孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン 服装取締り運動

2007-08-06 16:07:50 | 世相

(ドレスコード違反で女性警官に連行される女性 “flickr”より By Hamed Saber)

昨日8月5日の南日本新聞の記事。
「2年後の再選をにらみ、イランのアハマディネジャド大統領が強権発動に出ている。
政敵ラフサンジャニ最高評議会議長(公益判別会議)の側近を拘束、これは「次はお前だ!」との警告であるとの指摘も。
一方のラフサンジャニ議長も、急激なインフレを起こした大統領の経済政策を「テスト期間は終わった。」と酷評し、ハタミ前大統領ら改革派と手を組む動きも。
アハマディネジャド大統領は、ラフサンジャニ議長の名前は出さないものの、「欧米同調者がいる」と批判。
言論統制を一段と強化して批判的な新聞、ニュースサイトを相次いで閉鎖した。」

先月23日のAFPに「テヘランの“服装取締り運動”に市民から不満の声」というものもありました。
「4月に開始された「社会安全保障改善計画」の一環。
注意する対象は「短すぎるマント」「短すぎるパンツ」「肌が透けて見えるストッキング」などの服装。中には、「指導巡回中」と書かれた黒いミニバスに乗せられる女性もいる。
ある女性警官は、「私たちはあくまでも言葉で指導している。だからバットも催涙スプレーも持ちません。最悪でも、ミニバスに連行するときに『腕をつかむ』程度」と語った。
しかし、「服装の取り締りよりも、貧困の解消や犯罪対策が先ではないか」と疑問視する声は少なくない。」


(新たに100名採用された女性警察官 “flickr”より By noushinphoto)

イランにはアハマディネジャド大統領の反米・原理主義の強硬なイメージがありますが、いくつかのサイトで確認しただけでも、必ずしもそんなに単純でも一枚岩でもないことが窺えました。

政治体制もなかなかユニークです。
大統領は行政府の長ですが、三権の上に立ち軍の最高司令官である“最高指導者”がいます。
現在の最高指導者はハメネイ師ですが、アハマディネジャド大統領はこのハメネイ最高指導者の支持を得ていることが権力の基盤にあると言われています。

しかし、核問題でいたずらに挑発的な反米路線をとる大統領に対し、ハメネイ師は「核問題を大統領が“個人化”している」として不快感を表しているとのこと。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
同様の不満、また経済政策に関する不満は保守層にも強くなっているそうです。
ハメネイ師傘下の新聞は「核問題については国政の重要会議の際にのみ話し、合衆国のような攻撃的諸国を挑発するのをやめるように助言する。そして人々が日々必要としていることに集中すべきだ。人々はこれに関する公約によって大統領に投票したのだ」と述べています。

最高指導者は専門家会議によって選出されますが、専門家会議メンバーは国民の投票によります。
昨年12月に行われた選挙ではアハマディネジャド大統領陣営は敗北。
さきの大統領選挙で敗れた保守穏健派のラフサンジャニ元大統領がメンバーに選出され、専門家会議の議長をも窺う勢いだそうです。
なお、専門家会議は最高指導者の罷免権を有しています。

もちろん立法府・国会に相当する議会はありますが、候補者は監督者評議会の審査を受けないといけません。
評議会メンバー12人のうちイスラム法学者6人を最高指導者が、残り6人の一般法学者を最高司法権者が指名するそうです。
この監督者評議会は議会に対し拒否権を持ち、憲法・イスラム法に反すると判断された法律は議会に差し戻されるそうです。
大統領候補の審査も行います。

監督者評議会と議会の間を仲裁する機関が公益判別会議。
最高指導者の諮問機関としての役割もあります。
ラフサンジャニ元大統領はこの公益判別会議の議長でしたが、今はどうなのでしょうか。
やや古い話になりますが、ハメネイ最高指導者は一昨年10月、ラフサンジャニ元大統領が議長を務める公益評議会の権限の拡大を発表し国内外で憶測を生んでいました。
一部には、核問題などでのアハマディネジャド大統領の行き過ぎを、ラフサンジャニ元大統領をぶつけることで牽制するねらいでは・・・とも言われていました。




(ヒズボラ支持、反イスラエル集会の女性、前列女性が体に巻いているのは自爆テロに使う爆弾用のもの “flickr”より By Mardomak)

そのアハマディネジャド大統領ですが、反米・イスラム原理主義的な強硬路線と同時に、貧困層へのスープ無料配給などの“一般受け”しやすい政策で人気を得て政権を奪取しました。
しかし、経済はインフレが加速、外交的には孤立ということで、保守派からも批判が出てきているのは先に触れたところです。

原理主義的なイメージの強い同大統領ですが、昨年4月には“女性のスタジアムでの男性スポーツ観戦を解禁する方向”との発表がなされ、保守派の強い反発を招いたようです。
また、女性のスカーフなどについても、比較的寛容な姿勢を見せたりすることもあるようです。
昨年12月には、大統領演説を学生が中断させる抗議行動が起こりましたが、これに対し大統領は、「私アハマディネジャドに手製の爆弾を投げるようなことがあっても、抗議活動参加者への尋問や妨害を禁ずるよう」当局に指示したそうです。
このあたりの女性や学生に対する鷹揚さは、恐らく選挙で選ばれた政治家として国民に不人気なことはあまりしたくないということではないでしょうか。
ブッシュ米大統領から“悪の枢軸”とも呼ばれる訳ですが、保守派の批判や国民の評価を気にしながら政策を行う点では、“民主的”選挙で選択された政治家という大枠で共通するものがあるのでは。

いずれにしても、いろんな勢力間で支持・対立・牽制などがあり、表面的なひとつの発言・行動では判断しかねるところがあるようですが、それは日本の政局を見てもしごく当然の話でしょう。
少なくとも、原理主義とか反米路線の一枚岩で、既定路線を突き進むだけ・・・という訳ではないようです。


(携帯電話を覗き込む女性 “flickr”より By ales_partyzan)


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