孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シンガポールの外国人労働者、日本の「ネットカフェ難民」 弱者を通して社会全体を脅かすウイルス

2020-04-19 23:08:15 | 東南アジア

(シンガポールで暮らすバングラデシュとインドからの労働者。4月5日、まだ厳しい対策が取られる前のリトルインディアで撮影【4月19日 ロイター】)

【シンガポール コロナ対応優等生の方針転換】
新型コロナ対策に関して、シンガポールは3月段階ではきびしい行動制限をとることなく感染拡大を有効に阻止していると高い評価がなされていました。

****韓国、シンガ、台湾…スピード最優先で新型コロナ押さえ込み****
(中略)シンガポールは3日までに新型コロナウイルスに1114人が感染し5人が死亡したが、他国の増加ペースと比べ、拡大を押さえ込んでいるといえる。強制力を伴う迅速な対策や積極的な情報発信が奏功した形だ。
 
政府は2月1日には、世界に先駆けて中国本土に滞在した人の入国を原則として禁止。水際対策を強化した。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行で33人が死亡した苦い経験を踏まえたという。
 
同時に感染者の国籍、年齢、性別、感染者が出た企業名などの詳細の公表に踏み切った。クラスター(感染集団)を公にし、感染ルートの追跡を容易にするためだ。積極的な情報発信は、悪質な偽情報や噂の蔓延(まんえん)を防ぐ狙いもある。
 
3月末には集団感染につながる「3密(密閉、密集、密接)」を避けるために感染症対策法を厳格化した。公共の場所で座ったり列を作ったりする場合、他人と1メートル以上の距離を保つことを求めた。違反した場合、罰則も設けている。
 
それでも感染経路が特定できないケースが増えており、4月7日から国内の学校や職場を1カ月間閉鎖する。リー・シェンロン首相は3日の演説で「感染拡大を先取りし、断固とした行動を取るべきだと判断した」と話し、迅速な措置の重要性を強調した。【4月4日 産経】
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しかし、上記記事でも「感染経路が特定できないケースが増えており」とあるように、4月に入るとフォローしきれない状況に追い込まれ、企業・店舗の閉鎖など、厳しい措置への方針転換を余儀なくされています。

このあたりの経緯は、クラスター潰しの限界から緊急事態宣言へと転換した日本と似たような推移に思われます。
7日から職場や店舗の大多数が閉鎖され、食料の買い出しなどを除く外出は原則禁止されました。

****追跡・隔離に限界、シンガポールも企業や店舗閉鎖****
シンガポール政府は7日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、生活の維持に必要な業種以外の企業・店舗を閉鎖させた。

感染者の感染経路の追跡と隔離措置を徹底してきたシンガポールは、感染抑制の模範例とされてきたが、経路不明の感染者の急増で厳しい措置への転換を迫られた。
 
閉鎖措置は5月4日までの予定で、医療や交通、スーパーなどを除く企業・店舗の従業員は在宅勤務に完全移行する。飲食店は持ち帰りのみの営業を認める。学校も今月8日からオンライン授業に切り替える。
 
リー・シェンロン首相は3日、「思い切った措置を取る」と述べ、今回の措置を「ロックダウン」(都市封鎖)ではなく、株価が急変動した際に取引を一時中断する「サーキット・ブレーカー」(強制遮断)という金融用語で表現した。

政府は閉鎖に先立つ6日、休業などによる給与補償などを視野に、総額51億シンガポール・ドル(約3900億円)の経済対策を発表した。
 
シンガポール保健省によると、国内の感染者は1500人に近づいているが、周辺国のマレーシア(約4000人)やインドネシア(約2700人)よりは少ない。

これまでは、情報技術(IT)を駆使した感染経路の割り出しと情報公開などを徹底し、経済に影響する措置をとらないようにしてきた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も、「感染ルートの追跡を徹底している」と対応を評価していた。
 
しかし、3月下旬以降に欧米からの帰国者が増加し、連日50人以上の新規感染者が確認されるようになった。感染経路をたどれないケースも急増し、ローレンス・ウォン国家開発相は「表に出ていない感染者が多数いる可能性がある」と危機感を示していた。【4月8日 読売】
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日本同様にマスク配布も。

