(南シナ海を見下ろす形で中国・海南島に立つ、高さ108mの巨大な南海海上観音聖像 中国が、このような御仏の心で事に臨めば、南シナ海の波も穏やかになるのでしょうが・・・ “flickr”より By llee_wu http://www.flickr.com/photos/13523064@N03/6870505353/ )
【対中「強硬派」のフィリピン、ベトナム】
中国が関係諸国と領有権を争う南シナ海問題については、ASEAN諸国のなかでも、対中「強硬派」のフィリピン、ベトナムと、「穏健派」のブルネイ、マレーシア、非当事国のラオス、カンボジアなどでは温度差があるとされています。
違法漁民へのフィリピンの対応も、「強硬派」の“同盟国”であるベトナムに対しては寛大だとか。
****中国に厳しく、ベトナムに寛大****
パラワン島の西約300キロには、比と中国など6カ国・地域が領有権をめぐって対立しているスプラトリー(南沙)諸島が広がる。同島の北西約260キロには、膨大な未開発の石油・天然ガスが眠っているとされるリード礁があり、昨年3月には中国海軍の艦艇が比の資源探査船を妨害する事件が起きた。中国との緊張は、密漁事件への対応にも影響しているようだ。
昨年5月、比国旗をかかげた大型漁船でパラワン島付近の比領海に入ったベトナム漁民122人が捕まる事件が起きたが、ベトナム漁民たちは罰金を払っただけで間もなく釈放された。これに対し、中国漁民たちはいまも拘束されている。
ベトナム漁民への対応について、パラワン州幹部は「政府から寛大に扱うよう働きかけがあった」と明かした。さらに中国の南シナ海進出をめぐって、警戒感を募らせる比とベトナムは「対中国で同盟国」との認識も示した。
それを裏付けるかのように、昨年12月の事件で捕まった中国漁民について「早急で公正な措置」を求める中国外務省に対し、比外務省は沈黙を守ったまま。事件への対応についての取材にも「コメントできない」という。 【2月14日 朝日】
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【「他国への見せしめとするべく・・・・」】
一方、“大国”中国の意に従わずアメリカとの関係を強めるフィリピンに対して、中国ネット世論はかなり苛立っているようです。
****中国ネットユーザーの98%「フィリピンに制裁を!」=米との軍事協力拡大で―中国メディア****
2012年1月30日、フィリピンが米国との軍事協力拡大による南シナ海などの海洋安全保障体制強化を検討していることを受けて、ネット上で行われた「中国はフィリピンに経済制裁を行うべきか」というアンケートでは、回答者2万5000人のうち、98%が賛成と回答した。環球網が伝えた。
賛成派からは「中国の友情は主権の放棄を意味しない。経済制裁は無礼な行動への報復だ」「アキノ大統領にも意図があるのだろうが、中国の主権への干渉は容認できない。経済というテコで両国の関係を正しい軌道に戻すことこそ賢明」といった回答が寄せられた。
また、「経済だけではなく、全方位的な制裁を行うべき」との声や、「他国への見せしめとするべく、核心的利益を守るためにあらゆる手段をとるべき」「フィリピンは米国の手先になる前に国内の貧困問題を解決せよ」とする意見もあった。
少数の反対派からは、「他国がどこと仲良くしようと口を挟む権利はない」「経済制裁は諸刃の剣、必ずしも中国の利益にならない。板ばさみになる小国にはやむを得ないこと。経済の不安定はどちらにとっても不本意なのだから、我慢強く、愛をもって気長にやるべき」との声が挙がっている。
一方で、「フィリピンではなく米国に制裁を。米国こそならず者の海賊で、フィリピンは誘拐された人質だ」という意見もあった。【1月31日 Record China】
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【強まる“対中シフト”】
そのフィリピンのアメリカとの同盟関係強化は、オーストラリアのダーウィンへの米海兵隊駐留、シンガポールに最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)配備などと併せて、“対中シフト”の形成の一環となっています。
****米国-フィリピン 中国にらみ、関係強化****
基地使用の運用策検討に着手/3月には合同演習
フィリピン軍事筋は26日、同国内の基地を米軍が使用し艦船を配備することなど、同盟関係を強化する具体的な運用策について、米政府と検討に入ったことを明らかにした。艦船や海兵隊による南西部パラワン島の使用などが、俎上(そじょう)に上がっている。パラワン島周辺では3月中旬にも、両国海軍による合同軍事演習が実施される。
運用策の検討は、南シナ海などにおける中国の海洋覇権拡大に対処し、アジア・太平洋地域で米軍事力を強化する一環。両政府は艦船、哨戒機、海兵隊などについて配備、駐留の対象と規模、場所を検討している。
このうち、パラワン島にはフィリピン海・空軍基地があり、南シナ海に面し、中国と領有権を争う南沙(英語名・スプラトリー)諸島に近い。パラワン島の南にあるバラバク島を将来、潜水艦基地とし米軍に“開放”する構想も、フィリピン側の一部にはある。
ただ、フィリピン世論には、新たな基地協定を締結し、米軍駐留を固定・制度化することへの抵抗感が依然、存在する。このため両政府は、米軍がフィリピン軍の基地を“間借り”する形を取り、既存の(1)米比相互防衛条約(2)訪問米軍に関する地位協定(VFA)(3)相互補給支援協定(MLSA)-を汎用(はんよう)する方向だ。
米紙ワシントン・ポスト(25日、電子版)は、艦船や部隊を定期的に交代することや、合同訓練の強化も検討していると報じた。
