(アメリカ・フィリピンの共同水陸両用演習(2022年03月31日)【12月23日 Japan In-depth】)
【南シナ海で領土拡張に励むベトナム】
世間の関心には“波”があるので、ひところ連日のように報じられていた南シナ海における中国の進出についても、最近はあまりニュースを目にしなくなりましたが、状況が大きく変わった訳でもないでしょう。
南シナ海の海域は豊かな海洋資源があるとされ、海上交通の要衝でもあります。中国は南シナ海のほぼ全域を囲む「9段線」を独自に設定し、管轄権を主張。人工島を造り、軍事拠点化を進めてきました。
海域の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)、東沙(プラタス)、中沙諸島には多数の島や岩礁があり、中国以外にも、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどの周辺国が領有権を主張しています。
中でもベトナムは中国に強硬な姿勢を取ってきました。これまでに激しい衝突を繰り返してきた歴史もあります。
1973年に当時の南ベトナムが南沙諸島の六つの島や岩礁を占領。74年に西沙諸島を中部ダナン市に編入し、軍艦を派遣。これに対して中国も軍艦を送り、両海軍が衝突。両国に多数の死傷者が出た末に、中国海軍が諸島全域を武力で制圧しました。
1988年には、南沙諸島のジョンソン南礁周辺で衝突が発生。中国海軍はフリゲート艦でベトナム海軍の輸送船を沈没させ、ベトナム側によると64人が犠牲になりました。
2012年にはベトナムが南沙、西沙諸島を自国領とする海洋法を成立させ、中国も両諸島を含む「三沙市」を設置するなど、駆け引きを繰り広げています。【12月23日 日系メディアより】
南シナ海では強硬姿勢が目立つベトナムですが、上記のような一触即発の状況、衝突の歴史があるだけに、ベトナムの対中国戦略は単純ではなく、強硬な対抗姿勢と同時に、過剰に、あるいは不用意に中国を刺激しないという抑制的な側面もあり、硬軟両面でコントロールしています。
そのベトナムは最近でも活発な動きを見せています。
****中国を相手に真っ向対決の姿勢...南シナ海、ベトナムの強気な「領土」拡張作戦****
<中国が急ピッチで人工島の造成を進めるなど、周辺国の領有権争いが過熱する南シナ海で、ベトナムの強気な姿勢がひときわ目を引いている>
領有権をめぐって周辺各国がにらみ合う南シナ海で、ベトナムが攻勢を強めている。
米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所の報告書によれば、ベトナムは2022年後半、中国などが領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島の複数の前哨基地で拡張工事を行い、新たに170ヘクタール分の埋め立てを完了。これで過去10年間に造成した「領土」は220ヘクタールに上る。
13~16年にかけてこの地域に計1300ヘクタールの人工島を建設した中国には及ばないとはいえ、ベトナムの強気の姿勢は南シナ海の領有権争いの新たな火種となるかもしれない。【12月20日 Newsweek】
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【中国の南シナ海進出を警戒するアメリカ】
一方、アメリカも中国の動きに警戒感を強めています。
米海軍第7艦隊は「航行の自由作戦」として、今年11月にミサイル巡洋艦チャンセラーズビルが南沙諸島付近を航行したと発表しました。
アメリカは声明で、この「航行の自由作戦」が国際法に沿ったものだと強調。中国が南シナ海で不法な海洋権益の主張をしているとし、「航行や飛行の自由、自由貿易、通商、沿岸諸国の経済的利益など、海上の自由への深刻な脅威となっている」と批判しています。【12月23日 日系メディアより】
また、11月末にフィリピンを訪問したハリス副大統領は、中国が人工島を建設し、軍事拠点化を進めてきた南沙(スプラトリー)諸島に近いパラワン島を訪問して中国の動きを牽制しています。
****米・ハリス副大統領が南シナ海のフィリピン・パラワン島を訪問 中国をけん制****
アメリカのハリス副大統領は22日、南シナ海に面するフィリピンのパラワン島を訪問し、国際的なルールを守る必要性を強調して海洋進出を強める中国をけん制しました。
南シナ海をめぐっては、中国が人工島を造るなどして軍事拠点化を進めていて、フィリピンなど沿岸国と領有権を争っています。
こうした中、アメリカのハリス副大統領は南シナ海に面するフィリピンのパラワン島で沿岸警備隊などを視察し、覇権主義的な動きを強める中国をけん制しました。
ハリス副大統領「我々は違法かつ無責任な行動に対して同盟国などと連携を続ける。国際ルールに基づく秩序がどこかで脅かされれば、あらゆる場所が脅かされることにつながる」
ハリス副大統領は、海上監視や違法漁業を取り締まるフィリピンの海洋当局に対し、日本円で10億円あまりの追加支援も発表しました。【11月23日 日テレNEWS】
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【アメリカに寄り添い、中国を牽制する姿勢を示すフィリピン・マルコス大統領】
万事について明確な姿勢がないとも言えるフィリピンのマルコス大統領はアメリカと中国の対立のはざまでバランスをとる姿勢でしたが、中国の南シナ海進出が止まない状況、また、中国の強引な姿勢に、中国への警戒感を強めている様子です。
そうした状況で「米国側は(6月に就任したフェルディナンド・マルコス大統領が)非常に親米だと予測し、良い機会であるとして積極的に乗り出した」(元駐フィリピン大使の石川和秀氏)【11月24日 読売】とも。ハリス副大統領のフィリピン訪問はその流れの中で行われました。