****行動制限へ転換のシンガポール、洗えるマスク配布始まる****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、1家庭に2枚の布マスクが配られることになった日本に対し、1人1枚の布マスクを配ることを決めたシンガポール。5日から地域のコミュニティーセンターなどを通じた配布が始まった。

政府は外出自粛を求めているが、どうしても外に出る必要がある場合はマスクをつけるよう促している。日本以上に厳格な感染ルートの追跡などで感染の封じ込めをめざしてきたシンガポールだが、7日からは大幅な行動制限に踏み込む。(後略)【4月7日 朝日】
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コロナに限らず、何かとルールが厳しい(あるいは“うるさい”)「管理国家」シンガポールですから(タバコの吸い殻ポイ捨ては数万円の罰金、もっと大きなボトルを捨てると裁判所に呼び出されることも、ガムの国内持ち込み禁止、公共トイレの水を流さないと罰金・・・等々)、外出時のマスク着用が義務付けられ、違反すれば罰則の対象となります。

【止まらない感染拡大の背景に、これまで都合よく使ってきた外国人労働者の存在が】
しかし、その後も感染者増加を阻止できずにいますが、その原因として、劣悪な住環境で生活してシンガポール経済を支えてきた外国人労働者の存在が指摘されています。

****「模範的対策」のシンガポールで第2波、外国人労働者らの感染急増****
新型コロナウイルス感染拡大対策の模範例と称賛されていたシンガポールで最近、感染者が急増している。寮生活を送る外国人労働者らの集団感染が相次いでいるためだ。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、シンガポールで確認された感染者は先月17日の時点で266人だったが、1カ月のうちに5900人を超えた。

同国は当初、厳しい制限措置を取らずに感染拡大を抑えた成功例とみられていた。成功の要因としては、国境を接する国がマレーシアのみで入国管理がしやすいという地理的条件に加え、高度な医療水準や日頃からの厳しい国家管理体制などが指摘されていた。

2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)で隔離病棟が整備されていたこと、検査で陽性になった患者は軽症や無症状のケースも含め全員入院させるという対応も功を奏した。

しかし、初期の対策で見過ごされ、検査対象から外れていた外国人労働者らの間でクラスター(感染者集団)が発生し、もともと制限が緩かった国内で急激に広まったようだ。

同じような人口規模の香港では学校を2月から閉鎖し、政府職員に在宅勤務を指示するなどの対策を取っていた。一方でシンガポールが休校や在宅勤務に踏み切ったのは今月、第2波が来てからだ。

シンガポールでは16日、過去最多となる728人の感染が新たに確認されたのに対し、香港は4人にとどまった。

シンガポールの外国人労働者は大半が密集した寮生活を送り、自宅隔離は不可能に近い状況だ。政府は検査や規制の強化に乗り出しているが、これを機に外国人労働者の処遇全体を見直すべきだという意見も出ている。【4月19日 CNN】
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シンガポールは、労働力人口の4割近くが外国人で、特に低賃金労働は母国での賃金が低い国からの出稼ぎ労働者が担っています。

最低賃金がなく、家族を同伴することもできず、ときに劣悪な環境に置かれていることもある外国人労働者の労働環境については、シンガポール社会でも問題が指摘されてきました。

フィリピン人やインドネシア人のメイドさんも多く働いていますが、半年に一度妊娠検査が義務づけられており、もし妊娠していれば国外退去になるとのこと。

「安価な労働力は欲しているが、決して永住はさせない」というシンガポールの外国人労働者政策がこれまでも指摘されてきました。

今回の新型コロナでは、これまで都合のいいように使ってきた外国人労働者の存在に社会全体が脅かされるという展開ともなっています。

ウイルスは一番弱いところを狙ってきます。
単に抵抗力の弱い高齢者・持病のある者というだけでなく、予防をできない環境にある貧困者やシンガポールにおける外国人労働者のような社会的弱者が狙われます。

そうした面での対応に配慮しないと、いくら予防だ、自粛だと言っても、抜け穴ができてしまうことになります。

“国内へのマスク配布も、外国人労働者居住地域は対象外だった。さらに最近、何万人もの労働者を狭い区画に隔離する措置が導入され、感染拡大を加速させる恐れが生じている。”【4月19日 ロイター】ということで、シンガポール政府は外国人労働者を切り捨てても、自国民に拡散しなければいいという発想のようです。いくらでも補充できる存在ですから・・・。でも、「非人道的」という面は別にしても、そううまくいくのか?

