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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核開発問題  6カ国会合がイランに参加を要請

2009-04-10 21:26:53 | 国際情勢

(イランの“偉大な核開発の勝利”を報じる国内新聞 “flickr”より By daquitaines
http://www.flickr.com/photos/30861547@N02/3217815967/)

【アメリカ 「敵との対話」路線へ】
アメリカ・オバマ大統領はイラン指導部と国民へのビデオメッセージを公開し、3月31日のアフガン安定化のための閣僚級国際会議にもイランの参加を呼びかけ、高官同士の接触を実現させています。
こうしたアメリカのイランとの対決姿勢から対話路線への方針転換は、イランの核開発問題にも及んでいます。

イランの核開発については、過去に軍事転用を意図した研究があったとの疑惑があり、現在製造中の低濃縮ウランの利用計画も十分示されていないとして、安保理常任理事国とドイツはイランに対しウラン濃縮停止を要求しています。

****核問題会合:イランも参加へ 6カ国側が要請決定で***** 
イラン核問題に対処する国連安保理常任理事国5カ国(米英仏中露)とドイツの6カ国会合は8日、ロンドンで高官協議を開き、イランに対し同会合への参加を要請することを決めた。「敵との対話」路線へかじを切った米国もイランが参加する会合に同席し、交渉に加わる姿勢を明示した。
参加要請の決定に対し、イランのジャバンフェクル大統領顧問は9日、「検討のうえ決定したい」と述べた。イランの国営メディアは6カ国側の動きを好意的に取り上げており、イランの参加は確実とみられる。(中略)
今後、イランと米国が参加する協議が定例化すれば、核問題の解決に向けた突破口が開ける可能性も出てくる。オバマ米政権はイランとの「直接対話」を求め、一方のイランは対米関係修復を志向しているからだ。【4月9日 毎日】
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アメリカはこれまで、イランとの直接協議は原則としてEUに委ねてきました。
昨年7月にジュネーブで開かれた協議にイランと同席したこともありましたが、イランがウラン濃縮活動を停止しない限り「交渉」には応じない姿勢を打ち出し、対話の進展はありませんでした。
今回の参加要請にイランが応じれば、核問題をめぐる交渉は新たな段階を迎えることが期待されています。

【イラン NPT(核拡散防止条約)が認める法的権利】
ただ、イラン側は協議に応じる姿勢を示してはいますが、核開発そのものについては一貫して独自の権利として継続する姿勢を崩していません。

****イラン・核技術の日 大統領「新型遠心分離器を試験」*****
イランのアフマディネジャド大統領は同国の「核技術の日」の9日、中部イスファハンでの式典で「従来より性能の高い2種類の新型遠心分離器の試験を行った」と語り、濃縮活動を拡大していることを明らかにした。同時に、新しい核燃料棒製造施設が完成したことに触れて「我が国の核燃料製造はすべての段階が完成した」と述べ、核の平和利用の進展をアピールした。

濃縮活動に関しては、大統領演説に先立ってアガザデ原子力庁長官が、中部ナタンズの施設にある遠心分離器の数が「7千基に達した」と発表した。
一方、アフマディネジャド氏は、国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツの6カ国との核問題に関する協議について「状況は変わった。我々は世界的な(核の)軍縮を歓迎する」と述べてオバマ米政権が打ち出した核軍縮の流れを評価、一定の柔軟姿勢を示した。

イランは05年のアフマディネジャド政権発足で、中断していた自前の核開発を再開。06年4月に低濃縮ウランの製造を達成した日を「核技術の日」に制定しており、この日は4度目に当たる。(後略)【4月10日 朝日】
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アハマディネジャド大統領は演説で、濃縮活動停止を求める国際社会を批判しながらも、公正と尊重に基づくのなら、西側諸国との対話も可能だとの見解を示したとか。

イラン国内において、核開発継続は改革派を含めた国民的合意にもなっており、改革派から大統領選挙出馬を予定しているムサビ元首相も、イランの核開発について、
「イランが加盟するNPT(核拡散防止条約)が認める法的権利だ」
「平和目的であり、イランも強く反対している核兵器拡散の問題と厳密に区別すべきだ。国際社会の平和を脅かすものではない」
「イランの核技術に関する権利が、対米関係修復の犠牲となって、損なわれてはならない」と述べ、核開発問題と対米関係の問題は切り離すべきだと主張しています。

オバマ米大統領はプラハの5日の演説で、「核兵器のない平和で安全な世界」を目指す包括戦略を語っていますが、先ずは、ロシアとの核軍縮交渉と併せて、イランの核開発問題についてどのような道筋をつけられるのかが注目されます。

【日本・イラン アフガン共同支援】
ところで、日本政府もアフガニスタン支援を通じて、イランとの関係を強める動きが報じられています。

****アフガン支援、イランと合同で麻薬撲滅や職業訓練へ…日本政府*****
アフガニスタンの安定化に向け、政府がイランと共同で麻薬撲滅や職業訓練などの支援に取り組むことで合意し、近く発表することが9日、明らかになった。
アフガン安定化は、オバマ米政権が最重要課題と位置づけており、日本としては、米国が国交を持たないイランとの協力を通じ、アフガン復興に貢献する狙いだ。

イランのアッバス・アラグチ駐日大使が読売新聞との会見で明らかにした。共同支援は、〈1〉麻薬の密輸ルートを断つための国境警備強化〈2〉民間部門とも協力した職業訓練〈3〉イラン国内にいるアフガン難民の帰還支援--が柱となる。特に麻薬については、イラン経由で欧州などに密輸され国際問題となっており、イラン側が取り締まりに当たるアフガン警察を訓練する一方、日本が車両などの装備を提供。両国が「得意分野」で貢献することで撲滅を目指す。
大使によると、両国は今月17日に東京で行われるパキスタン支援国会合に合わせて発表する方向で調整中という。イランは、核問題などを巡り国際社会と対立しているが、アフガン安定化では米国などと利害が一致する。日本との支援の枠組みに参加することで、国際的な孤立を脱する狙いもあると見られる。

一方、アラグチ大使は、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、「イランが出来ることがあれば、行う用意があると日本政府に伝えた」と述べた。北朝鮮との国交を利用し、仲介に乗り出す意向を示したもので、既に拉致被害者の家族とも接触したという。北朝鮮とミサイル開発で協力しているとの報道については、「何年も前にあらゆる協力を停止した」と否定した。【4月10日 読売】
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北朝鮮の拉致問題での糸口が見つけられれば上出来ですが、それはともかく、これまで疎遠だった国々が新たな関係を模索する取組みは歓迎されるところです。


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モルドバ  選挙後の暴動で、大統領がルーマニア批判

2009-04-09 20:10:37 | 国際情勢

(モルドバによるルーマニア市民への迫害に抗議するルーマニアの極右団体(Noua Dreapta)のメンバー ルーマニアとモルドバの関係は、双方でいろいろあるようです。 “flickr”より By oaspetele_de_piatra
http://www.flickr.com/photos/oaspetele_de_piatra/3411954240/)

【ルーマニアとの統合と“ヨーロッパの最貧国”】
東欧のモルドバ、あまり馴染みのない国のひとつです。
08年2月19日ブログで、コソボ独立の影響の関連で一度取り上げたことがあります。
そのときのブログから、モルドバの概略を再掲する以下のようなところです。

モルドバはルーマニアとウクライナに囲まれた国で、かつてはソ連を構成していましたが、ソ連崩壊時にモルドバ共和国として独立しました。
歴史的にも、民族・言語的にもルーマニアと一体的な関係にありますので、91年の独立時から、“将来的にはルーマニアとの統合”ということがモルドバ・ルーマニア双方に想定されていました。

しかし、国の東部に位置するドニエスル川東岸地域(別称:トランスニストリア、トランスドニエストル)にはロシア人・ウクライナ人が多く居住しており(ルーマニア(モルドバ)人、ロシア人、ウクライナ人が各々約30%)、91年に「沿ドニエストル共和国」として独立を主張、ロシア・ウクライナ・沿ドニエストル合同の平和維持軍によって停戦監視が行われています。
グルジアのアブハジアと南オセチア同様、国際的には国家として承認されていませんが、モルドバの実効支配が及んでおらず、ロシアの傀儡政権的な状態にあります。

独立後の急速な市場経済化で従来の国営企業を中心とした経済体制が崩壊、更に、トランスニストリア問題で対立するロシアが天然ガス価格の値上げ、最大の輸出品であるワインの禁輸(国際的品質基準を満たしていないという理由)でモルドバに圧力をかけ、“ヨーロッパの最貧国”と呼ばれる状態に陥りました。
現在、共産党が政権を担当し、現実的政策で少しずつ立て直してきてはいるようで、将来的にはEU加盟を目指しています。

