(バグダッド スンニ派の“enclave”(飛び地、孤立地域)を囲む壁 “flickr”より By John L. Knight)
イラクでの10月のイラク人死亡者数が発表され、いろいろ解釈・評価はあるものの、総体的にはここのところ落ち着いているように思える・・・という話は11月3日の当ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071103)でもとりあげましたが、11月に入ってからバグダッドの治安改善を伝える記事をよく目にします。
バグダッドのタクシー運転手の話。
「一時、宗派間の武力抗争があまりにも激しくなったため、シーア派地区の住人は隣接するスンニ派地区を訪問するなど思いもよらず、その逆もまたそうだった。Saifさんによると、最近ではすべての地域で営業できるという。
Mohammedさんは、市内中心部のショルジャ市場の状況を治安改善の一例として挙げた。同国で最も人気の高いショルジャ市場では、今は夕方遅くまで店が開いている。かつては正午には閉店していたという。
また、『今は夕刻でも、女性客を乗せることも多い。以前は、バグダッド市内で女性が一人歩きをするのは考えられなかった』と語った。」【11月4日 AFP】
また、イラクのマリキ首相は5日、日没後、バグダッド中心部の通りを護衛らと散策、住民らと言葉を交わすパフォーマンスを見せたそうです。
同首相は「われわれはテロ組織と民兵組織に勝利した」と述べ、治安の改善ぶりをアピールしたとのこと。【11月6日 共同】
こうしたバグダッドの“落ち着き”は今も継続しているようです。
*****イラク:バグダッドの治安改善? 商業街のにぎわい戻る***
イラクの首都バグダッドの治安が改善傾向を示し始めた。イラク政府内からは今年2月から続けられてきた米・イラク軍による治安回復作戦の終結も近いとの観測も流れ始めている。ただ、治安が再び悪化する要因は排除できておらず、バグダッド市民は「一時的な現象に過ぎないのでは」と慎重に値踏みしている。
バグダッド東部の中心的な商業街、カラダ地区。ここ数年、度々爆発テロの標的となってきたが今、多くの商店が営業を再開し始め、にぎわいが戻ってきた。レストランは午後9時過ぎまで営業し、週末はほぼ満席に近い。午後6時を過ぎれば人通りが途絶えた3カ月前の状況と一変した。【11月15日 毎日】
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上記記事では、この治安改善の背景として、よく取り上げられる“スンニ派住民が米軍に協力していることや、シーア派のサドル師派の民兵組織「マフディ軍」の攻撃停止”を挙げつつ、「バグダッド分断策」と呼ぶバグダッドの治安改善策の現状を報告しています。
これによると、市内の至る所には高さ3~5メートル以上のコンクリートの壁が張り巡らされたそうです。
これは過激な武装組織や民兵組織の進入、逃走を防ぐ狙いがあり、ある地区から別の地区に通じるゲートは通常1、2カ所です。
また、イスラム教シーア派とスンニ派の宗派対立激化を受け、バグダッドでは宗派別の住み分けが進んだそうです。コンクリート壁に囲まれた各地区はそれぞれが同一宗派の聖域と言え、バグダッドは都市としての一体性を失ったとも報じています。
バグダッドの治安改善をもたらしたのは、壁と関所、そして“住み分け”のようです。
壁と関所に守られた“住み分け”は、長期的には宗派間の緊張関係を潜在的に固定化させるものかもしれません。
多くの内紛国で行われる“民族浄化”を連想させるものがあります。
ただ、これによって犠牲者が減少したのであれば先ずは喜ぶべきでしょう。
このような分断でしか安全が確保できないというのは残念なことですが、これが現実なのでしょう。
治安改善が全国的にも定着したあかつきには、このような壁を低くしていく真摯な努力が望まれます。
なお、米国務省がイラクに外交官を強制的に赴任させる方針を打ち出し、職員からは「(辞令は)死刑判決に等しい」と反発の声があがっていた問題で、不足していた48人の枠が志願者で埋まる見通しとなり、強制赴任は回避されたそうです。
これも治安改善の結果でしょうか。【11月16日 読売】
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