【ネットカフェ休業要請で「ネットカフェ難民」を密集環境の無料低額宿泊所へ】
ところで、日本では緊急事態宣言に伴い、東京などでは「遊興施設」のひとつとしてネットカフェも営業休止が要請されています。

そこで問題になったのが、ネットカフェで寝泊まりしている者が多数存在するという現実。

****ネットカフェ 休業要請で募る悩み 1日の寝泊まり4000人 東京 ****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためネットカフェなどに休業が要請される中、住む家がないなどさまざまな事情で寝泊まりする人を抱える店舗は、休業してしまうと利用者が居場所を失ってしまうと悩みを募らせています。

(中略)しかし、都内でネットカフェを経営するオーナーは、遊興施設というよりは、住む家がないという理由や仕事や家庭の事情で家を離れざるをえなくなり寝泊まりする人たちがいるのが現実で、そうした人たちが居場所を失ってしまうと悩みを抱えています。

この店舗では、一晩2000円ほどで完全個室の部屋で過ごすことができるため長期で滞在する人たちを多く受け入れていて、この日は10人余りが寝泊まりしていました。

店を利用する53歳の男性は、建設関係の仕事をしていて2年以上、この店を生活の拠点にしていると言います。

男性は、都内が仕事の現場になることが多く、店が休業すると今の仕事を続けられるか不安を感じていて「行政には従わないといけないし、ネットカフェがたたかれているのも分かっています。でも、そんな急に言われても困ってしまいます」と話していました。

東京都によりますと、ネットカフェなどで寝泊まりしながら生活する人は1日当たりおよそ4000人と推計され、都は、こうした人たちに一時的な住まいとして民間のアパートや都営住宅など新たに400室を用意しようと準備を急いでいるということです。

店によりますと、これまでに利用者で感染を疑うような症状が出た人はおらず、店内の消毒や換気を徹底しているということで、利用者が新たな生活の拠点を確保するめどが立つまでは営業を続けざるをえないと話しています。

オーナーの男性は「皆さん、家もないし、行くところもない。そんな人たちに出て行ってくださいとはとても言えないです。臨時に泊まることができる場所はどこで、いつから入れるのかなど明確にしてほしいです」と話していました。

ネットカフェをめぐる協議は
小池知事はネットカフェの休業で寝泊まりしている利用者の行き場が無くなることなどが懸念される中、国との協議の中で休業要請の対象にするかどうか調整が行われたことを明らかにしました。

そのうえで、今月、専決処分した補正予算に一時的に住まいを提供する事業を盛り込んだことなどを説明し、「セーフティーネットをちゃんと用意しますということで休業要請にネットカフェの文字が入った」と述べました。【4月10日 NHK】
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東京都は、「ネットカフェ難民」を一時的にビジネスホテルを2000室確保し、無料で宿泊してもらう措置をとると発表。
日頃、こういう弱者に冷たい「行政」にしては、随分と配慮が行き届いた対応だと感心していたのですが・・・

****新型コロナ福祉のダークサイド、ネットカフェ難民が追いやられた「本当の行き先」 ****
(中略)
劣悪な環境に人を収容
そこで東京都は、その人たちを一時的にビジネスホテルなどに無料で宿泊してもらう措置をとると発表し、やれやれこれで一安心……と思っていたら、実はそうは動いていないんだという話を、生活困窮者の支援活動を行っている一般社団法人『つくろい東京ファンド』の小林美穂子さんから聞いて、驚いた。(中略)

「今、いちばんの問題はネットカフェから出されて福祉事務所に助けを求める人たちが、次々に無料低額宿泊所に送り込まれていることです。そこがどういう所かの説明も受けず、『迎えの車が来てるから、さぁさぁ』と連れていかれ、契約書にサインをさせられています」

無料低額宿泊所。
聞きなれない言葉だが、小林さんの説明によると、無料低額宿泊所、通称・無低は、生活保護受給者を中心に受け入れる、施設で、良心的な施設もいくらかはあるものの、その多くは、悪名高き「貧困ビジネス」の場になっていることが多いという。