ルーマニアとの統合については、経済崩壊もあって、モルドバ側の熱は冷めてきているようですが、ルーマニア側はまだ意欲を示しています。

【選挙で共産党勝利 野党支持者が暴徒化】
そんなモルドバでは、今月5日、総選挙が行われ、与党の共産党が議席の過半数を占めました。

****モルドバ議会選、親ロ派勝利****
旧ソ連のモルドバで5日にあった議会選挙(定数101)は、ウォロニン大統領率いる与党共産党が過半数の52議席を確保して勝利した。同国は一時ロシアとの関係が冷え込んだが、経済面でのロシア依存を強めており、関係改善を進める共産党の外交路線が承認された形だ。ウクライナなど親欧米路線の旧ソ連諸国でも政局は不安定化しており、ロシアの影響力が再び拡大する可能性もある。
選挙は比例代表制で、議会が大統領を選出する。中央選管による得票率(開票98%)は共産党が50%、欧州との統合と経済の自由化を訴えた野党は民主党が13%、自由民主党が12%にとどまっている。野党は選挙に不正があったとして、街頭デモに訴える構えを見せている。【4月9日 NIKKEI NET】
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共産党はロシア一辺倒という訳ではなく、ロシアと欧州との間でバランスを取る外交方針とも言われますが、親欧米の野党との比較ではロシアに近く、最近では、EUの「東方パートナーシップ」(グルジア侵攻後のロシアの勢力拡大に対抗するEUの外交政策)に対し、共産党のウォロニン大統領が「対ロシア包囲戦略である」と批判し、参加を拒否しています。

今回の共産党勝利の選挙結果に野党支持者が反発、一部が暴徒化して大統領府や議会に進入し、治安部隊と衝突する事態となりました。

****モルドバ暴動で治安部隊突入 首都中枢を奪還**** 
旧ソ連のモルドバの首都キシニョフで議会選の結果に抗議する若者ら野党支持者の暴動が拡大していた問題は、8日未明(日本時間同日午前)、治安部隊が大統領府や議会に突入してデモ隊を排除し、政権側が首都中枢部を奪還した。ロシアのインタファクス通信などが伝えた。ただ、野党指導者らは選挙結果の再集計などを要求して抗議行動を続けるとしており、治安当局との衝突が再燃する恐れがある。

キシニョフ中心部では7日、学生など約1万人が抗議行動を行い、一部が暴徒化して大統領府や議会に侵入。大統領府から物品を略奪、議会に放火するなどし、夜間も建物の占拠を続けていた。7日には警官隊との衝突で約100人が負傷、1人が死亡しており、8日未明の治安部隊による急襲でも負傷者が出た可能性がある。【4月8日 産経】
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この暴動を受けて、与党共産党と野党指導者は緊急会談を開き選挙結果を再集計することで合意し、騒乱の収拾を図られました。
選挙結果を不満とする暴動というのは“最近よくある話”で、選挙という民主主義の形式も国民間、国民・国家間の信頼がないと機能しないということです。

【「暴動はルーマニアが関与」】
ここまでの経緯については、個人的には正直なところさほど関心もなかったのですが、今回暴動にルーマニアが関与しているとモルドバ大統領が非難しているとのことで、ルーマニア・モルドバ統合の話、ロシアの旧ソ連圏の勢力拡大にも関連して注目しています。

****モルドバ:「暴動はルーマニアが関与」大統領が非難****
旧ソ連モルドバの首都キシニョフで野党支持者が大統領官邸などを襲撃した暴動をめぐり、同国のウォロニン大統領は8日、隣国ルーマニアが関与したと非難し、駐モルドバのルーマニア大使を追放する意向を表明した。
治安機関が市内を鎮圧し、200人近くを逮捕したが、約270人が負傷するなど混乱が続いている。

インタファクス通信などによると、ウォロニン大統領は暴動の際にルーマニアの国旗が掲げられた点を取り上げ、同国が関与していると主張。ルーマニア外務省は「国内問題の責任転嫁だ」と反論した。
一方、ロシアもルーマニアによる関与の可能性を指摘し、欧州連合に適切な対応を取るよう要求している。
モルドバは、第一次大戦後にルーマニアに併合されたが、第二次大戦時に旧ソ連領に再編入され、ソ連崩壊時に独立した。【4月9日 毎日】
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“暴動の際にルーマニアの国旗が掲げられた”からルーマニアが関与している・・・というのはいささか乱暴ですが、野党勢力はルーマニアとの統合を望んでいるそうですから、普段からルーマニアとの間で親密な関係があったことは充分想像できます。

野党側は8日の記者会見で、「騒動を平和的方向に導こうとして失敗した」と表明。
今後の抗議行動の計画はないとしていますので【4月8日 朝日】、恐らくこの騒動はいったんは終息するのではないでしょうか。
結果的にはロシアの影響力が更に強まりそうな感じです。

【揺れる東欧、拡大するロシア】
グルジアを力でねじ伏せたロシアは、経済的に追い詰められているウクライナにも50億ドルの融資を行う姿勢を見せ、関係強化を図っています。
また、ロシアはベラルーシへも融資を行っていますが、ベラルーシはEUとの関係も保持しています。

経済的に困窮する東欧諸国は、資金と軍事力をちらつかせるロシアとEUの間で揺れている状況ですが、EU主要国自体に余力がなく、また、ウクライナやグルジアへの失望もあって、EU側のアプローチは鈍いところもあります。
この結果、ロシアの影響力が今後更に拡大して、旧ソ連圏再編にもつながるような雰囲気があります。

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タイ  タクシン派の街頭行動とカンボジアとの国境紛争

2009-04-08 21:04:54 | 国際情勢

(タイ首相府を封鎖するタクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)の抗議活動。
赤い服を黄色に置き換えると、昨年の反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)のときと全く同じです。まるでデジャヴュです。
“flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3414493598/)

タイも他国同様、世界的経済危機の中にありますし、以前からの深南部三県のイスラム系住民の分離独立運動という厄介な問題も抱えています。
そうした問題のほかにも、昨年来の内憂外患がなかなかすっきり収束せず困っているようです。

【アピシット首相の車を襲撃】
内憂はタクシン元首相派の街頭活動、外患はカンボジアとの国境紛争です。
どちらも、“相変わらず”といった印象です。

3月30日ブログでも取り上げたように、タクシン派と反タクシン派の政治抗争は攻守を変えて、今度はタクシン派が攻める側にまわっています。
タクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)は新たな総選挙実施を求めて首相府包囲を続けていますが、昨年の反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)のときのように軍・警察・司法・経済界などの旧支配層の支援もなく、また、スポンサーのタクシン元首相も資産を差し押さえられ、居場所も判然としない状況ですので、どこまで街頭活動を継続できるかは難しいところがあります。

そうした事情もあって、タクシン元首相は、国王側近のプレム枢密院議長とスラユット枢密院議員(元暫定政権首相)を名指しで06年のタクシン氏追放クーデターの黒幕だと批判するという、“一線を越えた”背水の陣とも言うべき暴露戦術に出ています。

7日、首相府を使えないアピシット首相はパタヤのホテルで閣議を行いましたが、そのパタヤのホテルもタクシン派が包囲。
閣議終了後にバンコクへ戻ろうとしたアピシット首相の車を取り囲み、ヘルメットで後部ガラスをたたき割るなどの激しい行動もあったようです。

パタヤでは10日から12日の日程で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国などの首脳が参加する一連のASEANプラス3首脳会議が開かれる予定ですが、無事に開催できるか懸念されています。
もともと、この会議は12月に開催される予定でしたが、反タクシン派の街頭行動による政治混乱を受けて、延期されていたものです。

【暴動が起きた場合には強硬手段に出ると警告】
今日8日には、首都バンコクでタクシン派による大規模な抗議集会が開かれました。

****タクシン元首相派、数万人規模の抗議集会 バンコク****
タイの首都バンコクで8日、アピシット・ウェチャチワ首相の辞任を求めて、タクシン・シナワット元首相の支持者らが数万人規模の抗議集会を開いた。これまでで最大規模の抗議集会で、タイの政治的危機が、ふたたび暴動に発展するおそれが高まっている。
タクシン元首相の支持者らが集結するなか、治安部隊が主要政府施設の警護にあたった。7日には、活動家らがアピシット首相の車両を襲撃して窓ガラスを割る事件が起きており、タイ国内の緊張が高まっている。

警察によると、赤いシャツを着た6万人の抗議デモ参加者が、首相府前で「タクシンを復職させよ!アピシット退陣せよ!」とのスローガンを叫んでいる。首相府前では、過去2週間にわたって座り込みの抗議集会が開かれていた。
また、プミポン・アドゥンヤデート国王の最高顧問で、2006年9月のクーデターで中心的役割を担ったとしてタクシン氏が非難しているプレム・ティンスラノン枢密院議長の自宅をデモ隊が包囲し、治安当局と一触即発の事態となっている。
アピシット首相は、タクシン元首相派の要求する政権の退陣と総選挙実施を拒否し、暴動が起きた場合には強硬手段に出ると警告した。【4月8日 AFP】
**********************

【PAD 「理想の政治実現」】
昨年の反タクシン派の空港占拠などに対しては、反タクシン派と同じ立場に立つとも言われる軍・警察は鎮圧などの積極的関与はしませんでしたが、相手がタクシン派となると強硬手段もありえるかもしれません。
“こんなことを繰り返していては・・・”というのも、一応の正論ではありますし。
ただ、そこで犠牲者が出ると、混乱は一気にヒートアップしてしまいます。
ソムチャイ前首相が悩んだ同じ問題に、今度はアピシット首相が悩んでいます。

