(リオで麻薬組織撲滅に乗り出した治安当局の装甲車 “flickr”より By Blog Sem Destino
http://www.flickr.com/photos/blogsemdestino/5208377648/ )
【「対麻薬組織のDデー」】
麻薬組織と治安当局の麻薬戦争と言えばメキシコですが、同じ南米のブラジル・リオデジャネイロでも、陸軍パラシュート部隊まで動員した激しい“市街戦”が繰り広げられました。
経済成長著しい新興国の雄、ブラジルですが、まだ陰の部分も大きいようです。
“市街戦”自体は、28日に警察が制圧しています。
****リオ、犯罪組織の拠点制圧=警察が掃討作戦、45人死亡―ブラジル****
ブラジルのリオデジャネイロで21日から続いていた「ファベーラ」と呼ばれるスラム街を舞台とした麻薬組織に対する警察の掃討作戦で、警察側が28日、組織のメンバーらが立てこもっていた北部のファベーラを制圧した。一連の衝突ではメンバー45人が死亡。市民にも流れ弾による死傷者が出る事態となった。
警察側は特殊部隊や装甲車、応援の軍兵士ら約2500人規模で掃討作戦を強行。28日も散発的な銃撃戦が起き、地元メディアによれば3人が死亡した。制圧後のファベーラ捜索で、大麻40トン、コカイン200キロなどを押収したという。【11月29日 時事】
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地元テレビは軍事作戦をライブ中継し「対麻薬組織のDデー」と報じたそうですが、地元メディアが麻薬組織の報復を恐れて麻薬組織絡みの抗争を一切報道しないと言われているメキシコに比べると、随分と症状は軽いようです。
【貧困によって生まれる犯罪】
スラム街「ファベーラ」を拠点とする麻薬組織は、もとからの麻薬カルテルではなく、1964~85年の独裁政権時代に反対勢力を沈黙させるために動いていた準軍組織の暗殺部隊を起源とする「民兵」と呼ばれる新マフィア勢力だそうで、そのあたりの事情は以下の【11月26日 AFP】が詳しく報じています。
****ブラジル・リオで麻薬組織掃討作戦が激化、都市機能まひ****
■貧困地区に台頭する新マフィア、W杯・五輪控え対決姿勢
リオでは総人口の3分の1に当たる約200万人が、市内に1000か所以上存在する「ファベーラ」と呼ばれるスラムに住んでいる。
住民たちは今回の作戦の規模の大きさに驚いているが、長い間放置されていた麻薬組織にようやくメスが入ったと安堵する声が多い。「麻薬組織と対決するにはこれしかない」「大勢の人間が死ぬだろう。しかし、この町を変えるために必要なことだ」などの反応が聞かれる。
当局の対策を一層難しくしているのは、リオの組織犯罪に生じた変化だ。警察によると相手は2つの麻薬組織の連合体で、2014年のサッカーW杯と2016年の五輪開催へ向けてブラジル政府が本腰を入れている「浄化政策」への対抗姿勢を鮮明にしている。
リオの組織犯罪といえば、以前は麻薬カルテルによって支配されていた。それが2000年以降、「民兵」と呼ばれるグループが台頭し、「今の組織犯罪は『民兵』によるものだけだ」とマルセロ・フレイソ州議員は言う。
「民兵」らの由来は、1964~85年の独裁政権時代に反対勢力を沈黙させるために動いていた準軍組織の暗殺部隊にさかのぼる。その後は非番の消防隊員や警官、看守などが「民兵」を構成するようになり、ストリートキッズなどを取り締まってきたが、長年、麻薬カルテルよりは「悪質でない」とみなされていた。
しかしこの「民兵」が、最近になってリオで広く支配力を強め、新マフィア勢力に成長した。2006年には、西部の数か所のスラムに浸透してカルテルを追放し、頭角を現してきた。
今月発表された報告によると、リオのスラムでも規模の大きい上位250か所のうち100か所以上を「民兵」が支配している。一方、リオ最大の麻薬カルテルが現在支配下に置くスラムは、わずか55か所だ。
■政治にも浸透・・・掃討作戦は根本の解決にならない
フレイソ州議員いわく「『民兵』たちは街を守ると言って住民からいわゆる『みかじめ料』を徴収しつつ、実際にはガスの供給やミニバス・サービス、ケーブルTVなどを乗っ取った。州当局の手が回っていないあらゆる分野に浸透していった」。最近では麻薬取引よりも、こうしたビジネスのほうが実入りがいいのだという。
さらに「『民兵』たちは政治にも手を染めている」とフレイソ氏は警戒する。同氏がまとめた報告書によると、自治体の選挙に関与している「民兵」たちは約200人にも上る。報告書の発表後にリーダー数人が逮捕されたが、その中にはリオ市議会議員と自治体の副首長も含まれていた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「民兵」グループの成長について以前から、「何十年にもわたって怠慢、人権侵害、犯罪者の免責に基づいた治安政策を展開してきたツケだ」と批判し、早急な対策が必要だと警告してきた。