****南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意****
<フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収したが、中国海警局の船に強奪された。翌日、ハリス米副大統領が到着した>
11月20日、フィリピンと中国が領有権を争っている南シナ海の島の沖合で、両国の軍による小競り合いが勃発した。翌21日には、カマラ・ハリス米副大統領が、アジアで最も古いアメリカの同盟国であるフィリピンを訪問し、防衛協力を拡大することで合意した。
フィリピン海軍のアルベルト・カルロス中将は、中国軍との一件について声明を発表。スプラトリー(南沙)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収して持ち帰ろうとしたところ、中国海警局の船がそれを妨害して浮遊物を強奪したと主張した。
カルロスによれば、フィリピン海軍は20日、パグアサ島(中国名は中業島)から約800メートル沖合の海面に浮遊物があるのを発見。回収するためにゴムボートにロープでくくりつけて、島まで曳航していた。
すると「5203」の番号が記された中国海警局の船がゴムボートに接近してきて、「2回にわたって進路を妨害」。中国側もゴムボートを出してフィリピン側のボートに近づくと、「ロープを切って強引に浮遊物を奪い去った」。カルロスによれば、この件で怪我人は報告されていない。
浮遊物は中国が発射したロケットの残骸か
フィリピン軍西部司令部のシェリル・ティンドン報道官は、海面に浮遊していた金属片について、最近フィリピンの領海で相次いで発見された中国製ロケットの残骸によく似ていると述べた。(中略)
中国は南シナ海で、いわゆる「九段線」内の全ての島や礁、砂堆の領有権を主張している。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は2016年、この九段線には法的根拠がなく無効だと認定した。
フィリピンと中国が争ったこの裁判の判決を受けて、アメリカをはじめとする複数の国がフィリピンへの支持を表明したが、中国は判決を全面的に拒否した。
昨年11月には、フィリピンが実効支配しているセカンド・トーマス礁に向かう補給線を中国海警局の船舶が妨害する問題も発生した。
フィリピン政府はこれまでのところ、国際仲裁裁判所による2016年の判決を中国側に守らせることができておらず、中国側に繰り返し抗議を行っているものの、ほとんど成果は出ていない。フィリピン外務省は今回の一件について、再調査を行った上で次なる措置を検討すると述べた。
これとは別にフィリピン・デイリー・インクワイアラー紙は、パグアサ島の住民たちが今回の浮遊物強奪問題の数時間前、中国が占拠している近くのスービ礁から「大砲のような」大きな衝撃音を何度か聞いたと報告したと伝えた。
中国は、フィリピンでサモラと呼ばれるスービ(中国名:渚碧)礁を含むスプラトリー(南沙)諸島の3つの礁を完全に軍事化している。(中略)
相互防衛条約の下での協力を改めて確認
こうしたなか、ハリス米副大統領が20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。
マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた。
この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。
ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意だ」(中略)
ハリスの今回の訪問では、貿易やサイバーセキュリティをはじめとする数多くの分野で二国間協力の強化が期待されている。フィリピンにおける米軍の活動拠点拡大についても前向きだ。
アメリカ軍は現在、フィリピン国内の5つの拠点が使用可能だ。フィリピン軍のバルトロメ・バカロ参謀総長は先週、アメリカがパラワン島を含めてさらに5カ所を増やすことを提案してきたと述べていた。
米ホワイトハウスの概要報告書によれば、ハリスは既存の5つの拠点について、軍事インフラや備蓄施設などの新設・改修プロジェクト(計21件)に8200万ドルを投じる予定。同報告書は、これにより「アメリカとフィリピンが恒久的な安全保障インフラを築いて長期的な近代化を推し進め、信頼できる相互防衛態勢を構築し、人道支援および災害救助能力を維持し、同盟を強化する」ことができるとしている。【11月22日 Newsweek】
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2016年の国際仲裁裁判所判断については、アメリカ嫌いのドゥテルテ前大統領がこれを事実上棚上げし、中国との関係を強化してきました。それだけに、マルコス大統領の中国への対応が注目されています。
一方、フィリピンと中国の間で進められてきた南シナ海の資源の共同開発を巡る協議は行き詰まっており、マルコス大統領は“交渉以外の方法”の可能性にも言及しています。
****南シナ海の資源共同開発、フィリピン大統領「中国政府と交渉以外の方法あるかも」****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は1日、南シナ海の資源の共同開発を巡る中国との協議が行き詰まっていることについて、中国との対話以外の方法を探る意向を明らかにした。中国に対し、自国の権益を譲らない姿勢を示したとみられるが、具体的な方法については言及しなかった。
両国は2018年、南シナ海で石油・天然ガスの共同探査・開発を行うことで合意し、協議を進めていたが、今年6月、ロドリゴ・ドゥテルテ前政権が協議の打ち切りを発表。マルコス政権は協議を再開する意向を示したが、中比のどちらの法律に基づいて開発を進めるかが問題となっていた。