一方、反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)は「理想の政治実現」を目指し、新党を結成する動きも報じられています。
ただ、PAD幹部のなかには「国会議員の7割を任命制にすべし」との主張もあるようで、「理想の政治実現」とはどういうものか懸念されます。

いずれにしても、PADのこうした動きは、タクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)の行動を更に刺激するものと思われます。

【両軍4名死亡か】
外患のカンボジアとの国境紛争は、昨年段階で収まったのかとも思っていましたが、また死傷者を出す事態に至っています。

タイ軍によると、世界遺産のクメール寺院「プレアビヒア」周辺の係争地内でタイ兵が2日に地雷を踏んで負傷したため、3日早朝から現場の調査をしていた際に巡回中のカンボジア兵との間で交戦が起きたとのことです。
カンボジア軍は、タイ側が同国領内に入ったので警告射撃をしたと説明しています。【4月3日 朝日】
両国軍はロケット砲や機関銃で交戦、タイ兵2人が死亡、両国兵士計13人が負傷しています。【4月3日 毎日】
カンボジア兵2人が死亡したとの情報もあります。

タイとカンボジアは言語的にも近く、カンボジア人がタイのTV番組を観てもほぼ理解できるぐらい近しい関係があります。
ただ“近しい”ということは、それだけ歴史的にもいろんな衝突・抗争を繰り返してきたということでもあり、近年のタイの経済成長、カンボジアへの経済進出に対するカンボジア側の思いもあります。
このあたりは、日本を取り巻く関係国との近親憎悪的関係と同じでしょう。

カンボジアで盤石の政治基盤を固めるフンセン首相が、内憂で混乱するタイ側に揺さぶりをかける・・・といったこともあるかもしれませんし、タイも、国境紛争で“弱腰”との批判は内憂を更にこじらせるので強気に出ざるを得ない・・・という側面も想像されます。

内憂と外患、相まって面倒な状態にあります。



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トルコ  オバマ大統領の“欧州外遊の延長”としてのトルコ訪問を重視

2009-04-07 20:55:15 | 国際情勢

(イスタンブール市街を二分し、ヨーロッパとアジアを隔てるボスポラス海峡 海峡には二本の橋が架けられていますが、現在日本企業の工事で海底トンネルの建設が進められています。
“flickr”より By Travel Aficionado
http://www.flickr.com/photos/travel_aficionado/2280424530/)

【「欧州の一角」】
アメリカ・オバマ大統領は欧州歴訪・NATO首脳会議出席の後、トルコを訪問しています。
アジアとヨーロッパにまたがる国、トルコにとっては、この“欧州外遊の延長”としてトルコを訪問することが非常に重要なようです。

****オバマ大統領:6日トルコ入り 「イスラムとの融和」狙い*****
オバマ米大統領は、フランスでのNATO首脳会議を終えた後、チェコを経て、6日にトルコに入る。
トルコは、イスラム国家との融和を掲げるオバマ政権が世俗イスラムの代表国トルコの役割を重視し、両国の戦略関係の再構築を図ると期待している。
特にトルコは、今回の訪問が大統領の欧州外遊の延長で実現する意義を強調。トルコが「欧州の一角」であるとアピールする考えだ。

「オバマ大統領の訪問はトルコの国際的な重要性を示している」。トルコのギュル大統領は先月27日の記者会見でこう語り、自国の存在感に自信を見せた。トルコは国民の大半がイスラム教徒ながら、徹底した世俗主義を掲げる。イラク駐留軍の撤退やアフガニスタン、中東和平などの難題を抱える米国が、中東地域でトルコが果たす役割に期待しているとの主張だ。
それに加え、トルコが最も重視しているのは、大統領訪問が中東外遊の延長線でなく、欧州外交の流れの中で実現することだ。3月に訪問したクリントン米国務長官もエジプト、イスラエルなど中東歴訪後、いったんブリュッセルに移動してからトルコに戻った。政治日程の都合もあるが、トルコは、米国が自国に対する軸足を中東から欧州に切り替えたとみている。
イスタンブール・ビルギ大学で教壇に立つトルコ紙「ハベル・トルコ」のソリ・オゼル外信部長は「今回のオバマ大統領訪問で最も象徴的なのは、これが『欧州外遊』だという点だ」と分析した。

トルコは長年、欧州連合(EU)への加盟を悲願にしながら、「キリスト教国クラブ」とも皮肉られるEU側から「異端視」され、加盟交渉は停滞してきた。トルコとしては、オバマ大統領訪問で対米関係を強化し、対欧州関係にも弾みをつけたい思惑があるようだ。【4月4日 毎日】
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3月2日ブログで取り上げたように、日本もクリントン国務長官の最初の訪問国になったとか、麻生首相がオバマ大統領が会う最初の外国首脳である云々で騒いでいましたし、同じようなことはイギリスでも見られます。
オバマ大統領が“欧州外遊の延長”でやってくることを重視するトルコを笑うことはできませんが、トルコのEUあるいは欧州に寄せる思いが伝わる話です。

【オバマ大統領 トルコのEU加盟支持】
トルコ・エルドアン政権はイラク戦争当時、米軍が自国領内の通過することを許可しませんでした。
このためアメリカとの関係がやや冷えこみましたが、一方で、中東・イスラム圏に目を向けた独自の外交を強化することにもなりました。
昨年はイスラエルとシリアの間接和平交渉や、アフガニスタンとパキスタンの首脳会談を仲介したほか、イランともエネルギー分野などで協力関係にあります。

今回のオバマ大統領のトルコ訪問は、こうした地域外交で存在感を強めるトルコの重要性を認識したうえでのことです。
ギュル・トルコ大統領との共同会見でオバマ大統領は「トルコと米国は、宗教の自由、そして法による統治の2つの尊重の上に『モデル・パートナーシップ』を築き、国際舞台でそれらの価値観を守っていくことで、世界に模範を示すことができる。東西のメッセージをともに伝えれば、2国はただならぬ影響を発揮できると思う」と褒めちぎっています。【4月6日 AFP】

トルコ悲願のEU加盟については、オバマ大統領は6日の演説で、“トルコのEU加盟によって、イスラム教徒が多数を占めるトルコを欧州にしっかりとつなぎとめることができる”として、トルコのEU加盟を支持しています。
しかし、「キリスト教国クラブ」かどうかはともかく、EU側には“異文化”トルコを警戒する意識が根強く、ハードルを高くしてなかなかトルコの加盟を承認していません。

【サルコジ大統領 「EUにトルコの居場所はない」】
オバマ大統領のトルコ加盟支持にフランスのサルコジ大統領が早速反論しています。
フランスのテレビ局とのインタビューで、「EUの問題はEU加盟国が決めるべきこと」、「わたしは常にトルコの加盟に反対してきたし、今も反対している」と語っています。
サルコジ大統領は以前から、トルコが地理的にアジアに属し、EUにトルコの居場所はないと主張しています。【4月5日 AFP】

【微妙なバランス】
こうしたEU側の冷たい対応に痺れをきらし、失望し、疲れるトルコ国内には、その反動としてイスラムの伝統的価値観を重視する流れが強まる傾向があります。

エルドアン首相率いる与党・公正発展党(AKP)は、公の場所での女性のスカーフ着用を認めるといったイスラムの伝統的価値観を重視するベクトルと、EU加盟を推進する欧州志向のベクトル、両方を併せ持つ政党です。
なかなか微妙なバランスを必要としますが、更に、エルドアン首相はクルド語使用を拡大するなど、クルド問題を抱えるトルコ国内でのクルド人の守護者を任じているそうで、その点でも微妙なバランスの上に立っています。

先月末に行われたトルコ統一地方選挙では、与党AKPは“いまひとつ”の結果だったようです。

****トルコ:与党AKP勝利…統一地方選 07年より得票率減****
トルコで3月29日、統一地方選の投開票があり、エルドアン首相率いるイスラム系の政府与党・公正発展党(AKP)が全体で39%の得票率を獲得し、勝利した。
しかし、07年総選挙時の得票率47%を大きく下回ったほか、重点区に位置づけたクルド人の多い南東部の拠点都市ディヤルバクルの市長選を落とすなど、厳しい結果となった。
改革路線を進めるAKPは外資参入に伴う「バブル景気」で、これまで支持を維持してきたが、世界金融危機のあおりでトルコ国内の失業率は13.6%に上昇。政府の対応の鈍さを非難する声も出ており、今後、政策の見直しも迫られそうだ。(中略)
エルドアン首相は選挙結果について「世論の声を受け止め、教訓を学ばなければならない」と述べて落胆の色を隠さなかった。首相は先に、得票率が47%を下回れば「失敗と考えなければならない」との認識を示していた。 【3月30日 毎日】
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先日のNHK・TV番組が報じるイスタンブール市民の様子は、“イスラム重視対世俗主義”といったことよりも、深刻化する不況のなかでとにかく景気をなんとかしてくれ・・・といった感じでした。
イスラム重視対世俗主義の対立、欧州・EU加盟を切望するもEU側の冷たい対応、クルド問題・・・こうした問題にバランスのとれた対応が可能か、エルドアン首相の今後の姿勢が注目されます。


