孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パプアニューギニア  警察ストで暴動 米豪と中国の影響力拡大競争

2024-02-05 22:21:29 | 国際情勢


(1月10日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、商店の略奪が起きる中、商品を持って走る人々【1月11日 時事】)

【太平洋島しょ国で繰り広げられる米中の陣取り合戦】
かつては太平洋島しょ国はアメリカ・オーストラリアの影響力が強い地域でしたが、近年は中国がこの地域への影響力拡大を図っており、中国と米豪の対立が激しくなっていることはこれまでも取り上げてきました。

中国進出の橋頭保的な役割を担っているのがソロモン諸島。下記は11月19日ブログでも引用した記事です。

****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。

首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。

サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。

同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。

豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。

またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。

これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
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【パプア「中国と安全保障協議せず」 中国からの融資受け入れにも慎重に】
そして今、米中のはざまで揺れているのが、これまで米豪の影響力が強かったパプアニューギニアです。
昨年末段階では、中国のアプローチにもかかわらず、安全保障でも経済でも米豪との関係を重視する姿勢を見せていました。

****パプアニューギニア「中国と安全保障協議せず」 豪と協定締結****
パプアニューギニアのマラペ首相は11日、中国とは安全保障について協議していないと述べた。パプアは先週、オーストラリアと安全保障協定を締結。5月には米国との防衛協力協定に署名している。

マラペ氏はシドニーに開催された資源投資に関する会合で、パプアは透明性が高いと発言。今年、自身が閣僚と共に中国を訪問し中国指導部と会談した際「安全保障に関する話はなかった」とし「経済分野に限って話をした。安全保障については伝統的な安全保障パートナーと連携している」と述べた。

オーストラリアとの安全保障協定は警察官の増員や司法の強化など国内の安全保障を重視しており、米国との協定は対外的な安全保障を考慮したものという。

米中の対立が強化する中、パプアは経済活性化に向け海外投資と貿易の促進を目指している。中国は昨年、ソロモン諸島と安全保障協定を締結した。

パプアは中国との自由貿易協定(FTA)を協議中。中国はすでにパプアの輸出品の半分を購入している。

マラペ氏は安全保障の改善は海外投資家にとって重要だとの認識を示した。

パプアは液化天然ガス(LNG)など主に資源・エネルギーを輸出している。【2023年12月11日 ロイター】
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****中国からの融資受け入れに慎重に パプアニューギニア首相****
パプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相は11日、AFPの取材に応じ、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の下での資金借り入れについて、外国からの融資に「軽率に」依存することはしないと語り、慎重に対応する姿勢を示した。

パプアニューギニアは2018年、太平洋諸国として早期に一帯一路に参加した。しかし、翌19年のマラペ首相就任後は対米関係を徐々に強化し、今年に入ってからは米国と防衛協力協定を締結している。

エネルギー関連の会合に出席するため豪シドニーを訪問中のマラペ氏は、中国が提供する融資を無条件に受け入れる考えはないと強調。「仮に一帯一路の下でのプロジェクトについて、財務省が定めた要件に合わない場合は公正な検討がなされる」と語った。また、「われわれは軽率ではない。投資は確かな見返りがあるものに対して行う」と述べた。

中国は一帯一路を通じて開発途上国に過度の貸し付けを行い、返済が困難な状態に陥らせる「債務のわな外交」を展開していると批判されている。同じ太平洋の島国トンガは、中国輸出入銀行(中国輸銀)に対し、国内総生産のほぼ3分に1に相当する約1億3000万米ドル(約190億円)の債務を負っている。 【12月11日 AFP】
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なお、中国の「一帯一路」については、従来は米豪のように上から目線で民主主義を「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた感がありますが、最近は資金的に余裕がなくなったのか、太平洋島しょ国に関しても重点投資に切り替えたようだ・・・ということについては、前回11月19日ブログでも取り上げました。

【警官ストに乗じた略奪・放火】
話をパプアニューギニアに戻すと、2003年からコロナ禍前の19年までは経済のプラス成長が続いていましたが、その一方で経済格差が広がり、犯罪も深刻化しています。国連児童基金(ユニセフ)の22年の報告によると、人口約1030万人の40%が貧困ライン以下で暮らし、子どもの41%が貧困に苦しんでいるとのこと。

