孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ軍事政権  「事態はまだ正常化していない」・・・批判封じの現体制を正当化  「正常化」とは?

2015-12-24 22:31:40 | 東南アジア

(23日、バンコクの首相府で演説するプラユット暫定首相(EPA=時事)【12月23日 時事】)

歴代国王賛美のための公園建設で、軍事政権幹部の汚職疑惑
タイ軍事政権が王室権威を利用する形で社会秩序維持を図っていることは、12月11日ブログ「タイ 王室権威に依った秩序維持に努める軍事政権 高齢国王のもとで現実問題となる王位継承」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151211で取り上げたばかりですが、その軍部が歴代国王をたたえるための公園建設で私腹を肥やしているのでは・・・との汚職疑惑があるようです。

****<タイ軍政>王賛美の公園事業で汚職疑惑 批判封じを強化****
タイで、陸軍が歴代の王をたたえるために開設した公園事業を巡る汚職疑惑が浮上している。

軍政は、政権幹部を巻き込んだ疑惑への批判が、反軍政の抗議活動に転化するのを警戒。今月に入り、デモを計画した学生らを多数拘束したり、インターネットで汚職疑惑に関する画像を共有した男性らを逮捕したりするなど締め付けを強化している。

疑惑の舞台は中部フアヒンに歴代国王7人の巨大銅像が設置されたラチャパック公園。事業費は約10億バーツ(約34億円)とされ、9月に開設された。

地元メディアによると、業者から関係者に不正な「手数料」が渡った疑いが浮上。整備当時に陸軍司令官だったウドムデート副国防相の側近らの関与がうわさされている。市場価格の3倍以上でヤシの木を購入するなど、不自然な経費計上も指摘された。

国防省は11月下旬に汚職疑惑についての調査委員会を発足させ、近く調査結果が公表される見込み。しかし、「身内」による調査でどこまで真相に迫れるかは不明だ。

軍政は、国王を頂点としたタイ社会の秩序回復と政治家の腐敗撲滅を「改革」の柱に掲げ、タクシン元首相派政権を打倒した昨年5月のクーデターを正当化する。だが、王制賛美を目的とした公園事業で汚職が行われていたとすれば、そうした大義名分が揺らぐ。

疑惑を巡り、タクシン派政党が真相解明を求める声明を出すなど、言論統制下で抑え込まれてきた反軍政の動きが表出しつつある。

これに対し、軍政は11月30日、「調査」のため公園を訪ねようとしたタクシン派団体幹部2人を軍施設に一時拘束。12月7日には抗議行動で公園に向かっていた学生ら30人以上を治安当局者らが取り囲み、一時拘束した。

また、汚職疑惑を図解した画像をインターネット上で共有したとして、男性工場従業員ら2人をコンピューター犯罪などの疑いで逮捕。従業員はフェイスブックに投稿された国王の加工写真に「いいね!」をクリックしたほか、ネットに国王の愛犬を中傷する画像を拡散させたとしたとして、王室に対する不敬罪でも立件された。【12月19日 毎日】
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“「身内」による調査でどこまで真相に迫れるかは不明だ”・・・・王室と軍部という極めてデリケートな問題に絡む、軍事政権の大義名分が揺らぐ話ですから、真相が明らかにされることはないでしょう。

真相究明より、疑惑への批判を封じ込めることに全力を傾けることが容易に想像できます。
批判を許さず、身内の浄化ができない、そういう体質が軍事政権の弊害のひとつです。

軍事政権が批判封じの道具としているのが王室批判をしたという不敬罪と、批判的意見の媒体となるネット情報に関する統制です。

****王室批判放置は有罪=編集者への判決覆らず―タイ最高裁****
タイ最高裁は23日、ニュースサイト「プラチャタイ」のネット掲示板に掲載された王室批判の違法な投稿を直ちに削除しなかったとして、コンピューター犯罪法違反の罪に問われた女性編集者に対する下級審の有罪判決を支持した。AFP通信によると、編集者は「判決に失望している」と述べた。

編集者のチラヌット・プレムチャイポーンさんは、王室を中傷する内容の投稿を20日間放置したとされる。2009年に逮捕され、12年の一審判決で禁錮8月と執行猶予1年、罰金2万バーツ(約6万7000円)を言い渡され、二審判決もこれを支持していた。

タイでは不敬罪と共にコンピューター犯罪法での摘発が増加。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのアダムズ・アジア局長は今回の判決について「タイ政府は表現の自由に対する締め付けをさらに強めている」と懸念を表明した。【12月23日 時事】
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タイはいつから北朝鮮になったのか?】
そうしたなかで、軍事政権を率いるプラユット暫定首相が何をしているかと言えば、愛国心を鼓舞する曲の作詞だそうで・・・・。

****2曲目の「愛国歌」披露=暫定首相、自ら作詞―タイ****
タイ軍事政権は22日、プラユット暫定首相が自ら作詞したとされる歌を報道陣に披露した。愛国心を鼓舞する歌詞で、昨年5月のクーデター以降、プラユット氏が歌を作ったのは「タイに幸福を取り戻す」に次いで2曲目。

新曲のタイトルは「あなたがタイだから」。地元メディアによると、「あなたを愛し、何よりも固い絆で結ばれている/あなたがタイだから/誰にもあなたを破滅させはしない」などといった内容のバラードで、プラユット氏は記者団に「国民への個人的な新年の贈り物として作った」と説明した。

愛国心に訴えて国民に団結を促す狙いがあるとみられる。一方で軍政は、反政府活動家の身柄拘束や不敬罪による摘発などで、軍政や王室に批判的な動きを徹底して封じ込める姿勢を崩していない。【12月22日 時事】
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作詞が悪いとはいいませんし、すばらしい趣味だとは思いますが、暫定首相の地位にある者が強権で批判者を封じ込めながら、「あなたを愛し、何よりも固い絆で結ばれている」という歌詞を「国民への個人的な新年の贈り物として作った」という感覚は理解できません。

