孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アイルランド、ポルトガル、スペイン 破綻ドミノ防止に躍起の欧州経済

2010-11-27 19:47:56 | 国際情勢

(11月3日 アイルランド・ダブリン 学費値上げに抗議する学生 “flickr”より By endarowan
http://www.flickr.com/photos/_enda/5144118122/ )

【優等生・「ユーロ圏内のお手本」だったアイルランド】
5月にEUなどから1100億ユーロ(約12兆円)の支援を受けたギリシャに続いて、注目されていた財政危機に苦しむアイルランドが11月21日、EUとIMFに金融支援を要請し、とりあえずの危機をしのいだ欧州経済ですが、そのアイルランドの再建策の行方も不透明で、更にポルトガル・スペインへの警戒感が市場には広がっており、「破綻ドミノ」への大きな火種を残した状態が続いています。

アイルランドは法人税引き下げで外資を集め成功しましたがバブルで破綻、しかしその後の再建でも歳出削減や増税を実施し一時は財政再建の見本とも見られていましたが、景気が回復せず、金融支援に追い込まれました。

****破綻ドミノ EU厳戒 アイルランドに10兆円支援*****
財政難のアイルランドは21日夜、欧州連合(EU)に対し、金融支援を要請した。欧州メディアによると、支援は国際通貨基金(IMF)とあわせ800億~900億ユーロ(9兆2千億~10兆4千億円)にのぼる見通し。ギリシャに続いて2カ国目の救済となり、EUは財政危機の封じ込めに必死だ。(中略)アイルランドを早い段階で救済することで、財政危機がポルトガルやスペインなど他国に広がることを防ぎたい考えだ。
(中略)
ギリシャ支援から、わずか半年の救済劇。しかし、慢性的財政赤字で、共通通貨ユーロを使う通貨同盟のなかでも「劣等生」だったギリシャと、アイルランドの歩みはまったく異なる。
1980年代のアイルランドは、インフレや財政赤字に苦しむ存在だった。それが、1990年代後半からは一転して、「ケルトの虎」と呼ばれるようになった。
武器は、税制優遇だ。法人税を思い切って引き下げたことに、柔軟な労働市場、さらに英語を話す人材などの強みが加味された。IBM、インテル、さらにマイクロソフトなどの米国企業がアイルランドに進出した。いまや働く人の1割が外資関係だ。
そこまでは成功物語だった。しかし、2000年代に入ってバブルの芽が出てきた。オフィスや民間住宅の不
動産開発が進み、金融機関がそこに貸し込んだ。ユーロ圈に入ったことで、金利が欧州中央銀行で決められるようになり、個人も企業も、実力以上の低金利を享受した。肥大化した金融産業に、監督当局も十分な手を打てなかった。(中略)
アイルランドは財政再建でも優等生だった。借金してでも景気を刺激しようとする他国と違って、09年にはすでに国内総生産(GDP)の5%にあたる80億ユーロ(約9200億円)分の歳出削減や増税を実施し、一時、「ユーロ圏内のお手本」とまでいわれた。しかし、景気回復にはつながらなかった。(中略)