今回の衝突が激化した22日夜、セルヒオ・カブラル州知事は連邦政府に応援を要請し、以降、リオのスラム20か所に治安部隊が展開している。
しかし長年、地元警察の手法に批判的なフレイソ氏は、今回の作戦で達成できることはほとんどないだろうと語る。「警察はヴィラ・クルゼイロに入って、また何百人か殺すことはできるだろう。けれどもリオの問題はそれでは解決しない。銃の引き金を引いている人間と、札束を勘定している人間は別だからだ。スラムの麻薬取引は、貧困によって生まれる犯罪の代表格だ。歯が抜けた、無教養なマフィア像など実際には見たことがない」【11月26日 AFP】
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【「ボルサ・ファミリア」】
ブラジルに限らず、麻薬問題に揺れる南米諸国の問題の根底に「貧困」があることは当然の指摘です。
ブラジルについて言えば、急速な経済成長、貧困層を支持層とするルラ大統領の貧困対策の成果もあって、貧困の問題は大きく改善されてきたと言われています。
ルラ政権は、家族1人当たりの所得が140レアル(約7千円)以下の人が受けられる「ボルサ・ファミリア」と呼ばれる貧困救済資金(家族手当)を実施しており、この施策が効果をあげていると報じられています。
****ブラジルの貧困層対策、『ボルサファミリア』の成果****
中南米では、ファヴェーラに象徴される貧困問題が「宿痾(しゅくあ)」のように社会に巣くってきました。ブラジルでは、2003年1月に貧困層出身で労働運動の指導者であったルーラが大統領に就任してから、この問題に改めて焦点が当たり、改善に向けて大きく前進しています。ルーラ大統領は就任式で、「勇気を持って、混乱と軽率を避けて変革を進めよう。すべての国民が三度の食事ができるようにするのが,私に与えられた使命である.この全国的な助け合い運動へ国民を動員する」と述べ、実際、就任直後に貧困層への支援を行う「飢え追放」プロジェクトを発表、11月には40万の貧困農家に財政支援をするプログラムとして「ボルサファミリア」を発表しています。その後、貧困家庭向けの支援プログラムに拡充された「ボルサファミリア」は、世界的な貧困撲滅運動を展開する国連などの国際機関が注目するところとなり、世界銀行は初期段階から資金支援を行っています。
世銀の報告によれば、このプログラムが支援した貧困家庭は現在までに11百万世帯に及び、46百万人以上が恩恵を受けたとされています。典型的な例としては、子供を持つ貧困家庭に平均で月70レアル(約3,600円)が支給されますが、支援を受けた親には子供を就学させ、定期的な健康診断を受けさせることを義務としています。このプログラムの優れた点は、貧困家庭を飢餓から救うだけでなく、子供の教育を継続させることにより、貧困が次の世代に受け継がれる悪循環を断ち切ることにあります。実際、このプログラムの結果、800万人が貧困から脱却したと伝えられています。また、ブラジル国土地理院の統計データでは、全人口に占める貧困層の比率が1992年に35%、ルーラ大統領が誕生した2003年でも28.1%と低所得国並であったものが、2008年には16.0%にまで減少しています。
大きく改善してきたとは言え、依然、ブラジルの貧困問題は先進国に比べ深刻です。ルーラ大統領は、「ボルサファミリア」の継続と共に、2009年3月には低所得者向けの住宅100万戸を、340億レアル(約1兆7,300億円)を投じて建設する計画を発表しました。これは、1960年代後半の米国で、ジョンソン大統領の「グレート・ソサエティ」構想に基づき実行されたニューヨークのハーレム地区(黒人が多く住むスラム街)再開発を思い起こさせます。ブラジルは既に中進国となっていますが、これから先進国の仲間入りを果たすには貧困問題の改善が大きな課題と言えるでしょう。
【1月6日 マネックスラウンジ http://lounge.monex.co.jp/pro/hsbc/2010/01/06.html】
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“大きく改善した”とも言えますし、“まだまだ大勢の貧困層が残っている”とも言えます。
市場経済における貧困問題、格差問題は日本を含めた多くの先進国でも近年表面化している問題でもあります。
今後のブラジルにおける貧困問題解決は、ルラ大統領の支援で次期女性大統領に決まったルセフ氏の手腕に託されることになります。
なお、ルラ政権における貧困対策については、中間層からは「税金は高く、貧困層が受ける恩恵もない」「政府がばらまく金のおかけで貧困層は働かなくてもいいが、中間層は押しつぶされている」との不満も強いようです。
経済成長でパイが大きく拡大しているブラジルにしても、国民各層をあまねく・・・というのは、なかなか困難です。
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