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オバマ大統領の「核なき世界」への新構想と日本の“誤報”騒動

2009-04-06 21:50:28 | 国際情勢

(在韓米軍のパトリオットミサイル “flickr”より By US Army Korea - IMCOM
http://www.flickr.com/photos/imcomkorea/3017886760/)

【そう、私たちにはできる】
世間の関心は北朝鮮の放った“飛翔体”に集中しています。
そうした現実的脅威のせいで扱いはあまり大きくありませんが、アメリカ・オバマ大統領が5日、公約に掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた包括的構想を初めて示しました。

****米、「核なき世界」へ新構想 オバマ氏が包括演説*****
チェコを訪問中のオバマ米大統領は5日、首都プラハで演説し、公約に掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた包括的構想を初めて示した。1日の米ロ首脳会談の合意に基づき、両国の戦略核をさらに減らす新条約を年末までに策定、これをてこに大胆な核軍縮を進める。核拡散の防止策を探る「世界核安全保障サミット」を米国が主催する意向も表明。【4月5日 共同】
*****************************

もう少し詳しく演説内容を見ると、以下のようなものです。
****オバマ大統領 演説内容**********
全面核戦争の危機は去ったが、(核拡散により)核攻撃の危険性は高まった。米国は、核兵器を使った世界で唯一の核大国として、行動する道義的な責務がある。核兵器のない平和で安全な世界を目指す米国の決意を宣言する。時間はかかるが、世界を変革できることを信じる。そう、私たちにはできる。
核廃絶に向け確実に行動する。
ただ、世界に核兵器が存在するうちは米国は安全な方法で核兵器を維持する。敵を抑止し同盟国に安全を保障するためだ。
 
核弾頭の配備・保有数を削減するため、今年末までにロシアとの新しい軍縮条約の締結を目指し、交渉する。
核実験全面禁止条約(CTBT)発効に向け、(発効条件の一つである米国の)批准を強く求める。
核兵器用の核分裂物質の生産を、検証可能な方法で禁止する新しい国際条約(カットオフ条約)を求める。
核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努める。査察を強化するため資源や権限が必要だ。核拡散を防ぎながら各国が核を平和利用できるよう国際的な枠組み「核燃料バンク」を創設すべきだ。

一方、違反国には相応の処罰が必要だ。今朝、北朝鮮は長距離ミサイルに使えるロケットを発射し再度、ルールに違反した。違反は罰せられなければならない。国際的に強い態度を示すべきだ。
イランが厳格な査察を受けるなら、核を平和利用する権利は認める。しかしイランの核・弾道ミサイル計画が脅威である限り、チェコとポーランドでのミサイル防衛(MD)計画を進める。脅威でなくなれば、欧州でのMD計画は実施しない。
テロリストによる核兵器入手を防がねばならない。これが国際的安全保障への最も差し迫った最大の脅威だ。
拡散の恐れがある核関連物質をすべて管理できる体制を4年以内に築く。そのためロシアと協力を強化する。
核安全保障を巡る国際サミットを米国が来年までに主催する。
平和の追求をやめれば平和は来ない。チェコの人々は一発も銃弾を撃たず核武装した帝国(ソ連)を崩壊させた。【4月5日 毎日】
*************************

【現実主義的な核軍縮論】
3月16日ブログ「“理想論に終わらない現実主義的な核軍縮論”“戦略論としての核軍縮”」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090316)でも取り上げましたが、こうした“核廃絶”に向けた動きが多少なりとも現実世界で関心を持たれるようになったのは、インドやパキスタンだけでなく、北朝鮮までもが核実験に踏み切り、イランも核開発が疑われるというように核兵器が拡散していることへの懸念と、テロ組織が核兵器を手にしてしまうことへの恐怖が大きな要因となっています。【3月16日 毎日】

今後クリアすべきハードルは、ロシアとの第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約の問題、チェコとポーランドで進めているミサイル防衛(MD)計画の問題、イランやお騒がせ北朝鮮などの問題等々、山ほどありますが、それにしても最大の核兵器保有国であるアメリカ大統領の口から「核兵器のない平和で安全な世界を目指す米国の決意を宣言する。」といった言葉が聞かれるとは隔世の感があります。

【“語報”の失態ですまない場合も】
一昨日、北朝鮮の“飛翔体”に関して、語報騒ぎがありました。
「こんなことで日本の国防は大丈夫なのか?」といった見方がもっぱらですが、私はそうした思いと同時に、「やっぱり核兵器に守られた世界というのは随分と危なっかしいものだ」という感を強く持ちました。

ミスの原因はいろいろ報じられていますが、こうした人為的ミスは必ずつきまとうものです。
ミスを犯すのは日本の自衛隊だけではありません。
今回の“飛翔体”には核兵器は搭載されていませんし、迎撃態勢をとる日本側も核を保有していませんので、“語報”の失態ですみますが、同様の人為ミスがアメリカとロシアの間で起こったらどうでしょうか?

それが非現実的と言うなら、ともに核もミサイルも保有するインド・パキスタンの間ならどうでしょうか?
これまでもたびたび一触即発の緊張関係を経験している国です。
万一、パキスタンから核ミサイルは発射されたというふうにインドが誤って判断したら・・・。
仮に報復のミサイルのボタンは押さなくても、そうした“誤報”が流れただけでも国内のヒンドゥー教徒対イスラム教徒の対立は一気に爆発して、血で血を洗う虐殺を招く・・・そうした事態も考えられます。

今回もそうですが、核ミサイルについては1秒を争うスピードで判断が求められます。
そこには、いろんな要素を熟慮して・・・という余裕はなく、反射的な瞬時の対応が求められます。
それ故、今回のような人為ミスが重大な結果に結びつく危険が存在します。

そうした“誤報”騒ぎへの思いからすると、「核兵器のない世界」を夢物語とか平和ボケとして一蹴するのではなく、一歩でもそこへ近づく努力がやはり必要なのではないかと思った次第です。


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パキスタン  イスラム法による司法、公開女性むち打ち

2009-04-05 13:27:31 | 国際情勢

(パキスタン・スワート地区の行政の中心地サイドゥ・シャリーフ 学校に通う子供達 未だに教育、特に女性の教育は充分とは言えませんが、タリバン支配のアフガニスタンでは女性教育はもちろん、女性が男性親族の同伴なしに家から外に出ることさえ認められていませんでした。“flickr”より By Edge of Space
http://www.flickr.com/photos/ejazasi/289307068/)

【ミサイル攻撃と自爆攻撃】
オバマ大統領は3月27日、対アフガニスタン包括戦略に関して、アフガニスタンではなくパキスタン対策から説明を始めたそうです。
アフガニスタン安定化には、アルカイダがパキスタンを「安全な隠れ家」とし、武装勢力が国境を自由に行き来している現状を変えることが「不可欠」と判断したためです。
「(新戦略の)目標はパキスタンとアフガンのアルカイダを解体、打倒することだ」と強調、パキスタンには「今後5年間、年15億ドルの直接支援」を約束し、アルカイダの掃討を強化するよう迫っています。

その新戦略の要となるパキスタン部族支配地域に対するアメリカの攻撃に、国民の反米感情もあってパキスタンは表向き反対していますが、攻撃自体は激しさを増しているようです。

****パキスタン:アフガン駐留米軍のミサイル、攻撃範囲が拡大*****
アフガニスタン国境に近いパキスタン部族地域「オラクザイ管区」に1日、アフガン駐留米軍の越境ミサイル2発が着弾し、武装勢力メンバーとみられる10人が死亡、7人が負傷した。同管区へのミサイル攻撃は初めてで、攻撃範囲が拡大している。【4月1日 毎日】
**************************

****パキスタン:アフガン米軍のミサイルで市民ら10人死亡*****
パキスタン部族地域・南ワジリスタン管区に4日、アフガニスタン駐留米軍のミサイルが着弾し、地元住民によると、市民ら少なくとも10人が死亡した。地元当局者は、死者に武装勢力メンバーも含まれているとしている。北東約120キロのペシャワル郊外では3日、アフガンのNATO軍に搬送予定だった軍用車両9台が武装勢力に破壊された。 南ワジリスタン管区は、米国が賞金を掛けて行方を追う武装勢力のメスード最高司令官の拠点。【4月4日 毎日】
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一方、武装勢力側の自爆テロ攻撃もエスカレートしています。