危機を早めたのは、ドイツの姿勢だ。
10月中旬、フランス北部ドービル。サルコジ大統領とメルケル独首相の首脳会談が開かれ、過剰な財政赤字を抱えるユーロ圏の国を今後どう扱うかが話し合われた。サルコジ氏は会談後の記者会見で「ユーロ圈の金融安定のための制度を永続させる」と語った。
このときは目立たなかったが、合意には市場を震え上がらせる内容が含まれていた。将来の加盟国救済をする場合には、債務繰り延べなどを通じて国債の投資家にも負担してもらう、というもので、メルケル氏が主張した。国だけで負担することにドイツ国内世論の反発は強く、配慮せざるを得なかった。
この合意は10月末のEU首脳会議も通った。合意はあくまで2013年以降の制度づくりについてだったが、市場は過剰に反応した。EUはギリシャ危機以来、「加盟国は救済しない」との方針を撒回し、「なんでも救済」に走った過去がある。
そして今度は、「投資家が損をすることはない」とのかねての文言がほごにされた。EUの判断の揺れが、国債の売りを誘った。
最大の標的が、今年の対GDP比の財政赤字が32%にふくらむアイルランドだったが、ほかにも及んだ。同じく財政再建が迫られるポルトガルの国債が売られ、10年物国債の金利が一時は7%に達した。(中略)
後手に回ったギリシャ支援に比べれば、アイルランド救済の決定は早かった。しかし、ユーロ体制の問題を根本からただす制度設計はまだこれからだ。【11月23日 朝日】
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【不透明な財政再建計画・予算案の行方】
アイルランドは24日、2014年までの大規模な財政再建計画を発表、12月の来年度予算案通過後の年明けにも議会を解散する考えを明らかにしています。
*****アイルランド、大規模な財政再建計画を発表 法人税は維持*****
財政難に陥っているアイルランドは24日、150億ユーロ(約1兆6700億円)規模の財政再建計画を発表した。2014年までの4年間で公共部門および年金の支出を削減するが、法人税率は維持する。
欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から最大850億ユーロ(約9兆5000億円)の支援を受ける上で、再建計画の提示が求められていた。財政赤字をGDP比32%からEU規則に沿った3%以下に削減することを目指し、付加価値税(VAT)の税率を21%から23%へ段階的に引き上げる。ただし法人税は、外資系企業の誘致に有利な現行税率12.5%を維持する。最低賃金(時給)は1ユーロ引き下げて7.65ユーロ(約850円)とする。
ブライアン・カウエン(Brian Cowen)首相は再建計画について、「粉々になったわが国への信用を回復し、復活への道しるべとなるものだ」と述べた。【11月25日 AFP】
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しかし、野党はこの大きな痛みを伴う再建策に反対しており、アイルランド議会の与野党の議席差が僅かしかない状況から、厳しい緊縮財政措置を盛り込んだ2011年予算案が採択されるかどうかは不透明な情勢です。
26日に行われた下院補欠選挙でも与党は敗北。今後は、対応を明らかにしていない野党統一アイルランド党の動向、予算案賛成に消極的と見られている無所属議員の支持を与党が得られるかが焦点となっています。
予算案が否決されれば、アイルランド救済策も破綻、危機が拡大する恐れがあります。

金融支援については、予想より高めの金利も報道されており、予算案採択にも影響しそうです。
****アイルランド向け金融支援、金利は6─7%=RTEテレビ*****
イルランドが国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)と協議している金融支援について、同国の公共放送RTEテレビは26日、融資の金利が予想を大幅に上回る6─7%となる公算が大きいと報じた。
RTEの記者は「6.7%が平均金利となるようだ。これは予想されていたよりもかなり高い」と述べた。また、一部の関係筋は6.4%、別の関係筋は6.7%としているという。
RTEによると、融資は9年間かけて返済され、アイルランドが支払う金利は年間85億ユーロと、政府の歳入の20%に達する。 
野党統一アイルランド党は6%を超える金利は受け入れられないとの認識を示した。同党のスポークスマンは「仮に金利がその水準なら高過ぎる。IMFの金利を上回る。ギリシャが支払う金利よりも高い」と述べた。
アイルランド財務省のコメントは得られていない。【11月27日 ロイター】
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もうひとつの焦点は、アイルランドが法人税引き上げに応じるかどうかという問題です。
アイルランド経済の根幹をなす低い法人税については、財政再建計画でも維持される形になっていますが、外資を呼び込みたい欧州各国からは、引き上げを求める声が強くあります。
フランスのサルコジ大統領は20日、財政難のアイルランドが欧州最低水準の法人税率(12.5%)を引き上げないことは「想像できない」と語り、財政再建には法人税増税が必要だとの考えを示しています。
外資に頼る経済構造になっているアイルランドは、法人税引き上げで外資が流失すると更に経済が悪化することも考えられます。

【防戦に必死のポルトガル・スペイン】
現在、市場の関心はポルトガル・スペインが支援に追い込まれるかどうかに注がれており、両国の国債は売り込まれています。
両国の首相・財務相やEU関係者は、支援の必要はないとの発表を相次いで行い、火消に躍起となっています。
ここ数日の記事見出しだけあげると、以下のような状況です。

