孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク・レバノンの混乱  イランの中東での影響力に変化も

2019-11-01 23:15:49 | 中東情勢

(イラク・バグダッドの中枢部グリーンゾーンとタハリール広場を結ぶ橋の上で、治安部隊と衝突するデモ参加者ら(2019年10月29日撮影)【10月31日 AFP】)

 

【親イラン勢力が政権を支えるイラク・レバノンで拡大する混乱 「反イラン」の傾向を強める】

南米と並んで、中東でも改善しない経済状態、腐敗した政治に対し反政府デモが広がっていることは、これまでも取り上げてきました。

 

一昨日の10月30日ブログ“イラン 米軍のシリア撤退で追い風状態にあるものの、一気のプレゼンス拡大は難しい状況にも”では、シリアからの米軍撤退はイランにとっては追い風ではあるものの、イランも内外に問題を抱えており、事態は容易ではない・・・ということを指摘しましたが、今日はそのイランの抱える問題の続きみたいな話です。

 

具体的にはイラクとレバノンですが、両国とも首相が辞任に追い込まれそう、あるいはすでに辞任を表明した状況にもなっています。

 

****イラク反政府デモ、月初からの死者250人超に 首相退陣圧力強まる****

イラクの人権委員会は30日、1週間前に再燃したデモによる死者が少なくとも100人に達し、負傷者は5500人を超えたとAFPに明かした。犠牲者の大半は民間人で、催涙ガスによる窒息や催涙弾での負傷、発砲などが原因だという。

 

デモの規模は同日夜になってさらに拡大し、アデル・アブドルマハディ首相に対する退陣圧力が強まっている。

一方、親イラン派の有力者らは首相支持を表明。

 

政府庁舎が集まる首都バグダッド中心部の制限区域グリーンゾーンでは、米大使館近くの検問所にロケット弾が撃ち込まれ、治安情報筋によるとイラク軍兵士1人が死亡、複数の負傷者が出た。

 

一連のデモは今月(10月)1日、公共サービスの不備や失業率の高さ、汚職などへの抗議から始まり、アブドルマハディ首相の退陣要求へと発展。いったんは沈静化したものの25日に再燃した。デモ開始から現在までの死者数は合わせて257人、負傷者は1万人を超えている。

 

アブドルマハディ氏は昨年、シーア派の指導者ムクタダ・サドル師や親イラン派民兵組織の司令官ハディ・アミリ氏らと政治同盟の下で首相に就任した。ただ、既に政府上層部でも求心力を失ったとみえ、サドル師は首相の辞任と早期の総選挙実施を呼び掛けている。

 

政府情報筋はAFPに対し、バルハム・サレハ大統領が29日夜、首相退陣をめぐってムハンマド・ハルブシ国会議長やアミリ氏と協議したことを明らかにした。アミリ氏はアブドルマハディ氏の退陣に難色を示したとみられ、緊迫した協議は30日も続いた。 【10月31日 AFP】AFPBB News

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****レバノン首相、辞任表明 反政府デモで「手詰まりに」*****

大規模な反政府デモが続く中東レバノンで、ハリリ首相が29日、事態の収拾を図るために辞任する意向を表明した。高い失業率などに苦しむ市民の不満により拡大したデモは、首相の退陣にまで発展した。

 

レバノンでは今月17日にスマートフォンのアプリを使った無料通話への課税を政府が提案したことをきっかけに、ここ数年で最大規模の反政府デモが2週間近く続いていた。

 

ハリリ氏は会見で、「事態の打開を探ってきたが、手詰まりになった。この危機を乗り越えるにはショックが必要だ」と述べ、大統領に辞任を申し出ることを表明した。

 

デモのきっかけは、スマホの対話型アプリ「ワッツアップ」などの無料音声通話で、1日0・2ドル(約22円)を徴収する課税を政府が提案したことだ。宗派を超えた抗議運動となり、全閣僚の辞職などを求める反政府デモに発展した。

 

レバノンには18の宗教・宗派があり、国会議席などを分け合って政治的安定を保っている。権力を握る政治エリートに腐敗が指摘される一方、一般の市民に負担を強いる課税案が出されたことで、若者を中心に不満が爆発したかたちだ。【10月30日 朝日】

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イラクとレバノンに共通するのは、ともに親イラン派が支える政権であること。首相自身が親イランという訳ではありませんが。

