孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海問題  依然として続く緊張状態 軍拡・資源開発強化の動き

2011-09-05 22:23:47 | 南シナ海

(南シナ海で行われているフィリピンとアメリカの合同演習 “flickr”より By Commander, U.S. 7th Fleet  http://www.flickr.com/photos/us7thfleet/3470011244/ )

ASEANと中国、「指針」で合意
南沙(スプラトリー)諸島及び西沙(パラセル)諸島を含む南シナ海の領有権について、中国とベトナム・フィリピンなどの関係国の間の確執は、7月に行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議を前に激しさを増しましたが、7月21日の中国とASEAN諸国の外相会議で、南シナ海での紛争解決を目指す「行動宣言」の実効性を高める「指針」で合意し、ひとまず落ち着いた感もありました。

ASEANと中国が合意した「指針」は、2002年に双方が署名した「南シナ海行動宣言」を一歩進め、法的拘束力がある行動規範の策定へ向けたつなぎ的な存在とされていますが、「一般論であり、具体的な規定ではない」(ASEAN筋)との懐疑的な見方もあります。

“ここにきて中国が柔軟姿勢を見せたのは、米国がアジア・太平洋地域や、ASEANへの関与を強めていることへの「対抗手段」だと観測されている。つまり「南シナ海の領有権問題を2国間の係争と位置づけ、米国の干渉に反対する中国は、従来の主張を変えないまま、ASEANを引き寄せ、米国との切り離しを図っているだけだ」(同筋)とみられている。”【7月21日 産経】

【「南シナ海問題が両国関係の発展に悪影響を及ぼさないようにしたい」】
中国批判の先頭に立っていたフィリピンのアキノ大統領は、先月30日から訪中し、胡錦濤国家主席との会談を行っていますが、中国との経済関係強化を優先する形で、南シナ海問題は“棚上げ”の格好になりました。

****比中首脳会談:南シナ海問題棚上げ 経済関係強化を図る*****
フィリピンのアキノ大統領は3日、中国初訪問の日程を終えた。南シナ海の領有を巡って激しく対立してきた両国だが、首脳会談では領有問題を棚上げし、経済関係の強化を図った。
比に限らず、東南アジア各国にとって、成長著しい中国との経済関係はもはや切り離せないためだが、一方で、各国とも海軍力の増強には余念がない「政経分離」の対応が際立ってきた。

アキノ大統領は約250人の財界関係者を引き連れて訪中。北京や上海の経済界主催セミナーに出席し、比への積極投資を求めた。両国政府の共同声明では、アキノ氏の任期の16年までに、両国の貿易目標額を現在の6倍の600億ドルまでに増やすことで合意した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の10年の貿易額は2312億ドルで、総貿易額に占める割合は11.3%とASEANにとって最大の貿易相手国だ。00年の貿易額は350億ドル(4.4%)で、この10年で7倍近く急増したことになる。
インドネシアで7月にあったASEAN外相会議でも、南シナ海を巡る対立構図の中で、中国との経済関係強化が再確認された。

その一方で、海域周辺国は、海軍力の整備を進める。安全保障問題を調査する英国戦略研究所は「アジアで軍拡競争が起き、南シナ海で緊張が高まっている」と警告した。
中国は先月10日、中国・大連港で改造していた旧ソ連製空母「ワリャーグ」(6万トン級)の初試験航行を実施。純国産空母建造も進められており、米国防総省は今後10年で中国が複数の国産空母を保有するとみる。

比外務省は「両国の意見が一致しないことで合意している」として、南シナ海問題と経済関係は「別問題」との認識を示す。先月23日には、比海軍最強となる米国製フリゲート艦がマニラに入港。式典でアキノ氏は周辺海域強化のため海軍力増強の必要性に触れ、「潜水艦購入も検討している」と語った。

同じく中国と領有を巡って対立するベトナムは、主力艦の数は5年前より減少したが、中国との国境沿岸を警戒する小型の警備艇を拡充。先月にはロシアから最新のミサイルフリゲート艦を購入した。潜水艦を6隻購入する計画もある。ベトナムの外交関係者は「中国は最重要パートナーだが、主権に関しては譲れない」と説明。マレーシアも09年に潜水艦2隻を購入、過去5年で主力艦も10隻から14隻に増やした。
フィリピンのデラサール大学のデカストロ教授(国際政治学)は、「南シナ海問題で対立する現状では、各国とも国防は譲れない」と指摘し、経済関係強化の一方で軍拡が進むとの見通しを示した。【9月3日 毎日】
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31日の胡錦濤国家主席とアキノ大統領の会談では、南シナ海問題について胡錦濤国家主席は「話し合いを通じて平和的に解決し、双方の利益になるようにしたい」と述べ、資源の共同開発を提案、アキノ大統領も「南シナ海問題が両国関係の発展に悪影響を及ぼさないようにしたい」と応じています。

周辺国で進む軍拡
しかし、あくまでも“棚上げ”であり、問題の基本的構図には変わりがありません。
上記【9月3日 毎日】にもあるように、関係国は海軍力強化や南シナ海における資源開発を進める姿勢を崩していません。