ポルトガルとスペインの債務状況を懸念=カナダ財務相【11月26日 ロイター】
ポルトガル、欧州諸国から救済要請圧力との報道を否定【11月26日 ロイター】
ポルトガルは市場からの資金調達を継続=首相【11月27日 ロイター】
ポルトガル支援、協議する必要ない=スペイン経済・財務相【11月27日 ロイター】
バローゾ欧州委員長、ポルトガル支援めぐる報道を全面否定【11月27日 ロイター】
スペイン首相、外部支援の必要性を完全に否定【11月26日 ロイター】
年内のスペイン国債入札は中止せず=経済・財務相【11月27日 ロイター】

逆に言えば、両国首脳がこうした発言をせざるを得ないほど追い込まれているというようにも見えます。
スペインのサパテロ首相は「スペインにショートポジションをとっている人たちは過ちを犯すだろう」と述べ、スペインに否定的な投資家に警告していますが・・・。
こうしたなか、ポルトガル議会は歳出削減を盛り込んだ2011年予算を可決しました

****ポルトガル議会が2011年予算を可決****
ポルトガル議会は26日、財政赤字を大幅に削減するための歳出削減、付加価値税(VAT)増税を盛り込んだ2011年予算を可決した。
最大野党の社会民主党(PSD)が政府との合意に基づき投票を棄権するなか、少数与党の社会党政権のみが賛成票を投じた。
2011年予算では、公務員の給与を含む公的支出を削減し、VAT税率を2%ポイント引き上げ最高23%とする。
政府はこれらの緊縮財政措置により、2011年の財政赤字を対国内総生産(GDP)比で4.6%に削減することを目指す。10年の財政赤字は同7.3%となる見込み。(後略)【11月27日 ロイター】
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【困難な財政再建】
金融支援で一時的に急場をしのいでも、財政再建に成功するかは別問題です。
****アイルランド:財政危機 ユーロ危機、火種なお*****
ギリシャの09年の財政赤字は、国内総生産(GDP)比で13・6%だったが、EU統計局の精査の結果、15・4%に悪化した。この結果、10年の財政赤字は9・4%と、目標の8・1%を大幅に上回ることが確実となり、ギリシャ政府は追加的な歳出削減策を決める事態に追い込まれた。歳出へ大幅に切り込めば、成長が阻害され、GDP比の財政赤字がなかなか減らないジレンマを抱える。
アイルランドも同様の事態に陥る可能性が高い。政府は、14年までに財政赤字をEUの基準であるGDP比3%に減らす計画を策定中だが、4年間の平均成長率は1・75%に設定した。不動産価格が下げ止まらない中で、予定通りの再建達成は困難が予想される。

欧州各国に「支援疲れ」が出始めているのも気がかりだ。IMFのストロスカーン専務理事は19日、「欧州危機は終わっていない」と指摘した上で、「(欧州各国が)協力した動きがあまりに遅い。政策当局関係者に、汎欧州の視点が欠けている」と、欧州諸国の対応を厳しく批判した。
99年のユーロ発足以来、最大の危機を迎えた欧州諸国の知恵と実行力が問われている。【11月23日 毎日】
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【支援する側の懸念】
支援する側としては、もし返済ができなくなれば自国の税金で問題国を助けることになり、今後そうした事態を想定した不満が出てくることも予想されます。
****ギリシャ:支援金支払い、オーストリアが停止も 12月分、財務相が意向****
オーストリアのプレル財務相は16日、ギリシャの財政再建策が予定通り進んでいないことを理由に、12月に払い込むギリシャへの支援金支払いを一時停止する考えを示した。ロイター通信などによると、同財務相は同日のウィーンでの会合で「現時点では、支援金を承認する理由が見あたらない」と述べた。(後略)【11月17日 毎日】
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支援を受けるかどうか、受けても再建ができるか、支援する側の反発・・・欧州経済は問題山積です。
巨額の債務を抱える日本も他人事ではありません。


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