(ガザの議会 燃料供給がストップして発電ができない状態のため、議会もロウソクのあかりで開かれています。 “flickr”より By אפי פוקס Effi Fuks
http://www.flickr.com/photos/effifuks/2217436934/)
先日15日でイスラム原理主義組織ハマスによるガザ地区支配が1年を経過しましたが、そのハマスとガザ地区経済封鎖を続けるイスラエルとの間で“合意”がなされたそうです。
*****パレスチナ:ハマスとイスラエル、ガザで非公式の停戦合意*****
【6月18日 毎日】エジプト外務省は17日、同国の仲介でイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが非公式の停戦に合意したと明らかにした。ロイター通信が伝えた。合意は2段階からなり、まずは双方が暴力を停止。その順守を確認した後で、ガザに対する封鎖解除の可能性などを協議するという。
交渉は数カ月前から水面下で続いていた。イスラエルは約2年前からハマスが拘束している自国兵士の解放を、ハマスはガザ・エジプト境界のラファ検問所の再開を、それぞれ停戦合意の絶対条件に掲げたため、交渉は行き詰まった。しかし、双方がこの要求をひとまず先送りすることで、折り合いを図った模様だ。
ガザからの情報などによると、イスラエルとハマスは19日午前6時(日本時間同日正午)、相互に暴力を停止し、この後3日間、順守状況を監視する。「平穏」が続けば、イスラエルはガザへの物資の輸送制限を徐々に緩和。そして第2段階として、拉致イスラエル兵の解放やラファ検問所の再開について、本格的に協議するという。
ただ、ガザでは17日もイスラエル軍の攻撃でパレスチナ武装勢力のメンバー少なくとも6人が死亡しており、停戦発効にこぎつけたとしても、長期継続には懐疑的な見方が強い。
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【瀕死のガザ地区】
ガザ地区は面積的にはヨルダン川西岸地区の6%あまりにすぎませんが、西岸地区の6割強にあたる人口1500万人が生活する人口密集地域です。
ガザ地区の家具製造や繊維業、農業といった主要産業部門のほとんどはイスラエル向けで、経済封鎖によって輸出がストップしており、更に燃料も止められている現在、ガザ地区は国連からの援助だけで生き延びている状態と言われます。
「ガザの経済はイスラエル頼りなんだ。封鎖が解除されなければ、われわれは真綿で首を絞められながら死んでいくようなものだ。」
「金を持っている企業家は、ガザ地域を後にしてエジプトや湾岸地域に行ってしまった。彼らなしでどうやってパレスチナ国家を建設するっていうんだ。」(ガザ地区の家具製造業者 6月12日 AFP)
ILOの統計によると、ガザ地区の失業率は29.8%(20-24歳の若年層では37%)だそうですが、むしろ残り6~7割がどんな仕事に就労できているのか不思議なくらいです。
世界銀行は、イスラエルによる経済封鎖でガザ地区内の企業の96%が立ちゆかなくなったと指摘しています。
今年4月には、中東問題を協議していた国連安全保障理事会で、リビア代表がイスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区封鎖をナチス・ドイツの強制収容所にたとえたことから、フランスなど西欧諸国の代表が退席するといったこともありましたが、“強制収容所”かどうかは別としても、限界が近づいていることは間違いように思われます。
【限界に近づく住民の不満】
当然、実効支配するハマスに対する不満も強くなります。
昨年11月の故アラファト前自治政府議長の追悼集会では、前議長の母体・ファタハの支持者数千人が集まり、ハマスとの間で銃撃戦に発展、少なくとも6人が死亡しまた。
この時、集会参加者はハマス支配下の政府機関などを占拠する計画を持っていたと明かす関係者もいます。【6月16日 毎日】
しかし、やり場のない住民の不満は、事態を改善できないアッバス議長、ファタハにも向かいます。
ハマス等の武装勢力は、高まる不満の“ガス抜き”というか、イスラエルに対する実力誇示というか、“壁”爆破を行いましたが、この爆破後、ハマスの支持率はファタハを逆転したことも伝えられています。
限界が近づく不満を抑えるため、再度、ハマス等による壁の爆破が行われるのでは・・・という懸念も持たれていました。
そういった事態になると困るエジプトが国境警備を厳重にし、国境沿いのバリケード建設を急いでいるという記事もありました。(5月15日ブログ http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080515 )
エジプトはガザが暴発すると直接の影響を蒙ることもあってのことでしょうか、3月初めのイスラエルとハマスの戦闘激化以来、水面下で両者の交渉を仲介してきたようです。
【水面下での交渉】
“交渉”の面では、4月にカーター元大統領とハマス指導者の会談が行われ、その際に「ハマスにはイスラエルを隣人と認める用意がある」と言ったとか、言わなかったとかという話がありました。
“イスラエルの生存権を認める”云々は別にしても、ハマス側も何らかの着地点を模索していることが窺われる話でした。(4月22日ブログ http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080422)
今月に入ると、パレスチナ自治政府のアッバス議長は4日夜、ハマスの支配下にあるガザ地区との分断状況を解消するため、ハマスとの対話再開が必要との考えを表明しました。
議長はこれまで、ハマスがガザを制圧以前の状態に戻さない限り、対話には応じない姿勢をとっていました。
しかし、イスラエルとの和平交渉に具体的な進展がなく、パレスチナの再結束が不可欠との判断から、事実上の方針転換を図ったものとも報じられています。【6月5日 毎日】
このアッバス議長の対応について、「ハマスとの接触をちらつかせることによって(ハマスを嫌う)イスラエルの対抗心をくすぐり、和平交渉をせかせるのが狙い」と解説する向きもありましたが、真偽のほどはよくわかりません。
真偽はわかりませんが、イスラエルにしても、ハマスにしても、アッバス議長側にしても、自分等の命運にかかわる問題ですので、表向きの“公式対応”とは別に、水面下で生き残りをかけた現実的な取り組みがなされていたようです。
ただ、イスラエルのオルメルト首相は汚職スキャンダルで政治生命は風前の灯状態。
アッバス議長も任期切れが迫っています。
仲介する立場のアメリカ・ブッシュ大統領も任期切れ間近・・・という状況では、リーダーシップを発揮した、思い切った局面打開は困難だろうというのが大方の見方でした。
【希望か絶望か】
今回のイスラエルとハマスの合意がどのように進展するかは、事態を見守るしかありません。
“真綿で首を絞められながら死んでいくようなもの”“強制収容所”といったガザ地区住民にとっては、大きな希望にも思えることでしょう。
逆に、プロセスが破綻すると“希望”は絶望に変わります。
“壁”爆破といった実力行使に走るのか、あるいは、住民のハマスかファタハへの不満が爆発することもあるかも・・・そんな心配・懸念もあります。
なお、このままイスラエル・ハマス間で事態が進展すれば、アッバス議長・ファタハの立場は微妙になります。
今後の“パレスチナ”における影響力にも関わるのでは。
どこかで、イスラエル・ハマス交渉に絡んでくるのでしょうか。
このあたりはまた水面下の話でしょうから、分かりようのないところです。
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