孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  停戦・交渉への期待と危うさ

2014-06-25 22:29:26 | 欧州情勢

(6月20日 東部ドネツク州イジュームを訪れた軍服姿のポロシェンコ大統領 【6月21日 AFP】)

大筋では事態沈静化の方向
イラクで激しい戦火が噴出す一方で、ブスブスとくすぶり続けるようなウクライナ東部の情勢ですが、すでに民間人を含む1000人以上が死亡していると言われています。

5月末にロシア・プーチン大統領がウクライナ国境からのロシア軍部隊の撤退を決定したことで大規模衝突の危険が当面回避されたのに続き、6月6日にはフランスでウクライナ・ロシア両首脳が会談、6月20日にはウクライナ・ポロシェンコ大統領が1週間の一方的停戦を宣言、当初これに応じていなかった東部親ロシア派もロシアの後押しがあってか、停戦に応じて初交渉に臨む・・・と、大筋では事態沈静化の方向が見えてきてはいます。

****ウクライナ:政権と親露派、一時停戦 東部ドネツクで初交渉****
親ロシア派武装集団と政府軍との戦闘が続くウクライナ東部ドネツクで23日、ポロシェンコ政権と親露派が初交渉を行い、一時停戦や人質の解放などで合意した。

ウクライナ国家安全保障会議のパルビー書記が地元テレビで明らかにした。交渉にはロシアと全欧安保協力機構(OSCE)の代表者も参加。東部情勢の沈静化につながり得る動きとして注目されている。

インタファクス通信によると、ドネツク州庁舎を会場とする交渉には、政権側代理人のクチマ元大統領、ロシアのズラボフ駐ウクライナ大使、OSCEのタグリアビニ現地代理が出席。親露派側からは「ドネツク人民共和国」の首相を名乗るボロダイ氏や「ルガンスク人民共和国」の代表者らが参加した。

パルビー氏によると、政権側と親露派は(1)27日午前10時までの一時停戦(2)人質解放(3)地域のインフラ復旧−−で合意した。激戦地のドネツク州北部スラビャンスクでは早くも断水の復旧工事が行われたという。交渉は今後も継続される見通し。

ポロシェンコ大統領は20日、平和構築プランと一方的な1週間の停戦を発表し、親露派側に武装解除を迫っていた。

ロシアのプーチン大統領もプランへの支持を表明し、ポロシェンコ政権と親露派の双方に交渉開始を呼びかけていた。

東部での戦闘では既に、民間人を含む1000人以上が死亡したとみられている。【6月24日 毎日】
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今回、親ロシア派が交渉に応じたことについては、“ウクライナ東部の親ロシア派勢力が支配する2地域は、プーチン氏の制止を振り切る形で今年5月に一方的に独立を宣言した。このことで親ロシア派へのプーチン氏の影響力を疑問視する見方も出ていたが、今回の発表から、プーチン氏の意向が親ロシア派の意思決定に決定的な役割を果たしていることがうかがわれる。”【6月24日 AFP】とも。

もっとも、“制止を振り切る形”だったのか、暗黙の了解・戦略だったのか・・・そこらへんの親ロシア派とプーチン大統領の関係はよくわかりません。

ロシアは表立っては親ロシア派武装勢力への支援は行っていないとはしていますが、ロシアがウクライナの親ロシア派武装勢力に戦車や自走式ロケット砲を提供しているとのアメリカの批判(6月13日)のように、一定に支援を行っているようにも見えます。

表の交渉においては、ウクライナ政府と親ロシア派の交渉を後押しして、緊張を緩和すべく、ロシア・プーチン大統領は“派兵取り消し”の措置をとっています。

ただし、“ロシアは常に「介入カード」を懐に用意している状態”というように、ストレートに緊張緩和に向かうというものでもないようです。

****ウクライナ 露大統領「派兵取り消し」 東部親露派、27日までの停戦合意****
ロシアのプーチン大統領は24日、露軍をウクライナに派遣することを認めた露上院の決定を取り消すよう要請した。上院は25日に決定を撤回する方針。

これにより、露大統領の国外派兵を可能にする法的根拠が失われる。

ウクライナ東部の親露派勢力も23日、ウクライナのポロシェンコ大統領の停戦提案を受け入れると表明。ロシア軍によるウクライナ侵攻の公算が当面は小さくなり、東部情勢は緊張緩和に向かう兆しが出てきた。

