孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  社会主義の新たな方向性、キューバモデルは?

2009-10-11 19:20:21 | 国際情勢

(ハバナの街角 葉巻をくわえる女性 さすがキューバ “flickr”より By Chaymation
http://www.flickr.com/photos/chaymation/3248526024/

【「前向きな一歩だとわたしも認める」】
オバマ大統領のノーベル平和賞受賞については、昨日も書いたように個人的には歓迎していますが、世間には賛否両論があります。それは、それぞれが置かれている状況の反映でもあります。
一番複雑なのは、激しい戦闘が続くアフガニスタン・パキスタンの人々の反応です。
TVの番組の中で、あるアフガニスタンの男性が「我々はアメリカの名のもとに爆弾で殺される。生き残った者もタリバンの名の下に殺される」と怒っているのが印象的でした。

そうした受賞に対する反応のなかで興味深かったのは、かつての(あるいは、“いまでも”か)「敵国」キューバのカストロ前議長が随分好意的なコメントをしていることでした。

****カストロ前議長、オバマ米大統領へのノーベル賞を評価*****
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長は10日、米国のバラク・オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したことを評価した。
カストロ前議長はキューバ共産党機関紙に投稿した論評のなかで、「この組織(ノーベル賞委員会)の決定にいつも同意するわけではないが、今回の決定は前向きな一歩だとわたしも認める」と記した。
さらに世界の多くの人がオバマ大統領の受賞は時期尚早だと感じたが、と前置きし、「しかしこの決定が意味するのは、1人の米国大統領の受賞ということだけではない。今回の授賞には、歴代の米国大統領たちが追求してきたジェノサイドの政治に対する批判をみることができる」と続けた。【10月10日 AFP】
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オバマ大統領とラウル・カストロ国家評議会議長のもとで関係改善を模索している両国の状況からすれば、納得できるところですが、今回のカストロ前議長のコメントには、経済封鎖解除に向けたキューバ側の期待感が感じられます。
その両国間の関係はお互いの事情もあって改善の方向にはありますが、一直線に・・・という訳ではなさそうです。

【雪解けの兆し、されど・・・】
****革命50年・キューバの行方:/上 オバマ政権誕生で雪解けの兆し*****
「我々はあらゆる分野で米国と話し合う用意がある」。昨年2月、兄のフィデル・カストロ前国家評議会議長(83)の後を継いだラウル・カストロ議長(78)は、就任以来、繰り返し米国との対話姿勢を表明。オバマ大統領も対キューバ政策の転換を打ち出した。

米国は61年、社会主義化したキューバと断交。米国の圧力で一時はメキシコを除くすべての米大陸諸国がキューバと国交を断絶した。だが、ベルリンの壁崩壊から20年。両国を取り巻く政治環境は大きく変わった。ミサイル危機を招いたソ連軍基地はキューバから消えた。さらに21世紀に入ると中南米諸国は次々と左傾化した。
今年6月、中米エルサルバドルで左派のフネス大統領が就任、キューバとの国交回復に踏み切ると、同国と国交のない国は米大陸で米国だけになった。この直後、米州機構(OAS)は62年のキューバ除名決議を無効にした。米国は異議を唱えなかった。米国にとってキューバとの関係改善は中南米諸国との関係を円滑にする効果もある。
キューバにとって米国の経済封鎖は生活苦の元凶だ。制裁が解除されれば経済は飛躍的に向上する。米国にとっても目と鼻の先のキューバは有望な市場だ。米国は今年4月、在米キューバ人の祖国への送金や渡航規制を解除するなどの制裁緩和を発表。秋にはニューヨーク・フィルハーモニックがハバナで公演する。

ラウル議長は今月、「米国の反キューバ姿勢は減退した」と評価。しかし、「我々の政治体制については交渉しない」とクギを刺した。オバマ政権もキューバの民主化を求める建前を崩していない。
カナダ・ダルハウジー大学のジョン・カーク教授(キューバ政治)は、現在の変化は表面的だとし、「オバマ大統領と意見が異なる国務省官僚やCIA(米中央情報局)が、50年間続けた姿勢を変えることは難しい」と指摘する。半世紀も凍りついた関係を温めるのは容易ではない。【8月28日 毎日】
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上記記事にもあるニューヨーク・フィルハーモニックが今月末に予定していた首都ハバナでの公演は、結局中止されることになりました。なかなか難しい情勢もあるようです。