****パキスタン:自爆テロで市民ら18人死亡******
パキスタン部族支配地域・北ワジリスタン管区で4日、走行中の政府軍の車列の近くで車が爆発。子供4人を含む市民15人と兵士3人の計18人が死亡、20人以上が負傷した。死者は増える見込み。武装勢力による自爆攻撃とみられる。
現場は診療所の近くで、爆発が起きた道路にも患者の列があふれていた。猛スピードで車列に近づいてきた車に兵士らが発砲し、直後に爆発した。【4月4日 毎日】
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****パキスタン:自爆テロで3人死亡 首都の要人居住地区******
パキスタンの首都イスラマバードの外国人や政府要人が居住する地区で4日夜、男が自爆し、警備に当たっていた治安部隊員3人が死亡、20人以上が負傷した。死者は増える見込み。武装勢力による犯行とみられる。この地区は治安要員による24時間態勢の警備が続いているが、自爆攻撃は初めて。
武装勢力は「米国の越境ミサイル攻撃が停止されなければ政府への攻撃も続ける」としており、首都の治安は混迷を深めそうだ。
イスラマバードでは同日夕、日本大使館などがある外交使節地区のそばで、自動小銃や手投げ弾などで武装した男6人が逮捕されている。1台の車に乗り、地区方面に向かっていたところを検問中の治安部隊が発見した。【4月5日 毎日】
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【武装勢力との和平協定】
こうしたなかで、当事者のパキスタン政府は2月に、国境隣接地域の武装勢力と次々に和平協定を結び“停戦”を行っています。

****パキスタン:武装勢力と和平協定 イスラム法導入容認******
パキスタン政府は2月16日、アフガニスタンの武装勢力タリバンと連携関係にある北西辺境州スワート地区の武装勢力と、和平協定の締結で合意した。政府が同地区にイスラム法の導入を認め、武装勢力は地区内での武力闘争を放棄する内容。パキスタン国内には和平歓迎のムードが強いが、停戦で武装勢力はアフガン入りしてタリバン支援に乗り出す可能性が高い。米国は反発を強め、パキスタンとの溝が深まりそうだ。
スワート地区の武装勢力は、01年10月に米軍がアフガン攻撃を開始した後、反米闘争のためアフガンに約1万人のメンバーを送り込んだことで知られる。
 
同地区での和平合意は昨年5月に続き2回目。前回は、米国の圧力を受けた政府がイスラム法導入の協定内容を守らなかったことなどから、同8月に破棄された。
以来、双方の激しい戦闘が続き、学校や病院は閉鎖され、住民の生活は破綻(はたん)。昨年11月のインド・ムンバイ同時テロ事件後、政府軍はインドとの軍事的緊張を背景に戦闘部隊を縮小して劣勢となり、武装勢力が地区の9割を実効支配。住民は武装勢力支持へと傾いている。

合意後にペシャワルで記者会見したアミール北西辺境州担当相は、「イスラム法の導入は地区住民の民意に従ったものだ」と強調。パキスタンの主要メディアも「住民の生活を守る最善策だ」(アージ・テレビ)などと合意を支持している。
パキスタン政府幹部によると、アフガン駐留米軍による越境ミサイル攻撃が続くパキスタン側のアフガン国境地域では、家族や親類を失った住民が次々と反米勢力に参加し、国内治安も悪化した。
政府は、オバマ米政権に「越境攻撃は逆効果だ」と停止を求め続けているが、16日にも米軍無人攻撃機による越境空爆があり、30人が死亡した。和平合意は、強硬姿勢を崩さないオバマ政権に対するパキスタン側の強い不信感を示した形だ。【2月17日 毎日】
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【イスラム法による司法】
こうした経緯でイスラム法(シャリア)による司法が認められたスワート地区での、女性に対する公開むち打ち刑の様子が明らかになっています。

****女性むち打ちの映像、パキスタン当局が捜査へ*****
パキスタン当局は3日、同国北西部、シャリア(イスラム法)による司法が認められた旧リゾート地のスワート地区で女性がむち打ちの刑に処せられている様子を収めたビデオ映像に対する捜査を命じた。
映像は携帯電話で撮影されたとみられ、2人の男に足と肩を押さえられたブルカ姿の女性が叫び声を上げる中、ターバン姿の男に34回にわたってむちを打たれる様子が記録されていた。

スワート地区では2月、イスラム原理主義組織タリバンを支持するイスラム教聖職者とパキスタン政府との間で、同地区の司法制度としてイスラム法を唯一のものとして採用する協定が結ばれた。
これに対し国際社会からは、タリバンと国際テロ組織アルカイダの拠点であるパキスタン北西部一帯の武装勢力を増長させることになるとして懸念の声が上がっていた。【4月4日 AFP】
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パキスタン当局によるビデオ映像に対する捜査の趣旨がわかりません。
こうした公開処刑を遺憾とするものなのか、それとも、こうした情報を公開したことに対するものなのか?
もし前者であるとすれば、2月の武装勢力と和平合意の時点で、こうしたことが行われることは予想されたことであり、今になって・・・という感も禁じ得ません。

アメリカがアフガニスタンでの闘いを重視するのは、9.11のようなテロに対する闘い(最近このような言葉は使わないようですが)の観点がありますが、アフガニスタン・パキスタン部族支配地域でのタリバン支配に対する私個人の懸念は、日本的価値観からすると人権、特に女性の権利が無視される政治・社会に対する違和感・嫌悪感があります。

こうしたものは文化・宗教の違いであって、現地の人々がそれを望むならそれも仕方ないのかもしれませんが。
また、程度の差はあっても他のイスラム諸国でもみられることであって、それを理由に外国勢力が武力で侵攻することを正当化することもできないものでしょうが。

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オバマ政権、イラン・ミャンマーとの関係修復の動き

2009-04-04 13:37:19 | 国際情勢

(1988年3月13日、ラングーン工科大学(現在のヤンゴン工科大学)付近の喫茶店で学生が地区の有力者の息子らと口論となり、やがて学生デモ隊と治安部隊の衝突に拡大。安部隊の発砲により学生活動家ポ―モウ(Phone Maw)らが死亡しました。この事件は大規模な民主化要求運動へと展開しましたが、学生・僧侶数千人が国軍によって殺害される結果となりました。
21年後の今年3月13日、ロンドンのミャンマー大使館前で行われたミャンマー軍事政権への抗議活動 
ロンドンなど国外でのこうした抗議活動だけでは、現状は変わらないのも現実です。変化に向けた現実的対応がやはり必要なのでは・・・。“flickr”より By totaloutnow
http://www.flickr.com/photos/totaloutnow/3381181600/

【イランにビデオメッセージ】
アメリカ・オバマ大統領は、ブッシュ政権時代の一国主義・戦闘重視の姿勢から、敵対国家との対話・国際協調を重視する姿勢に舵を切っています。
そのひとつの表れが、広く報じられている先月のイランへのビデオメッセージです。

****米大統領:対話を直接呼びかけ イランにビデオメッセージ*****
オバマ米大統領は20日、ホワイトハウスのホームページで、イランの国民と指導者に向けたビデオメッセージを出し、「米国とイラン、国際社会の建設的な関係」を求めた。米大統領が断交中のイラン側に関係改善を直接呼びかけるのは初めて。
メッセージは20日のイラン暦元日を祝う形で発表された。オバマ大統領は、両国間には深刻な相違点があるが、米国はあらゆる課題に立ち向かう外交を展開しており、イランとも「誠実でお互いへの敬意に基づいた関与を求める」と述べた。
大統領は一方で、「テロや武器ではなく、平和的な行動」が必要として、イランにテロ支援や核開発の停止を要求。「両国民の新たな交流や、協調と通商の機会を伴う将来」があると強調し、イランに政策転換を迫った。
オバマ大統領は先月末のイラク戦略発表の際、地域安定化のためイランやシリアを含む周辺国との対話を打ち出しており、20日のイラク開戦6年に合わせた今回のメッセージもその一環とみられる。【3月20日 毎日】
*************************

こうした動きは単に“話し合い外交”という理念だけの問題ではなく、イランの場合、6月のイラン大統領選を踏まえてイラン側の各政治勢力や候補に米国への対抗や敵対をあおることを抑える計算、更に、イランの核兵器開発とみられる動きが予想以上に前進していることが国際原子力機関(IAEA)の新たな報告で明らかにされたことなど、現実的な要因があるとも伝えられています。【3月23日 産経】

また、イラン側の反応も、直接対話に即時に応じるというものではありません。
イランの最高指導者ハメネイ師は「(オバマ大統領は)変革を口にしてはいるが、実際には何らの変化も見受けられない」と述べ、直接対話に即座には応じられないとの考えを示唆しています。

【変化の兆し】
ただ、ハメネイ師は「あなたが変わるなら、われわれの行動も変わる」とも語り、今後の対話には含みも持たせています。
現実的動きとしては、オランダ・ハーグで開催されたアフガニスタンの安定化に関する国際会議にイランも出席する形で、変化が見えはじめています。

****米国とイランの高官が接触 アフガニスタンの再建では意見一致****
ヒラリー・クリントン米国務長官は、3月31日にオランダ・ハーグで開催されたアフガニスタンの安定化に関する国際会議で、米、イラン両政府の高官が短時間、直接接触したことを明らかにした。バラク・オバマ政権にとって、イラン側と直接接触するのは今回が初めて。
米、イランの両国はアフガニスタンの再建という点では意見が一致したものの、イランは米軍のアフガニスタン増派について、イスラム原理主義組織タリバンを壊滅させることはできないとの見方を示し、長年対立してきた両国の和解にはほど遠いことを示した。【4月1日 AFP】
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オバマ大統領は“武器だけでは解決できない”として、文民派遣による民生支援拡充、多国間の協力枠組み構築を一体的に進める新戦略を打ち出していますが、アフガニスタンへの1万7千人増派に続いて4千人追加増派を決定し、軍事増派路線も強めています。
ハーグでのアフガニスタン安定化国際会議も、アフガンに対する軍民両面の支援強化を盛り込んだオバマ米政権の新戦略を評価、国際支援の拡充と連携をうたった議長声明を発表して閉幕しました。