マルコス氏は、南シナ海における中国の領有権主張が、「共同開発の障害であり、解決は難しい。中国政府との交渉以外の方法があるかもしれない」と述べた。【12月1日 読売】
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上記のように、フィリピン・マルコス政権は中国への厳しい姿勢を見せ始めています。
****フィリピンが懸念表明、中国が南沙4カ所埋め立てと報道****
フィリピン外務省は21日、中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のエルダド礁やランキアム礁など4カ所で埋め立て作業を行っているとの報道について、深刻な懸念を表明した。
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が2002年に出した、領有権争いを悪化させる行動の自制を定めた「南シナ海行動宣言」に違反すると批判した。
ブルームバーグは、西側の当局者の話として、中国の海上民兵がエルダド礁やランキアム礁などの埋め立てを行っていると報じていた。中国の在フィリピン大使館はこの報道を「フェイク(偽)ニュース」と一蹴。
中国外務省の毛寧報道官は定例記者会見で、領有権を主張する国や地域の間で、岩礁や無人島を開発しないことを含む「厳粛な合意」が成立していると改めて指摘。
「中国は常にこの合意を厳格に守ってきた。現在、中国とフィリピンの関係は発展の良い機運があり、双方は友好的な協議を通じて海洋問題に適切な対処を続ける見通し」と述べた。【12月22日 ロイター】
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が2002年に出した、領有権争いを悪化させる行動の自制を定めた「南シナ海行動宣言」に違反すると批判した。
ブルームバーグは、西側の当局者の話として、中国の海上民兵がエルダド礁やランキアム礁などの埋め立てを行っていると報じていた。中国の在フィリピン大使館はこの報道を「フェイク(偽)ニュース」と一蹴。
中国外務省の毛寧報道官は定例記者会見で、領有権を主張する国や地域の間で、岩礁や無人島を開発しないことを含む「厳粛な合意」が成立していると改めて指摘。
「中国は常にこの合意を厳格に守ってきた。現在、中国とフィリピンの関係は発展の良い機運があり、双方は友好的な協議を通じて海洋問題に適切な対処を続ける見通し」と述べた。【12月22日 ロイター】
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****比、南シナ海での軍事プレゼンス強化へ 中国の「活動」受け****
フィリピン国防省は22日、自国軍に対し、係争海域となっている南シナ海の駐屯地に対する「脅威」があるとして、軍事プレゼンスを強化するよう命じた。前日には近くの海域での中国の「活動」が報じられていた。
米メディアは20日、中国政府が南沙諸島(スプラトリー諸島)で埋め立てを行い、新たな土地が出現していると報じた。
国防省は、「西フィリピン海(南シナ海のフィリピン名)のいかなる侵犯も同海域内の岩礁の埋め立ても、 パグアサ島(中国名:中業島)の安全保障に対する脅威である」との見解を示した。
同省は、軍に対して「パグアサ島近くで確認された中国の活動を受け、西フィリピン海におけるプレゼンスを強化する」よう指示したと明らかにした。
ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は中国批判を避けてきたが、現職のフェルディナンド・マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている。 【12月22日 AFP】AFPBB News
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ただ、“マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている”と言えるかどうか・・・。前述のように万事について柔軟というか、信念を持って事に当たるタイプの政治家ではないようですから、中国側の今後の恫喝あるいは懐柔次第では、また流れが変わることもあるかも。来年1月にはマルコス大統領が訪中します。
ここのところは、中国側もフィリピンへの圧力を強めているようです。
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フィリピンはこのところEEZ内などでの中国海警局船舶の活動が活発化しているほか、漁船の集結などでフィリピンへの圧力を強めていることに警戒感を強めている。
1月に予定されるマルコス大統領の就任後初の訪中では習近平国家主席との首脳会談が予定され南シナ海問題の協議は不可避とされているが、訪中を前にフィリピン側の強硬姿勢を牽制するとの狙いが中国側にあるとの見方が有力だ。
経済的に中国への依存度が高いフィリピンが南シナ海問題でどこまで持論を主張できるか、マルコス大統領の手腕が問われている。【12月23日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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