****NYフィルのキューバ公演中止 スポンサー帯同許されず*****
米国のニューヨーク・フィルハーモニックが今月末に予定していたキューバの首都ハバナでの公演が、中止されることになった。米紙ニューヨーク・タイムズが2日伝えた。公演を財政的に支え、同行することになっていたスポンサーに対し、米政府の渡航許可が出なかったためという。
公演は10月31日と11月1日、ハバナ中心部の劇場で行われる予定で準備が進んでいた。平壌公演に続く「敵国」での文化交流になり、関心が集まっていた。

同フィルのザリン・メータ代表が同紙に、対キューバ経済制裁を実施する米財務省の海外資産管理局から「オーケストラ団員の渡航は了承するが、スポンサーは認められない」と連絡を受けたことを明らかにした。オーケストラの海外公演にはスポンサーが同行するのが常で、同フィルはスポンサーのキューバ行きが認められない以上、キューバ公演は行えないと判断。同フィルは、来年6月か7月に改めてキューバ公演を行う可能性を探るという。
米国はキューバへの自国民の渡航を原則として禁じている。経済制裁を行っている相手国で米国民がドルを落とすのを封じる狙いで、報道や芸術活動など、目的によって例外的に渡航が認められる。今回は、スポンサーの渡航は例外にあてはまらないと見なされたようだ。【10月3日 朝日】
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【キューバ型のモデルへの模索】
ラウル・カストロ国家評議会議長は就任以来、前議長のもとでの平等主義・社会主義の原則を一部見直す経済改革を進めていますが、アメリカによる経済封鎖が続く大枠のなかでは大きな成果も難しいようです。

****革命50年・キューバの行方:/中 独自モデル方向見えず****
昨年2月に国家元首に就任したラウル・カストロ国家評議会議長(78)は「生産性の向上と効率化」を掲げ、市民生活の改善を最大の課題にしている。ラウル議長は一部家電製品の販売自由化や携帯電話の所持解禁、個人タクシー営業の許可など一連の改革を打ち出した。遊休国有地の個人・団体への長期貸与にも踏み切り、農産物などの生産向上も期待されている。しかし、土地を借りても利用者には投資力がない。種苗や肥料も不足しており、効果はすぐには出そうにない。
キューバの雑誌テマスのエルナンデス編集長は「昨年の3回のハリケーン被害や世界的経済危機で、今は『倹約政治』の時だ」と指摘する。「ラウル議長は省庁再編や経済担当閣僚の大幅な入れ替え、教育現場改革などで社会の変革に取り組んでいる」と政府の努力を評価する一方、「改革には時間がかかる。国民が満足していないのは事実だ」と言う。
改革志向が強いとされるラウル議長について中国やベトナムをモデルに大胆な市場原理を導入するのではないか、との観測がくすぶってきた。社会主義国キューバに必要なのは、生産力向上につながる刺激策だ。政府は限定的ながら農業などで市場原理を導入してきたが、国民に格差が生じることを嫌うこともあり、積極的に取り組む気配は今のところない。同国の経済学者は「我々にモデルはない。キューバ型のモデルを作る」と話す。
ラウル議長は昨年、第6回共産党大会を今年後半に、開催する方針を表明した。だが、12年ぶりになるはずだった党大会は来年以降に延期された。経済危機への対応を優先するためという。キューバ社会主義の新たな方向性はまだ見えてこない。【8月29日 毎日】
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9月には、酒に酔った男性が「足りないのは食い物だ」と声高に食料難を訴える映像がインターネット・ユーチューブで世界を駆け巡り、話題となりました。この男性はその後釈明しましたが、秩序を乱す危険行為として禁固2年の刑を言い渡されました。【9月12日 時事より】
食糧・電力など経済問題だけでなく、政治・表現の自由の問題もあるようです。

【受賞は関係改善のはずみになるか】
前議長の健康問題は以前から注目されていますが、弟のラウル現議長にしても高齢です。
今年3月、次代の指導者とみられていたカルロス・ラヘ副議長(57)とフェリペ・ペレス外相(44)の更迭が突然発表されて話題になりました。
ラウル現議長のアメリカ接近・改革路線への抵抗とかの権力闘争、ベネズエラのチャベス大統領の関与なども取り沙汰されましたが、いずれにしても次世代の後継者が定まっていないようです。

オバマ大統領の平和賞受賞で両国接近にはずみがつくのでしょうか。
今後のキューバ社会主義の新たな方向が注目されます。

全く関係ありませんが、亀井静香大臣は「私が尊敬するのは、貧困に苦しむ民衆のために死を選んだチェ・ゲバラと大塩平八郎だ」と語っているそうで、なるほどね・・・。


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