孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン 重要港湾ホデイダ奪還作戦 人道危機深刻化の懸念も UAE・サウジの思惑は?

2018-06-16 22:49:42 | 中東情勢

(赤印がホデイダ)

暫定政府軍、重要港湾ホデイダ奪還作戦を開始 膠着したイエメン内戦の転換期の可能性も
中東アラビア半島の先っぽ、中東最貧国イエメンでの内戦は、暫定政府を支援するサウジアラビアと反政府勢力フーシ派を支援するイランの代理戦争の構図となっています。

そして2015年3月にサウジアラビア主導の連合軍がフーシ派掃討作戦に介入して以来、これまでに1万人近くが死亡。さらにコレラ感染で約2200人が死亡しているうえ、数百万人が飢餓状態にあるというように、内戦・コレラ・飢餓の三重苦による人道危機が進行しています。

内戦の戦況の方は、サウジアラビアの大規模な(そして、民間人犠牲も多数発生しているということで国際的には評判が悪い)空爆支援にも関わらず膠着状態が続いており、5月にはサウジアラビアの空爆に対抗する形でフーシ派がサウジアラビア領内にミサイルを連日のように撃ち込んでいました。

ここにきて、フーシ派が支配する西部の重要港湾ホデイダの暫定政府軍による奪還作戦が本格化しており、イエメン内戦の転換期となる可能性も指摘されています。

****イエメン主要港周辺で戦闘激化、政権軍が進撃****
サウジアラビア主導のアラブ連合軍の支援を受けたイエメン暫定政権軍は14日、主要港湾都市ホデイダに向けて進撃し、現地を支配する反政府武装組織「フーシ」の抵抗を受けて戦闘が激化した。国連は戦闘の停止と対話の再開を訴えている。
 
今回の連合軍の作戦を主導するアラブ首長国連邦(UAE)は、米国に無人偵察機や掃海艇による支援を求めたが拒否された。米国とUAEの当局者が14日明らかにした。
 
イランが後ろ盾となっているフーシがホデイダ港の海中に仕掛けた機雷を除去するため、UAEはフランスに緊急の軍事支援を要請。フランスは掃海艇を現地に送ることに同意したという。米国の在フランス大使館は14日、この情報は確認できていないと述べた。
 
連合軍がホデイダ港を支配下に置けば、3年にわたる内戦の転換点になるかもしれない。米国が後ろ盾となっているアラブ連合軍は、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領の復権を支援している。
 
イエメンの主要港であるホデイダは、海外から送られる支援物資や食料の大半を受け入れている。ホデイダ奪還作戦は、フーシの経済的・軍事的な生命線を奪って膠着(こうちゃく)状態を脱し、政治的な解決に向けてフーシに圧力をかける狙いがある。
 
UAEのアンワル・ガルガーシュ外務担当国務相は14日、「彼ら(フーシ)がホデイダとその収益、その戦略的な立地を保持し続ければ、戦闘が長引き、イエメン国民の苦しみは続く」とし、「膠着状態は終わらせなければならない」と述べた。【6月15日 WSJ】
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戦闘は、暫定政府軍が郊外の空港を制圧して有利な情勢にあるようですが、今後の市街戦ではフーシ派の激しい抵抗も予想されています。

支援物資搬入拠点での戦闘は人道危機深刻化の懸念
このホデイダ奪還作戦については、ふたつほど留意すべき点があります。
ひとつは、この軍事行動が人道危機をさらに深刻化させる懸念があること、もうひとつはサウジアラビアではなくアラブ首長国連邦(UAE)が前面に出ていることです。

ひとつ目の人道危機深刻化の懸念については、紅海沿岸のホデイダはイエメン向け支援物資の約7割が荷揚げされる港湾であることから、5月29日、国連事務総長報道官が、国連としてはホデイダを巡る情勢に重大な懸念を有しているとして、ホデイダ攻防戦は多数の新たな避難民を生み出すだろうと警告しています。【5月30日 「中東の窓」より】

また、前出【WSJ】にもあるように、国連は戦闘の停止と対話の再開を訴えています。

****<イエメン内戦>要衝港の奪還作戦開始 飢餓深刻化も****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビア主導のアラブ諸国連合軍は13日、親イランのイスラム教シーア派系反政府組織「フーシ」が支配する西部の港町ホデイダの奪還作戦を開始した。

約800万人が飢餓状態にある「世界最悪の人道危機」(国連)が続く中、食糧・支援物資の搬入拠点でもあるホデイダで戦闘が激化した場合、危機がさらに深刻化する恐れもある。
 
中東の衛星テレビ局アルアラビーヤなどによると、空爆のほか地上軍の進軍も始まった模様だ。サウジが支援するスンニ派のハディ暫定政権は「フーシをホデイダから平和的に撤退させる全ての手段は尽くした」と主張。交渉決裂はフーシに責任があるとして、軍事攻撃を正当化した。(中略)

内戦では民間人を含む1万人以上が死亡。病院や水道施設も破壊され、人口2800万人のうち800万人が飢餓状態にある。昨年はコレラも流行した。【6月14日 毎日】
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暫定政府軍がホデイダを制圧した場合、イランからのフーシ派への武器支援も抑えられるのでしょうが、内陸部の首都サヌアなどフーシ派支配領域への国際的支援物資はどうなるのでしょうか?