周辺に群がる人間が、「前回の曲も国民に大変好評でした。是非また・・・」なんてことを言っているのでしょうか。
それにのっかる人間もまた・・・。

一方、軍事政権の仕事ぶりを絶賛する世論調査が公表されたそうで、そもそも批判者などは殆ど存在しないという政権側の立場を正当化しようというものに思えます。

****タイ世論調査 政権に満足99%に批判の声****
東南アジアのタイで、軍主導の暫定政権が世論調査の結果として、政権の仕事ぶりに満足と答えた人が99%に上ったと発表しましたが、タイ国内では「調査は全く信頼できない」とか「政権を長く維持しようという動きではないか」といった批判の声が上がっています。

タイでは、去年5月の軍事クーデターをきっかけに発足した軍主導の暫定政権が続き、民政復帰が遅れています。
暫定政権は、先月末から今月上旬にかけてタイ各地で行ったとする世論調査の結果を発表しました。

それによりますと、政権の仕事ぶりに満足していると答えた人は99.3%、福祉や治安などの対応に満足という答えも90%以上に達したとしています。

これについて、地元の新聞は調査結果を一面で報じる一方、調査結果は全く信用できないとか、軍主導の政権を長く維持しようという動きではないかという批判の声を伝えています。また、ソーシャルメディアでも「北朝鮮で行われる調査結果に近い」などと厳しい批判の声が目立っています。

タイのプラユット暫定首相は23日、首相府で演説し「私は、民主主義ということばを拒んでいるわけではなく、選挙が必要ならばやる。メディアは世論をあおるようなことはやめてほしい」と述べましたが、民政復帰の時期が大幅に遅れているだけに、タイ国内では軍主導の政権への不信感が強まっています。【12月23日 NHK】
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“政権の仕事ぶりに満足していると答えた人は99.3%”・・・・まさに北朝鮮のような社会でない限りありえない数字です。タイはいつから北朝鮮になってしまったのか?

政権が自身を正当化するために数字をでっち上げたのであればまだしも、本当に99.3%が好意的な評価をした、批判した者が殆どいなかったというのであれば、反対意見を口にできない強権支配体制という点で、“でっちあげ”より大きな問題でしょう。

先述のプラユット暫定首相の作詞にしろ、この99.3%という数字にしろ、その神経を疑ってしまいます。
権力にあるものは、かくも現実が見えなくなるものでしょうか。

軍事政権が考える“正常化”は、タイ民主主義の封殺
「私は、民主主義ということばを拒んでいるわけではなく、・・・」とのことですが、反対意見が自由に表明できることが大前提である民主主義を嫌悪しているのでは・・・と思ってしまいます。

タイでは9月、不評の憲法案を国家改革評議会において政権側の意向で否決し、軍政が新たに任命した憲法起草委員会が改めて憲法案の起草作業を進めています。

現行のロードマップ(行程表)では、2016年夏に憲法案の賛否を問う国民投票が実施され、承認されると17年6月に総選挙、同7月にも民政復帰が想定されています。

****タイ暫定政権、独裁を正当化 総選挙、早くて17年半ば****
軍主導のタイ暫定政権は23日、今年1年の国家運営を振り返る記者会見を開いた。プラユット暫定首相は「事態はまだ正常化していない」として、言論の自由などを封じたいまの体制を2017年半ばまで続けることを正当化し、国民に協力を求めた。

軍部は14年5月にクーデターを決行。以後、軍主導の最高機関、国家平和秩序評議会(NCPO)が独裁体制をしいている。民政復帰のための新憲法案起草作業はずれ込み、総選挙は早くて再来年半ばとみられる。

プラユット氏は会見で「私が人権を侵害していると言う者は、我々が異常な状況にあるということを理解する必要がある」と語った。

また「我々には民主主義が必要だ。しかし、これまでのような政治混乱を繰り返すわけにはいかない。総選挙までの1年半の間に、そのことを考えねばならない」と述べ、タクシン元首相派と反タクシン派の対立からくる政治の不安定さをなくす必要性を強調した。

ただ、NCPO・暫定政権はタクシン派への抑圧を強めているとの指摘が多く、プラユット氏が言う「改革」は同派の復活を封じ込め、軍や官僚、財閥などの伝統的な支配階層の特権を守るのが狙いとの見方が根強くある。

軍事独裁体制が長引くにつれ、軍支配に反発する学生による小規模な抗議行動が散発的に起きるようになっている。

反軍的行動を封じるために多用されているのが国王や後継者の侮辱を禁じる不敬罪(最高刑禁錮15年)で、人権NGOによると昨年のクーデター後、不敬容疑で訴追されたのは約60人、うち46人が拘束されている。

不敬にあたると当局が判断したフェイスブックの画像に「いいね」をしただけの行為も含まれ、乱用への批判が国際人権団体から出ている。【12月24日 朝日】
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「事態はまだ正常化していない」・・・・批判を表明することが“正常”ではないと考えるのであれば、軍事政権が考える“正常化”とはタイ民主主義の封殺を意味します。

クーデター前のタイ政治がタクシン派と反タクシン派の対立で機能不全に陥ったのは事実ですが、それはインラック政権の失政だけでなく、軍の介入を期待する反タクシン派の執拗な街頭行動、タクシン派を狙い撃ちにした司法機関の政治介入などが大きな原因でした。

“正常化”とは、批判を許さない体制をつくることではなく、政治的意見の対立が、街頭行動や司法介入などで“不毛の対立”とならないように、両勢力の信頼醸成を促すことではないでしょうか。

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