【“武器だけでは”と“武器では”】
こうした路線に対し、戦闘を止めない限りアフガニスタンの問題は解決しないという批判もあります。

****アフガン安定化会議:「現場の願いと違う」 市民から批判の声*****
アフガニスタン安定化国際会議は31日、軍民両面での支援強化をうたう議長声明を発表したが、アフガンやパキスタン市民の間には「現場の願いとずれがある」との批判の声があがっている。
戦闘を続ける限り市民生活は安定せず、軍に守られた民生支援が、かえって武装勢力による攻撃対象となり、市民と非政府組織(NGO)の信頼関係を損なうとの懸念がある。

米国が「テロリストの巣窟(そうくつ)」として攻撃するパキスタン部族地域出身のジャーナリスト、ナシル氏は「貧困が深刻化したのは(01年からの)対テロ戦争の後だ。戦争の呼称を変えても意味がない。戦争の終結こそが貧困対策だ」と強調する。
現地では北大西洋条約機構(NATO)軍の戦闘拡大で市民の犠牲が増え困窮が深まる一方、旧支配勢力タリバンが伸長している。「武装勢力との和解なしに問題は解決しない」との共通認識が広がっており、アフガン、パキスタン政府は武装勢力との対話を探る。

しかし、オバマ米政権は米軍を増派して戦闘を継続する構えで、安定化会議でもこの戦略は支持された。
一方、アフガンで支援を続けるNGOには、軍隊が文民を保護しながら支援に乗り出すことに危機感がある。
安定化会議ではNATO空爆による市民の犠牲について議論は乏しかった。アフガン内務省幹部は「派兵する各国の責任を帳消しにした」と分析。カルザイ・アフガン大統領の側近は「米国は世界をリセットした」と批判した。【4月1日 毎日】
************************

理念としては“武器だけでは”と“武器では”の間には大きな隔たりがありますが、国内政治・経済を安定させ、武装勢力との和解を探る現実的選択肢としては、そんなに隔たりはないとも思えます。
アメリカの増派に反対するイランとの間にも隔たりはありますが、宗教的問題や麻薬・犯罪の流入の観点からタリバンが拡大するアフガニスタンの現状を良しとしないイランとアメリカの協調も充分に可能であるように見えます。

【米国務省、ミャンマーへ担当部長派遣】
上記のような話を含め、オバマ政権とイランとの関係はいろいろ報じられているところですが、もうひとつの敵対国、ミャンマーとアメリカの間でも若干の動きがあるようです。

****米のサイクロン被災支援、ミャンマー政府系TVが初報道*****
ミャンマーの国営テレビなど政府系メディアは1日、対立関係にある米国が昨年5月のサイクロン被災者を支援する様子を初めて伝えた。
オバマ米政権が、経済制裁など強硬路線一辺倒だった対ミャンマー政策の見直しを進めていることから、対米関係改善に向けた動きとみられる。

報じられたのは、米国の代理大使らが1日、1万6620トンの米を最大被災地エヤワディ管区で配布する様子。米国はこれまで、総額7400万ドル(約73億6000万円)相当の支援を行ってきたが、在ヤンゴンの消息筋によると、政府系メディアが米国の支援に触れたことはなかった。
ブッシュ米前政権は、ミャンマー軍事政権が2003年に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを拘束したのを受け、全面禁輸や送金停止などの経済制裁を発動。その後も追加制裁を行った。だが、オバマ政権は「制裁はほとんど効果がなかった」(クリントン国務長官)として方針転換を表明、3月下旬には国務省の担当部長をミャンマーに派遣した。【4月2日 読売】
**************************

【事態改善へ向けた現実的対応】
この件に関する報道は他になく詳細はわかりませんが、アメリカはミャンマー軍事政権との関係についても見直しに動いているようです。
対話・交渉の相手とすることは、ミャンマー軍事政権を認めることにもなります。
ミャンマーでは来年、20年ぶりとなる総選挙が行われる予定ですが、既に成立した新憲法で国会議員の25%を国軍司令官が指名するとなっていることや、スーチーさんらの選挙参加が認められない形になっていることなど、民主的選挙とは呼べないものになっています。

軍事政権を交渉相手とし、また、現体制維持を前提にした民主的とは言いがたい総選挙に参加することは、現状を認めることにもなり忸怩たるものがあります。
しかし、軍事政権を支える中国の存在、ASEANに打開策がない現状、サイクロン被害者を見捨てるような国内政治、民主化運動への弾圧、ロヒンギャ難民にみられるような少数民族対策・・・等々を考えると、自己満足的に批判だけしていても一歩も前進はなく、国内で暮らす人々のためにいくらかでも事態の改善につながる道を探るべきではないかと思えます。

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イスラエル  右派ネタニヤフ政権の外相に「我が家」のリーベルマン党首

2009-04-03 21:29:17 | 国際情勢

(中東訪問中のクリントン国務長官と会談するネタニヤフ新首相(会談時はまだ首相に就任していませんでしたが。)
中東和平に消極的なネタニヤフ氏は最初の首相時代、夫のクリントン元大統領とはうまくいきませんでしたが、今回はどうでしょうか。“flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/3326623890/

【対パレスチナ強硬派の右派政権】
イスラエルでは周知のとおり、右派リクードを軸とする連立内閣が組閣され、中東和平への先行きに対する懸念が強まっています。

****右派軸のネタニヤフ新内閣発足 イスラエル*****
イスラエル国会(定数120)は3月31日深夜、右派政党リクードのネタニヤフ党首が提出した組閣名簿を賛成多数で承認し、ネタニヤフ氏を新首相とする連立内閣が発足した。パレスチナ政策で強硬姿勢をとる右派を軸としているため、中東和平でいっそうの停滞が懸念されている。
ネタニヤフ氏は承認に先立つ国会演説で、パレスチナとの和平について言及。「イスラエルの脅威とならない権限すべてを与える合意が可能だ」と述べたが、パレスチナ国家樹立には具体的に言及しなかった。

新政権はリクード(議席数27)のほか、右派の「イスラエル我が家」(同15)、シャス(同11)、「ユダヤの家」(同3)に左派労働党(同13)を加えた5党(計69議席)の連立。右派中心の連立に反発し、国会での承認では投票しない労働党議員も数人いた。ネタニヤフ氏は政権基盤を安定させるため、右派政党のユダヤ教連合(同5)との連立交渉を進めている。
外相には、イスラエル国内のアラブ系住民の排斥を主張する「我が家」のリーベルマン党首、国防相には前政権から引き続き労働党のバラク党首が就任した。【4月1日 朝日】
*************************

その後、ユダヤ教超正統派の政党、ユダヤ教連合(5議席)も新政権参加で合意しました。
これで、ネタニヤフ政権は6党での連立となり、国会定数120のうち74議席を占めています。

かつて首相を務めた際、当時のアメリカ・クリントン大統領との関係がうまくいかなかったネタニヤフ氏は、当初第1党である中道政党カディマとの大連立によって外交上の選択肢を広げることを試みましたが、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」をネタニヤフ氏が確約しなかったことでこの試みは失敗しました。

【「2国家共存」への賛否は明言せず】
ネタニヤフ氏は国会演説で「イスラエルはこれまで以上にアラブ、イスラム諸国との包括和平の達成に努力する」と強調しましたが、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」への賛否は明言していません。

****「パレスチナとの和平交渉の用意ある」=ネタニヤフ・イスラエル首相*****
イスラエルの右派主導内閣を率いるネタニヤフ首相は31日、国会の同内閣信任投票に当たって演説し、パレスチナと和平に向けて話し合う用意があると述べた。
同氏は「パレスチナ自治政府の指導者に向かって話している。もし真に平和を欲するなら、和平合意は可能だ」と述べた。同氏はしかし、テロに対しては最後まで戦う決意を強調し、「平和のためにはパレスチナもまたテロと戦うことが必要だ。彼らは子供たちを平和の中で育て、パレスチナ人がイスラエルをユダヤ人の故国と認めるための準備をしなければならない」と語った。
同氏は和平の最終合意に向けて自治政府と協議を行う意思を表明し、他国民を支配することは望んでおらず、最終合意ではパレスチナ人は、イスラエルの存在と安全を脅かすような事柄を除いて、自らを統治するすべての権利を持つだろうと述べた。【4月1日 時事】
********************

左派労働党の連立入りは意外な感じも受けましたが、“国会第1党の中道政党カディマが政権入りを拒否している状況で下野しても埋没しかねず、危機感を募らせていた。 労働党のバラク氏は24日朝、ネタニヤフ氏と会談。自らが留任する国防相など5閣僚のポストと、新政権が中東地域の包括和平の実現を目指し、パレスチナ国家との「2国共存」を順守するなどの言質を条件に、連立参加に合意した。”【3月25日 毎日】とのことです。
ただ、党内には右派政権への参加に根強い反発があります。