(中略)取り消しを求めた理由については、「ポロシェンコ氏が和平プロセスに向け重要な一歩を踏み出したからだ」と述べた。

ポロシェンコ氏はこの直後に声明を発表し、自らが打ち出した和平計画にプーチン氏が応じる「最初の実務的な一歩だ」として歓迎を表明した。

両者は今月6日にフランスで初会談し、その後も協議を重ねて露軍のウクライナ派兵撤回などで合意したとみられる。

プーチン政権がウクライナへの融和路線に転じる構えを示した背景には、追加制裁の姿勢を崩さない欧米諸国との関係改善を図る狙いもあるとみられる。

ロシアでは昨年来、国民のプーチン人気の原動力となってきた経済成長に陰りが見え、今年はウクライナ危機のあおりを受けてマイナス成長に転じる恐れを指摘する声も出ている。

ポロシェンコ政権の背後にいる欧米諸国との対立を和らげることは、自国経済を悪化させる不安定要素の解消にもつながる。(中略)

両国では、今回の動きは緊迫化する一方だった東部情勢が正常化に向かう契機になると評価されている。

しかし、西側外交筋は「プーチン政権はクリミアや東部地域を、自らの影響力を及ぼす『てこ』と考えており、簡単には手放さない」と語る。

実際、ドネツクの円卓会議にはプーチン氏と関係が深いウクライナの政治勢力代表が出席しており、専門家は「今後の交渉はロシア側に有利に進む」と指摘している。

ロシアは軍事派遣の選択肢を放棄したとしても、露側からウクライナに「義勇兵」や兵器を流入させれば、ウクライナ東部に圧力を加え続けることができる。

ロシアは常に「介入カード」を懐に用意している状態といえ、緊張緩和は一筋縄では進みそうにない。【6月25日 産経】
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ロシア・プーチン大統領は「ロシア系住民を守っていく」と、介入も辞さない姿勢を見せて交渉の成り行きを牽制しています。

****親露派住民「守っていく」プーチン氏が強調****
ロシアのプーチン大統領は24日、オーストリア大統領府での記者会見で、ウクライナのポロシェンコ大統領が発表した親ロシア派住民側との1週間の「停戦」について「停戦(宣言)だけでは十分でなく、実質的な話し合いが行われるべきだ」と述べた。

そのうえで「民族面や文化面、言語面でロシアと関係する人々を守っていく」と強調。親露派住民の権利が十分認められない場合、ロシアが介入する姿勢をちらつかせ、ウクライナ政権側をけん制した。【6月25日 毎日】
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ロシアの思惑など留意すべき点は多々あるものの、とにもかくにも戦闘沈静化・交渉の方向に向かい始めたことは、大いに喜ばしいことです。

停戦合意が崩れる恐れも
さしあたっては、27日までの停戦でさらなる前進が期待されるところですが、停戦中にもかかわらず政府軍ヘリが撃墜され、ポロシェンコ大統領が戦闘地域での反撃を軍に指示するなど、“さしあたりの話”についても予断が許さない状況です。

****ウクライナ親露派、政府軍ヘリ撃墜 9人死亡 停戦合意崩れる恐れ****
ウクライナ東部のスリャビャンスク郊外で24日、親ロシア派が指導者からの停戦指示に背いて政府軍のミル8(MI-8)ヘリコプターを撃墜し、乗っていた9人が死亡した。

これを受けてペトロ・ポロシェンコ大統領は、自ら宣言した停戦を撤回する可能性を示唆した。

ウクライナ軍の報道官によると、ヘリコプターは携帯式地対空ミサイルで撃墜されたという。

この事件により、ロシアの影響力が大きいウクライナ東部の工業地帯で、独自の規定に従って行動しているとみられる一部の戦闘員らに対しては、ロシアおよび親露派指導部の統制が行き届いていないことがうかがえる。(後略)【6月25日 AFP】
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実情はよくわかりませんが、反政府勢力すべてが必ずしもロシアのコントロール下にある訳でもないだろうことは、想像に難くないところです。

今後の交渉内容については、停戦の延長はともかく、親ロシア派勢力の武装解除、更には自治権付与といった東部のウクライナ内における位置づけなど、難題が山積しています。

何らかの合意が今後得られたとしても、「プーチン政権はクリミアや東部地域を、自らの影響力を及ぼす『てこ』と考えている」状況では、紛争の火種は当分残る、将来的には再燃もありうると見るべきでしょう。

