孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オバマ大統領の「核なき世界」 その実現に向けて

2009-04-14 21:57:45 | 国際情勢

(アメリカのタイタンⅡ ICBMとしてはすでに退役しており、写真は博物館のものです。“flickr”より By Kingdafy
http://www.flickr.com/photos/kingdafy/499360896/)


【これまでとは一線を画する決意】
アメリカ・オバマ大統領は、今月5日のプラハでの演説で「米国が核兵器のない世界の平和と安全を実現するために取り組んでいくと、はっきりと信念を持って宣言する」「すぐにたどり着けるゴールではない。私が生きている間には、おそらく無理だろう。忍耐と粘り強さが必要だ。しかし、わたしたちは、世界は何も変わらないという声を無視しなければならない」などと、「核なき世界」への決意を表明しました。

かつて、レーガン大統領も「あらゆる核兵器」の廃絶を提唱したことがありますし、歴代大統領はロシアとの核削減交渉を行ってきました。
それらの取組みと、今回のオバマ大統領の決意表明との間に差があるのかどうか、今までの延長線上にあるにすぎないのか・・・という点については、やはりオバマ大統領の主張はこれまでとは一線を画するものがあるというのが、大方の解釈のようです。

オバマ大統領が核軍縮を外交政策の中心に位置付けていること、「核兵器を使った唯一の核兵器保有国として米国は行動する道義的責任がある」と“道義的責任”に言及していることなどが注目されています。

具体的な取組みとして、オバマ大統領が2月に発表した2010会計年度の予算教書で、冷戦時代に作られ老朽化した核弾頭を新型弾頭と入れ替えるための技術開発計画や米ネバダ州ユッカ山地で計画されている高レベル放射性廃棄物の地下最終処分場計画を中止する方針を示していることも、演説が単なる“スローガン”ではないという期待を関係者に抱かせています。

【核保有国は冷ややか】
ただ、オバマ大統領の演説に対する他の核保有国の反応は冷ややかです。
中国共産党機関紙・人民日報が発行する時事情報紙「環球時報」は7日、「激情演説『これぞ空想』と評論家」との見出しで演説を報じています。

フランス・サルコジ大統領の外交補佐チームが作成した内部文書は、アメリカが核実験全面禁止条約(CTBT)を批准していないなど、アメリカの核廃絶の取り組みの遅れを逆に指摘、「大部分がブッシュ前政権の政策の焼き直し」「理念ばかり唱えず行動すべきだ」「米国のイメージ向上を狙った対外的なポーズにすぎない」と酷評しています。【4月11日 時事、毎日】

【アメリカ国内でのCTBT批准】
アメリカ国内においても、大統領方針の現実性を疑問視する声は多くあります。
さしあたり、CTBT批准が課題となります。
CTBTはすべての核実験を禁止する国際条約で、1996年に国連特別総会で採択されたが、まだ発効していません。
当時、クリントン大統領は批准を目指しましたが、アメリカ上院は1999年に条約への批准を否決。
オバマ大統領は、批准について再考するよう上院に要請する構えです
CTBT批准には上院で出席議員の3分の2の賛成が必要ですが、これをクリアするためにはあと7人ほどの賛成者が必要だとも報じられています。【4月7日 毎日】

その点で動向が注目される議員のひとりが、大統領選挙を争った共和党マケイン議員です。

****来日中のマケイン氏、オバマ大統領の核政策を支持
2009年昨年の米大統領選でバラク・オバマ大統領と大統領の座を争った共和党のジョン・マケイン(John McCain)上院議員は10日、都内で記者会見し、オバマ大統領が提唱する「核なき世界」構想への支持を示した。
アジア歴訪の一環で来日中のマケイン氏は、都内の米国大使館で行った記者会見で、「地球から核兵器を廃絶するというオバマ大統領の壮大な目的に対する誓約を、わたしは心から支持する」と述べ、核廃絶の取り組みは、北朝鮮とイランから始めるべきだと語った。【4月10日 AFP】
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「わたしは心から支持する」とは言いつつも、“核廃絶の取り組みは、北朝鮮とイランから始めるべきだ”との言いようは、あまり“支持”しているようには聞こえないように思えるのですが。
どっちかと言うと、“ご立派なこと言う前に、北朝鮮とイランを何とかしろよ!”と言ってるようにも・・・。

【イランと北朝鮮】
ロシアとの核軍縮は、お互いに削減したい思惑がありますので、それなりに進みそうですが、イランと北朝鮮の核開発をどうするのか・・・。

国連安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツからなる6カ国核協議へのイラン参加要請をアメリカが了承したことを受けて、イランも参加を正式表明しました。
6カ国側は以前からウラン濃縮活動停止に対する経済的な「見返り案」など妥協案を提示しており、イラン参加によって、今後ようやく実質的な協議に入れる可能性が出てきました。

しかし、4月10日ブログで取り上げたように、イラン側は核開発そのものについては平和利用であるとして、一貫して核開発を独自の権利として継続する姿勢を崩していません。
そうであるにしても、協議の場が成立したことは大きな前進でしょう。

一方、北朝鮮は6か国協議からの撤退を表明しています。

****北朝鮮、6か国協議からの撤退を表明 安保理声明に抗議****
2009年04月14日 13:03 発信地:ソウル/韓国
北朝鮮は14日、国連安全保障理事会が北朝鮮の長距離ロケット打ち上げを非難する議長声明を採択したことに抗議し、6か国協議からの撤退を表明した。同国の国営朝鮮中央通信が、外務省声明として発表した。
これによると、北朝鮮は国連安保理による議長声明を「断固、拒絶する」とし、「もはや、(北朝鮮の核問題を協議する)6か国協議を開催する必要はない。われわれは今後、こうした協議に参加することはないし、6か国協議でなされたいかなる合意にも縛られない」としている。
さらに今後は独自の核抑止力を強化し、使用済み核燃料棒を再処理するため無能力化した核施設を再開する作業を開始すると表明した。北朝鮮は2007年2月の6か国協議での合意の一部として兵器級プルトニウムを製造する寧辺の核施設を無能力化している。
北朝鮮は、安保理が5日の打ち上げを批判すれば6か国協議から撤退すると警告していた。【4月14日 AFP】
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これから、いろいろな駆け引きが行われるのでしょうが、これまでの経緯を考えると、事態の進展はあまり期待できません。

こうした困難な課題が山積した現状で、“夢物語”と足を引っ張るのは簡単ですが、唯一の被爆国であり、核廃絶を国是としてきた日本としては、一歩でも理想に近づけるようにサポートして行きたいものです。

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