イスラエルの大統領はかつて左派労働党に属し、その後中道カディマ支持に変わったペレスですが、ペレス大統領は、大統領公邸で開いた新政権発足を祝うセレモニーで、対パレスチナ強硬派のネタニヤフ首相に、中東和平の実現に向けイスラエルとパレスチナの「2国家共存」構想を追求するよう促しています。

一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、ネタニヤフ首相について「『2国家共存』を信じていない。占領地でのユダヤ人入植地の拡大も凍結しないだろう」と不信感を隠さなかったと報じられています。【4月1日 毎日】

【リーベルマン外相 アナポリス会議の覚書を否定】
ネタニヤフ首相の考えがどこにあるかもさることながら、外相に極右政党とも分類される「我が家イスラエル」のリーベルマン党首がついたことも、今後の中東和平の懸念材料です。

****イスラエル:新外相、和平交渉再開に消極的発言****
ネタニヤフ・イスラエル政権の外相に就任した極右わが家イスラエル党首のリーベルマン氏は1日、外務省職員らを前に演説。前政権とパレスチナ自治政府が約7年ぶりに和平交渉を再開する根拠となった米アナポリスの中東和平国際会議(07年11月)での合意について、「既に効力はない」などと発言した。
米国主導で開かれた同会議には約40カ国が参加し、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」の堅持を確認した。リーベルマン氏は一方で、同じく「2国家共存」を掲げる米露、欧州連合(EU)、国連が03年に提示した新中東和平案(ロードマップ)には「従う」と述べたが、和平に関する新政権の消極性を改めて印象づけた。【4月1日 毎日】
*************************

中東和平に関する考え方はネタニヤフ新首相もリーベルマン外相も共通しており、「エルサレムの帰属とか入植地からの撤退という問題からではなく、パレスチナの経済発展と(イスラエルに危害を加えることがないように)治安部隊の強化・安全保障の確立から着手すべき」というものです。

リーベルマン外相はかねてより、イスラエル国内のアラブ系住民の排斥を意図しているともいわれています。
具体的には、第3次中東戦争以前からのイスラエル領であるワディアラ地区のアラブ人をパレスチナ自治区に移住させて、パレスチナ自治区内のイスラエル人入植地をイスラエルに併合すべきと提案しています。
こうした、アラブ系住民排斥の背景には、人口増加率からして、将来イスラエル国内においてアラブ系住民(現在、イスラエル総人口の20%)がより大きな比重を占めるようになる事態、イスラエルが“ユダヤ人の国家”でなくなる事態をユダヤ系イスラエル国民が恐れているとも言われています。

リーベルマン外相は就任後初の演説で、上記記事にあるように「イスラエルに履行義務がある文書は1つきりで、それはアナポリス会議の覚書ではない。ロードマップだけだ。イスラエル政府と議会は、アナポリスを一度も承認してはいない」と発言。
パレスチナ自治政府側はこれに反発。“リーバーマン外相は「和平の障壁」だ”と非難し、国際社会に対し、イスラエルに対話路線に戻るように圧力をかけるよう要請しています。【4月2日 AFP】

そのリーベルマン外相が就任早々、警察から収賄や資金洗浄(マネーロンダリング)などの疑いで事情聴取を受けたことが報じられています。
リーベルマン外相は、容疑を否定する一方、「(捜査に)政治的な思惑があるのは明らかだ」と反発しています。
“国策捜査”批判というところでしょう。
イスラエルのメディアによると、リーベルマン氏に対する捜査は13年前から続いているそうです。
警察は、この日の聴取予定は数日前からリーベルマン氏側と調整しており、今後も捜査は継続するとしています。【4月3日 毎日】

【ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地で事件】
もうひとつ、今後への影響が懸念される事件も報じられています。

****パレスチナ人が斧でユダヤ人少年を殺害、西岸入植地****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地バトアインで2日昼過ぎ、少年2人が斧(おの)を持ったパレスチナ人の男に襲われ、13歳の少年が死亡、7歳の児童が負傷した。男は逃走。イスラエル軍が大規模な捜索を実施し、ラジオやテレビを通じて住民に外に出ないよう呼びかけるなど、町は騒然となった。
バトアインは西岸南部ベツレヘムの南西にあり、イスラエル入植地の中でも急進派が多いことで知られる。
負傷した児童の父親は、2002年にエルサレムのパレスチナ人女学校襲撃を企てた罪で、現在服役中。
町の人口は1000人ほどで、普段はパレスチナ人を町中に入れることはないという。

イスラム原理主義組織「イスラム聖戦」と「イマド・ムグニエ・グループ」という組織が、AFPに対し電話で犯行を認め、西岸の各メディアに向けて声明を発したが、ガザ地区のイスラム聖戦は関連を否定している。

事件に対し、イスラエル右派新政権のベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「断固とした政策」で応じると述べ、パレスチナ自治政府にも同様の対応を取るよう求めた。【4月3日 AFP】
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“イスラエルで右派主導のネタニヤフ政権が発足直後の事件だけに、不穏な空気が漂っている。”【4月2日 毎日】とも。
大きな混乱に繋がらなければいいのですが。

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北朝鮮  脱北ビジネスにも経済危機の影響

2009-04-02 22:05:52 | 国際情勢

(中国吉林省延辺朝鮮自治州の豆満江をはさむ北朝鮮国境 “flickr”より By kenpower
http://www.flickr.com/photos/kenpower/162681966/in/photostream/)

世の中、需要のあるところにはビジネスが生まれます。
誘拐が多発する南米コロンビアでは、拉致したゲリラ側との交渉にあたる交渉人、誘拐された場合の身代金支払いのための誘拐保険など、誘拐ビジネスが盛んだとか。
一方、脱北希望者が多い北朝鮮・中国国境では、脱北を仲介するブローカーによる脱北ビジネスが行われています。
そして、ビジネスである以上、景気の動向に左右されるようです。

****脱北者:ブローカー動かず激減 韓国からの支援金細り****
北朝鮮から中国へ逃れる脱北者が大きく減っている。国境を接する中国吉林省延辺朝鮮族自治州延吉。
脱北ビジネス最大の拠点だが、脱北者を手引きし、暗躍してきたブローカーらの動きは今、止まったまま。
中朝国交樹立60周年の今年、国境警備が強化されたほか、金融危機などの影響で韓国から彼らへ渡るカネが途絶えたためだ。ただ、ブローカーに支えられた脱北は「必要悪」でもある。国境の向こうで困窮しきった人々が滞る。【延吉で西岡省二】
延吉の喫茶店。50歳代男性の中国人朝鮮族ブローカーがたばこの煙を吐き出した。「北朝鮮のミサイル発射? 関心ないよ。それより客がいないんだ」。「客」とは脱出を試みる北朝鮮住民。地元の公安関係者も「北朝鮮から逃れて来た者はここ1年、大きく減った」と証言する。
男性は中国の元軍人。国境の図們江(朝鮮語名・豆満江(トゥマンガン))を渡った脱北者を延吉のアパートにあるアジトへ移す役割だ。男性によると(1)北朝鮮側の協力者と連携し、国境越えを手引きする越境班(2)男性ら輸送班(3)アジトの管理班(4)北京などへの遠距離輸送班--などがある。脱北者が韓国亡命に成功した場合、謝礼に相当する手数料は主に韓国の支援団体が提供する。

脱北が減ったのは韓国側の事情が大きい。「中国のブローカーに渡る手数料は1人平均10万元(約140万円)かかる」(支援団体関係者)とされる。男性の依頼主は韓国の宗教関連団体で、企業や個人寄付も有力資金源だったが「韓国経済が冷え込んで寄付が激減し、カネの流れが悪くなった」と付け加えた。
また、韓国政府は脱北者へ支給される「定着支援金」が支援団体を経由し、手数料支払いで消える例が多いとみる。政府は脱北者を対象にした定住教育で、手数料を支払わないよう指導を強化する。
ブローカーの手引きなしに脱北者は国境を渡れない。男性は「いつでも動く。だが、カネが必要だ」と話す。【3月30日 毎日】
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記事にもあるように、脱北者が減少しているのは景気悪化のよるカネの流れの悪化以外に、国境警備が強化されたこともあります。
延吉の近く、図們江の状況に関する記事もありました。
図們江は、取材中の米国人記者2人が北朝鮮当局に身柄拘束される事件が起きた場所でもあります。