なお、クリミアについてはロシアが手放すことは100%考えられません。
歴史的経緯、住民構成などからして、ロシア帰属を一概に否定できない側面もあります。

ウクライナ側も「クリミアを返せ」という主張をおろすことはできないでしょうが、実質的にはそこにこだわることなく交渉を進めるしかないでしょう。クリミアという“しっぽ”はロシアに差し出すかわりに、ウクライナ本体をどのように維持していくか・・・が、ウクライナ側の焦点になります。

“陣取り合戦”的な見方で言えば、欧米としてはウクライナ本体をロシアから切り離すことができれば、騒動の発端となった親ロシア派のヤヌコビッチ政権当時に比べて更に影響範囲を拡大した、ロシア側はソ連解体に続き更に影響範囲を狭めたということになります。

政府債務(借金)は総額700億ドル(約7兆円)を超える
ウクライナ・ポロシェンコ大統領としては、とりあえずの停戦、東部の位置づけという問題のほかに、今後に向けては経済の立て直しが急務となります。
決裂した形になっている、ロシアとの天然ガス交渉をどうするのか?という問題もあります。

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EUの天然ガス消費の約3割がロシア産で、うち42%はウクライナ経由で輸送されている。09年にはロシアが欧州向け供給まで停止し、厳寒期の各国に影響が広がった。

ウクライナには12月までのガス備蓄があるものの、需要が増える冬場までに事態が好転しなければ、同様の危機が起きる恐れがある。【6月18日 産経】
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今後の経済立て直しについては、ウクライナは当然にEU支援をあてにしていますし、EUとしてもウクライナ情勢安定化のためには支援していかざるを得ません。

****ウクライナとEU、接近 加盟向け、連合協定署名へ ロシアの反発必至****
欧州連合(EU)は23日、外相理事会でウクライナと将来の加盟に向けた「連合協定」に署名することを決めた。

27日の首脳会議には同国のポロシェンコ大統領が出席して協定に署名し、親ロシア派との衝突を終わらせる「和平計画」への理解も求める。

EUとウクライナの連携強化がまた一歩進み、ロシアがどう対応するかが今後の焦点になる。

連合協定をめぐっては昨年11月、ウクライナの当時のヤヌコビッチ政権がロシアの反対で締結交渉を中断したため、ウクライナで反政府運動が激化。現在の危機の発端になった経緯がある。

協定は行政や司法改革をEUと共有する政治部分と自由貿易協定(FTA)など経済部分に分かれ、ウクライナは3月、政治部分のみに署名。

5月の大統領選で「欧州統合への参加」を掲げて圧勝したポロシェンコ氏は締結を最重要課題の一つと位置づけ、経済部分の締結も実現した。

ウクライナが親ロシア派に対し、15項目の「和平計画」を示し、一方的に27日までの停戦を宣言したのも、親ロシア派との武力衝突の解決をEUとの連携強化と同時に進めたい考えがあったとみられる。

EU側にも締結を急ぐ理由がある。ウクライナの政府債務(借金)は総額700億ドル(約7兆円)を超える。政変を受け、ロシアからウクライナへの天然ガスは供給がストップ。EUは情勢の安定化には、ウクライナ経済の立て直しが最優先と判断したとみられる。

EU加盟を希望する国への本格的な財政支援は、協定締結が前提だ。EUはFTAの関税撤廃で、ウクライナの収入が年間約12億ユーロ(1680億円)増えると推計する。

ただ、27日にはモルドバやグルジアも連合協定に署名する見通しで、旧ソ連圏の経済再統合を目指すロシアの反発は必至だ。

欧州委員会のバローゾ委員長は13日、ロシアのプーチン大統領に電話で、ロシアとも話し合いを続けることを説明した。EU高官は「ウクライナで生産活動するロシア企業にもメリットがある。理解されるはずだ」と話す。

EUの外相理事会に出席したウクライナのクリムキン外相は23日、会合後の会見で「各国からの投資が促進され、雇用が増えることを期待している」と話した。【6月24日 朝日】
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見方を変えると、EUは“政府債務(借金)は総額700億ドル(約7兆円)を超える”という厄介者の面倒を見ないといけない困った状況に置かれている・・・とも言えます。

ウクライナをめぐる問題では、誰が得をし、誰が損をしたかは、もう少し長い目で見ないとわからないかも。

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