****イエメン政権部隊、主要港奪還へ攻撃開始 人道支援への影響に懸念****
(中略)マーチン・グリフィスイエメン担当国連特使は、支援物資の配布に引き続き同港を利用できるよう、関係各方と交渉を継続していると表明した。
 
一方、連合軍の柱となっているアラブ首長国連邦は、今回の攻撃で必要不可欠な支援物資の供給が途絶えることはないとしている。
 
連合軍は、フーシ派は弾道ミサイルをはじめとする武器をイランから調達するためホデイダ港を利用していると非難。同派はサウジアラビア領内へのミサイル発射を増やしてきた。【6月14日 AFP】
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上記記事にあるようにUAEは問題ないとしているようですが、支援物資がスムーズに流されるとは思えませんので、今でも深刻な飢餓は、さらに破滅的なレベルに達することが懸念されます。

アメリカも国連の懸念に同調
興味深いのは、国連が人道支援の停滞を危惧しているのは当然ですが、アメリカも国連に同調して、ホデイダ奪還作戦に否定的なところです。

****ホデイダに関する米国のUAEに対する警告****
ホデイダに関しては、先日国連が同市の攻防戦は人道的危機を招く危険がると、警告したことは報告済みですが、al qods al arabi net は米国がUAEに対して警告したと報じています。(中略)

記事によると、米国家安全保障筋は、米国は国連のホデイダに関する懸念を共有していて、サウディ及びUAEが同港を攻撃することに反対であると語った由。

同筋は更に、米国としてはホデイダに対する攻撃が、同港のインフラを破壊して、家目の人道危機を更に深刻化させることに反対であるとして、総ての当事者が戦争法規(人道法)を守ることを要求するとしている由。(後略)【6月6日 「中東の窓」】
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中東において後先考えずにイスラエル・サウジアラビアを支援して混乱を拡大しているようにも見えるトランプ大統領にしては、随分慎重姿勢にも思えます。

そもそも「忘れられた戦争」とも言われるようなイエメン内戦などには関心もなく、意思決定に関与していないのか?

トランプ政権がイエメンの人道危機を憂慮しているとも思えません。アメリカの思惑・懸念については、以下のようにも。

なお、記事表題は“軍事的役割の拡大を検討”となっていますが、検討の結果、現在のところはアメリカはUAEへの無人偵察機や掃海艇による支援を拒否しています。

****米国、イエメン内戦への軍事的役割の拡大を検討****
(中略)UAEとサウジの当局者らは、米政府の支援を受けるまで、フダイダ港の奪還に乗り出さないことを約束しているという。

だがトランプ政権内では、同港を巡る戦闘が手に負えない状況に陥り、米国が行動を取らざるを得なくなることへの懸念が高まっている。
 
ある米高官は「われわれはフダイダに対する軍事行動に多くの懸念を抱いている。連合軍が攻撃を仕掛け、それを完璧にこなして大惨事を回避できたとしても、100%安心することはできない」と述べた。【6月4日 WSJ】
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“やるならアメリカを巻き込まずに、自分たちで勝手にやれ”ということでしょうか。結果、サウジ・UAEはアメリカの支援なしで軍事行動を開始しています。

ホデイダ奪還を主導するUAE サウジ・UAEによるイエメン分割?】

(ホデイダ郊外に展開するイエメン暫定政権軍の兵士ら(13日)【6月15日 WSJ】 “政権軍”というより民兵のようにしか見えませんが・・・・)

ふたつ目の留意点である今回作戦におけるUAEの存在ですが、地上軍の訓練・指揮を行てきたUAEが主導的役割を担っているようです。

****ホデイダ情勢(UAEの野望?) イエメン****
(中略)al qods al arabi net はUAEはイエメンの主要港を支配するとの野望を実現するために、ホデイダ攻撃には前大統領サーレハの甥を利用しているとして、この野望が実現することを危惧する声が上がっていると報じています。

確かにUAEはアラブの春で、サーレハが失脚して以来、彼の長男を大使として受け入れたり、サーレハ一族をかくまってきており、その背後には何らかの政治的思惑があるのだろうと思っていましたが、こういう形で利用されているのですかね?

どこまで信用できる記事かは不明ですが、取りあえず記事の要点のみ

「ホデイダの攻防戦が続くに従って、消息筋の間では、UAEが、ホデイダをサーレハの甥のtareq muhammad abdallah saleh准将に引き渡すのではないかとの懸念が高まっている。

デイダ攻撃は突然の動きであったが、消息筋はUAEが、ホデイダの解放後、自分が育成してきたサーレハの甥に引き渡し、イエメンの主要港を支配下に置くとの野望を実現するのでは、との危惧を表明している。

この男はサーレハ前大統領の甥で、現在大統領警備隊の司令官であるが、UAEは、hothyグループによるサーレハ前大統領殺害後、彼がサナアを脱出してきたところに、多額の資金と近代兵器を与えて、元エリート部隊の共和国警備隊やその他の旧軍の兵士集めての部隊づくりを支援してきた。