 

イラクであれば、親イラン派民兵組織の司令官アミリ氏、レバノンであればヒズボラが政権を支持する形で成立した政権です。

 

その点で、両国の混乱はイランにとって両国における影響力を失いかねない事態です。

しかも、両国の反政府デモは次第に「反イラン」の傾向を強めています。

 

イラクでは、最大野党勢力を率いるサドル師が、反イランの姿勢を強めて、首相に辞任を迫っています。

“サドル師は、(イラク首相がその職にとどまる場合には)イラクはシリアと同様の状況に落ちいる可能性があると警告した由”【10月31日 「中東の窓」】

 

“バグダッドの現地状況としては、政府機関や外国公館(イラン大使館を含む)が存在する中心地(確かgreen zone と呼ばれたかと思う)に向かうべく、群衆がそこに至る2つの橋を強硬突破しようとしたが、治安部隊は人員のみならずコンクリートブロッグ等で橋を閉鎖し、押しかけて来た群衆に対し催涙ガスと銃弾で対抗した。銃弾は空に向けて発射されたが、催涙ガスは民衆宛に発射され、1名が死亡し、数十名が負傷した。(これを報じるal arabiya net とal qods al arabi net は群衆の目的はイラン大使館であったとしている。)”【11月1日 「中東の窓」】

 

レバノンでは、デモ隊と親イラン勢力ヒズボラの衝突という形にもなっています。

 

【抗議行動の鎮圧を求めるイラン 米・イスラエルが扇動との批判も】

こうした事態に、イランは反政府デモの「鎮圧」を求めるとともに、アメリカ・イスラエルが扇動しているとの批判を行っています。

 

****イラクとレバノンの騒擾(イランとの関係)****

イラクとレバノンの騒擾で、両方ともに参加者の間に反イラン感情の噴出がみられることにつき、al qods al arabi net は、「イラクとレバノンの抗議はイランの影響力を抑制した」との見出しで、解説記事を書いています。


この記事がどの程度真実を反映しているのかは不明ですが、興味ある記事につき、要点のみ次の通り。

 

先月抗議が始まって1日しかたっていない日の夜、イランのアルコドス部隊司令官はヘリで秘密裏にバグダッドを訪れ、イラクの指導者たちに対して、イランでもこのような問題(抗議)は之までも起きているが、イランはその対処方法を知っていると告げた由。(暗に断固弾圧しろとアドバイスしたのでしょう。)

 

このスレイマーニ司令官の突然の訪問は、イラクの抗議活動が、イランのプレゼンスに対する民衆の怒りを表明していることに対するイラン指導部の危機感を物語っている。

 

しかし、スレイマーニ司令官の訪問後1ヵ月で、イラクでは再び抗議活動が生じ、同時にレバノンでも抗議活動が全土的に広がり、これらは両国の体制指導者の無能と腐敗と、彼らを背後で支えているイランに対する抗議の色彩を帯びてきた。

 

これに対するイラク治安部隊の強硬な弾圧姿勢と、レバノンでヒズボッラーやアマル等の民兵が、抗議活動を襲撃したことはイラン体制の危機感を表している。

 

イラクでは私服で黒覆面をした男たちが、群衆を狙撃したが、彼らはイラン人であると言われてる。これに対して群衆は政府庁舎やシーア派民兵や各政党の事務所等を襲い放火している。

 

これら群衆は、イランに反対する理由として、イラン系の民兵が、イラクの石油からの収益を収奪すべく、現体制の諸シーア派政党を支持し、腐敗を許容していると非難している。バグダッドではイラン国旗も焼かれた。

 

レバノンでも抗議の群衆は、ハリリ政府は、各種腐敗勢力の寄せ集めで既得利益の擁護者と見ているが、同時にヒズボッラ―等の実力集団に支えられた存在であるとして、その辞任を要求してきた。

このため)これらの騒擾に沈黙を守ってきたイランも、ハメネイが米国とイスラエルが騒擾を扇動していると発言し、矛先を伝統的な敵に向けようとしている。【10月31日 「中東の窓」】

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【イランの勢力排除の機会をうかがうアメリカ】

アメリカが扇動しているかどうかともかく、この機にイランの影響力を排除できれば・・・と考えているのは当然でしょう。

 