****フィリピン:新フリゲート艦を購入 緊張が高まる可能性*****
フィリピン政府が米国の沿岸警備隊から購入したフリゲート艦がマニラ港に入港し、23日、式典が開かれた。比海軍の旗艦として、来月にも南シナ海の南沙諸島で警戒任務に当たる予定で、領有権を争う中国などとの軍事的緊張が高まる可能性もある。

今年3月に退役した米艦船「ハミルトン」(67年建造、3250トン)で、比政府が4億2300万ペソ(約7億6400万円)で購入した。ヘリコプター搭載型で、76ミリ砲が装備されている。
「グレゴリオ・デル・ピラール」の船名で就航する。
近く退役予定の比軍最大の軍艦も米国製のフリゲート艦で、グレゴリオが後続の旗艦となる見通し。

アキノ大統領は式典で「我々の海域内の資源は国民のもので、兵器の近代化は、国民を守ることにつながる」と話した。【8月23日 毎日】
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こうした強気のフィリピンの姿勢については、“強硬姿勢の背景には、「強い指導者」をアピールしたいアキノ大統領の思惑や米国との相互防衛条約の存在があるとみられる。中国と不測の事態に陥っても、米軍が条約に基づき守ってくれるという自信が支えになっているようだ。ただ、スプラトリーが条約の対象に含まれるかについて明確な解釈はない”【7月22日 読売】とも言われています。

アメリカが中国を相手にどこまで軍事行動をとれるか・・・というのは、南シナ海だけでなく、台湾や日本を含めた東アジア全体の問題でもありますが、そこまで危機的状況が深刻化する前に事態の安定化を図るこを考えることが現実的でしょう。

中国も既定路線を進む
一方、中国も権益確保の路線を着々と進めています。
5月に完成させた深海用の新型掘削プラットホーム「海洋石油981」を南シナ海に移動させており、これにベトナムが神経をとがらせています。
また、ベトナムなどと対立している西沙(パラセル)諸島周辺海域に大型漁業監視船を初めて常駐させることを明らかにしています。

****中国:西沙諸島周辺に大型監視船常駐 周辺諸国の懸念必至*****
中国国営新華社通信は2日、領有権を巡りベトナムなどと対立している南シナ海の西沙(パラセル)諸島周辺海域に、農業省所属の大型漁業監視船「漁政306」(400トン級)を初めて常駐させると伝えた。既に広東省広州の港を出港したという。中国の監視船常駐は、周辺諸国の懸念を招きそうだ。

報道によると、これまで西沙諸島周辺ではいずれも100トン級以下の「漁政308」と「漁政309」の2隻が随時、監視業務を行ってきた。しかし漁船監視などの業務が増えたため、新たに「漁政306」を監視活動のため常駐させることに決めた。これまでの2隻とともに「中国の海洋主権と漁業権益を守り、漁師の安全を保障する」としている。

中国で外交を統括する戴秉国(たい・へいこく)国務委員(副首相級)は5~9日にベトナム訪問を予定しており、今回の常駐が両国の協議の新たな火種となる可能性もある。【9月2日 毎日】
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ベトナムは、反中デモを7月に2回強制排除したり、8月28日に北京で開かれた次官級安全保障対話で、両国国防省間のホットラインを開設する方針で合意しするなど、関係修復の動きもありますが、反中デモはその後黙認される形で続いています。

緊迫した外交戦が展開
中国をライバル視して警戒するインドも、南シナ海問題に登場しています。
****インド艦船 中国軍から警告か****
インド外務省は1日、ベトナムを訪問していたインド海軍揚陸艦アイラバトが7月22日、南シナ海の公海上で中国海軍と称する船舶から無線を通じて、「貴艦は中国の領海に侵入しようとしている」との警告を受けていたことを明らかにした。アイラバトは無線の発信源とみられる船や航空機を確認できなかったことから、予定通り航行を続けたという。

英紙フィナンシャル・タイムズが8月31日付で、中国船とアイラバトが“南シナ海で対峙(たいじ)した”と報道。インド外務省は事態発生から1カ月以上沈黙していたが、英紙の報道を受けて事実関係を公表した。

中国は南シナ海の南沙諸島などの領有権を主張し、周辺各国と摩擦を起こしている。また、中国に対抗するため、ベトナムはインドとの軍事協力を進めており、南シナ海問題に関与する可能性があるインドに対する中国の牽制(けんせい)ともいえる。【9月2日 産経】
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南シナ海の波はなかなか静かにはならないようですが、“当面は、次の節目である11月の東アジアサミットに向けて「9点破線」(中国が南シナ海において主張する境界線。「牛の舌」ともいわれ、領有権が争われる南沙、西沙両諸島全体がその中に入る)に関する国際会議が関係各国で相次ぐ。南シナ海、さらにはアジア太平洋全体の秩序づくりをめぐり、緊迫した外交戦が展開されている”【9月4日 朝日】とのことです。

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