彼は過去数か月で数個大隊の兵を訓練したが、これらは政府軍には属しておらず、UAEの支配下にある由。

最近の急激なホデイダ攻防戦の進展では、これらの部隊は戦闘に参加しておらず、政府軍の奪還後、、その治安維持(要するに支配)にあたるものと見られている」http://www.alquds.co.uk/?p=945002

これまでアラブ連合の主要参加国のうちサウディとUAEの思惑については、種々の推測があったところ、どうやら彼らはイエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っているんではないかとの見方が再起入力で、その場合当然UAEはアデン中心の南イエメンがその支配権と見られていました。

ホデイダは、サナアの外港であるだけに、どちらかと言うと北イエメンで、すなわちサウディの勢力圏に入るのかと思われてきましたが、ここをもUAEがその支配地域に置くとなると、先日のスコトラ島の場合のように、サウディとUAEの対立を招く可能性もあり、いずれにしても要注意ですね。【5月31日 「中東の窓」】
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ホデイダをサウジ・UAEのどちらが支配するかはともかく、サウジアラビアとUAEが“イエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っている”という話になると、現在神輿として担がれているハディ暫定大統領はどうなるのか?・・・という疑問も。

そのハディ暫定大統領がサウジから急遽イエメン・アデンに帰還したそうです。

****hadi大統領のアデン帰還****
al arabiya net とal jazeera net は、hadi大統領が14日夕イエメンの臨時首都のアデン(首都サナアは反乱軍hothyグルプの支配下にある)に帰還したと報じています。

彼のアデン帰還は1年4月ぶりのことだとのことですが、ちょうどラマダン休暇とホデイダ攻略戦の開始のタイミングでの帰還で、al arabiya net (サウディ系)は、hadiがサウディ等の支援でホデイダの奪還は目前だが、ホデイダ奪還はイエメン内戦の転換点になると声明したと報じています。

この程度の話ならニュース価値もない(実はこの話は昨夜報じられていた)が、al jazeera net は、タイミングを合わせたかのようにサウディのhadi 引き下ろし計画が暴露されたと報じています。

それによるとintelligence on lineとかいうネットが、サウディがhadi の前大統領サーレハの息子ahamad と差し替える陰謀を計画していて、湾岸の情報筋によれば、アハマドは近くサウディを訪問して、皇太子と会談する予定であると報じていると伝えています。(中略)

そもそもサウディがhadi の差し替えを計画しているのであれば、なぜ今頃になって彼のアデンへの帰還を認めたのか?の疑問があるし、アデンは確か今でもUAEの実質的な支配下にあるはずなので、そんなところに帰って、、hadiが何をしようとしているのか、どうも不思議な話が続きます。

確か先にUAEはサーレハの系列でも,むしろその甥を担ごうとしていたとの噂があったところで、とにかく眉唾の話が続きます。【6月15日 「中東の窓」】
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サウジアラビアの“hadi の前大統領サーレハの息子ahamad と差し替える陰謀”云々は上記記事にもあるように“眉唾”の話ではありますが、ハディ暫定大統領はサウジアラビアで軟禁状態にあったとも報じられています。

アメリカ・トランプ政権はイランの勢力拡大を問題視していますが、レバノンのハリリ首相の軟禁疑惑といい、カタール断交といい、サウジアラビアのこの地域における傍若無人なふるまいも目に余ります。

イエメン統治の難しさ 容易には収まりそうにない混乱
今後サウジ・UAEはフーシ派勢力の一掃に軍事的に成功して、“イエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っている”という野望を実現したとしても、イエメンの混乱は収まらないようにも思えます。

サウジアラビアが勢力圏としたい自国につながる北部はフーシ派の地盤であり、抵抗は続くでしょう。
UAEが狙う南部でも、すでにUAEに対する不満も出ています。

“al qods al arabi net の2つの記事は、アデンで我が物顔に行動する、UAEの支援する民兵が、アデン奪還に活躍した活動家を逮捕したことに抗議して(逮捕の理由は壁に「打倒 UAE」と書いたとか)、民衆がUAEの旗とアブダビ皇太子の肖像を引きずり下ろし、それを公道に放置し、車や通行人に踏ませたと報じています。”【5月28日 「中東の窓」】

まだホデイダの帰趨も定かではない状況ですが、仮にホデイダを暫定政府軍が奪還し、さらに将来、内戦全体を勝利する形で終わらせたとしても、イエメンの混乱は続くのでは・・・・という“先の先”の話にも。

「アラブの春」で失脚し、それまで共闘していたフーシ派によって昨年末に殺害されたサレハ前大統領はかつて、イエメンを統治することの難しさを「蛇の頭の上でダンスを踊ることに等しい」と表現していました。(それが出来るのは自分だけだ・・・とも)

北部のフーシ派、南部の分離独立派、アルカイダ系過激派を抱えて、サウジ・UAE・イラン等の関係国との関係を慎重に維持していくことの難しさです。

誰が、あるいはどの勢力が、“蛇の頭の上でダンスを踊る”ことが出来るのか?

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