そうした経済状況も背景にあって、今年1月には給与減額問題で警察がストライキを行い、それに乗じて略奪・放火が起こるという社会混乱がありました。

****略奪・放火で数十人死傷 警察「スト」の隙突く―パプア****
太平洋の島国パプアニューギニアで10日から11日にかけ、商店への略奪や放火が相次いで発生し、死傷者が数十人規模に上った。給与が減額された警察官らが事実上のストライキを起こし、その隙を突く形で犯行が広がった。パプア政府は国軍部隊も投入し、治安回復を急いでいる。

直近の給与が事前の通告なく最大80米ドル(約1万2000円)減額されたことを受け、首都ポートモレスビーで10日午前、多数の警察官が抗議行動を繰り広げ、任務から離れた。

その後、首都や第2の都市ラエでスーパーや家電量販店などが次々と襲撃され、盗みや放火が続発。現地報道によると、11日午後までに少なくとも16人が死亡、数十人が負傷した。【1月11日 時事】
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政府は警察の抗議に対し、「給与計算システムの技術的問題」が原因で、修正するとしています。
暴動は11日夕までに沈静化したようですが、11日報道によれば、オーストラリアに対しては“治安維持や警察活動を支援しているパプア政府からの支援要請は現時点でない。”【1月11日 ロイター】とのことでした。

【中国は再度安全保障と警察の協力をパプアに提案 アメリカ「中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う」】
この暴動を受けて、中国は安全保障と警察の協力を再度提案しています。パプア側も中国との交渉を認めています。

****中国、パプアに安保協力提案=暴動受け親米政権揺さぶる****
中国が太平洋の島国パプアニューギニアに対し、安全保障と警察の協力を提案していることが分かった。パプアのトカチェンコ外相は30日、中国と交渉していると認めた。

パプアのマラペ政権は安保面で米国との協力を進めてきたが、今月起きた暴動で国内基盤が不安定化しており、中国が揺さぶりをかけている形だ。

トカチェンコ氏は30日、声明を出し、「中国は警察分野で訓練や機材提供の支援を申し出ており、われわれは慎重に検討している」と説明した。

中国側の最初の提案は昨年9月。パプアで今年1月、給与を巡る警察官のデモで警備が手薄になったことが暴動を誘発し、中国系企業も被害に遭ったのを受け、働き掛けを強めているもようだ。【1月30日 時事】
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これに対し、アメリカはパプアに対して中国との協定を拒否するよう求めています。

****米、パプアニューギニアに中国との安保協定拒否求める****
バーマ米国務副長官は、パプアニューギニアが中国から安全保障・警察活動で協力するとの申し出を受けたと表明したことを受け、パプアに対して協定を拒否するよう求めた。中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴うと警告した。

バーマ氏は、5日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドとのインタビューで「われわれは、中国が防衛や投資に関与すると高い代償が伴うことを見てきた。それをパプアニューギニアに伝えたい」と述べた。

パプアのトカチェンコ外相は先週、中国から警察に対する訓練や装備、監視技術の提供を打診され、安全保障や警察活動での協力に関する協定を結ぶ可能性を協議しているとロイターに明らかにした。

米国とオーストラリアは過去数10年にわたり太平洋地域を自国の影響が及ぶ圏内と見なし、2022年に中国とソロモン諸島が安全保障協定を結んだことを受け、島しょ諸国と中国による安全保障協定締結を阻止するよう取り組んでいる。

バーマ氏は、南太平洋に続いてオーストラリアを先週訪問し、これは資源が豊富な(太平洋)地域の影響力を巡る競争で、「われわれは積極的に競争していかなければならない」と述べていた。【2月5日 ロイター】
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実際はいろんな話がなされているのでしょうが、上記記事だけ読めば、“中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う”云々というアメリカの言い様も、随分と一方的というか、恫喝に近いような響きも。

いずれにしても、太平洋島しょ国をめぐる米豪と中国の綱引きはしばらく続きそうです。
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