大部屋にぎっしり二段ベッドを並べたり、6畳ほどの部屋を3つに区切って敷きっぱなしの布団に寝かせるだけといった、劣悪な環境に人を収容する施設が多く、以前から問題になっている。

「しかも入居者が受給された生活保護費のほとんどを持っていかれます。門限もあり、外出外泊には許可も必要。場所によっては長くそこに逗留する牢名主みたいな人がいて、小銭やタバコをかすめとられたりもしますし、弱いものいじめはあたりまえ。人間トラブルから死亡事件が起きたこともあります。
 
一般の人たちは、こんなところを役所が重宝しているなんて、とても信じられないでしょうが、そこに留め置かれ、いつまでもアパートへの転宅を許されない人達が全国で3万人いるといわれています」
 
生活保護費のほとんどをむしり取り、自由も制限し、高齢者が多くて心身ともに治療が必要な人も放置される。これまで何度かニュースになってきたのに、現在も生活困窮者救済の対策として大手を振ってド真ん中にいる。福祉のダークサイドだ。(中略)

東京都の“逃れよう”とする姿勢
それでは感染防止のためにネットカフェをクローズした意味が全くない。東京都はビジネスホテルを2000室確保して、ネットカフェから追い出された人たちを無償で泊まらせると発表したのではないか。
 
そもそも元からその無低を家として住んでいた高齢の人たちのところへ、もしや無症状で感染しているかもしれない新規の若い人たちを送りこむことは、感染リスクを高める最悪のやり方だ。クラスターになりえる。(中略)

なぜ、そんなことが起きるのかは、東京都が23区や市の福祉事務所に『一義的に無料低額宿泊所を使うべし』という通達をしているからです。感染拡大を止める気があるんでしょうか? ビジネスホテルを確保しているというのに、そこを使わせない。意味がわかりません。(中略)

『つくろい東京ファンド』代表の稲葉剛さんが東京都へ強く抗議し、16日夜になって東京都は「本人とのやり取りにおいて民間施設(無料低額宿泊所)等が困難と判断した場合は、ビジネスホテルを使う。民間施設を使う場合も、施設の感染症対策を確認した上で、可能な限り個室で対応する」と新たに発表したそうだ。(中略)

新型コロナがパンドラの箱を開けた
(中略)「自己責任で弱者を見捨てることも、生産性で人の価値をはかることも、弱者同士を争わせる既得権を持つ者たちが責められることもなく、権力や経済力の上にあぐらをかき続けるさまも、ぜんぶ霞んで消えればいい」
 
本当にそうだ。この新型コロナウイルスを生き抜くには、自分だけが助かればいい、では成り立たない。今は会えない人たちとも心の手を結び合い、物心共にシェアしていく以外、この時代を築いていくことは無理だ。自己責任論は最も忌むべき敵だと思う。

「コロナ禍を転機に、福祉を正常化させましょう。今後はネットカフェに暮らすような人がいない社会にしましょうよ」と、小林さんは言う。

「逆を言えば、新型コロナウィルスがこれまで行政が開けようとせず、私たち支援者も開けられなかった“パンドラの箱”を開けたんです。

ネットカフェに暮らし、これまで毎日うつらうつらとしか睡眠は取れず、医療にもかかれず、節約のためにシャワーも毎日は使わず、カップラーメンばかり食べながら足も伸ばせずにいた人たちが、ふつうに人間らしい暮らしができるようになれば、禍も福と転じます。(後略)【4月17日 週刊女性PRIME [シュージョプライム] 】
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生活保護費のほとんどを吸い上げるダークビジネス「無料低額宿泊所」の存在はこれまでも指摘されてきたところです。

小池都知事が大見得を切った「セイフティーネット」とは「無低」のことだったのか?

「ネットカフェ難民」を一時的にそうした「無低」に移すことの福祉政策面での問題は多々議論もあるところでしょうが、コロナ対策として見た場合は、“密集”環境においてむしろクラスター発生を促すような措置で、それぐらいならネットカフェを営業した方がずっといいように思われます。

“新型コロナウイルスを生き抜くには、自分だけが助かればいい、では成り立たない”ということで、「ネットカフェ難民」のような弱者への配慮も必要になるあたりは、シンガポールの外国人労働者への対応と同じです。

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