孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  タクシン派の街頭行動とカンボジアとの国境紛争

2009-04-08 21:04:54 | 国際情勢

(タイ首相府を封鎖するタクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)の抗議活動。
赤い服を黄色に置き換えると、昨年の反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)のときと全く同じです。まるでデジャヴュです。
“flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3414493598/)

タイも他国同様、世界的経済危機の中にありますし、以前からの深南部三県のイスラム系住民の分離独立運動という厄介な問題も抱えています。
そうした問題のほかにも、昨年来の内憂外患がなかなかすっきり収束せず困っているようです。

【アピシット首相の車を襲撃】
内憂はタクシン元首相派の街頭活動、外患はカンボジアとの国境紛争です。
どちらも、“相変わらず”といった印象です。

3月30日ブログでも取り上げたように、タクシン派と反タクシン派の政治抗争は攻守を変えて、今度はタクシン派が攻める側にまわっています。
タクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)は新たな総選挙実施を求めて首相府包囲を続けていますが、昨年の反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)のときのように軍・警察・司法・経済界などの旧支配層の支援もなく、また、スポンサーのタクシン元首相も資産を差し押さえられ、居場所も判然としない状況ですので、どこまで街頭活動を継続できるかは難しいところがあります。

そうした事情もあって、タクシン元首相は、国王側近のプレム枢密院議長とスラユット枢密院議員(元暫定政権首相)を名指しで06年のタクシン氏追放クーデターの黒幕だと批判するという、“一線を越えた”背水の陣とも言うべき暴露戦術に出ています。

7日、首相府を使えないアピシット首相はパタヤのホテルで閣議を行いましたが、そのパタヤのホテルもタクシン派が包囲。
閣議終了後にバンコクへ戻ろうとしたアピシット首相の車を取り囲み、ヘルメットで後部ガラスをたたき割るなどの激しい行動もあったようです。

パタヤでは10日から12日の日程で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国などの首脳が参加する一連のASEANプラス3首脳会議が開かれる予定ですが、無事に開催できるか懸念されています。
もともと、この会議は12月に開催される予定でしたが、反タクシン派の街頭行動による政治混乱を受けて、延期されていたものです。

【暴動が起きた場合には強硬手段に出ると警告】
今日8日には、首都バンコクでタクシン派による大規模な抗議集会が開かれました。

****タクシン元首相派、数万人規模の抗議集会 バンコク****
タイの首都バンコクで8日、アピシット・ウェチャチワ首相の辞任を求めて、タクシン・シナワット元首相の支持者らが数万人規模の抗議集会を開いた。これまでで最大規模の抗議集会で、タイの政治的危機が、ふたたび暴動に発展するおそれが高まっている。
タクシン元首相の支持者らが集結するなか、治安部隊が主要政府施設の警護にあたった。7日には、活動家らがアピシット首相の車両を襲撃して窓ガラスを割る事件が起きており、タイ国内の緊張が高まっている。

警察によると、赤いシャツを着た6万人の抗議デモ参加者が、首相府前で「タクシンを復職させよ!アピシット退陣せよ!」とのスローガンを叫んでいる。首相府前では、過去2週間にわたって座り込みの抗議集会が開かれていた。
また、プミポン・アドゥンヤデート国王の最高顧問で、2006年9月のクーデターで中心的役割を担ったとしてタクシン氏が非難しているプレム・ティンスラノン枢密院議長の自宅をデモ隊が包囲し、治安当局と一触即発の事態となっている。
アピシット首相は、タクシン元首相派の要求する政権の退陣と総選挙実施を拒否し、暴動が起きた場合には強硬手段に出ると警告した。【4月8日 AFP】
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【PAD 「理想の政治実現」】
昨年の反タクシン派の空港占拠などに対しては、反タクシン派と同じ立場に立つとも言われる軍・警察は鎮圧などの積極的関与はしませんでしたが、相手がタクシン派となると強硬手段もありえるかもしれません。
“こんなことを繰り返していては・・・”というのも、一応の正論ではありますし。
ただ、そこで犠牲者が出ると、混乱は一気にヒートアップしてしまいます。
ソムチャイ前首相が悩んだ同じ問題に、今度はアピシット首相が悩んでいます。

一方、反タクシン派市民グループの「民主主義市民連合」(PAD)は「理想の政治実現」を目指し、新党を結成する動きも報じられています。
ただ、PAD幹部のなかには「国会議員の7割を任命制にすべし」との主張もあるようで、「理想の政治実現」とはどういうものか懸念されます。

いずれにしても、PADのこうした動きは、タクシン派「反独裁民主同盟」(UDD)の行動を更に刺激するものと思われます。

【両軍4名死亡か】
外患のカンボジアとの国境紛争は、昨年段階で収まったのかとも思っていましたが、また死傷者を出す事態に至っています。

タイ軍によると、世界遺産のクメール寺院「プレアビヒア」周辺の係争地内でタイ兵が2日に地雷を踏んで負傷したため、3日早朝から現場の調査をしていた際に巡回中のカンボジア兵との間で交戦が起きたとのことです。
カンボジア軍は、タイ側が同国領内に入ったので警告射撃をしたと説明しています。【4月3日 朝日】
両国軍はロケット砲や機関銃で交戦、タイ兵2人が死亡、両国兵士計13人が負傷しています。【4月3日 毎日】
カンボジア兵2人が死亡したとの情報もあります。

タイとカンボジアは言語的にも近く、カンボジア人がタイのTV番組を観てもほぼ理解できるぐらい近しい関係があります。
ただ“近しい”ということは、それだけ歴史的にもいろんな衝突・抗争を繰り返してきたということでもあり、近年のタイの経済成長、カンボジアへの経済進出に対するカンボジア側の思いもあります。
このあたりは、日本を取り巻く関係国との近親憎悪的関係と同じでしょう。

カンボジアで盤石の政治基盤を固めるフンセン首相が、内憂で混乱するタイ側に揺さぶりをかける・・・といったこともあるかもしれませんし、タイも、国境紛争で“弱腰”との批判は内憂を更にこじらせるので強気に出ざるを得ない・・・という側面も想像されます。

内憂と外患、相まって面倒な状態にあります。



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