孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・プーチン首相が進める「ユーラシア連合」は「ロシア帝国主義の野望」か?欧州・アジアの架け橋か?

2011-11-04 22:48:16 | ロシア

(ファンロンパイ欧州理事会常任議長(EU大統領)と「東のEU」実現を目指すプーチン首相 “flickr”より By President of the European Council http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/5476515554/

8カ国の首相が自由貿易ゾーン条約に署名
ロシアのプーチン首相が、10月4日付のイズベスチヤ紙に、20年前に崩壊したソ連の再統合を念頭にした、ロシアと周辺諸国による「ユーラシア連合」の創設構想を発表した件については、10月9日ブログ「ロシア  プーチン首相、単一経済圏「ユーラシア連合」創設の構想発表  現実性には疑問も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111009)で取り上げたところです。

「ユーラシア連合」構想は、確実視される来年5月の大統領復帰に向けたプーチン首相の新たな外交政策として注目されていました。
10月9日ブログでは“現実性には疑問も”という形で取り上げましたが、その後、実現に向けて進んでいるようです。

10月18日には、8カ国の首相が自由貿易ゾーン条約に署名したことを明らかにしています。
****旧ソ連8カ国、自由貿易の条約に署名 統合の動き加速****
ロシアのプーチン首相は18日夜、旧ソ連諸国でつくる独立国家共同体(CIS)の首相会議後の記者会見で、8カ国の首相が自由貿易ゾーン条約に署名したことを明らかにした。
プーチン首相は来春のロシア大統領選出馬を表明後、旧ソ連諸国を経済統合する「ユーラシア連合」の創設を提唱しており、今回の条約署名はその一歩。旧ソ連圏統合の動きが加速している。

1991年末のソ連崩壊から20年となる今年12月には、CIS加盟の大統領がモスクワで記念サミットを開き、結束を示す見通し。欧米では「ソ連復活の動き」との指摘も出ている。

今回の首相会議はロシアのサンクトペテルブルクで開かれ、条約署名は突然発表された。ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアの計8カ国が署名。比較的ロシアと距離を置くトルクメニスタンやウズベキスタン、アゼルバイジャンの3カ国は、年末までに条約加盟を検討するという。【10月20日 朝日】
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強大な軍事力を持つロシアの庇護を受ける思惑
ただ、“自由貿易ゾーン条約”とは言っても、独裁・強権国を中心とする「ユーラシア連合」がEUのような透明かつ効率的な市場を形成できるかははなはだ疑問です。
参加国には経済効果以外の期待もあるようで、“中東・北アフリカ地域のように民主化運動が高まった場合に、強大な軍事力を持つロシアの庇護を受ける思惑”があるとも指摘されています。

****旧ソ連諸国、再統合向け加速 8カ国が自由貿易圏で合意****
 ■独裁・強権国家がズラリ
ロシアの最高実力者、プーチン首相が「ユーラシア連合」創設の構想を打ち出したのを受け、旧ソ連諸国で再統合に向けた動きが加速している。来年1月、ロシアなど3カ国では人、モノ、カネの移動を自由化する「単一経済圏」が始動するほか、8カ国は一部商品を除く域内関税を撤廃して「自由貿易圏」を発足させることに合意した。
ロシア周辺諸国の独裁・強権政権が、政治・経済の両面でロシアに接近する利点を見いだし始めたことが弾みとなっている。

旧ソ連諸国11カ国で構成する独立国家共同体(CIS)のうちロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3カ国はすでに「関税同盟」を形成しており、来年1月には単一経済圏に移行する。これにウクライナ、キルギス、モルドバ、タジキスタン、アルメニアを加えた8カ国が10月、自由貿易圏を創設する条約に調印した。

自由貿易圏は域外共通関税を伴う関税同盟への移行段階と位置づけられており、ロシアは2015年頃に共通の経済・通貨政策をとる「ユーラシア連合」を発足させたい考えだ。
自由貿易圏に関する条約は1994年にも締結されたが、当時はソ連崩壊で独立したばかりの各国が「主権」問題を懸念し、批准されなかった。CIS諸国が改めてロシア主導の経済統合に踏み出したのはまず、域内障壁の撤廃で市場規模が拡大することの効果を認識し始めたためだ。

一方のロシアは、自国の「勢力圏」と考える旧ソ連地域で欧米や中国の影響力が強まっている現実を苦々しく思ってきた。プーチン氏は欧米の経済が債務問題で苦境にある状況も見越し、一気に親露的な旧ソ連諸国の糾合に動いた形だ。

欧州連合(EU)への接近路線をとっていた地域大国ウクライナがティモシェンコ前首相の拘束問題でEUとの関係を悪化させた時機をとらえ、安価な資源供給という“餌”をちらつかせて同国を自由貿易圏に引き込むことにも成功した。

今回は自由貿易圏条約への調印を見送ったウズベキスタンなど残る3カ国も加われば、CISには11カ国の人口2億7700万人、経済規模では1兆9000億ドル(約148兆2000億円)とブラジルを超える市場が生まれる。

ただ、独裁・強権国を中心とする「ユーラシア連合」は、EUとはほど遠い異様なものになることが確実だ。透明かつ効率的な市場が形成されるかは疑問視されている上、プーチン氏の構想が単なる経済連合にとどまらない兆候もある。