オーストラリアのダーウィンに米海兵隊が駐留し、シンガポールに最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)が配備されることから、フィリピンにおける米軍の運用策が決まれば、対中シフトはさらに強いものとなる。
フィリピン政府はまた、警備艇、哨戒艦など装備の調達計画リストを米側に提示しており、米国の装備供与も順次、進むとみられる。
一方、パラワン島周辺での合同軍事演習は、石油・天然ガスの掘削施設を防衛するという想定。米側から艦船、航空機多数、要員500人以上、フィリピンから1千人以上が参加する大規模なものとなる。【1月27日 産経】
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沖縄からグアムへの移転を予定している米海兵隊の一部をフィリピンに向けることも検討されています。
****米軍:フィリピン国内で合同訓練増 海兵隊移転へ地ならし****
フィリピンを訪問中のアンドリュー・シャピロ米国務次官補(政治・軍事担当)は10日、フィリピンのガズミン国防相と会談し、フィリピン国内で両国軍による人道支援や災害支援活動の訓練回数を増やすことで大筋合意した。フィリピン国防省が明らかにした。両国軍の合同訓練を増やすことで、米海兵隊を国内に受け入れる地ならしをするのが狙いとみられる。
アジア太平洋地域を重視する米国の新国防戦略と、日米両政府による8日の在日米軍再編のロードマップ見直しに関する合意を受けた会談。見直しでは、グアム移転が予定されていた沖縄の海兵隊の一部をアジア太平洋で分散ローテーションさせる方向となり、フィリピンもその候補地の一つとされる。
ガズミン国防相は「フィリピンの憲法や法律にのっとったものだ」と述べ、国内で米軍との合同演習を可能にする「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の枠内で演習を行うことを強調した。91年に米軍基地協定の更新を拒絶し、米軍基地を撤退させたフィリピンの国民感情に配慮したものと見られる。
フィリピンでは、米軍基地撤退後の95年に中国が南シナ海の南沙諸島に軍事拠点を構築。そのため、フィリピンは99年に米軍との合同軍事演習を可能にするVFAを批准した。米同時多発テロ発生の翌年の02年からは、米兵約600人がテロ対策名目で南部ミンダナオ島に駐留している。【2月10日 毎日】
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【「米中両国に良い顔をしなければいけないのが現実」】
こうした“対中シフト”に対し、中国の対フィリピン批判は先述のネット世論だけでなく、共産党指導部にも高っています。
フィリピンとしても、対中貿易額(10年)は全貿易額の約1割を占めており、中国は4番目の貿易相手国という関係にあり、中国との無用の摩擦は避けたい思いもあります。
****フィリピン:米との関係強化に中国、制裁ちらつかせる****
米国がアジアにおける軍事プレゼンスの強化を打ち出し、フィリピンとの関係強化を進める中、フィリピンと中国の間であつれきが生じている。中国共産党系の情報紙「環球時報」が社説でフィリピンとの経済関係冷却化などの制裁をちらつかせ、これに対して、フィリピン国会で「脅しだ」と反発する声が上がっている。経済分野での中国依存が強まっている事情から、フィリピン政府は社説を直接的には批判せず、中国を刺激しないよう配慮している。
米国とフィリピンは1月末、ワシントンで開かれた国防・外務両省の高官級協議で、中国の南シナ海での軍備拡張を念頭に、軍事協力を強化することで合意した。軍事演習の規模や回数を増やすことなども協議した。
協議について1月29日付環球時報は「フィリピンにバランス外交のツケを支払わせろ」と題した社説を掲載。「フィリピンは処罰するのに最適な標的だ。(処罰によって)米中間でバランスを取ることが良い選択肢ではないことを周辺国にも知らしめるべきだ」と指摘した。
フィリピンでは国会議員から抗議文の提出などの行動を検討する動きも出ている。だが、国防省報道官は「社説はさまざまな意見のひとつにすぎない。米国との協力は中国を念頭に置いていない」と静観の構えだ。大統領府も「(米国との)協議は初期段階だ。我が国の防衛力を高め、周辺国に追いつくようにしているだけだ」と表明するにとどめ、中国を刺激するのを避けている。
米国は南シナ海への中国の進出を視野にオーストラリアへの海兵隊駐留や、シンガポールへの新型戦闘艦配備の計画を進めている。一方、フィリピンは経済分野で中国への依存を強めている。対中貿易額(10年)は約100億ドルと全貿易額の約1割を占めており、中国は4番目の貿易相手国になっている。
匿名を条件に取材に応じた空軍少佐は「米同盟国の中で我が国の軍事力が最も貧弱で『中国包囲網の穴』と認めざるを得ず、米国に頼らなければならない」と対米軍事協力の必要性を指摘する。同時に「中華系フィリピン人(華僑)が経済を牛耳り、経済でも中国に依存している。米中両国に良い顔をしなければいけないのが現実だ」と話した。【2月5日 毎日】
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“処罰するのに最適な標的”・・・・“大国”中国の驕りが感じられる言い様です。
自国の利益のみに固執し、国際ルールに従わない強面の隣人には、日本もフィリピンも、その対応に苦慮するところです。
3月中旬に予定されているパラワン島周辺での米比合同軍事演習が行われると、中国の苛立ち・批判もエスカレートするものと思われます。
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