****脱北者取り締まり、両国で強化*****
図們江は春になっても凍りついたまま。人影もない。川幅は狭いところで約20メートル。外部から来た多くの人が「越境は簡単」と錯覚する。
だが、北朝鮮側には約50メートルごとに監視小屋が建てられたり、土中に穴が掘られ、中で朝鮮人民軍兵士が24時間見張っている。
中国側も脱北が相次いだポイントに監視カメラを設置。国境線から200メートル以内に人が侵入すれば、国境警備隊が出動する。昨年の北京五輪前、中国側は多くの河川敷に鉄条網を張った。
中朝国交樹立60周年に合わせ「中朝友好年」と定めた今年は、さらに神経をとがらせる。「中国政府は脱北者問題で北朝鮮を刺激したくない」。延吉の脱北ブローカーの見方だ。【3月30日 毎日】
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上記記事では、中国東北3省(吉林、黒竜江、遼寧)に潜伏する脱北者は3万人との推測が紹介されています。
多くが90年代後半以降、越境してきた「長期滞在組」で、朝鮮族に嫁ぎ、地域社会に溶け込んだ女性も多いとか。
ただ、警察への通報をちらつかせて脱北者の人身売買や性的関係を迫る悪質ブローカーも後を絶たず、韓国の人権団体などが改善を訴えているとも。

国民が生活苦から国を捨てざるを得ない状況で、衛星だかミサイルだかに執着する政治というものは、外交的にはどうであれ、常軌を逸しているようにしか思えませんが、そのような常識が通用しない国でもあります。
26日ロンドンで開かれた南北の交流行事に出席した南北両国大使がやりあった話が報じらています。

「苦しい経済状況で『宇宙開発』に貴重な資源を浪費しようという意図が問題だ」「数千キロ離れた土地に穴を掘るため、数千万ドルを投資する理由はない」と韓国の千英宇駐英大使が指摘したのに対し、北朝鮮の慈成男駐英大使が「生活が苦しいから宇宙開発できないという国連決議はない」「衛星を打ち上げるミサイルを問題視するなら、食卓で使う包丁まで軍縮対象になる」と応じたそうです。【3月27日 朝日】


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ロシア  経済危機による財政難 チェチェンから中核部隊撤退

2009-04-01 21:36:17 | 国際情勢

(モスクワで、チェチェンでの戦争に反対する市民 07年3月の写真ですが、少数ながらこうした活動を行っているグループも存在はしていたようです。
“flickr”より By Lyalka
http://www.flickr.com/photos/leilat/436477454/)

【5万人超の駐留部隊】
世界的な金融危機・不況の波は様々な方面に影響を及ぼしています。
「カフカスの火薬庫」と言われ、ロシアからの独立を主張する武装勢力とロシアとの間で長年にわたり紛争が続いていた北カフカスのチェチェンから、ロシアによるチェチェン支配の中心的役割を担ってきたロシア軍のテロ対策部隊が撤収することになりました。
これも経済危機のなかで、ロシアが財政的に駐留を維持することが困難になったことによるものだそうです。

****チェチェンの対テロ作戦終了へ ロシア、経済危機も背景******
「カフカスの火薬庫」と言われたロシア南部チェチェン共和国で、99年の第2次チェチェン戦争以来続いてきたロシア政府による「対テロ作戦」の態勢が解除される見通しになった。経済活動への足かせを嫌う共和国側が、連邦政府に態勢の終了を提案した。情勢の安定化を物語る一方、経済危機に伴う「経費節約」が狙いとの指摘もある。

ロシアのプーチン首相を後ろ盾に、分離・独立派勢力を抑えてチェチェン統治を進めてきたカドイロフ共和国大統領は25日、「武装勢力は一掃された」と述べ、近く連邦政府が作戦終了を決めるとの見通しを表明。ロシアのメドベージェフ大統領も27日、解除の検討を連邦保安局長官に指示した。保安局や内務省、大統領府、下院などの代表でつくる国家反テロ委員会が31日にも審議する。

「対テロ作戦」は99年9月に、当時のエリツィン大統領が大統領令に署名して始まった。作戦終了が決まれば、現在チェチェンに駐留する5万人超の軍部隊のうち、約2万人が撤退することになるという。
カドイロフ大統領の狙いは首都グロズヌイの空港を国際化し、自由な経済活動を可能にすることだ。作戦態勢下では人や物の移動に軍部隊のチェックが入り、自由が制限される。チェチェン移民が多く住むヨルダンやトルコ、欧州などとの行き来を望む住民には不便だ。また、大統領は若者の武装勢力への加入を防ぐには失業対策が最優先だとしており、自由な経済活動はその前提になる。

こうした共和国側の要望を後押ししたのが、世界を覆う経済危機だ。イタル・タス通信によると、ロシアのグリズロフ下院議長は26日、「チェチェンでの連邦部隊駐留は大きな財政支出。経済危機の下では問題がある」と発言。コメルサント紙も治安省庁高官の同様の発言を伝えた。
かつて数千人ともいわれたチェチェン内の武装勢力について、連邦政府は現在、山岳部に約480人が残っているとみる。共和国側は50~70人程度と主張。カドイロフ大統領は「それも来月には根絶されるだろう」と強気だ。
ただ、ロシア南部のカフカス地域ではチェチェンで治安回復が進む一方で、西隣のイングーシ、東隣のダゲスタンなどの共和国ではテロや爆発が頻発し、火種は周辺に拡散しただけとの見方も強い。【3月29日 毎日】
*************************

チェチェンに駐留するロシア軍が5万人超にのぼるとは知りませんでした。
アメリカのアフガニスタンへの派兵が現在3万8千人ほどで、夏までに増派される1万7千人、さらに先日発表された4千人の追加増派をあわせても6万人規模ですから、ロシアのチェチェン駐留の規模の大きさが窺われます。

オイルマネーで潤っていた頃ならともかく、日本や欧米諸国同様、あるいはそれ以上の経済危機の影響を受けている現在のロシアにとって、大きな負担となっていることは間違いないないでしょう。
今後は軍の通常部隊が治安維持に当たるとされています。

【カディロフ大統領の「プーチン翼賛体制」】
“最近のチェチェン情勢安定化について、人権団体などは、親露派のカディロフ共和国大統領が私兵組織を駆使して恐怖で住民を抑えつけている点を指摘している。ロシア部隊の撤収で、カディロフ氏の強権支配が拡大する可能性もある。”【3月28日 毎日】といった見方もあるようです。

カディロフ氏は昨年10月、それまでの「勝利大通り」を「プーチン大通り」と改名した際、プーチン氏のチェチェンにおけるテロとの戦い、経済、社会の復興における功績をたたえるためだと説明。
記念式典でのあいさつでは「プーチン氏のためなら死ぬ覚悟がある」とまで述べ、プーチン氏への忠誠を誓ったとか。
07年のロシア下院選では、プーチン氏率いる「統一ロシア」のチェチェンでの得票率が99%以上と発表されるなど、カドイロフ氏による「プーチン翼賛体制」が築かれています。【08年10月6日 朝日】

【陰謀と暗殺】
新生ロシアのエリツィン政権が分離・独立阻止に動いた第1次戦争(94~96年)ではロシア軍約4万人が進攻し、武装勢力との戦闘は泥沼化。
第2次戦争(99~00年)は、イスラム教国樹立を唱える武装勢力の蜂起やモスクワでの大規模テロ続発を機にプーチン政権のロシア軍が進攻し、独立を封じ込めました。
全体の死者は16万人ともされます。その後も武装勢力によるテロが続いています。

ただ、第2次戦争のきっかけになったモスクワでアパート爆破テロ、その後のモスクワの劇場を占拠、北オセチア共和国ベスランでの学校占拠など、武装勢力側によるテロとされている事件について、ロシアの関与を云々する“謀略”も囁かれています。

“「第一次チェチェン戦争は、エリツィン大統領再選のために必要であった。今回の第2次戦争は、エリツィン大統領が自ら選んだ後継者として公に支持する、ウラジーミル・プーチン現首相が世論調査で順位を上げるために必要とされている」とアメリカ下院で証言したエレーナ・ボンネル女史(反体制物理学者アンドレイ・サハロフ博士未亡人)のように、この紛争はエリツィン〜プーチン政権が作り出した戦争であるという見方をする人物も存在している。”【ウィキペディア】

事の真偽はわかりませんが、こうした話が囁かれること自体が、ロシアの政治体制のひとつの側面を表しているとも思われます。
2006年10月には、ロシアのチェチェン政策を批判して来たロシアの女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤが何者かに暗殺されました。
(メドベージェフ大統領は2月、アンナ・ポリトコフスカヤ殺害事件の裁判で被告4人全員に無罪判決が下されたのを受け、検察を叱責したとのことで、プーチン時代とは違った面も出てくるのか・・・と期待させるものがありますが)

チェチェン絡みでは、また暗殺があったようです。
****チェチェン大統領と対立していた人物、UAEで暗殺か****
ロシア・チェチェン共和国の親ロシア派カディロフ大統領と対立関係にあった人物が28日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国で何者かに撃たれて死亡した。ドバイ警察が30日明らかにしたもので、暗殺されたとみられるとしている。
同警察によると、死亡したのは「スライマン・マドフ」氏(36)で、居住していた建物の駐車場で射殺された。同氏は監視されていたもようだという。
一方、ロシアのメディアは同日、カディロフ大統領と対立していた元チェチェン独立派のスリム・ヤマダエフ氏に対する殺人未遂事件がUAEであり、同氏は大けがを負ったと伝えた。【3月30日 時事】
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