たとえば、ロシアは2020年までに20兆ルーブル(約50兆4000億円)もの国防費を支出して軍備を増強する方針だ。9月には自国と中央アジア諸国を舞台に大規模な合同軍事演習を行うなど、旧ソ連地域での軍事的存在感を高めることにも力を入れている。
ロシア周辺諸国の政権がロシアにすり寄るのは、一つには、中東・北アフリカ地域のように民主化運動が高まった場合に、強大な軍事力を持つロシアの庇護(ひご)を受ける思惑からでもある。【11月4日 産経】
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10月9日ブログでも取り上げたように、「ユーラシア連合」構想のカギを握ると見られていたウクライナが、結局ロシアに再接近したことがはずみになっています。

ロシア帝国主義の野望か、欧州とアジア太平洋地域の懸け橋か?】
プーチン首相は、「ユーラシア連合」は「ソ連の再建ではない」としつつ、「新たな価値や政治・経済的な土台に基づく緊密な統合は、時代の要請だ」とし、旧ソ連圏に残るインフラなどの遺産を活用するのは「我々の共通の利益」であり、世界的な経済危機の影響を克服し、成長を続けるには、大国ロシアを中心に旧ソ連諸国が再結集すべきだとの考えを示しています。【10月4日 毎日より】

大統領時代には、ソ連崩壊について「20世紀最大の地政学的な悲劇だ」と発言していたプーチン首相が進める構想ですし、ロシアをはじめとして参加国の多くが多分に強権主義的国家であることもあって、プーチン首相が「民主主義や市場経済のルールなど共通の価値観を共有するものだ」「ソ連の再建ではない」と強調しても、ロシア帝国主義の野望が名前を変えて復活するものではなか・・・との疑念が消えません。

ギリシャ危機で右往左往するEU・ユーロ圏の混乱ぶりから、参加国の平等性を前提としたEU的な政治体制とは異なる大国ロシアを中心とした政治体制を目指すことも、域内では正当化されるのかもしれません。

***ソ連復活」の野望と本気度****
プーチン首相の新構想が物議を醸している。旧ソ巡閲を単一経済圏「ユーラシア連合」として再統合し、政治的にも超大国勢力を目指そうというのだ。
プーチンは「東のEU」と称するが、ロシア帝国主義の野望が名前を変えて復活しているという批判もある。いずれにせよ、構想が実現へ向け、急速に前進していることは確かだ。

先月中旬にプーチンは、独立国家共同体(CIS)のうち8カ国が自由貿易閲の条約に署名したと発表。これを第一歩として、「2015年頃からユーラシア連合の創設が実現に向けて動きだすだろう」と語った。
注目は、ウクライナが条約に署名したことだ。最近まで西側の一員になろうと模索していたウクライナがロシア閲に回帰したことは、まさに時代を象徴している。緊迫した財政危機に直面するヨーロッパに対し、豊富な天然資源を武器に繁栄するロシアは、数十年来で最強の指導者の下で安定期に入っている。

プーチンは先月、イズペスチヤ紙に寄稿し、ユーラシア連合はロシア、ペラルーシ、カザフスタンの関税同盟(来年1月に単一経済圏に移行)を中心に形成されると明らかにした。
プーチンはあくまでソビエト連邦の復活ではないと強調。「現代の世界でIつの極になると同時に、ヨーロッパと活力に満ちたアジア太平洋地域の懸け橋になるような、強力な超国家連合を目指す」と記している。

市場主導型の民主主義国が集まるEUと違って、ユーラシア連合は必然的に、超大国ロシアを中心とした権威主義的・中央集権的組織になるだろう。
「ヨーロッパを見れば分かるように、強力な政治的・地政学的価値観の中核がない連合は、危機に直面したら完全に崩壊しかねない」と、ロシア政府に強い影響力を持つとされる極右政治家のアレクサンドル・ドゥーギ
ン会長は言う。

改革派の旗手ポリス・ネムツォフ元第1副首相は、ユーラシア連合の発想自体が「政治的ジョークだ」と嘲笑する。「自由な意思に基づく連合体では、民主主義が不可欠のはずだ。独裁体制にそれができるのか」
「ソ連の再興は西側にとっては恐怖だが、旧ソ連圏では強い支持がある」と、ドゥーギンは言う。旧ソ連圏の世論調査も、大多数の人が超大国の庇護下にいる威信と安心を今も懐かしんでいることを示している。【11月9日号 Newsweek日本版】
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旧ソ連圏の人々が“大多数の人が超大国の庇護下にいる威信と安心を今も懐かしんでいる”かどうかは定かではありませんが、少なくともロシア国民にとっては、大国ロシアを中核とする「ユーラシア連合」は自尊心をくすぐるものでしょう。

ロシアの豊富で安価な資源は「ユーラシア連合」実現の強力な手段となりますが、ロシア・プーチン首相も、いつまでも資源依存の経済体制では限界があることは承知しているところでしょう。
“ロシア帝国主義の野望”とは別に、「ユーラシア連合」実現で巨大な市場を確保し、ロシア経済の近代化・変革を実現していこうというのがプーチン首相の狙いと思われます。
ただ、そのためには、ロシアをはじめとする参加国が各国内で自由な市場経済を推進することが前提になるのでは。

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