問題以前に、「価値観」を共有することなくEUとして共同体を維持できるのか?ということにもなります。

メルケル首相の怒り「それは私の国ではない」】
一方、難民らへの寛容な姿勢をみせたことを国内から批判もされているドイツ・メルケル首相は、「緊急事態に難民に優しくしたことを謝罪すべきだというなら、それは私の国ではない」と怒りをあらわにしています。

****<難民問題>独首相「謝罪、それは私の国ではない****
難民を無条件で受け入れる方針を一時打ち出し、大量の難民が流れ込む原因を作ったと批判されているドイツのメルケル首相が15日、「緊急事態に難民に優しくしたことを謝罪すべきだというなら、それは私の国ではない」と反論した。

物静かなメルケル首相が感情的に発言するのは珍しい。首相は難民問題を「解決できる」と改めて持論を述べた。

15日の記者会見で、首相は数千人のドイツ市民が駅などで難民を歓迎したことを称賛。「率直に言う。もし緊急事態に(難民に)優しい顔を見せたことについて、私たちが謝罪を始めなければならないとしたら、そんな国は私の国ではない」と述べた。

ドイツ政府はハンガリー・ブダペスト駅などで難民が劣悪な状況で足止めされている事態を受けて今月初め、難民登録をしていなくても無条件で受け入れる方針を決定。

その結果ドイツに6万人以上が流入した。与党内の保守強硬派から反発を受け、13日に国境管理の一時復活を決めた。【9月16日 毎日】
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話を日本に引き寄せれば、朝鮮半島での有事や中国での共産党政権崩壊・混乱に際して、半島・大陸から大勢の難民がおしよせたとき、優しい顔を見せることができるか?単に「脅威」「厄介者」として見るのか?という話でしょう。
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