****米国、レバノン軍事支援を凍結 1億ドル規模=関係筋****

トランプ米政権は、中東レバノン向けの1億0500万ドルの安全保障支援を保留にしている。米政府当局者2人が31日に明らかにした。

 

政治腐敗に抗議する大規模な反政府デモが続くレバノンでは、ハリリ首相が29日、辞任を表明した。

 

匿名を条件に政府当局者2人がロイターに明らかにしたところによると、国務省は31日に議会に対して、ホワイトハウスの予算局と国家安全保障会議(NSC)がレバノン軍事支援の凍結を決定したことを伝えた。

 

2人の当局者は支援凍結の理由は明らかにしていない。当局者の1人によると、国務省はこの決定の理由を議会に説明していない。 国務省はコメントを差し控えている。

 

米政府は、中東における米国の重要なパートナーであるレバノンが国境を守ることが極めて重要だと認識し、5月から支援の議会承認を求めていた。

 

一方で米国は、イランの支援を受け、米国がテロ組織として指定しているシーア派武装組織ヒズボラがレバノン政権で影響力を拡大していることに対して、繰り返し懸念を示している。

 

ハリリ首相の辞任表明を受けてポンペオ国務長官は、レバノンの政治指導者らに対し、国民のニーズに応える新政府の樹立を支援するよう訴えると共に、汚職問題の解決を求めた。

 

ある米政府当局者はロイターの取材に対して、レバノンの治安を維持するための支援は必要だと確信していると述べ、レバノン政権内が不安定な状況となっているだけでなく、中東全体の情勢が揺らぐなか、シリア内戦で数千人の難民を受け入れているレバノンの状況を支援が必要な理由として挙げた。

 

この当局者は、特に重要なのはレバノン軍の強化だと指摘。米国の支援を受けているという主な理由でレバノン軍は現在、国内で最も有能な機関の1つとみられていると説明した。 【11月1日 ロイター】

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“重要なのはレバノン軍の強化だ”・・・レバノンでは政府軍より親イランのヒズボラの方が強力とされています。なにせ、ヒズボラはあのイスラエルと戦闘できるほどの実力を持っていますので。

そのレバノン軍への支援を凍結したということで、理由はわかりません。一般的に支援を凍結する時は「カネが欲しければ、こちらの要求どおりに動け」といことが多いと思われますが、アメリカが何を要求しているのでしょうか。あるいは混乱が拡大してヒズボラが実力で支配権を握り、レバノン軍をその傘下に置くような事態を警戒しているのでしょうか。

 

いずれにしても、これまでイランは、イラク・レバノンで親イラン政権を樹立し、シリアでもアサド政権を支援して影響力を強める形で、中東に大きな勢力を築いている・・・と言われてきましたが、そのお膝元イラク・レバノンで政変が起きれば、中東におけるイランの立ち位置は大きく変わってきます。

 

【イラク大統領 早期の総選挙実施を表明】

なお、イラクではサレハ大統領が、アブドルマハディ首相が辞任する意向だとしたうえで、総選挙の早期実施を表明しています。

 

****イラク大統領、総選挙の早期実施を表明 ****

イラクのサレハ大統領は10月31日、一院制の国会議員選(総選挙)を早期に実施すると表明した。

 

首都バグダッドなどで続く大規模な反政府デモを受けた措置で、若者らの政治参加を広げる新たな選挙関連の法律を整備してからという条件付きの声明だ。デ

 

モに参加する市民らは生活苦の改善を訴えており、サレハ氏の声明で混乱が収まるかどうかは明らかでない。

 

サレハ氏は31日のテレビ演説で、新たな選挙法案が来週にも国会に提出されると述べた。「アブドルマハディ首相は、同氏の後任で各党が合意したら辞任する用意があると表明した」とも語った。

 

イラクでは高い失業率や電力不足などに市民の不満が高まっており、10月初めごろからインターネットで反政府デモへの参加が呼びかけられていた。デモ参加者は、同国の石油収入が一部の政治家らに分配され、市民に行き渡っていないなどと批判している。ロイター通信によると、治安部隊との衝突などで計250人以上が死亡した。

 

前回の総選挙は2018年5月にあり、第1勢力となったイスラム教シーア派指導者サドル師の政党連合や、シーア派のイランに近い第2勢力のアミリ元運輸相らの政党連合が推したアブドルマハディ氏が同年10月から首相を務めている。【11月1日 日経】

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